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第四章 四人目のメンバー(2)【R18】

 昼休み、俺は相馬に誘われて、校舎の四階の端にある音楽室に向かった。久しぶりに俺が弾くピアノが聴きたいと云われてのことだったが、どうやら二人きりになる口実が欲しかっただけのようだ。神代学園の高等部は独自のカリキュラムを展開していて、音楽の授業は選択制。授業が行われるのは週に三日間と決まっている。今日は授業がない日だけあって、音楽室には誰もいない。職員室で鍵を借りた相馬は、入り口に一成と一臣を待機させて音楽室に入ると、エリック=サティのジムノペディを始めとして三曲ほど俺にリクエストをしてきた後に、「久しぶりの学校はどうだい?」と、尋ねてきた。 「嬉しいよ。皆が思ったより優しくて……」  俺の無実を信じてくれる生徒たちは、俺を気にかけてくれていたようだ。休み時間になると俺の席に集まって、ろくすっぽ事情も聞かずに処分に踏み切った学園側を口々に非難した。特に厳格な理事長に対する風当たりは強く、なんとかして理事長の座を退かせられないかといった話も出たのだが、俺が煽るようなことを口にしてしまうと、彼らの中に混じっているお坊ちゃんやお嬢様が親の力を使い始めかねない。既に父親と相馬が動いているのだ。これ以上誰かが動くような事態になってしまっては、学園が親理事長派と反理事長派で割れてしまいかねない。大事になるのを避けたい気持ちが強い俺は、「俺が疑われるような生活をしていたのが悪いんだから」と、彼らを諫めるのが精一杯だった。 「妬けるね」 「何で?」  グランドピアノの脇に椅子を持ってきて静かに俺が奏でる音色に耳を傾けていた相馬。彼は今、その場所で優美に脚を組んで、膝の上に手を置いている。その表情はどこか寂し気だ。俺はなんとはなしな居心地の悪さを感じながら、彼の返事を待った。 「私には心を許せる友人はいないからね」 「俺は友人じゃないの?」 「望海はもう私の恋人だろう。違う?」 「あっ、そうか……」  俺は頭を掻いた。  一成や一臣を含めた四人で性行為(セックス)に耽ったからか。俺は相馬の恋人に自分がなったという自覚に乏しかった。まだ心のどこかに自分が相馬の金魚の糞であるという思いがある。それは望海と俺の相馬に対する感情の違いであるのかも知れなかった。  前世で一般庶民な家庭に生まれついた俺は、恵まれた境遇で生きている人間たちのどこか浮世離れした雰囲気に馴染めずにいた。相馬にしてもそうだ。彼は俺に対して常に穏やかで優しかったけれども、鷹揚で、飄々としていて、何を考えているのかがさっぱり読めなかった。  それもその筈。財閥の御曹司である相馬は、他人に安易に気を許すなと祖父に躾けられているようだ。「下手に他人に気を許すと付け込まれるからね」高等部に上がっても決まった人間としか親しくしようとしない相馬に、俺が何故かと尋ねると、苦笑を浮かべてそう答えてきた相馬。俺はずっと相馬は強いと思っていたけれども、それは間違いであったのだろう。自らの境遇に寂しさを感じているような台詞を吐いた相馬に、俺はまたひとつ相馬との距離が縮まったように感じた。 「おいで、望海」  相馬に手招かれた俺は、グランドピアノから離れて相馬の膝の上に乗った。 「本当に可愛いね、望海は」  やっぱり、気恥ずかしい。そして、照れ臭い。  男でも見蕩れずにいられない整い過ぎたきらいのある顔。それがこんなに間近にある。あー、望海って幸せ者だな。俺は相馬の顔を真正面に捉えながらそう思った。文武両道、才色兼備、おまけに財閥の御曹司。これだけの立派なステータス、育てようとして育てられるものじゃない。そんな完璧超人に愛されているのだもの。果報者とはこれを云うんじゃなかろうか。 「見ていて全く飽きる気がしないよ。望海は」  そんなことを考えて気を逸らしていると、不意に俺の額に相馬が額を突き合わせてきた。そして、花が咲くような笑顔を浮かべてみせると、俺の口唇を啄んできた。柔らかくて甘い。