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第47話 師団
翌朝、配属先として指示された場所へ向かっていると、騎士団の内部は大きな騒ぎになっていた。
「――ジェス、ジェス!」
背後から肩を叩かれ、ニルガスに呼び止められる。
「なんだこれ?なんでこんなみんな大騒ぎなんだ?」
「いや……、俺もよくわかりません……」
あちこちを走り回る騎士たちと事務官たち。
興奮に包まれた表情をしている者もいれば、難しい顔をした者もいる。
よく見れば大騒ぎしているのは灰色のマントを身につけた魔法騎士が多く、ついで若手の重装騎士たちだった。
「まだ二年だぞ、無理に決まってる!」
すぐそばの廊下でたむろしていた壮年の騎士たちから、怒声が飛び出した。
「そうは言っても、陛下のお決めになったことだ。
……ディッカーが不足してるってのに、どういうおつもりなんだか」
ニルガスと目配せをしあって、その場を離れる。
指定された詰所に行くまでには、似たように難しい顔をしたベテランの騎士たち、隊長や副隊長クラスの騎士たちを多く見かけた。
「お前のグエンはなんか言ってなかったのか?」
周りの騒がしさを眺めながらニルガスが言うので、肩をすくめて返事をする。
「グエンは昨日の任務に出たまままだ戻ってないですよ。
朝声かけましたけど、無人でした」
「げっ、マジで?応援から戻って即日徹夜?!」
ニルガスがのけぞって驚くのに、内心でため息をつく。
砦の治癒術師の気持ちが痛いほどによくわかった。
ディッカーでなくてもこんな風に使い潰される騎士を見てしまうと、ディッカーの扱いとは一体いかほどのものだったのか。
「他の魔法騎士もそんなんなんかな……」
「今回は、空間魔法の使える連中限定っぽかったですけど……、ああ……」
ディッカー不足。
ディッカーになるには、空間魔法を扱える魔法騎士であることが最低条件だ。
「なんだよ?」
「グエンみたいな魔法騎士が、今全然足りてないってことかもしれません」
「……どういうこと?」
詳しく説明できるほど理解できたわけでもないので、肩をすくめて詰所の入り口を叩く。
名乗りを上げると、中から応答があった。
「ジェス!久しぶりだな!地方いっちまってたなんてびっくりしたぜ」
出迎えてくれたのは、院にいた頃によく顔を合わせていた見習い騎士のネロで、顔を見るなり笑顔で出迎えられた。
驚くニルガスを紹介し、互い軽く挨拶を交わした。
詰所には、ネロの他に数名しかおらず、朝からのこの惨状の理由についてジェスたちに教えてくれた。
「……特殊師団」
「そ。まあ俺らにはあんまり関係ないけど。まだすごく若い騎士が師団長務めるってんで、もう若い魔法騎士とかは大騒ぎなんだ」
ネロは肩をすくめてジェスに応え、周りの見習い騎士たちも同じような顔をした。
「なんで大騒ぎ?誰が師団長になるかはもう決まってんだろ?」
「そんな若いのが、各団のディッカー根こそぎ持ってっちゃうからだってさ。もう、今朝から隊長とか憤死しそうに怒り狂ってて」
ニルガスの問いに、詰所の奥からきた他の見習いが応え、他の一人が大きく手を振り上げて言葉を続けた。
「ブリュージュってどこの若造だー!って、叫びながら出てったっきりだよ」
「なんだそれ。中央って平和だな」
ブリュージュ。
アーネスト・ブリュージュ。
グエンと、いつも笑っていた。
「……ハネスだ」
思わず呟いたジェスに、全員の視線が集中した。
結論から言うと――。
騎士になってほんの二年のハネスが、自力で各地からディッカーを引き抜くなんてことはできるはずもなく。
ただ、陛下の采配により、特殊師団という組織が創設され、国内の全てのディッカーが師団に集められた。
その頭として、まだ年若いハネスが据えられることとなった。
そういう顛末だった。
率直に言って、ジェスたちに何か大きな変化があるわけではない。
もっとも、ジェスとニルガスはそれどころではない変化の真っ只中だったのだけど。
「お前、グエンといいその師団長といい、なんかすごい人らばっかり知り合いなんだな」
「……まあ、あいつらはそうですね」
しみじみと言うニルガスに応えながら、鈍ってしまった体を動かす。
まだ浮き足立っている団の面々をよそに、見習い達に混じって鍛錬を行っていた。
今夜は早速夜間巡回に同行することになっていた。
「え、ジェスは巡回経験あるの?」
「はい、院にいた頃は毎週出てました。ネロはその頃の知り合いで」
「ええー、お前めっちゃ期待のルーキーじゃん。俺魔獣対応は得意だけど、対人戦苦手ぇ……」
木剣で手合わせをしながらぼやくニルガスに、思わず笑みがこぼれた。
「何笑ってんだよー」
「ふふっ、はは。ニルガスさん、多分全然問題ないです。対人得意ですよ」
「いや、苦手だっつってんじゃん!」
「おじいちゃん、こんなとこで寝てたらダメだよ。風邪ひいちゃうよ」
道端で酔い潰れる老人に話しかけるニルガスとネロを横目に、道を行き交う人並みを観察する。
ふと、一人の男と目が合い、――そらされた。
「おじいちゃん、立てるー?俺おんぶしちゃうよ。ひとまず詰所行くからね」
「ネロ、摺りだ」
「えっ」
男の背中から目をそらさずに、人並みを抜ける。
その指先が、ぶつかりかけた別の男と交差して――
「まて」
追ってきた男の背後から腕を捻じ上げ、手渡されようとしていた財布ごと腕を捻って、相手の男も地面に転がす。
すかさず後ろからネロが男を取り押さえ、後ろ手に抵抗を封じると、おじいちゃんをおぶったニルガスが追いついてきた。
「わ、おじいちゃん、詰所にお供が増えたじゃん。行こうぜ」
わめく男たちを縄で捕縛し、応援に駆けつけた他の騎士たちと共に連行した。
ネロが取り押さえた方の男からは他にも財布が出てきて、摺りグループの元締めのような役目の男と知れた。
「初日からお手柄だなお前……」
ニルガスがあごを引いて言うのに、少し笑って答えてやる。
お手柄だったのは、ジェスだけではなかった。
「ニルガスさんもお手柄ですよ。そのおじいさん、ちょっとした有名人なんで、ほっといて朝死なれでもしてたら大変なことになってました」
「……どういうこと?!」
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