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第四章 四人目のメンバー(3)【R18】

 午後を迎えても和らぐことのない強い陽射し。アスファルトからは蒸した空気が立ち上っている。薄い雲がまばらに筋を引く空の下、俺は一成と一臣を伴って、相馬と肩を並べながら彼のマンションに向かっていた。 「ねえ、相馬。真優のことなんだけど、何を話したの?」 「ん? スコアを返して口止めをしただけだよ」 「真優はなんて?」 「大丈夫だよ、望海。誰にも云わないって云ってたから……」  穏やかな笑みを浮かべている相馬は、真優の善意を信じ切っているようだ。鷹揚に言葉を継ぐと、俺の頭を撫でてくる。 「本当かなあ」 「噂が出るようだったら、私が対処するよ。元はと云えば私の我儘が原因だからね」 「でも、噂が出てからじゃ遅くない?」 「望海は心配性だね」  俺の不安を相馬はただ笑っていなすばかりだった。  本当に大丈夫なんだろうか。俺の脳裏には、真優の驚いた顔がまだ焼き付いている。呆気に取られたようでもあり、ショックを受けているようでもあった表情。眼鏡の奥の見開かれた瞳が、真優が受けた衝撃の度合いを示していた。  普段、冷静沈着で通っている真優に、あんな顔をさせてしまった……俺は気もそぞろになりながらマンションのエントランスを潜った。管理人に会釈をして、ホールの奥に向かう。そして、相馬に続いてエレベーターに乗り込んだ。  中等部で同じクラスに二度なったことがある真優と俺は、一緒に図書委員になったことをきっかけに、偶に読んだ本を貸し合う仲になっていた。今は別のクラスになってしまったこともあり、交流も途絶えがちだが、お互い下の名前で呼び合う程度には仲がいい。俺の中の望海も、真優には好感を抱いているようだ。父親の蔵書を見たいと云った真優を家に招いても、怒ったりはしなかった。  そんな真優は『エンジェルスフィア』の世界では、攻略キャラのひとりだった。読書家で、博覧強記。常に冷静でどんなことにも動じることがない彼は、後に生徒会の頭脳(ブレーン)となるキーパーソンだ。最初は鳴り物入りで学園にやってきたヒロインにライバル心を抱いていたが、彼女の努力家な一面を知って和解。交流を持つようになり、ヒロインに様々な知識を授けてくれるキャラとなる……筈なのだが、ここは俺が最終的にハーレムを築き上げる同人誌の世界である。当然ながら、彼がヒロインと仲良くなったという話は聞かない。  でも、こんな状況から真優が俺たちの中に混じってくる展開があるのだろうか? 何せ彼は超が付くほど真面目な人間だ。将来の夢が法学者であるとかで、正義感も強い。これが男女の睦み合いだったら、彼は正面から注意をしていたんじゃなかろうか。そのぐらいに真優は真っ直ぐな人間でもある。  きっと、このまま終わりはしないのだろう。俺は憂鬱になりながらエレベーターを降りた。  そして、相馬の部屋に上がった。  管理人常駐型のセキュリティがしっかりした50階建ての白亜のマンションは、単身者から小規模ファミリー向けの物件だとかで、キッチンと一続きになったリビングに、洋室がふたつのこぢんまりとした作りだった。相馬の部屋は最上階の角。南向きの窓から街が一望できる眺望の良い部屋だ。  初めて足を踏み入れた相馬の城は、予想通りに綺麗だった。  手入れの行き届いたファブリック。家具は両親の手配であるのだろうか? 北欧デザインのインテリアが多い。機能的な空間を好んでいるのが、いかにも合理主義的な蒼井家らしい。けれども、ようやく足を踏み入れられたその場所に、俺は胸を弾ませている余裕がなかった。もしも真優が誰かに昼の出来事を洩らすようなことがあったら――いや、俺や相馬に対決する姿勢をみせたら……相馬は相馬なりの遣り方で真優に報復することだろう。それだけで済めばまだいい。問題は噂が流れ出た場合だ。やるときは徹底してやる相馬のことだ。