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第五章 真優の本心(3)【R18】

 帰宅後、わからないところを一成に教わりながら一臣と一緒に二時間ほど勉強をした俺は、お手伝いの和香子さんが用意してくれた夕食を三人で一緒に食べ、そして三十分ほどリビングで寛いでから、今日は実家に帰るという一臣を玄関に出て見送った。 「お名残り惜しいですが、今日はこれで失礼します」 「ちゃんと家に帰るんだよ」 「大丈夫ですよ、望海様。一臣はしっかりしていますから」  一成と一臣は交代で俺の家に泊まっていく。それは彼らが俺の監視役であるからだ。  当初の予定では、一成と一臣は交互に俺の監視にあたることになっていた。そう、一日おきにひとりずつであったのだ。ところが世の中上手くは回らない。社長からのお願い=命令みたいなものである。きちんとこなせば評価が上がると思った彼らの父親は、息子たちを自分たちの派閥争いに利用しよう目論んだとみえる。先を争うようにしてふたりを俺の元に寄越すようになってしまった。  ――私たちの父親は、仲がよろしくないのですよ。  ――同じ会社に勤めているというのに、商売敵のような感じでして。  つまり、あちらの息子には出し抜かれるな――ということだ。  俺の父親は彼らに監視役以上の役割は期待していないのだが、彼らの父親はそうは受け止めなかったようだ。公私に渡って俺の役に立てるよう人間となれと命じられた一成と一臣は、最初は嫌々俺の監視役を務めていたのだという。そりゃあそうだ。望海とは小学校からの付き合いである。嫌な面は嫌というほど目にしてきている。  ――でも、あなたは変わられた。  ――当たり前のことが当たり前に出来るようになられたばかりか、当たり前でないことも出来るようになられた。  俺の傍にいることが『仕事』となった一成と一臣は、俺を間近にして俺の評価を変えた。それがふたり揃って愛情になってしまったのは、完全に俺の計算違いなのだが、とはいえ、彼らは彼らの父親たちのように俺の評価を巡って争う気は微塵もないようだ。それだけ、父親同士の仲が良くないことや、それに自分たちが巻き込まれていることを、彼らは面白く感じていないのだろう。  ――だから私たちは逆に仲良くなってやろうと思ったのですよ、望海様。  そういった彼らの考えが、俺を『共有』するという結論に導かせたのは想像に難くない。恐らく、彼らは俺を巡って対立するのを避けることで、どちらかが父親の思惑通りになるのを防いでいるのだ。  だからか、一成と一臣としては、別にふたりでこの家に住み込んでも――という考えであるらしい。とはいえ、それでは彼らの時間がなくなってしまう。どれだけふたりが俺を好いてくれていて、常に一緒にいたいと望んでくれてもまだ高校生。今のうちにしか出来ないことが山ほどある。そうした経験を俺の所為で奪われるようなことがあってはならないのだ。  家族との仲も気掛かりだ。彼らが俺の家に入り浸りになった結果、家族と疎遠になってしまうようなことになっては、それぞれの家族に申し訳が立たないではないか。マンションの件はイレギュラーだったが、その生活が終わった今はきちんとすべきだ。だから俺は一臣をルーティンに従って家に帰すことにした。 「明日の朝、お迎えに上がります」 「うん。今日は勉強に付き合ってくれてありがとう。帰ってからの勉強も頑張ってね」  俺に笑いかけられた一臣が、犬のように人懐こい笑顔を浮かべた。 「勿論です。ただ、望海様からご褒美をいただければもっと頑張れるのですが……」 「まだ云ってる」  勉強があまり得意ではない一臣は、休んでいた分を取り戻すのにまだまだ時間がかかりそうだ。とはいえ、それは俺や一成と比べてである。学年では中の上ぐらいの順位をキープしている一臣は、けれども俺たちと比べると見劣りがする成績にコンプレックスを抱いているようだ。そういった自分を奮起させようとしてなのか、それともただ茶目っ気を出しただけなのかは不明だが、勉強の間中、しきりと俺からの褒美を求めていた。 「つれないお方ですね、望海様は」 「そういうのに釣られて勉強をしても身にならないでしょ」 「そしてお厳しい」  口元から白い歯を零れさせながら一臣が玄関を出る。