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第一章 不穏の幕開け(1)

 運命の日、ヒロインが学園に入学する日がやってきた。  俺が行動を起こしてから二年と十か月が経過していた。  被害者たちとの交渉は難航したが、どうにかほぼ片が付くところまできていた。小学生だったこともあって、やったことは仲間外れや人に見えない場所で悪口を云う程度ではあったが、被害者たちを深く傷付けてしまったことに違いはない。俺は彼らの許に日参し、時には罵声を浴びせられながら土下座をして謝罪行脚に努めた。小学生の時から俺の取り巻きをしていた一成と一臣は俺のそんな姿に疑惑の目を向けていたが、俺としては自分の将来がかかっているのだ。形振り構ってはいられなかった。  学園でも俺は品行方正であるよう努めた。以前の俺のように、一般人だからといって態度を変えたりはしない。困っている人がいれば、それがどういった階級の人間であろうと助ける。当たり前のことを当たり前のようにするようになった俺に、一部の生徒は何か裏があるのではないかと疑ってかかっているようだったし、実際、冷たい態度を取られることもあった。だが、俺はめげなかった。彼らには殊更心を砕いて接してきた。その甲斐あって、俺の陰での評判は大分回復したように思う。  まあ、ぶっちゃけ勘当された方が、俺としては気楽に生きられる気がしてもいたが、かといってイジメは良くない。週刊誌に出てしまうのはもっと良くない。デジタルタトゥーの時代にそんなことになったら、名前を変えない限り、一生俺は後ろ指を指されて生きていかねばならなくなるだろう。同じ勘当されるにしても、もっと穏便な方法を模索しなければ……。  それはさておきヒロインだ。  彼女とは良好な関係を築かなければならない。  中等部から持ち上がりで進学してくるお嬢様お坊ちゃまが五割の学園に、十年ぶりの特待生として入学してくる彼女は、普通の一般家庭に生まれ育ったものの、才能溢れる少女としてゲームの中では描かれていた。その優秀さが相馬の目に留まって、彼に愛情を注がれるようになる……と、こんなストーリーであった筈だ。勿論、ただ優秀なだけではない。愛くるしい容姿に、気高い精神性。慈愛に満ちた彼女は学園の聖女として、人気を集めてゆく。  攻略キャラは俺を含めて十人ほどいた筈だ。  誰のルートに進んでもいいが、俺とのエンドだけは避けさせた方が無難だろう。何せ俺とのエンディングは、お世辞にもハッピーとは云えないものなのだ。相馬に対する執着心がヒロインに向くようになった俺は、自分に与えられているマンションの一室に彼女を監禁して、異様な愛情を注ぐようになるのである。はっきりとは描かれていないらしいが、SMを匂わせる描写もあるとかなんとか……姉から最初にこの話を聞いたときには、『乙女ゲーだよな?』と耳を疑った。俺が知っている乙女ゲーはもっとほんわかしたものであった筈だ。  とにかく、ゲーム内での俺はそのぐらいヤバい奴なのだ。  勿論、俺が頑張れば彼女と幸福な未来を築くことも可能かも知れない。俺のよろしくなかった評判も、この二年十か月の努力でそれなりに回復している。どうして運命を変えられないと云えるだろう。とはいえ、ヒロインが好みかと云われると、俺的にはちょっと……と云わざるを得ない。俺もこの数年間努力に努力を重ねて、自分の能力を高めてはきたが、彼女のステータスはそれを軽く凌駕してしまう。  常にトップを争う学力に、身体能力。おまけに性格も容姿も優れているときている。そうでなければ相馬のお眼鏡に適いはしないのだが、俺のような元一般普通家庭生まれの男子では気後れするようなキャラクター造形だ。とかく欠点らしい欠点がない。一緒にいると気詰まりしそう。姉から話を聞いた俺の彼女への感想はそれだ。だからこそ、俺としては彼女とのエンドは避けたい気持ちが強くある。  故に、彼女に恋愛感情を持たれない距離感で、彼女と良好な関係を築かなければならないのだが、前世の俺は男子校育ちで、女性とどう付き合うのがベストな方法なのか良くわかっていない。姉がいたので、話をうんうん聞いていれば波風は経たないということは理解しているが……。  とにかく、バッドなエンドを避ける為にも頑張らねば。  俺は気合を入れて学園生活に励むことにした。  ところが、なのである。何故か相馬がヒロインに興味を示さないのだ。あれ? もしかして他のキャラの攻略ルートに入った? そう思うぐらいに彼女に興味を示さない。一応、相馬はメインの攻略キャラのひとりで、どのキャラの攻略ルートでも共通イベントが発生する好感度高め設定なキャラである筈なのだが、そういった設定などどこ吹く風。本来であれば彼女に興味を持った相馬が、彼女に会いに行くというイベントが起こる筈なのだが、一か月経っても、二か月経ってもそれらしいイベントが起こらない。相馬がヒロインと接点を持たない=金魚の糞である俺も彼女と接点が持てないということなので、俺としては有難いことでもあるのだが、下手にバッドなエンドの内容を知っているだけに、不気味な感じがしてしまって落ち着かない。  まさか、俺が知らない間に、俺が悪役に仕立て上げられているとか?  俺は相馬ルートでの俺の最後しか詳しくは知らないのだが、相馬のイベントが共通イベントになっている関係で、他キャラのルートでも俺はヒロインに絡んでくる悪役として描かれているらしい。イジメは相馬ルートよりマイルドになっているようだが、それでも気分のいい描かれ方ではないとは姉の弁である。そうである以上、ヒロインとの接点がないからと油断はしていられない。かといって積極的に彼女に絡みにいくのも危険を招く気がする。どうすればいいんだ。途方に暮れていたある日。高等部での二学期が始まったところで、事件が起こった。

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