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第二章 欲に塗れた日々(1)
二日目の夜がきた。
手枷を外すと俺が逃げ出すと思ったのだろう。日中の俺はベッドに拘束される状態からは解放されていたが、両手首は手枷で繋がれたままだった。手が上手く使えない為、食事は一成と一臣が食べさせてくれたが、困ったのはトイレだった。小は座って済ませればよかったが、大は流石に手を使わないと始末が出来ない。どうすればいいか悩んでいると、「私たちが拭いて差し上げますよ」などと、ふたりしてぞっとすることを平然と宣ってくる。
羞恥でどうにかなりそうだった。
便座の上にしゃがみこまされた俺の股の間に入ってくる彼らの手。ついでと腸内洗浄までされてしまった俺は、自分の人間としての尊厳を奪われたような気になりながら一日を過ごした。こんな思いをするくらいだったら、ふたりに大人しく従って、早めの解放を目指した方がいい。夜を迎えて、昨日と同じポーズでベッドに繋がれた俺は、ふたりに対して無駄な抵抗は止めようと心に誓っていた。
「なんで、お前たち、こんなことをするんだ……?」
俺はベッドに上がってきたふたりに尋ねた。
うっすらとしか思い出せない同人誌の内容がこの世界の真実であるとすると、このふたりは以前より俺に想いを寄せていたということになる。その通りに、これが愛からくる蛮行であるとすると、諦めさせるのは難しい。何せこのふたりは、トイレで大の始末をしてみせるほどに、俺のどんな姿や格好でも受け入れるつもりでいるのだ。どうかそれ以外の理由であってくれ。だから俺はそう願った。だが、神様はそんな都合のいい願い事は聞き入れてくれないようだ。俺の肌に手を滑らせてきた一成が、「生意気なあなたが私たちには可愛く思えて仕方がなかったのですよ」と、俺の右耳に囁きかけてくる。
「昔からあなたはとても可愛らしい方でした」
左耳に囁きかけてくるのは一臣だ。長い指で俺の乳首を弄びながら、うっとりとした眼差しを俺に向けている。
「嫌なところもありましたが、私たちには懐いてくださっていました。だのにあなたはその棘を自ら抜いてしまった」
「何があなたを心変わりさせたのかはわかりませんが、棘が取れたあなたは更に可愛らしくなられました。そう、私たちが欲を抑えきれなくなるほどに」
「だから、なのですよ、望海様。私たちはずうっと望海様とこう出来る機会の訪れを待っていたのです」
瞬間、俺の脳裏に同人誌の一シーンがフラッシュバックした。
姉に「感動巨編だから読んで」と渡された『エンジェルスフィア』の分厚い同人誌。タイトルはもう忘れてしまっていたが、望海というキャラクターに対する愛が詰まった物語を、俺は最後まで読み切っていた。ページ数は300ページ近く。その中に、一成と一臣が望海を巡って火花を散らすシーンがあった。時系列は、今から半年ほど前。俺がうっかり一成の肩に凭れて眠ってしまったのがきっかけだった。
恋のライバルとしてお互いを強く意識し合うようになった一成と一臣は、この出来事以降、先を争うようにして俺に尽くすようになった。振り返れば、確かにこの頃から、一成が頻繁に俺に手料理を食べさせてくるようになっていた。一臣も俺の荷物を率先して持ってくれたりと、俺に甲斐甲斐しく尽くしてくれるようになった。ただ、俺はそれを、彼らが真人間になろうとする俺の努力を認めてくれたからだと思っていたけれども……。
それは違ったのだ。
小学生の頃から俺を想い続けたふたりの感情が、のっぴきならないところにまで差し迫っていたからこその献身――のほほんと生きていた俺の与り知らぬところで、彼らは静かに火花を散らし、そして、正面からぶつかり合うに至った。その結果、互いの本音を知った彼らは、ならば一緒に望海を獲得しようと協力関係を結んでしまったのだ。
「好きですよ、望海様。いえ、愛しています」
「私もですよ、望海様。あなたを愛しています」
全てを理解した俺は、彼らの言葉に眩暈を覚えた。
端近にすると胸が高鳴る整った顔。何故、こんな気持ちを俺は覚えてしまうのだろう。けれどもそれを深く考える暇は俺にはなかった。それは、俺に愛の言葉を囁きかけてきたふたりが、そのまま肌に口唇を滑らせてくると、それぞれ、俺の乳首を舐め回し始めたからだ。
「あっ、やだぁ。それ、やだ……っ」
俺は腰を浮かせた。
じくりとした疼きを覚えたペニスが、頭をもたげ始める。小刻みに動き回る彼らの舌は休むことを知らない。乳輪から乳首の先端まで丁寧に舐め尽くされ続けた俺は、呆気ないぐらいに簡単に快楽に堕ちてしまった。