「また明日ね」ドアを閉じた俺は、自分に与えられている部屋に戻るつもりらしい一成と別れて、先に風呂に入った。  熱い湯が張られたバスの中で手足を伸ばしてリラックスする。  身体の端々に残る痣は、昨日の性行為(セックス)でまた色を濃くしてしまった。和香子さんが見たら卒倒するんじゃないだろうか。そのぐらいに数のある紅斑。これを怪我だと云い張るには無理がある。  まあ、和香子さんも俺が幼かった頃とは違って、俺の入浴中に脱衣所に入ってくるなんてことはしなくなったのだけど。  両親にしてもそうだ。家出をして半年ぐらいは俺を心配して、仕事をセーブして俺につきっきりだったのだが、最近は元気な息子に安心したのか。それともそれだけ一成と一臣を信頼するようになったのか。すっかり以前のペースで仕事をするようになっている。  当然、今日もふたりの帰宅は遅くなる予定だ。  その間に息子が大変なことになっているとは思いもしないのだろう。俺は身体に残された紅斑を眺めながら、その滑稽さにひとり笑った。 「ああ、坊ちゃま。お上がりになられたのですね」 「うん。一成にお風呂にするよう云っておいて」 「畏まりました」  三十分ほどかけて風呂に入った俺は、さっぱりした気分でキッチンに顔を出した。そして明日の朝食の仕込みをしている和香子さんに、一成にお風呂を勧めるようお願いして自分の部屋に入った。  そのままベッドに向かう。  目的は真優に借りた大井川周平の新刊だ。今日から寝る前に少しずつ読み進めていこう。俺はベッドの脇に置いておいた通学用鞄の中から、まだ真新しい紙の匂いがするハードカバーを取り出して、ベッドにうつぶせになった。肘を立てて両手で本を開く。  今回はどんなどんでん返しがあるのだろう。  前世の俺は比較的読書家だった。ビジネス書なんかは仕事が絡まないと読まなかったが、カタルシスを感じられる推理小説や冒険小説は良く読んだ。漫画も好きだ。こちらはジャンルを問わず良く読む。望海はもっと格調高い物語――純文学や詩なんかが好きらしいのだが、回りくどい表現が苦手な俺はあまり読まない。理解出来ない訳ではないのだが、読んでいて気恥ずかしい気分になってしまうのだ。  だったら推理小説も一緒じゃないかって?  あれも主人公だの周りの人間だのが頻繁に窮地に陥る物語だ。犯人でない人間が問い詰められるシーンは確かに胃が痛くなる。だが、小説や漫画は苦手な場面が読み飛ばせる。しかも後のシーンの台詞で何が起こったかも察せてしまう。そう、嫌な思いをしなくともそれなりの物語体験が出来てしまうのだ。  それと比べると動画は苦手だ。先ず自分のペースで物語を楽しめない。しかも展開が早いものだから、頻繁にいたたまれない思いをすることになる。配信サイトや円盤は飛ばせるのでまだいいのだが、テレビや映画館での視聴ともなると、俺は何故金を払ってこんな苦行を強いられているのだろうと思う。多分、映像としてのリアル感が、そういったいたたまれなさを感じ易くしているんじゃないかと思うのだが、わかったところで馴染めるものでもない。故に、今世の俺もテレビはバラエティやニュースぐらいしか見なかった。 「坊ちゃま」  コンコンとドアがノックされたのは、俺が読書を始めて三十分も経った頃だった。そろそろそんな時間か。俺は立ち上がってドアを開いた。脱いだ割烹着を片腕に掛けた和香子さんが立っている。 「そろそろお休みさせていただきますので、そのご挨拶に伺いました」 「うん。今日もありがとうね、和香子さん。明日もよろしくお願いします」  俺が三歳のときに家に来た和香子さんは、そろそろ五十歳になろうとしていた。茶色く染めた髪を後ろに纏めて、柔らかい面差しにほんのりと化粧をした姿。母親がお世話になっているからと高い化粧品を与えているからか、一般的な五十歳よりは若く映る。 「では、おやすみなさいませ、坊ちゃま。坊ちゃまもお早めにお休みくださいね」 「明日も学校だしね。気を付けます。じゃあ、おやすみなさい」  俺はドアを閉めた。  帰宅が遅くなりがちな両親に付き合っていると、休んでいる時間が無くなってしまう為、和香子さんの勤務時間は朝の六時から夜の九時までと決まっていた。  やることは家事だけとはいえ、この家は結構広い。掃除だけでも午前中いっぱいはかかるらしく、休憩を取れるのは午後になってからなのだとか。