噂を耳にしただけの生徒も巻き込まれかねない。 「好きな場所に座って」  相馬の声にはっとなる。俺はソファに腰を落ち着けた。 「先ずはお茶にしながら、今日の宿題を終わらせてしまおうか」  ティーセットを運んできた相馬が、俺たちに紅茶を振舞いながらそう口にする。  俺はのろのろと鞄から今日の宿題を取り出した。目の前のローテーブルに教科書とノートを広げる。けれども心配が勝って、肝心の内容がてんで頭に入ってこない。そんな俺の様子に気付いていたようだ。「どうぞ、望海様」と、一成がノートをそっと差し出してくる。  訊けば、授業中にあらかた解いてしまっていたのだという。  俺は一成に甘えることにした。今日の俺の精神状態では、皆と同じスピードで宿題を片付けるのは無理だ。だからといって理解は放棄しない。何せ俺たちは一週間以上も学園を不在にしていたのだ。ここできちんと理解しておかなければ、これまでの成績を維持出来なくなってしまう……俺は一成のノートに目を通しながら、宿題を解いた。勉強の苦手な一臣とともに、時に質問を交えつつ、今日の分の宿題を終わらせる。 「私の出番はあまりなかったね」  それが少しばかり不満だったようだ。全員が宿題を終えたテーブルの上を片付けながら、相馬が苦笑を浮かべる。 「そんなことないよ。相馬の説明はとてもわかり易かったよ」 「本当に?」相馬の顔が俺の顔に寄ってくる。 「う、うん」  たじろぎながらも頷けば、機嫌を持ち直したようだ。いや、もしかすると揶揄われていただけだったのかも知れない。ふふ、と小さく笑った相馬が俺の隣に腰を下ろしてくる。「なら、してもいい?」ブレザーの内側にするりと潜り込んでくる相馬の手。俺の身体を撫で回し始めた相馬に、俺はぴくりと身体を揺らした。 「さあ、望海様。服を脱ぎましょう」 「私たちがお手伝いをいたしますよ」  ソファを立った一成と一臣が、腰を低くして俺の制服を脱がせ始める。ブレザー、ベスト、シャツ。ズボンに靴下。そして下着……あっという間に上半身を裸に剥かれた俺に、相馬が舐めるような視線を向けてくる。「さっきの続きがしたいね」そう云ってソファを下りた相馬が、俺の脚を開かせながら正面に跪く。  入れ違いにソファに上がってきた一成と一臣が、俺の左右を固めた。ああ、始まるのだ。胸にかかるふたりの熱い吐息に手足の力を抜く。  真優のことが気掛かりななことに違いはなかったが、宿題に専念したこともあってか。俺の気分はかなり落ち着いてきていた。それに、ここなら誰の目も届かない。安心感が俺のどっちつかずな気持ちを後押しする。後のことはその時に考えればいい。抑え難い性欲に飲み込まれた俺は、そうっと理性を手放した。 「一成、一臣。はや、く」  直後、滑った感触が俺の両の乳首を包み込む。あっ。短く声を上げて悶えた俺は、相馬が見守る中、一成と一臣の舌技に身を任せていった。  ゆるゆると乳首に沿って動き回るふたりの舌が、甘やかな感情を俺の胸に呼び覚ました。くすぐったいような、それでいて焦れったいような不思議な感覚。あっ、ああ、あっ。耐え難い思いに捉われた俺は、跳ね回る腰を押さえ込む為に両手をぎゅっと握り込んだ。その上に相馬が自らの手を重ねてくる。「気持ちいいんだ?」俺の手の甲を撫でながら尋ねてくる相馬に、俺は口をだらしくなく開いたままこくこくと頷いた。 「ここも感じるのですよね、望海様は」  乳首から口を離した一成が、肌に手を滑らせてきながら、俺の弱いところを吸い始めた。  首筋、鎖骨、みぞおちに脇腹。うっすらと残る痣を辿ってゆく一成に、相馬が察したようだ。「ここも?」と、俺の腿の内側にある痣に口唇を重ねてくる。皮膚の内側にまで染み込んでくるような、痺れを伴う快感。「あっ、そこやだ」俺はぶるぶると脚を震わせた。 「望海様の『やだ』は『いい』の意味なのですよ、相馬様」  顔を上げた一臣が、俺の耳に口唇を寄せてくる。ねえ、望海様。淫らな響きを含んだ声で囁かれた俺は、続けて耳介を食んできた一臣にいやいやと首を振った。  