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第49話 落ちる光
交渉の部屋を出て、中途半端になっていた荷解きを進めた。
ほんの少しの着替えと、書き付けのための紙束に、家族からの手紙。
薄っぺらい手帳。
みぞおちを押し上げたのは、若くて、考えなしだった自分の未練。
つけ忘れていたカーテンをつけて、まだ冷える夜のために、薪の束を取りに行く。
ついでに水差しを持って部屋を出て、まだしんとしている隣の部屋を少しだけ見やった。
酷使されている魔法騎士たちのために、今自分ができること。
考えるまでもなかった。
用事を済ませて部屋に戻り、紙を一枚取り出して、ペンを走らせる。
扉の下に差し込んで、その姿が消えていくのを、見送った。
生活するのに足りていないものを買い出しに街へ降り、宿舎へ戻る。
グエンの部屋の窓を見上げると、カーテンが閉められていた。
中から、うっすらとした明かりが漏れていて、人影が動いていた。
しばらくその窓を見上げて、それから、建物の中へと足を踏み入れた。
疲れて、眠っているといい。
そう思いながらも扉をノックして、室内から小さく応答があった。
「……グエン……?」
扉を開ける。
顔を覗かせると、部屋の中、動かないグエンの頭。
「少し、話があるんだけど いいか」
「……ああ」
手の中で、共鳴具が小さく音を立てた。
返したくないけれど、返さないといけない。
これを持っている資格は、もともと自分にはなかったのだから。
部屋に足を踏み入れて、グエンの近くへ寄る。
グエンは、椅子に座って手のひらに書類を持ったまま、まっすぐ正面を眺めていた。
「どうか、したのか?」
「……いや……。いや、なんでもない」
ゆっくりと折りたたんだその書類を、脇の封筒に入れなおすグエン。
封筒は、見覚えのある管理課のものだった。
――解消の件だ。
つまり、この身をまた誰かに、委ねることの報せ。
握りしめた手の中、また共鳴具が音を立てた。
グエンの目線が音の出所を捉える。
それから、その目線は少しずつ体をなぞって、やがて目があった。
――気がした。
「……ジェス。……何か用か」
茫洋としたその目は、何かを見透かすような、全てを諦めたような、
こちらを見ているのに、目が合わなくて。
グエンが、どこかにいってしまったように感じた。
思わず、目の前に立って、顔を覗き込む。
薄くひげの伸びた頬は青ざめて、背もたれに力なく預けられた体は、どうしてか小さく見えた。
「頼む、離れてくれ」
グエンがポツリといって、やっと目があった。
「どうして」
思わず聞き返すと、ほんの少し、その口元が歪む。
「どうして?」
それから、あの、胸がつぶれそうなほど好きだった、優しい笑顔になった。
「お前のこと、尊重したい。
……だから、俺の手の届かないとこにいて」
「な……、ん……」
その笑顔のきれいさに、胸の奥が詰まって、何も言えなくなった。
もうずっと、どれほどこの笑顔を見ていなかっただろう。
だけど、グエンはすぐに目を伏せて笑顔を消した。
「ごめん。……本当は、もっと早く解消しとくべきだった。
こんなふうに俺に知らされるの、嫌だよな」
グエンはそのまま、体を折り曲げて、膝の上に突っ伏した。
小さく、呻くように溢れた言葉は、床に落ちてばらばらと音を立てた。
「――俺も、知りたくなかった……」
まるで、
未練あるものへの執着心のように。
そのほんの小さな声が、重たい響きを持って床に落ちて、
手のひらから、きらめきもこぼれおちた。
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