それでも、「坊ちゃまの成長を見るのが楽しみなので」と、文句ひとつ云わずに働いてくれる和香子さん。そりゃあ望海もこの人には懐くよなと思う。  俺はベッドに戻った。  スピンを挟んでいたページを開いて続きを読む。今日は50ページぐらい読めればいいかな。と思いながら、メモ代わりの手帳を片手に読み進めてゆく。推理小説の序盤は大抵登場人物の紹介だ。今回の大井川周平は館ものにチャレンジしてるらしく、殺人事件の舞台となる館の見取り図なんてのも出てきた。これは推理が大変そうだ。俺はメモを取りながら少しずつ読み進めた。すると、20ページほど読み進めたところで、枕元に置いておいたスマートフォンが鳴った。  画面を見れば、蒼井相馬の文字。  きっと真優の件だろう。そう思いながら電話に出る。 「こんばんは、望海。なんだか君の声が聞きたくなってね……」  だが、電話の向こう側の相馬の様子は何だか変だった。  穏やかながらも毅然とした態度を見せる相馬の話しぶりは、余裕綽然としながらも隙を感じさせないものだ。だが、今の相馬に限ってはそうではない。少し舌足らずな声。呂律が回っていないような話しぶりに、まさか――と、思いながら俺は口を開く。 「相馬、もしかしてなんだけど、酔ってる?」 「うん」  素直に頷いた相馬に俺は眉を顰めた。品行方正で通っている相馬が酒に手を出すなんて信じられない。 「駄目だよ。まだ十五でしょ」 「水だと思って飲んだら日本酒でね……こんなに酔うんだと驚いているところだよ……」  仕事だ。俺はピンときた。仕事の関係で酒が出る席にいたのだ。それならばこの醜態も納得がゆく。 「とにかく水を飲んで。そして横になって」 「ソファに横になってるんだけどね……ひとりなものだから……」  俺は部屋にあるの壁掛け時計を見上げた。針は九時半を回っている。  相馬の状態が気掛かりだが、流石にもう家は出られない。「誰か呼んだら?」俺が云うと、酔って人恋しくなっているのだろう。「望海は来てくれないの?」と、相馬が甘えた声を出す。 「もう九時過ぎてるもの」 「つれないね。私が寂しがっているというのに」 「行ってあげたいのは山々だけど、補導されちゃうよ。だから相馬、とにかく他の人を呼んで」 「望海は何をしていたの?」  俺の言葉を遮って、相馬が尋ねてくる。  そんなことをしている場合じゃないんだけどな。と、思いつつも、あんまり強く云って話が拗れてしまったらどうしようという気持ちもある。  何せ相手は相馬な上に、酔っ払っているときている。何に対してどういった反応をするかがまるでわからない以上、ここは適当に受け答えをしつつ、折々で水を飲むように伝えるのがベターかも知れない。前世での社会人経験と城石望海としての経験を混ぜ合わせてそう結論を出した俺は、相馬の問いに正直に答えることにした。 「真優に借りた本を読んでたよ。推理小説。大井川周平の新作なんだ」 「ああ、そういえば今日の放課後、彼と話をする予定だったね……どうだったのかな」 「身体の心配をされちゃったよ。そりゃあそうだよね。その、三人も一度に相手をしているんだし……」  あはは。と、電話の向こう側で相馬が陽気に笑う。 「もう! 笑い事じゃないよ!」 「いや、その通りだなと思ってね」  話題が日常に戻ったからか。少ししゃんとしたようだ。先程よりは覇気を感じさせる声が耳に届く。 「望海としてはどちらがいいのかな」 「どっち?」 「私たちの相手を一度にするのと、ひとりひとりを相手にするのと」  相馬も思うところがあるのだろうか? 思いがけず俺が悩んでいた件に話が及ぶ。  結論を出した問題とはいえ、相馬側から云われたことで俺の決心は揺らいだ。三人が嫉妬で暴走することがないのであれば、ひとりひとりを相手にするのも吝かではない。でも、それを相馬に明け透けに云うのは躊躇われる。 「ペースの問題じゃない? 俺がひとりしかいない以上、限度はある訳だし……」 「それもそうだね。一度、気を失わせてしまっているし。それに今日の望海も眠そうだったしね」  どうやら相馬には、自分たちの所為で俺が体力を削られているという自覚があるようだ。「そこは考えないとならないね。今後の為にも」と、言葉を継ぐ。  今が好機(チャンス)だ。  俺の目が開く。  