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第六章 ヒロインとの接触(1)

 明けて金曜日。昨晩の自慰が身体に気だるさを残していたからだろうか。俺は午前中にちょっとしたトラブルを起こしてしまった。  一限めから体育という過酷なスケジュールに憂鬱な気分だったのが、注意力を削いでしまったのかも知れない。バスケの基本動作の練習。コート一面を駆け抜けながらクラスメイトふたりとフォーメーションを組んでパス回しをしていた俺は、一体どうやればそんなことなるんだというくらいの遠投をかましてしまった。  それ自体はいい。ミスをしているのは俺だけではなかったのだから。  だが、そのボールが隣の女子のコートに入ってしまったとなると、話はちょっと変わってくる。  神代学園の体育の授業は二クラス合同だ。男女は別だが、プログラムは一緒で、四面ある体育館のコートは男子二面、女子二面に分かれていた。男子はパス回しの練習だったが、女史はボールの扱い方を教わっているところだったようだ。体育教師を中心に密集する女子たち。その中に飛び込んでいった俺のボールは、直線的な軌跡を描きながら、あろうことなかれ、D組の生徒である園崎有栖(そのざきありす)に当たってしまったのだ。  そう、ゲーム『エンジェルスフィア』のヒロインその人である。  勿論、わざとではない。  城石望海というキャラクターは、運動音痴な側面がある。フィギュアスケートは特訓の甲斐あって人並みに滑れるようになったが、他のスポーツはあらかた苦手で、前世の俺が普通に出来ていただけに、もどかしい思いをすることがままあった。特に球技においてそれは顕著で、野球をすればボールがバットに当たらないし、バレーボールをすればアタックで吹き飛ばされる。サッカーも何度もキックをすかしたし、バスケもドリブルが明後日の方向に向かっていくほどだ。  そのぐらいに望海の身体は動きのタイミングを取るのが下手だった。  距離感覚がバグっているんじゃないかというぐらいにミスをするものだから、俺を良く知る中等部からの持ち上がり組は、球技大会で俺と同じ組になると溜息を吐くようになってしまった。とはいえ、高等部からの入学組はそんなことは知らない。彼女らは園崎さんに絡んだ連中のこともあってか、俺の大暴投をわざとじゃないかと疑ったようだ。かなりのブーイングを受けてしまった。  尤も、当の本人である園崎さんは俺に優しかった。頬の辺りにボールが当たってしまったというのに、俺を一切責めることなく、それどころか、クラスの女子の非難の声をも諫めてくれた。流石はゲーム内で『学園の聖女』と称されるキャラクターである。人格の出来が俺とは違う。  勿論、俺はそんな園崎さんに甘えることなくきちんとボールの件の謝罪をし、念の為と彼女を保健室に連れて行った。  その道中で、夏休みの件について彼女から謝罪を受けた。俺が無実の罪で一週間もの謹慎処分を受けることになってしまったのが気掛かりだったようで、彼女なりに俺の評判などを調べたらしい。「あなたが彼らをけしかけたなんて、有り得ないわ」と、長い睫毛を震わせて口にした彼女に、あー、これは男なら惚れますわ。と、俺は思わずにいられなかった。  腰に届きそうな長く豊かな黒髪。前髪は少しだけ額に垂らしている。ぱっちりとした二重に、ほっそりとした身体。リップを塗らなくとも赤み差す口唇が、抜けるように白い肌の上にぽっかりと浮かんでいる。  これが俺と同い年という事実が恐ろしい。  園崎有栖という少女は、天魔をも魅入らせるぐらいの清らかな美貌の持ち主だった。  ただ佇んでいるだけでも独特の色香を感じさせる。そして守りたいと思わせてしまう。それは理事長だって園崎さんを庇うだろう。こんな美少女が窮地に陥っていたら、誰だって手を差し伸べたくなるに決まっている。   そう思った俺は理事長に対する蟠りを捨てた。  俺の過去は彼女の人格や容姿、そして能力に勝るものではない。それが良く理解出来たからだ。  だが、相馬はそうはいかなかったようだ。昼休みに俺を中庭に呼び出すと、園崎さんと何を話ししたのかを尋ねてきた。

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