全身のそこかしこに生じる快感に思考が追い付かない。  身体の各所に与えられる刺激は俺にもどかしさを感じさせた。わかり易い快感を覚える乳首やペニスと違って、鈍感なのか。気持ちがいいのには違いはなかったが、皮一枚上をなぞられているようなむずがゆさがある。相馬ぁ。俺は相馬の名前を呼んで、彼の手を握った。 「我慢出来なくなってきたのかな?」  俺の腿から顔を上げた相馬が身を乗り出して、俺の口唇に口付けてくる。俺は相馬の指の合間に指を滑り込ませた。歯痒さにどうにかなりそうになりながら、相馬と舌を絡め合う。 「濡れてきたね、望海のここ」  相馬の空いた手が俺のペニスをやんわりと掴む。先端から汁を垂らしている俺のペニスはすっかり硬くなっていて、陰嚢に溜まった精液を解き放つのを待っている状態だ。「イキたぁい……」俺は切なげな声を上げた。  俺の左側には一成。腰に手を回してきながら脇腹周りを啄んでいる。  俺の右側には一臣。胸を撫で回してきながら耳介を食んでいる。  意のままにならない快感が、俺の焦燥感を煽った。脳に突き刺すようなあの快感が欲しい。一成と一臣とマンションで過ごした日々。眩暈を起こしそうな恍惚の中で何度も達した記憶が呼び覚まされる。「イかせて、お願い」間近にある相馬の整った顔が滲んで映る。俺は相馬の手を強く握り込みながら懇願した。 「いやらしいね、望海は。自らおねだりまでしちゃって」 「だって……だって……」 「乳首で()くよりもセックスの方がいいんでしょ? 後ろ、気持ちよさそうだったもんね、望海」  まるで子どもを愛でるような瞳。相好を崩した相馬が、俺の口唇を啄んでくる。 「うう。相馬の、意地悪ぅ……」 「可愛いなあ、望海は」また口唇を啄まれる。「そんな困った顔も可愛いよ」 「じゃあ、イカせて、くれる……?」  うんうんと頷いてみせる相馬に俺の胸が弾む。これで楽になれる――そう思ったのも束の間。相馬が一成と一臣に視線を送る。言葉がなくとも通じ合っているようだ。一成と一臣の顔が動く。 「先ずは乳首で()くところを見ていただきましょうね、望海様」 「後ろを可愛がって差し上げるのは、その後ですよ」  俺の顔を挟み込むようにして囁きかけてきながら、ふたりが乳首に手を伸ばしてくる。  指の腹で乳首を揉まれた俺は、びくりと身体を揺らした。  快感の度合いで云えば、アナルに続く場所。シャツが擦れただけでもおかしな気分になる場所で、俺はこれから()かされる。その現実に奇妙な安心感を覚えた俺は、()っと俺の様子を窺っている相馬の顔を見上げた。 「上手く()けたらご褒美だよ、望海」  それはきっと挿入を指しているのだろう。俺は相馬の言葉に頷いて、一成と一臣に身体を預けた。  肌を伝って下りてくるふたりの舌が再び俺の乳首を捉えた。あっ、ああっ。即座に口を衝いて出るあられもない声。乳頭を舐ぶられる度に俺のペニスがじくじくと疼く。 「はぁっ、ああっ。イク、イクぅ」  乳首とペニスが線で繋がっているような快感。はちきれんばかりに勃起した俺のペニスが視界の端で揺れている。ああ、ああ、イク。俺は我を忘れてよがった。  そうして達した。  ペニスの先端から吹き出た精液が、俺の腿を濡らした。激しく上下を繰り返す胸板が、荒ぶる呼気を俺の喉に送り出してくる。俺は濡れた眼差しを俺に向けてくる一成と一臣と交互に口付けを交わした。長く他の性感帯を責められていたからだろう。乳首に刺激を受け始めてから五分も経たない内の痴態だった。 「ちゃんと()けましたね、望海様」 「これならご褒美も期待出来ますよ、望海様」  淫らな響きを含んだ囁き声。弾む期待が息を荒らげているようだ。ふたりの熱い吐息が頬にかかる。 「私は最後でいいよ。この間は最初だったからね」  俺の達した姿を見て何かが満たされたのだろうか。どうぞ、相馬様――そう口にしながら俺の脚を相馬に向けて開かせた一成と一臣に、相馬がにっこりと笑って答える。