俺は熱に浮かされたようになりながら、相馬と口付けを交わした。 「……相馬はなんで俺のことを好きになったの?」  口付けを終えた俺は相馬に尋ねた。  ずうっと気掛かりだったことだ。  一成と一臣はまあわかる。この三年というもの、監視役として常に望海の傍にい続けたのだ。両親よりも長い時間一緒にいるふたりに俺が情を感じているように、彼らが俺に情を感じていたとしてもおかしくはない。だが、相馬は違う。子どもの頃からの付き合いとはいえ、それは上流階級の人間らしく、常に一定の距離感を保ったものだった。勿論、本音をぶつけ合ったことなど一度もない。だから俺は、相馬が望海をどう思っているのかがわからなかった。  高嶺の花を地で行く相馬の乱心は、俺を逆上せあがらせると同時に不安を感じさせた。もしかすると相馬が俺を好きだと思っているのは俺だけで、相馬自身は戯れで手を出してみただけなのかも知れない……そういった迷いを覚えてしまうほどに、蒼井相馬という『出来た』人間は、俺にとっては不釣り合いに感じられた。 「一目惚れ、かな」  ふふ、と笑った相馬が俺の顔を覗き込んでくる。 「また、そうやって揶揄う」 「半分は本当だよ。君があんまりにも可愛らしいものだから、男の子でもいいかと思ってたぐらいだし」 「本当に? 相馬が性格抜きで誰かを好きになるなんて考え難いんだけど」 「まあね。だから、君の性格の悪さには参ったよ。可愛い顔して捻くれているしね」  あれ、もしや……?  俺は相馬の顔をまじまじと見詰めた。「知らないと思ってた?」意地悪めいた笑みを口元に浮かべた相馬が言葉を継ぐ。 「君が陰に隠れてクラスメイトをイジメていたような人間だってことぐらい、私はとっくに知ってたよ」  瞬間、俺は悲鳴を上げて逃げ出したい衝動に駆られた。  当たり前だ。自分が忘れたい過去をほじくり返されて嬉しい人間などいる筈がない。  俺は咄嗟に、それは俺じゃない。そう口にしそうになった。寸でのところで言葉を喉に押し留める。本当にそうかという気持ちが、俺の口を封じてくれたのだ。だってそうだろう。望海の意識と俺の意識は、高熱を出すあの瞬間まではひとつだった。それは俺自身にも、境遇が違えばそうなるだけの素養があったということだ。 「でもね、望海。君は変わっただろう。少なくとも私の調査が及ぶ範囲では、人が変わってしまったかのように穏やかになった。それが嘘でも私はいいんだ。だって君、覚えているかい? 去年の私の誕生日のこと」 「相馬の、誕生日……」  そこで俺は思い出した。相馬の誕生パーティに誘われた俺は、その肝心のパーティに大幅に遅刻をしてしまったのだ。  その原因は行きがけに見付けてしまった猫にあった。  あちこちが擦り切れて、血塗れになっていた猫。車に轢かれたようで、見るも無残な有様だった。だが息はあった。今、病院に運べば何とかなるかも知れない。俺は相馬に連絡をして、そして自分が着ていたジャケットに猫を包んで、一成と一臣と一緒に動物病院に駆け込んだ。  素人の俺でもこれは駄目だと感じるくらいだった。獣医にとっては無理難題を吹っかけられた気分だったのではなかろうか。何とも表現しかねる表情。手を尽くしてみますと云ってくれた獣医に俺は一縷の望みを託した。  けれども駄目だった。最後に俺を見上げて、ニャーと弱々しく鳴いた猫。その絶望的な表情は、暫く夢に出てくるぐらいの精神的なダメージを俺を与えた。  正直、パーティに行く気力は奮わなかった。  それでも顔だけは出さねば角が立つ。父親の立場を考えた俺は、相馬の機嫌を取る為にパーティ会場に向かった。そこでいつもと同じく穏やかな表情を浮かべていた相馬の顔を見た瞬間、俺の中で張り詰めていた糸が切れた。直後にはらりと頬を伝った涙が俺のものであったのか、それとも望海のものであったのか、それは俺にはわからない。けれども、あの瞬間の俺と望海は間違いなくひとつだった。 「ごめんね、相馬。あの時は……」 「何で謝るんだい? 君は自分に出来る範囲で頑張ったんだろう」 「血塗れのジャケットでパーティ会場に入っちゃった」俺は苦笑を浮かべた。