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第十三章 終わりの始まり(1)

 その夜、俺と姉は時間をかけて、真優が提示した案を吟味した。  勿論、姉を家に連れて行く訳にはいかない。そんなことをすれば和香子さんが舞い上がってしまう。相馬たちとの付き合いすら、親しい友人が沢山出来たと思い込んでいるくらいなのだ。ここに女の子を連れ帰ろうものなら、すわ、「坊ちゃんに彼女が!」となるに決まっている。更に両親に話をされようものなら、どういった騒ぎなったものか。姉との仲を誤解されるのだけは避けたいところだ。 「私はどちらの案も、試してみる価値はあると思っているわ」  家に帰宅して直ぐに姉は電話をかけてきた。いつもであれば、携帯料金を気にせずに済む俺からかけるところなのだが、流石に今日は興奮を抑え切れないのだろう。スマートフォンの向こう側から、姉の意志の強さが滲み出るような声が聞こえてくる。 「でも、ふたつの案が出す結果が同一とは限らないんだよ。だとしたら、少しでもリスクの少ない方法を取った方がいいよ」  俺は姉の意見に首を振った。  俺と姉に「死んでみる気はある?」と尋ねてきた真優は、その理由をこう説明してくれた。  ――瑞樹と瑞穂がこの世界に転生してきたのは、事故で命を落としたからだよね。しかも命の危機に瀕して自我を取り戻している。となると、人為的に命の危機と感じる状況を作り出せれば、君たちが再びひとつになることも可能なんじゃないかな。  ただ――と、真優は悲しそうに瞳を瞬かて、こう続けた。  ――命に係わる事態が君たちの存在に関わってくる出来事(イベント)である以上、必ずひとつになれるとは限らないと僕は考えている。もしかすると、君たちの魂が望海や有栖の身体から外に放り出される可能性もあるし、逆に望海や有栖の魂が放り出される可能性だってあるだろう。だから、僕としては、この方法でどういった結末を迎えるのかの保障は出来ないよ。ただ、君たちにかかる負担は、ひとつ目の方法よりは遥かに少ない。一瞬、我慢すればいいだけだからね。そういったリスクと負担を考えた上で、どうするか決めて欲しいな。  藤村瑞樹がこの世界からいなくなることが辛いのだろう。説明し終えた真優は、口唇を噛んで宙を睨んだ。それは眞も同様だったようだ。「俺はこの世界に瑞樹が居て欲しい」きっぱりと言い切ると、俺の手の甲に自らの手を重ねてきた。  ――忘れないで欲しい。俺と真優にとって、望海は知らない人間だってこと。  俺は悩んでいた。  長い時間をかけて、出来るかもわからない魂の統合に挑戦するか。それとも、自分と姉、もしくは望海と有栖、どちらかの魂がこの世から無くなるのを覚悟の上で、死ぬような思いをしてみるか。  眞に真優は俺がこの世界に残ることを期待している。口数は少なかったが、あの場に付いてきたということは、一臣もそういうことなのだろう。とはいえ、一成と相馬は望海の存在にも心を向けているようだ。そうなると統合を目指すのが一番な気がするが、その結果、俺の中に新たな『望海の人格』が出来てしまったでは笑えない。  矢張り、死ぬような思いをしてみるべきだろうか。  そもそも俺が自我を取り戻したのは高熱を出したからであって、それまでは望海の魂とひとつだったのだ。姉にしてもそうだ。海で溺れなければ彼女は今でも園崎有栖だっただろう。そこに戻る為に命を懸けてみる。悪くない考えだとは俺は思う。  「でも、実際に命の危機に陥るってどうやればいいのかしら?」  俺の考えを聞いた姉が尋ねてくる。 「それなんだよね。本当に死んじゃったら意味がないし……」 「私はそれだったら、先に意志の疎通を目指してみた方がいいと思うわ。だって、私と瑞樹、有栖と望海というペアで魂が動くとは限らないのよ。私と望海、有栖と瑞樹で動いてしまったらどうするつもり? 残された方は辛いわよ、それ」 「確かに……でも、万が一が起こって人格が増えてしまったらどうするの? 俺たち、自分らしく生きるのが難しくなるよ」 「そう考えると、今の状態が一番って答えになってしまうのよ。でも、それはあなたは嫌なんでしょう、瑞樹」  俺は悩みに悩んだ。  望海を犠牲にして獲得する幸福などあってはならない。そう思いながらも、リスクと負担を天秤にかけてしまう自分の浅ましさ。全部を取ることが難しい以上、何かを諦めなければならない。けれどもどれを? それが俺には決められそうにない。 「やってみるしか、ないのかあ」 「それはそうよ。行動しなければ何も変わらない。それをこの世界で私たちは学んだでしょう」  確かにその通りだった。  俺は姉の言葉に目を開いた。そして思った。断罪イベント怖さに家出をしたあの日。あの行動力はどこに行った? 望海の被害者たちに謝罪を繰り返した日々だってそうだ。あの頃の俺は行動する力があった。いつの間に、俺は幸福の上に胡坐を掻いて行動することを忘れてしまったのか。それこそがこうした事態を招いた根本的な原因であるというのに。 「そうだよね、姉さん」  俺は自らの手を握り締めて、自らを奮い立たせた。拳の中から伝わってくる熱が、俺の背中を後押しする。  ここで腰が引けてしまっては、何の為にこの世界で再び生を受けたのかわからない。そう、この世界は俺たちに確かに伝えている。