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第48話 たたずむ光
着任直後のため深夜勤はなく、翌日に一日休暇をもらうことになった。
ネロと出た夜間巡回も、仕事にならなかった騎士たちの代行のようなもので、中央で生活できるように支度しろ、というのが隊長殿の指示だった。
朝の光の中、扉の前に立つ。
これもまた、支度の一つだ。
扉に手をかけ、押し開ける。
室内、机の上で光を受ける共鳴具。
管理官はまだおらず、無人の部屋がジェスを出迎えていた。
「腐敗の毒を受けたと聞きました。直後の長距離移動でお疲れではありませんか」
「……お気遣いありがとうございます。もう、すっかり回復しました」
管理課には、騎士たちの情報は筒抜けなのだろう。
だから、ジェスが腐敗の毒を受けた時に共にいた騎士の名前も、
その毒が回り切らないよう手を尽くした騎士の名前も、きっと知られている。
「もう、すでにお聞きのことかと思いますが。
今、国内でディッカーが不足しております。
相次いで二名ディッカーが離脱し、喫緊に人材不足を解消する必要が生じました」
ディッカーの不足は、ネズミ騒動による一時的なものだと思っていた。
だけど、ディッカーの絶対人数が減っていたということだ。
「離脱、――ガレス殿も」
ふと、砦で聞いてしまった会話が蘇る。
「ああ、ご存知でしたか。……そういえばご一緒でしたね。
……このことでは、魔法騎士たちにもかなりの負担をかけており、
我々としても、申し訳ないことをしています……」
言ってから、管理官はほんの少しだけ沈黙した。
そして、こちらを見て――認識阻害されているのでよくはわからないが、目を合わせて、管理官が口を開いた。
「まあ、そうしたわけで。今組み合わせ可能な人材の中から、バロウズさんと組み合わせられそうなディッカー候補を再選定いたしました」
再選定。
グエン以外の候補と。
管理官の言葉は、ほとんど耳の上を通り過ぎていき、
残されたのは、いつもの定型句。
「そうは言え、バロウズさんのご意志が最も重要です。
前回のこともありますし、……気が進まないようでしたら、お断りいただいて差し支えはありません」
その言葉にふと目線を揺らすと、机の上できらめく共鳴具が目に止まった。
「特に、……再選定の候補の方は、前回ほど波長が合うと言うわけではありません。
悪くはないという程度でもありますので、……ゆっくりお考えになってください」
「……悪くはないというのは、――どういうことですか」
ゆっくり考えるとしても、判断材料が足りなさすぎた。
――というより。
前回は、ほとんど何も考えていなかった。
グエンの成人間近、そのタイミングで打診された番いの話に、
なりふり構わず賭けただけにすぎない。
自分がすべきことも、
自分の身に起こることも。
そして、グエンの身に起こるであろうことも、
何も、考えてなどいなかった。
「……ウルラとなる方々は、その身に他人の魔力を受け入れることとなります。
相性が合わなければ、体の重さが出ることや、頭痛などの疼痛が起きることもあります。
もちろん、そうした症状が観測されていたのは、相性などを何も考えず組み合わされていた頃のことで、今はその基準は厳密に管理されています」
ただ――。
管理官は、少しだけ首を傾げてから、机の上にある共鳴具に目線を落とした。
「前回の組み合わせほど齟齬のない番いを、もう一度選定することは、我々には難しいかと思います」
管理官の立ち去った部屋の中。
ジェスは、ぼんやりとソファに腰掛けていた。
太陽の光はいつのまにか南中を過ぎて、部屋の中を柔らかく照らしてしる。
机の上。
じっとたたずむ共鳴具に手を伸ばした。
これはもう、ここにいていいものでは、なかった。
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