「なら、私から」無理に勧める気はなさそうだ。一成が俺の腕を引いて、膝の上に乗せてくる。 「ベッドに行かなくていいのかな?」  そこに飛んでくる相馬の声。やんわりとした物云いであるものの、有無を云わせない響きに満ちている。 「相馬様がそちらの方がいいのであれば」  毅然とした相馬の態度に驚いたのだろう。微かに途惑いが混じる声。俺の頭越しに相馬を見上げた一成が、探るような視線を相馬に向けている。 「君たちがどうセックスをするのかを良く見たいんだ」  それに対して、自らの望みを口にする相馬。こうも明瞭(はっき)りと云われてしまっては、従わない訳にもいかない。俺たちの力関係は圧倒的に相馬の方が上だ。一成もそれをわかっているからだろう。いつもの綽然とした表情に顔を戻すと、畏まりました。と頭を下げた。 「なら、私が望海様を運びましょう」  ぐったりとした俺の身体に一臣の手が伸びてくる。背中と膝の裏に差し入れられる手。一臣に抱き上げられた俺は、彼のうなじに手を回して落ちないように身体を固定した。 「でも、いいの? 寝室を使っても」  俺は相馬に尋ねた。勿論だよ。と、優しい眼差しが俺に向く。 「広い方が動きやすいし、落ち着くだろう。それとも望海はリビングの方が良かった?」 「そういう訳じゃなくて、相馬が寝る場所なのに」 「私が君たちを招いたんだよ」くっくと嗤いながら、相馬がソファを離れる。「君とセックスする為にね」  それが俺には良くわからなかった。  日頃、他人と一線を引いた付き合いをしている相馬が、性行為(セックス)に対する欲だけで、自分のマンションに他人を招くだろうか? 望海だけならまだしも、一成と一臣も一緒に――なのだ。一成と一臣が望海を共有するのはまあわかる。ずうっとふたりで一緒にいたのだ。どちらかが選ばれるのを許せなかった彼らが協力関係を結ぶのは仕方がないこととも云える。  けれども、相馬は?  思い通りにならないものなどない立場にある相馬は、幾らだって俺たちに云うことを聞かせられた。この部屋に来るのだって、俺だけ――ということにも出来た筈だ。現に昼の音楽室では一成と一臣を廊下で控えさせている。なのに彼は一成と一臣を部屋に招き入れたばかりか、おれたち三人の性行為(セックス)を良く見たいとまで云い出した。  何が彼をそうさせているのだろう?  同人誌の世界だから――と云ってしまうの容易い。けれども姉が『感動巨編』と評していたぐらいである。その辺りにもきちんとした理由が用意されているのだと、この世界に放り出されて生きるしかなくなった俺としては思いたかった。  そうでなければ、結末の定まった物語を体験しているだけになってしまう。  そんなのは嫌だ。俺に意志があるように、一成や一臣、そして相馬にも意志があって欲しい。長い付き合いで積み重ねられたこれまでの彼らとの思い出。それまでもが物語を紡いだ作者の手によるものであるなど、俺は認めたくない。  一成も一臣も相馬も、俺の目の前で確かに生きているのだ。 「じゃあ、始めてもらおうかな」  俺と一臣、そして俺の制服を集めて持ってきた一成が寝室に顔を揃えるのを待って、相馬が口を開く。その視線はベッドの上でふたりに挟まれている俺に注がれている。  居心地が悪い――そう思うも、相馬の視線は嫌気を感じさせるものではない。慈しみ、愛でる。今日の相馬はずうっとそうだ。掌中の珠を愛でているような眼差しを望海に注ぎ続けている。 「身体が少し冷めてしまいましたね、望海様」 「私たちで温めて差し上げましょう」  俺の身体に伸びてくる一成と一臣の手。端々をまさぐり始めたふたつの手に、俺の意識が溺れてゆく。  俺は相変わらず心の深いところを覚らせない相馬の行動に疑念を抱きながらも、それを彼に確認することが出来ないまま。彼のベッドの上で立て続けに一成と一臣に抱かれていった。

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