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第57話 訪れ

「……なあジェス、お前の同窓生実は結構おっかない人だな」  ハネスの舌先に丸め込まれたような会議を終えて詰所へ戻っている途中、隣にやってきたニルガスがこっそりと耳打ちしてきた。 「そうですかね……」 「そうだろ。団長連中相手ににっこにこしながら全部もぎ取ってきてたし、ぶっとい釘刺されてもさらっとかわしてさ。こええよ」  まったく怖がって見えなかったニルガスの言葉に、何だか笑いが込み上げて下を向いた。  それでも、あの釘はしっかり効いていそうだったけれど。 「まあ、……昔からあんなやつですよ」 「――ええ、何なの中央って」  ハネスも、グエンも。  その他の連中も。  あの頃の仲間はみんな本当にいい奴らで、頼もしくて。  だからこそ、そんな自慢の友人たちを、ほんの少しの出来心が理由で全部手放してしまっていた自分のことが、心から滑稽に思えた。  それくらい。  周りなんて見えなくなってしまうくらい、グエンのことで精一杯だったんだろう。  それから、しばらくの間グエンは宿舎から姿を消した。  徹夜続きだった任務の後、数日の休暇を取ったのだと本人から聞いていた。  家に、帰ったのだろう。  好きだったのだと、今もまだ自分だけだと言ってくれたけれど、  だからどうする、という約束などは何もなかったし、  それでいいと思っていた。  お互い、ただの友人と呼ぶには少し重たすぎる思いを持っていても、  そのことをお互い知っていたとしても。  友人同士として笑い合えるなら、それで。   「……客ですか?俺に?」  怒涛のような会議の二日後、隊の事務官から来客の知らせを受けた。 「本部一階の応接室だとさ。お前貴族の知り合いとかいたのか?」  貴族。  グエンやハネスも貴族だが、そういうことではないのだろう。 「……いえ……」  訝しく思いながらも、貴族らしいという来客を待たせるわけにもいかず、急いで本部へと移動する。  廊下を急ぎ足で歩いていると、ハネスと行き合った。 「どうしたの、急いで」 「や、――なんか、客らしくて」  廊下の奥、応接室の方を示すと、ハネスは眉を少しあげた。 「珍しいね」 「うん。悪い、行くな」  ハネスと別れて廊下を行くと、その先、廊下に佇む人影があった。  まさか、外に立たせたまま待たせてしまったのかとひやりとする。  仕立ての良い身なりをした男性がこちらに気付き、丁寧にお辞儀をした。  こちらも手前で立ち止まり、騎士としての礼をとる。    どのような立場の人物であるかはわからないが、騎士の身分としてのジェスを訪ねてきた相手に対して、礼儀を守る必要はあった。 「中でお待ちでございます」 「――は」  思わず声が出て、押しとどめる。  開けられたままの扉の奥、室内には、一人の女性が窓際から外を眺めていた。 「お待たせして申し訳ありません。ジェス・バロウズです」  出入り口から、室内の女性へと声をかける。  うっかりと室内に入ってしまうのは、ためらわれた。  ほんの少し、剣の束に添えた手に力を込めると、ふと、場違いにも思える柔らかな声が聞こえてきた。 「……んま、っだ」 「あら、起きたの?ご機嫌ね。よかったわ」  ほんのかすかに聞こえた、幼子の声。  それから、優しげな「母親」の声。  女性はこちらを振り向いてジェスの姿を認めると、少し間を置いてからにっこりと微笑んだ。 「――お忙しい騎士の方をお呼びして申し訳ないわ。来てくださってありがとうございます」 「……いえ……」  まったく見覚えのない年若い女性は、腕に抱いていた子供を床に下ろし、その手をそっと握った。 「上手に歩けるかしら?トフィ、あちらのソファまでお母様とご一緒しましょ」    トフィ、と呼ばれた幼子と共にゆっくりソファへと歩み寄った女性は、まだ入り口から動けないジェスに向かって微笑んだ。 「入っていらしてくださいな。そんなところにいらしたら、お話しがしづらいわ」 「……はい、失礼致します。」  心当たるもののまったくない訪問を内心で訝しみつつ、部屋の扉は大きく開けたままで、室内に足を踏み入れた。  頬をなでる風に気づいてみれば、窓も大きく開け放たれていた。 「ご安心くださいな。怖がらせたいわけではありませんのよ。  ――ふふ。  まったく、思い当たるところのないお顔をしていらっしゃるのね」  早々にソファへと乗り上げたトフィを優しくたしなめ、その靴を脱がせた女性は、ジェスを促して自らも腰掛けた。 「初めてお目にかかりますわ。  私、エミリア・ハーウッドと申します。バロウズさんのことは、グエンダリオ様から、よくお聞きしております」    

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