この機会を逃せば次にいつこうした話が出来るかわからない。何せ相手はやりたい盛りの高校生三人組だ。機会を見付ければ直ぐに手を出そうとしてくるに決まっている。だったら今の内に、決まり事としてペースを決めておかなければ。 「その、俺としては、出来れば週に一、二回ぐらいにしてもらえると有難いんだけど……」  だから俺は俺の希望を相馬に訴えた。 「望海がそう云うならそうするよ。私もそんなに頻繁には相手に出来る時間もないしね。そのぐらいが丁度いいんじゃないかな」 「本当に?」俺は舞い上がった。「本当にそれでいいの?」 「勿論だよ。彼らにもちゃんとそこは云い含めておくよ。君を公平に分け合う為にもね」  やった!  これで眠いのを押して学校に行かずに済む!  俺はほくほく顔でスマホの画面にキスをした。そして相馬に礼を述べた。 「ありがとう、相馬。正直、体力付けないと駄目かなって思ってて」  彼らとの性行為(セックス)は好きだが、かといって俺の体力は無尽蔵じゃない。相手をするのにはどうやっても限界がある。そこを気にしないで済むようになるのだ。嬉しくない筈がない。 「なら、お礼に望海の可愛い声を聞かせて」 「可愛い声? 声ならもう聞いてるでしょ?」 「違うよ」くっくと相馬が嗤う。「えっちな望海の声が聞きたい」 「もう十時近くだよ」  俺は何を云っているのだろうという思いで相馬の言葉を聞いた。  大分しゃんとしてきたものの、まだ舌足らずな声。酔っている所為で頭が上手く働いていないのかも知れない。相馬の言葉を性行為(セックス)のお誘いだと思った俺は、だから家を出られないことを理由に断ろうとした。 「一臣も帰っちゃったし、セックスは無理だよ」 「そうじゃないよ」  けれども相馬は引く気がないようだ。俺の言葉に否定の言葉を被せてくる。 「そうじゃないって、どういうこと?」 「望海がひとりでしている時の声が聞きたい」  え。と、俺は言葉を詰まらせた。  確かにそれなら性行為(セックス)ではない。ないけれども、俺は確実に消耗する訳で――。 「やだよ。恥ずかしい。それに疲れちゃう」 「一度でいいから。ねえ、聞かせて、望海」 「相馬、酔ってるんでしょ」 「君にね」  本当に酔ってやがる! 俺は俺を口説きにかかった相馬に困り果てた。  前世の社会人生活で幾度となく経験してきた酔っ払いの介抱で、嫌というほど経験したシチュエーション。酔っ払いはこうなると引かない。特に立場が上の人間ほど、我儘の度合いが大きくなる。もう一件行かないと帰らないぞ。とか、〆のラーメンを食うまで帰らないぞ。とか、酷いのになると、○○ちゃんがお酌してくれるまで帰らない。と、セクハラまがいの要求までしてくる。  俺はそういった酔っ払いをどういなすのが正解なのか、前世での生活を終えた今でもわからないままだ。  だが、彼らと相馬が同じ匂いをさせているのだけはわかった。これは俺がうんと云うまで引かないパターンに入っている。どうしよう。俺が悩んでいると、「してくれないならお仕置きだよ」と、相馬がぞっとすることを口にする。  それ即ち、次回の性行為(セックス)でそれ相応の目に合わせるという意味だ。  俺はベッドの上で仰向けに寝そべった。  身の安全と自尊心(プライド)。どちらを取るかなんて一目瞭然だ。  相馬に快楽漬けにされるのもいいけれども、身体のことを考えるとある程度で控えたくはある。それだったら、今恥ずかしい思いをした方がいい。気掛かりなのは一成だが、幸い、彼の部屋はここから三つほど離れている。俺の声が届くことはないだろう。 「聞いたらちゃんと寝る?」 「勿論」 「じゃあ、少しだけだよ」  俺はスマートフォンをスピーカーモードにして枕元に置いた。「聞こえる?」と相馬に聞けば、「よく聞こえるよ」との返事。なら、と、俺は夜着(パジャマ)のボタンを外した。エアコンの効いた室内のひやりとした外気が肌に当たる。 「可愛いなあ、望海は。じゃあ、先ずは乳首を触ろうか……」  相馬に云われるがままに俺は乳首を自分の指でなぞった。強く擦られるよりは柔く触れられる方が好きだ。一成と一臣、相馬とした性行為(セックス)を思い返しながら、乳首にやんわりと愛撫を加えてゆく。 「どう、望海。気持ちいい?」 「少し、待って」 「待たないよ。