「望海様の『いや』は、もっとして、なのですよね」
一成の手が俺のペニスに触れてくる。陰茎をやんわりと扱き始めた彼の手に、俺は更なる快感を覚えて背中を反らした。
「本当に、素直でない方ですね。もうこんなに勃起なさってるではないですか」
亀頭を握り込んできた一臣が、親指を尿道口にあてがってきた。そして、指の腹で尿道口をゆるゆると撫で回してくる。途端に、女でも上げないような喘ぎ声が、俺の意に反して口から飛び出してきた。
「ひゃ、あ、うぅんっ」
乳首とペニスを同時に責められると、どうにもならないくらいの快感が襲ってくる。ああ、ああ、射精 したい。止め処ない快感に俺は腰を振った。昨日のように射精がしたい。頭の中がその思考で一杯になる。けれども一成と一臣は、昨日のようには俺をイカせてはくれないようだ。少しもすると手の動きを止めてしまった。
「あ、あ、なんで」
「今日は乳首でイってもらいますよ、望海様」
「そうですよ、望海様。最高の光景を私たちに見せてくださいね」
そこからの彼らには容赦がなかった。
言葉を吐くのも惜しいとばかりに、俺の乳首に吸い付いてくる一成と一臣。彼らの舌責めに、俺の身体は歓喜の咆哮を上げた。あっ、あぅ、はぁ。絶え間なく俺の口から零れ出る喘ぎ声が、彼らの劣情を煽っているようだ。柔く舐め回してきたかと思えば、激しく吸い上げられる。自由自在に動き回る彼らの舌に、俺の意識は混濁寸前だった。
「やだ、イク。イクぅ」
俺はいやいやと首を左右に振った。
荒らぶる彼らの呼気が、俺の肌を濡らしている。一成と一臣の熱に塗れた身体は、自分でも嫌になるほど敏感に反応した。これじゃあもうシャツも普通に着れないじゃないか。そう思うほどに彼らの愛撫は俺を限界まで追い込んだ。いつまで経っても尽きない快感。滲んだ視界は、あまりの気持ち良さに俺が涙を流していたからだ。
「だめ、あ、も、ホントに無理。イク、イク」、
十分ほど経っただろうか。それとも十五分だっただろうか。切れ間のない愛撫に、俺のペニスの昂ぶりが最高潮に達する。
「ああ、あっ、ああ……っ!」
俺は忙しなく息と声を放ちながら、爪先を立てた。腰を高く突き上げて、幾度か震わせる。瞬間、脳が白んだ。思考の全てが消失するほどの快感が、全身を打ちひしぐ。
口唇をわななかせながら、俺は果てた。
腰を落としてシーツの海に埋もれる。もう一ミリだって動けないほどに、身体が重い。そのぐらいの虚脱感が残る激しい快感だった。
「なんて素敵な身体なのでしょう、望海様」
「もう乳首でイケるようになるなんて、先が楽しみで仕方ないですよ」
「次はここを慣らす番ですね」
「私たちと気持ちいいことをする為に、今日からゆっくりほぐしていきましょう」
身体を起こした一臣が、ベッド脇にある丸く小さなサイドテーブルの上に置かれている小さな容器を取り上げた。中には白く粘度のあるクリームが詰まっている。
「安心してくださいね、望海様。痛くないようにしますからね」
クリームをたっぷりと指に掬った一臣が、俺の脚側に回り込んでくる。怖い。俺は膝を閉じるが、直ぐに一成に足を開かされてしまう。
アナニーの経験があるからといって、アナルセックスに興味があるとは限らないのだ。
してみたらどうなるかと考えてみたこともあった。だが、どうにもしっくりとこない。ゲイビデオを見漁って自分好みの男性がいないかと探してみたりもしてみたが、女性相手の妄想ほどは滾らなかった。しかも俺は指でしかアナルを弄ってみたことがない。ここにペニスが挿入 るなんて想像しただけでも痛くなる。
それとも、彼らの云う通り、慣らしていけば受け入れられるようになるのだろうか。
いずれにせよ、彼らのすることに反抗するような真似だけはしてはならない。俺はトイレの屈辱を思い返した。俺のアナルに注がれた一成と一臣の興味津々な眼差し。好色さを隠し切れない四つの瞳が、俺の背中に怖気を起こさせる。
「ああ、柔らかい」
一臣の指が俺のアナルに触れる。常温で保存されていたからだろう。やけにクリームが肌に馴染む感じがする。
「挿入 ますよ、望海様」
その言葉と同時に、ずるり――と、一臣の指がアナルの中に入り込んできた。
びくん。俺は腰を揺らした。久しく感じなかった感触が、俺のペニスをまた疼かせる。だが、その感触は俺が知っているものとは大きく異なった。突き刺されるような快感が脳を焼いたかと思えば、じわじわと余韻が長く続く。こんなの、知らない。希望を打ち砕かれた俺は焦った。経験のある行為だったらアドバンテージを得られるかと思っていたが、この身体はつくづく俺に都合が悪く出来ているようだ。
