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第52話 繋がる
「何だって、たかだかネズミの駆除に王都中の魔法騎士が出張らなきゃいけないなんてことになったんだろうねえ」
目の前、粗末な掘建て小屋のような「師団の詰所」でボヤく師団長は、手際良く茶を淹れると、ジェスの目の前に茶器を置いた。
もう一つ、隣に座るグエンの前にも。
「どうぞ。悪いな、こんな不便なとこに来てもらって」
「――いや。……不便っていうか、これどういう状態?」
自分の分の茶も置いたハネスは、小さく肩をすくめてからソファに腰掛けて、それからにこっと微笑んだ。
「今日は師団のみんなはおやすみしてるからね。出てるのは俺とガレスさんだけなの」
部屋の隅、デスクで書類仕事をしていたガレスは、ハネスの言葉にちらりと視線をよこして、また目の前の仕事に取り掛かった。
「……おやすみ」
「そうだよー」
何でもないように言ったハネスは、グエンに向かってにこやかに微笑み、お前らは?と軽く尋ねた。
「……いや。また朝から街に出てる。この後俺も」
「そうかあ」
グエンの言葉に、ハネスは体を背もたれに預けて、少し中空を見上げて面白そうな顔をした。
「やっぱりダメだね。俺がちょっとなんか言った程度じゃどうしようもないや。――参ったなあ」
「全然参った感じしないけど、何言ったんだよ?」
「んん?んー……、ふは」
なぜか楽しそうに笑ったハネスは、ジェスの質問に答えないまま、腐獣の性質や腐敗の核の実物と対峙した時の話を聞きたがった。
その臭い、動きの遅さ。
それから今回、小型のネズミがなぜ核になったのかの考察。
「西のネズミは太ってると思ってたけど、あれは珍しいことだったのか」
グエンの言葉に、茶器に目線を落としたまま頷くと、部屋の端からガレスも疑問を投げてきた。
「丸々と肥えていたし、それから、沼ネズミにしては個体数が少なかった。
コロニーの中心まで暴いたが、結局死骸の総数は二十もなかったぞ。
アレも、普段は違うのか?」
問われて、ここ二年の砦での経験を振り返ってみる。
「……いや、すみません。さすがに俺も沼ネズミのコロニーを叩いたことはないので、総数が普段どのくらいかはわかりません」
「俺も西にいたよ。この時期だと、どんなに若いコロニーでも四十はいると思う。もう繁殖シーズンになるから、メスは全部中にいるんだ」
ハネスが話を引き取り、今回のネズミの状況の不自然さがさらに露わになった。
「……ああ……、そう言えば……」
前線へ向かう途中の、騎士たちとの会話を思い出してみる。
狼の群れについて何か言っていなかったか。
「何?なにかある?」
ハネスの言葉に、軽く頭を振る。
「……ニルガス、ニルガスさんを呼んでもいいか。
砦の騎士と、今年の魔獣の個体数のことを何か話していた気がする」
「ああ、えっと。去年の秋に狼の群れのアルファが交代したから。
はぐれも出たし、群れの活動も活発になったしで、かなり小型魔獣は数減らしてたと思いますよ」
急遽師団の小屋に呼び出されたニルガスは、師団長の屈託のない笑顔に目を丸くしながらも、森で起きていたことを話してくれた。
「へえ。じゃあコロニーにネズミが少なかったのはそのせいなんだ」
「おそらくそうですね。あと、今年はかなり冬があったかかったんで、食うもん困んなかったんじゃないですかね。
腐獣騒ぎで森に入った時も、キノコも木の芽もやらかい葉っぱもかなり豊富でしたもん」
なあ、ジェス?と、同意を求められて、ほんの少し首を傾げる。
「すみません。春めいてるなとは思いましたけど、そこまでは観察できてませんでした」
「あー、……そうだ。お前中央出身だったな」
ニルガスの言葉に頷いて返す。
西の森の異変をこうして言葉にできるのは、今の中央にはニルガスしかいなかった。
「なるほど。つまり今年は、沼ネズミは数を減らしてたけど、生き残ってた奴らからしたら天国のような冬だったってことだ」
「そうですね!」
腕組みをして、笑顔でまとめたハネスの言葉に、ニルガスは笑顔で頷き、少し首を傾げてから部屋に集まった面々の顔をもう一度見渡した。
「……なんでこのメンツで沼ネズミの考察してるんですか?」
「あっはあ!何でだろね!」
小屋の中にはハネスの楽しそうな声が響きわたった。
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