ちゃんと弄って。そして私に君の声を聞かせて」 「あぅ……」  相馬の滑らかな手を思い出す。俺の乳首に、脇腹に、そして内腿に触れてきた相馬の手。そして口唇。ねちっこい愛撫をする一成や、荒々しく腰を振る一臣のことも考えた。その三人に挟まれて、幾度も絶頂(オーガズム)を迎えた記憶。ああ、性行為(セックス)がしたい。昨日味わったばかりの快感を、俺はまた求め始めていた。 「何を考えながらしているの、望海」 「相馬たちの、こと……」 「私たちとのセックスを思い出しているんだ。いやらしいね、望海は。すっかり受け入れる側の身体になってしまって」 「相馬の、意地悪」  最初は平静だった気持ちが徐々に高ぶってゆく。  そうしたのは誰だと思いながら俺は片手を夜着(パジャマ)のズボンの中に差し入れた。既に熱を持ち始めているペニスを引っ張り出し、片手で乳首を弄びながら、もう片方の手で陰茎を扱いてゆく。 「あっ、ああ、相馬、相馬ぁ」 「いい声が出るようになってきたね、望海。今はどこを弄っているの?」 「乳首、と、ペニス……っ」  じわりじわりと滲み出てくる快感が、小さな波となって、俺の身体と心を浚ってゆく。けれどもその快感は、三人がかりで与えられるものと比べれば遥かに弱い。もっと、もっと大きな快感が欲しい。腰を振りながら、俺は陰茎を激しく扱いた。あっ、あっ。断続的に口を衝いて出るようになった喘ぎ声に、相馬は俺の様子を感じ取ったようだ。「我慢だよ、望海」と、淫靡な声で囁いてくる。 「私の許可なく()こうなんて、いけない子だ」 「だって……」  強烈な性行為(セックス)の記憶が、なまじっかな快感では俺を達させてくれないのだ――とは云えなかった。  俺は息を荒らげながら、乳首とペニスに愛撫を加え続けた。先走った汁がじとりとペニスを濡らし始める。はあ、ああ、イキたい。俺は相馬に懇願した。今ここに彼らがいれば、俺が望む快感を直ぐに得られるのにと思いながら。 「駄目だよ、望海。()くのは乳首でにしなさい」 「やだぁ。も、イキたい」 「可愛がってあげないよ」 「うぅ……」 「ほら、指を舐めて。そしてその指で乳首を弄って」  俺は相馬の指示通りに両手の人差し指を中指を舐め、唾液の絡んだ指の腹で乳首を嬲った。滑った感触に、まざまざと蘇る記憶。彼らに執拗に乳首を舐られた時に似た感触を乳首の先に感じた俺は、びくん。と、腰が跳ねさせた。 「ああっ、相馬。お願い、舐めて」 「それは次の機会にね」 「意地悪ぅ」 「ちゃんと()けたら、沢山可愛がってあげるよ、望海」  俺はその言葉を信じて頑張った。  自慰で頑張るというのもおかしな話だが、それだけ一成や一臣、相馬との性行為(セックス)の記憶は強烈だった。ありきたりな愛撫ではもう射精出来そうにない。そのぐらいに身体に深く刻み込まれている。それをひとつひとつ拾い上げながら、俺は乳首を苛め抜いた。撫で回してみたり、摩ってみたり、揉みしだいてみたり……。 「相馬、相馬。あ、あ、相馬ぁ」 「いいよ、望海。凄くいい。その声、堪らないね」 「あ、あ、相馬。イク。イっちゃう」  時々指を舐めて乳首を濡らしながら、愛撫を繰り返す。  じわじわと広がった快感が、じくじくとペニスを浸食している。それは陰嚢の底から突き上げてくるような快感だった。ああ、もう、もう本当にイク。俺は荒らぐ息の合間に言葉を吐いた。「いいよ、望海。()って」穏やかな相馬の声が俺の射精欲を後押しする。 「あ゙、あ゙、ああっ……!」  直後、大きく反れた腰の合間から、白濁とした液が迸った。  宙で細く線を描いた精液が腹の上に伸びる。俺は快感の残滓に悶えながら身体をベッドに沈めた。胸板が忙しなく上下を繰り返している。 「ああ、ああ、望海。なんて可愛いんだろうね、君は……」  俺が従順なのが嬉しいのだろう。歓びに満ちた相馬の声がスマートフォンから聞こえてくる。  俺はのろのろとスマートフォンに手をかけた。衣服を整えながら約束通りに相馬に寝るよう促す。だが興奮状態にある相馬は簡単には電話を終わらせてはくれなかった。そこから二十分ほど、彼に浴びるように愛の言葉を聞かされた俺は、けれども満更でもない気分で眠りに就いた。

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