「あ、あ、動かさ、ないで――」
俺は一臣に懇願した。
「わかっていますよ、望海様。続けて欲しいということですね」
「違、あ。違、う。ホントに、駄目……っ」
俺のアナルの入り口で一臣の指がゆるゆると動き回る度に、両脚に快感を伴った痺れが走る。きっと、麻薬とはこうした作用を及ぼすものであるに違いない。そのぐらい浅い位置を刺激してくる一臣の指は俺を狂わせた。
あ、あぅっ、あ。俺は忙しなく喘ぎ声を上げた。そんな俺の乱れた様子を眺めているのが楽しいのだろう。一成と一臣の口元が緩む。あ、ひゃっ、らめ、らめぇ。激しい快楽に飲み込まれた俺は、自分でも何を口走っているのかわからなくなりながら、一臣にされるがまま。彼に俺の一番恥ずかしい場所を彼に差し出し続けさせられた。
「もう少し、奥まで挿入 てみましょうね、望海様」
俺の様子で大丈夫だと感じたのだろう。一臣が俺の腰を持ち上げ、身体をニつ折りにした。続けて、俺の頭側に回り込んできた一成が、足首を掴んでベッドに固定する。や、だぁ。俺は腰を横に振るが、足首を押さえつけられているからだろう。一臣の指は全く抜ける気配がない。
「どうです、望海様。ここは気持ちいいですか?」
ひゃぅ。俺は声を上げた。ずぷりと根元まで埋まった一臣の指が、俺のアナルの中を掻き混ぜている。
ややあって、何かを探り当てたようだ。硬いしこりのようなものを擦り始めた一臣に、俺は泣き出しそうなくらいに強い刺激を味わった。ペニスの底を何かで突き上げられているような感覚。ずんずんと突き上がってくる快さが、やがてペニスの先端に到達する。
「ああ、ああ、ああっ、ひゃん。あぅ。ああ、ああ、ああっ」
あまりの快感に身体の力がすこんと抜けた。口が上手く締まらなくなった俺の口唇の端から、涎を垂れてくる。けれどもそのみっともなさを振り返る余裕は俺にはもうなかった。あ、あ、あ、イク、イクぅ。ひっきりなしに口を衝いて出る声は、俺のまごうことなく本心だ。
「なんていやらしい身体をなさっているのでしょう、望海様は」
「今までどんなことをされてきたのかと思うくらいの感度ですね」
「ここに私たちのペニスの形を覚え込ませるのが楽しみですよ」
「本当に。たっぷり種付けしてあげますからね、望海様」
普段の謹厳実直な態度からは想像も付かないほどの下品さ。卑猥に言葉を浴びせかけてくるふたりに、俺の羞恥心は極限まで煽られた。鼓動が早まり、頬が赤く染まる。もっと、もっと、気持ち良くなりたい。恥ずかしくて仕方がないのに、感じてしまう優越感。このふたりは俺がそれだけ欲しくて仕方がないのだ。その事実が俺の理性を瓦解させる。
「あ、も、もっと。もっと擦ってぇ」
「勿論ですよ、望海様。ここがとても感じるのですね」
「そう、そこ。そこが、いい。あぅ、あっ。あ、凄い。凄いのぉ」
「嬉しいのですね、望海様。もうこんなにペニスを濡らしていらっしゃる」
舌足らずに言葉を吐く俺の股間から、先走った汁が垂れてくる。部屋の明かりを受けててろりと輝く俺のペニスに集中する四つの瞳。俺が達する瞬間を見たくて堪らないのだろう。一臣の指の動きがいっそう激しくなる。
――あ、イク。いくいく。イク。いっちゃうぅ。
直後、俺の視界が真っ白に染まった。降りかかってくる精液が、俺の口元を濡らす。息をする度に口唇の中に入り込んでくる精液の苦み。けほけほと咳き込んだ俺に、けれども一成は盛大に欲情したようだ。俺の足首を掴んでいた手を離すと、口元に自らのペニスを突き出してくる。
俺はゆっくりと舌を突き出した。
両手の自由を取り戻す為には、従順である必要があることを忘れてはいない。俺は逆らうことなく一成のペニスを舐った。「ああ、ああ、気持ちいいですよ、望海様」俺の髪を撫でながら、一成が感極まった声を上げる。
「私のもお願い出来ますか、望海様」
頬の傍に突き出てきた一臣のペニスも、俺は従順に舐めた。「そのいやらしい顔。最高ですよ、望海様」口の端に残っている俺の精液を指で掬い取りながら一臣が笑う。俺は顔を動かして、交互に彼らのペニスを舐めた。この熱を、俺はいずれ、俺の中に収めるようになるのだ。それが待ち遠しくもあり、怖くもある。
「はあ、ああ、望海様」
「イキそうですよ、望海様」
ふたつのペニスの間で舌を動かし続けていると、それだけの刺激でもふたりにとっては射精に導かれるほどであったようだ。出ますよ、望海様。そう口にしながら、立て続けに。彼らは俺の顔めがけて、その精を吐き出してきた。
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