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第50話 そのきらめきは

 硬い音ともに、床に二つの共鳴具が落ちて。  グエンの視線がそれを捉えてしまうその前に、思わず、  しゃがみ込んで、両の手のひらで二つを覆い隠した。 「……それ」 「いやだ」  見られてしまった。  返しにきたはずなのに、そう思ってしまった。  だって、グエンは今、そう言った。  まるで、本当は、自分を誰にも渡したくなかったと、思っていたように。 「……返せない」  床の上、片手ずつで、共鳴具を握りしめる。 「これだけ、で、いい」  思い込みでもよかった。  思い込みでよかった。 「ジェス」  グエンの靴が、床の木目を少しだけこすった。 「返せない」  グエンから、逃げるように体を引く。  それ以上なにも言ってほしくなかった。  そのまま立ち上がって、一歩下がろうとして、グエンの手に腕を取られた。 「ジェス」  思いがけず引き寄せられて、抵抗できなかった。   「――は、なせ」 「ジェス、行かないで」  抗ってその腕から逃れようとして、グエンの言葉に、動きをとめた。  それでも、握りしめた手のひら、力を緩めることはできなかった。   「い、いやだ、グエン。  これだけでいいから。取らないでくれ」   「違う」  グエンの声に涙が混じって、思わず顔を上げて、  その隙に、グエンの腕がさらに体に絡んで、いやというほど抱きしめられた。 「違う、ジェス。」  涙まじりの吐息が耳元に触れて首をすくめると、また名前を呼ばれた。 「――ジェス。と、取らない。持ってて。返さないで」  痛いほど抱きしめられて、息が止まりそうになって。  身体中、どこもかしこも痛いほどグエンの熱に喜んでいて。 「グエン……」  だから、グエンが顔を上げて、その目線とぶつかり合った時。  ――何も反応できなかった。   「違う。……違う。本当は、俺のこと、選んで欲しい……」    頬に手を添わされて、ただ、その唇が恐ろしい言葉を紡ぐのを、じっと聞くしかなかった。  だって。  こんなにも—— 「ずっと。……ずっと、ジェスだけ、なんだ」  こんなにも、心から聞きたかった言葉。   「他には何もいらない。ジェスが好きだ」  他にない。 「好きなんだ……」  そのまま、しばらくの間見つめ合うことしかできないでいたら、  グエンがそっと体を離して、両手を取られて、そっと開かされた。 「――あ……」 「取らない。だけど、見せて」  そう言ったグエンは、一対の共鳴具の片方を手に取り、顔の前まで持ち上げた。 「マイカ」  名を呼ばれて、息を飲む。  思わず引きかけた手を押しとどめられて、体ごと震えが走った。  グエンが口を開く。 「この、石の中。きらきらしてるのは、マイカなんだ」  少し首を傾けて、グエンが薄く笑った。 「言ってたろ。心に決めた人がいるって。  ……お互い、その想いを大切にしようって」  はじめての、顔合わせの日。  心に決めた人がいると言ったグエンに、訳知り顔で自分もそうだと頷いた日。  目の前のグエンを想いながら、自分にも想う人がいると、嘯いた日。 「……俺、……の、ことだった……?」  なんとか紡いだ言葉に、グエンは少し頷いて、もう少し笑みを深めた。 「ジェスも。――俺のことだった。よな?」  そう言って、指先で共鳴具を小さく揺らした。  その度に、石の中のマイカがきらきらと光を跳ね返す。  その光は、――二人の間にあった想い。  きらめきに目を奪われたまま、気づけば、首を縦に振っていた。 「大切に、したい。  ジェスが許してくれるなら。」  グエンはそのまま、きらめく石にそっと口付けて、共鳴具をジェスの手の中へと返した。  二つ、手の中で寄り添う。 「……ど、やって……」  そのまま、手のひらを包み込まれて、グエンと目があった。 「こんなこと、言う資格ないのはわかってる……」  グエンの指先は少し震えていて、その恐れが、冷たく沁み込んできた。 「だけど。他のやつと、……番ったりして欲しくない」  きゅっと手を握りしめられて、でも、それ以上グエンは何もしなかった。  それでも。 「……わ……わかった……」  たったそれだけの言葉に、グエンがほっとしたように笑うから。    その恐ろしさに、唇が震えた。    

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