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第53話 師団長
ひと通り話をした後、師団の小屋に集まっていた者たちはハネスに連れられて別の棟へと向かっていた。
「……なあ、本部に向かってるのか?」
先頭を行くハネスににグエンが声をかけると、そうだよ。と呑気な声が返ってくる。
少し嫌そうな顔をしたグエンは、ジェスとニルガスを見て、また口を開いた。
「ジェスとニルガスさんもか?」
「ん?もちろん。大丈夫、聞かれたこと答えてくれたらいいから」
ハネスとグエンのやりとりに不穏なものを感じていると、何かが手の甲に触れた。
思わずそちらを見る。
グエンが、こちらに目を合わせて、かすかに頷いた。
その拍子に、もう一度手の甲同士が触れ合う。
不思議と、先ほどまで感じていた居心地の悪さは薄れていた。
「アーネスト・ブリュージュ!ディッカーを一人も遣さないとはどういうつもりだ!」
ハネスが扉をノックして、名乗りを上げた途端に、室内から扉が大きく開かれて、厳つい顔をした壮年の騎士が飛び出してきた。
室内から、おそらくその騎士の名を呼ぶ声が聞こえてきたが、騎士は止まらずハネスの胸ぐらを掴み上げた。
――掴み上げようと、した。
「おい、逃げるな!」
「逃げますよ。いきなりなんですか、頭ごなしに」
さっとグエンの後ろに隠れたハネスは、騎士越しに室内を見て、ぱっと破顔した。
「先生、おいでくださったんですね。ありがとうございます」
「ブリュージュ、貴様」
「はい全員揃いましたので、始めましょう。入りますよ」
額に青筋を立てる騎士の背後を回って、するりと室内に入ったハネスは、室内からジェスたちを手招きしたが、
この存在感のある騎士を、何事もなかったように無視できるわけもない。
束の間唖然としていると、ニルガスが「はーい」と声をあげて室内へと足を踏み入れ、それにつられたのか、目をギョロリとさせたままの騎士もむっすりと室内へと戻っていった。
「――行こう」
「うん」
グエンの声に頷くと、ガレスはこちらをちらりと見てから、先に入るようジェスたちを促した。
だから、ジェスたちには逃げ場などはなかったのだ。
足を踏み入れた先、どう見ても怒れる壮年の騎士たちが数名、ハネスのことを睨みつけている光景が広がっていたとしても。
「では、集まったようですし、はじめましょう。本日は西の腐獣の件について、皆さんのご意見を――」
「何の意見がいる。西でネズミの核が発見された。
王都の民が腐獣を恐れ、街が混乱した。それを陛下が憂いておられる。
速やかに駆逐して混乱を防ぐべきだろう」
室内最奥に座る書記官が発言すると、先ほどとは別の騎士が重苦しい声で言った。
続けて、別の騎士が言葉を繋ぐ。
「我々の団の魔法騎士達が街を駆けずり回って対応にあたっておるというのに、貴様、ディッカーを全員下げるとはどういうつもりだ」
おやすみ。
ディッカーは今日は全員おやすみ。
確かにハネスはそう言っていた。
ちらりと見やると、ハネスは首を傾げて微笑んだ。
「僕だけの判断ではありませんよ。
陛下からも、ディッカーたちを休ませるようにとのお言葉を頂戴しております」
「何ぃ?!」
微笑むハネスと、いきり立つ男たち。
その間に挟まれた書記官が、両手を叩いてかわいた音を立てた。
「陛下より」
室内が、一瞬静まり返った。
「私がお言葉を賜り、師団長へお伝えいたしました」
それから、室内の面々とゆっくり目を合わせた。
「陛下のご采配です。本日は、西の腐獣について、お越しくださった方々からのご意見を伺います」
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