「相馬、凄く驚いた顔をしていたっけ」 「ああ、あれは君が本当のことを云っていたらしいことがわかったからだよ。まさか行きがかりで猫を助けようとするなんて思っていなかったからね」 「俺、信用なかったんだなあ」  俺は気まずさ半分、安堵半分で相馬の顔を見詰めた。  ゲーム内の相馬は望海の悪行を断罪イベントまで知らない様子でいた。それが俺には腑に落ちなかった。何せ、幼い頃から将来の為の『作法』を叩きこまれてきた相馬なのだ。付き合う人間にも一定のレベルを求めていたに違いない。それが、望海の本当の顔を知らないなんてことがあるだろうか? 「すまないね、望海。ずうっと黙っていて」 「ううん。その方が相馬らしいよ」俺は笑った。 「君は時々、はっとするようなことを云うね」  ふわりと風が起こる。俺の頬に手を添えた相馬が、慈しむような眼差しで俺の顔を愛でてくる。 「ねえ、望海。私は君が猫を助けたあの瞬間に、本当に君に恋をしたんだ」  直後、俺の身体を抱き締めてきた相馬に、俺はおずおずと手を差し出した。そして、ゆっくりと相馬の背中に手を回した。肩に顔を埋めると、好んで彼が身に付けている制汗スプレーの匂いが、ふわりと俺の鼻腔を擽った。。爽やかな柑橘系の香りが心地ちいい。俺は目を閉じて、暫く相馬の温もりを感じた。  温かいもので満たされる胸は、俺と望海の気持ちが同じ方向を向いているからだ。  胸の内にひっそりと灯る明かり。本当の城石望海がそこにいる。俺が高熱を出した中等部の頃の姿のままで。  相馬を頼りとし、相馬に傾倒している望海は、相馬と一線を超えたことで自分の本当の気持ちに気付いたのだろうか。愛している。そんな言葉が聞こえてくる。 「ふふ、本当に望海は可愛いね。そしていい子になった……そんな君を見ていたら、何だか可愛がりたくなってきてしまったよ」 「え……?」 「少しだけ。駄目?」  云いながら俺の制服に手をかけてきた相馬に、俺は焦りの色を隠せなかった。学園の校舎内でことに及ぶのは、流石の俺でも腰が引ける。俺は勿論だが、相馬も品行方正で通っているのだ。もし、他の生徒に見られるようなことがあったら、今度は一週間の停学では済まないかも知れない。それどころか、相馬との付き合いを制限される可能性だってある。  けれども、そういった俺の気持ちを相馬は慮る気がないようだ。俺のジャケットの襟元を開くと、性急な手捌きでベストごとシャツを捲り上げてくる。 「そ、相馬。待って。待って、って。後でにしようよ。マンションに招いてくれるんでしょ」 「大丈夫だよ。少しだけ可愛がってあげるだけだから。それとも、彼らも一緒の方がいいかな」  ひゃっ。乳首を舐め上げられた俺は、思わず出てしまった声に口を手で覆った。待って、って。待って……その俺の声で中の異変を察したようだ。ドアを薄く開いて顔を覗かせて一成と一臣に、相馬が入ってくるように促す。 「油断も隙も無い方ですね、相馬様は」 「私どもの目を盗んで望海様と睦み合おうなど」  一目で事態を飲み込んだ一成と一臣が、音楽室の中に足を踏み入れてくる。表情を崩して俺たちの前に立ったふたりに、俺は絶望的な気分になった。 「君たちは私のないところで充分に愉しんでいるんだろう?」  言葉ばかりは一触即発だが、どちらも本気ではない。俺に愛を囁いてきながら、俺を共有することに躊躇のない三人。彼らは紛れもなくこの状況を面白がっていた。袋の鼠とはまさにこのことだ――三人に囲まれた俺は、逃げるに逃げられない体勢に諦めて手足の力を抜いた。 「ニ十分もあれば、君を()かせるぐらいは出来るかな」  くっくと相馬が嗤い、俺を膝の上から下ろす。座って。と、促されたのはさっきまで俺が座っていたベンチ椅子だ。躊躇う気持ちはあったものの、この三人が顔を揃えると誰も引かなくなることを俺は思い知っている。だったら相手をしてなるべく早く終わらせた方が得策だ。  俺はちょこんと椅子に腰かけた。  一成と一臣が俺の両脇に膝を突く。相馬は俺の正面だ。