行動しさえすれば運命(イベント)は変わると。 「やってみようよ、どっちも(・・・・)」 「どっちも? 私はそれが希望だったからそれでいいけど、でも、どうやって死んでみるのよ」  姉の言葉に俺は笑った。  娯楽に溢れている今の世の中には、信じられないアクティビティが幾つもある。それを利用すれば、死ぬような思いが出来るのではないか? 例えばスカイダイビングだ。空中何千メートルからの落下は、かなりの緊張感を俺たちに齎してくれるだろう。若しくはバンジージャンプだ。ロープ一本を頼りとして高所から飛び降りる。それが俺たちの意識や感情に作用しない筈がない。  勿論、本当に死と隣り合わせの体験でない以上、娯楽で終わってしまう可能性はある。それでも、行動しないよりはいい。ここでああだこうだ話をしていても事態は解決しないのだ。どんなくだらない思い付きでも試してみる価値はある。 「死ぬような思いをすればいいんでしょ。実際に死なないように。今の世の中だったらそれは出来るよ」  そう言って、思い付きを伝える。  俺のアイデアに姉は半信半疑だった。「それで大丈夫なのかしら」と首を捻っているような声を出していたが、「他に何かいい方法ある?」と、俺が尋ねると、上回るアイデアが出なかったのだろう。「まあ、やってみるだけならタダだしね」と、受け入れる姿勢をみせた。 「じゃあ、今週末。土曜日にね」 「わかったわ。学園前でいいかしら?」 「いいよ。動き易い格好でね」  すべきことが決まったのが嬉しいのだろう。姉の声は少し弾んでいた。  昔からこうだ。気弱で物事を決めるのに時間がかかる俺と比べて、思い切りのいい姉は失敗を恐れない。「やってみて駄目なら次の手を探せばいいのよ」最後にそう言って電話を切った姉に、俺は頼もしさを感じながら時計を見上げた。時間は午後十時。今日はもう休もう。明日の学校に備えて寝る決心を付けた俺は、ベッドに入る前にトイレを済ませようと部屋を出た。 「すみません、瑞樹様」  ドアを開けると一臣が立っていた。どうやら、俺と話をする為に待っていたようだ。「お姉様との電話は終わりましたか?」と、尋ねてくる一臣に、トイレから戻るのを待っていて欲しいと伝えて用を足しに向かう。 「待たせたね。入って」  トイレから戻った俺は一臣を部屋に招き入れた。ベッドサイドに腰掛けるよう促し、並んで座る。 「で、どうしたの?」  喫茶店で言葉少なだった一臣は、真優が提示した解決策にコメントらしいコメントをしていない。だから俺は、話というのはそれについてであると思った。眞や真優のように、俺がいなくなるかも知れないことについて言ってくるのではないか、と。 「今日のことについてなのですが……」 「うん」 「一成を責めないでやっていただけますか」 「どうして? 俺、責めようなんて思ってないよ」  どうやら一臣は、瑞樹と望海のどちらを選ぶのかについて、一成が即答出来なかったことを気にしていたようだ。「あれだけのことをしてしまったのですから」と、九月のマンションの件を持ち出して、「もっと自分の気持ちに自覚的であるべきだと私自身は思っています」と、前置きした上でこう口にした。 「ただ、一成の気持ちもわかるのです。私たちには望海様と過ごした時間の記憶もありますから……」 「そこは仕方ないでしょ。俺、望海じゃないもん。一成が混乱するのもわかるよ」 「瑞樹様は寛大でいらっしゃる」 「俺には自我を取り戻すまでの望海の記憶もあるけど、正直、自分のものではないような気がしてるんだよね。ピアノも出来るし、フィギュアの動きも出来るけどさ、『藤村瑞樹』としての意識の所為なんだろうね。『城石望海』としての自覚が薄いんだ。だから、よくわからなくなる。自我を取り戻すまでの俺は何者だったんだろうって。当の本人である俺ですらそうなんだよ? そりゃ皆は混乱するよ」 「瑞樹様……」一臣の表情は苦し気だ。  天に向かって真っすぐに伸びる青竹のように瑞々しく、そして凛々しさを感じさせる面差し。瞳の上にすっと線引く眉が震えている。 「抱き締めても、いいですか」 「いいよ」  俺のほっそりとした身体は一臣の腕にすっぽりと収まるどころか余るぐらいだ。上背だって遥かに及ばない。それを壊れ物を扱うように抱き締めてくる一臣。俺の髪に顔を埋めて肩を震わせていた彼は、ややあって、「何もお力になれなくてすみません」と、絞り出すように言葉を吐いた。 「気にしないでよ、一臣。むしろ俺こそごめんね。俺の勝手な行動の所為で、これまで一杯お世話になることになっちゃって」  俺はずっと気掛かりだったことを、一臣に謝罪した。  断罪イベントから逃れたいばかりに家出をした。それが結果、本来の物語になかった展開を生み出してしまった。  俺の監視役を命ぜられた一成と一臣。家族や友人との時間を削って俺の傍に居てくれた彼らは、これまでどれだけの時間を俺に費やしてくれたのか。その、途方もない時間は、俺に負い目を感じさせた。物語通りに話が進んでいれば、彼らはもっと年齢相応の生活が出来ていた筈だったのに――と。 「そんな、いなくなるようなことを仰らないでください」 「でも、どうなるかはわからないからね。こういうのは思ったときに言っておかないと」  俺は一臣の背中を撫でた。  望海とひとつになれるのか。それとも俺の魂がこの身体から出てