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第46話 夢の終わり

 それから八日。  ガレスと揃って医務官の許可をもらったジェスは、翌日には早速中央へ移動するため砦を発つことになった。  認識票忘れんなよ。というニルガスの言葉を背に自室へ戻り、わずかばかりの荷物をまとめる。  引き出しを開けて家族からの手紙を取り出し、その下、薄っぺらい手帳を取り出した。  手帳を開いて、間に挟んでいた書き付けを眺める。  とても捨てられそうにない。  グエンの筆跡。  自分が未練でできていることは知っていて、だから諦めていた。  扉からも認識票を外し、書き付けと共に手帳に挟み込んで、鞄に詰める。  でも、認めた方が、楽になれるのかもしれない。  グエンはあの頃、離れることを寂しがってくれたし、今では、好きだったことも教えてくれた。  同じように自分も、素直に寂しがって、それで、時々会える友人になれば良かったんだ。  今からでも。  そうなればいい。    中央への移動は、騎士四人に医務官を加えたものとなり、おかげでか野営などはしないことになった。  砦を発つ際、ガレスと治癒術師がしばらく何か会話をしていたのは、できるだけ目に入れないようにした。  ニルガスも、その場に近づけないように、した。    道中ニルガスと医務官が何かと賑やかに喋っており、ジェスとグエンも少しだけその会話に加わった。 「グエン、ガレス殿って普段からあんなに寡黙なの」  休憩中、こそっとグエンに尋ねるニルガスに、グエンは少し眉を下げて首を振った。 「いえ。……不調が堪えているんだと思います」 「――もう体調はよさそうだけどな?」  ニルガスが視線をやる先で、ガレスは黙々と医務官の馬の世話をしていた。  本来ガレスのような立場の騎士にさせることではなかったが、ガレスがぜひにというので、ありがたくお願いしていた。 「……まあ。そうですね……」  歯切れ悪く答えるグエンに、ニルガスは少し首を傾げつつも頷き、騎乗の疲れを癒している医務官の方へと歩き去っていった。 「普段はそうでもないのか?」  なんとなく、話の続きを繋いでみる。  グエンはその顔のまま、少しだけ笑った。 「……ん、まあな。でもニルガスさんほどじゃないよ」  グエンの返しに、思わず腹が震えた。 「ふっは、あんな人そんなにいないだろ」 「――ああ。……そうかもな」  グエンが、ゆっくりと頬を緩めて、柔らかく笑って。  ああ、この笑顔が、好きだな。  そう思った。    中央へ着くと、グエンはあっという間に新しい任務へと割り当てられた。  ただし遠征ではなく、王都の守り。  ジェスたちがいた砦で腐獣が発生したこと、その核がネズミだったことが中央に伝わり、王都民が恐慌に陥っているのだという。  騎士団にいる空間魔法使いが総動員されて、町中のネズミを駆逐しているらしい。 「魔獣のネズミと街にいるネズミは別もんだけど、何がそんなに怖いんだろな」  ニルガスがぼやくのをよそに、グエンはさっさと街へ降りる支度を進めていた。 「帰って早々大変だな。ガレス殿も一緒なのか?」 「……いや。あの人は来ない」 「そうなん?なんで?」  不思議そうに言ったニルガスに、グエンは少し申し訳なさそうに笑うと、少し戸惑ってから口を開いた。 「理由はそのうちわかると思います。ただ、俺の口からは言えないんで、――すいません」 「ああ、――いいよいいよごめん、言えんことあるよな。  グエンも任務の前なのに悪い。案内ありがとう」  ニルガスが手を振って笑うと、グエンは軽く首を振ってから、ジェスに目を合わせた。 「配属の隊は違うかもしれないけど、二人とも宿舎の部屋は近くなるようにお願いしといた。  困ったことがあればいつでも言ってくれ」 「――え。……ありがとう」  灰色のマント。  少し軽装の肩当て。  締めた剣帯に下げられた細身の剣。  改めて見るグエンの騎士の装いに、少し喉の奥が詰まった気がした。 「グエン、……後ろ向けよ」 「ん?」 「早く」  肩に手を当てて軽く引き、体を半転させる。  背中側、少し緩めの剣帯を締め直して、肩当てとの間にできた皺を伸ばす。 「ん、かっこいいじゃん。――行ってこいよ」 「――あ、……ありがとう……」  背中を軽く叩いて、グエンを送り出す。  隣で腕を組むニルガスが、いってこい、とのんきに声をかけるのも、嬉しかった。    これで良かったんだ。  番いになりたいだなんて、馬鹿な夢を見た。  心底から、そう思った。  本当に。 「――通達……」  だから、割り当てられた部屋がまさかグエンの隣室で、そのことを少し気まずくも思いながら荷物を整理したあと。 「扉」に認識票を差し入れてすぐ、扉の下から封書が顔を覗かせた時には、しばらく足元を見つめて立ち尽くしてしまった。  しゃがみ込んで、封筒を拾い上げる。  窓の外はすでに暗く、通達に書かれた文字は読みづらかった。  ただ、組み合わせの再調整、という文言だけは、この目がしっかりと捉えてしまった。  再調整。  それは、つまり――。  

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