三人に跪かれた俺は、その手が揃って俺の制服の中に忍んでくるのを遠い世界のことのように眺めていた。 「いい顔を見せてくださいね、望海様」 「私たちが心を込めてお世話をして差し上げますから」  一成が左の乳首を、一臣が右の乳首を撫で回してくる。やっぱり、気持ちいい。俺は両手で口を塞いだ。つい口を衝いて出そうになる喘ぎ声。一発で火が点いた性欲に、俺は理性が弱まってゆくのを感じ取った。 「いいね、望海。その表情。とても可愛いよ」  カチャリと音が鳴る。俺のベルトをのバックルを外した相馬が、続けて俺のズボンのファスナーを下ろすと、下着の中からペニスを引っ張り出してくる。 「ここも、こんなに可愛い」  緩く熱を持った俺のペニスを手で軽く握り込みながら、相馬が俺を見上げて笑いかけてくる。俺はどう反応すればいいかわからずに、眉を歪めた。気持ちいい。でも、恥ずかしい。 「今日は乳首で()くところを相馬様に見ていただきましょうね、望海様」 「期待されているのでしょう、望海様。乳首が硬くなってきましたよ」  俺が羞恥の感情を捨てきれずにいるのが面白いようだ。片端の吊り上がった笑み。俺の制服を捲り上げた一成と一臣が、俺の手を取ってくる。シャツの裾を口に噛ませられた俺は、続けてわざとらしく音を立てながら乳首を舐ってくるふたりに、くぐもった声を上げた。  ん、くぅ、ん、んん……。俺の甘さを孕んだ喘ぎ声が、静けさに満ちた音楽室に反響する。  じくりじくりと乳首から染み出てくる快感が、俺の身体の自由を奪う。俺はだらしなく手を下げて、そして脚を広げて、一成と一臣、そして相馬の愛撫を受けた。んんっ……んっ、ん……ふっ……口の端から熱い吐息が零れ出る。そんな俺の静かな乱れっぷりに、興奮した表情を晒している相馬。彼は軽く俺のペニスの先端に口付けてくると、「もう濡れてきたね」と、淫靡に囁きかけてくる。  ん、んくぅ。俺はベンチ椅子の両端に手を置いて、身体を仰け反らせた。乳首に感じる濡れた一成と一臣の舌の感触。そして、陰嚢を揉みしだく相馬の滑らかな手の感触。三人の愛撫に意識を浚われた俺は、だから、奇禍がそこまで迫っているのに気付かなかった。 「お願、い……()かせて……」  俺はシャツの裾を噛んでいた口を開いた。満足げに笑った相馬が、俺のペニスを口に含んでくる。  コンコンとドアがノックされたのは、その矢先だった。一気に理性を引き戻された俺ははっとなってドアに視線を向けた。 「失礼します、相馬様。ピアノを少しだけ貸していただきたく――」  返事を待たずに開かれたドア。その向こう側にある黒髪が、瞬間、大きく揺れた。直後、眼鏡の奥にある瞳が見開かれる。 「す、すみません!」  勢いよく閉められたドア。廊下に慌ただしい足音が響き渡る。 「ふふ、よっぽど驚いたんだね。スコアを落としていってしまった」  呑気に言葉を吐く相馬に対して、俺は気が気じゃなかった。  三人のクラスメイトを相手に痴戯に耽っているところを見られてしまった。ど、どうしよう。そう思っていると、立ち上がった相馬が床に散らばるスコアを拾い上げた。そして、「ちょっと彼と話をしてくるよ」と、茶目っ気たっぷりに俺を振り返ると、悠然とした足取りで音楽室を出て行った。  俺はベンチ椅子から立ち上がった。急ぎ身なりを整える。こうなってしまってはもうお楽しみどころではない。 「待つのも大事ですよ、望海様」 「この場は相馬様に任せては如何でしょう」  相馬を追って音楽室を出ようとする俺を、一成と一臣がベンチ椅子に引き戻してくる。少し気持ちを落ち着けろということだろう。それだけで何もしてこないふたりに、けれども俺の胸の鼓動は治まる気配をみせなかった。 「でも……」  俺が気が気ではない理由はもうひとつあった。  脱兎の如くこの場を立ち去っていったのは、隣のクラスの碧川真優(みどりかわまひろ)。来年の選挙で生徒会の会計に選ばれることになる、俺の未来のハーレムの一員だったのだ。

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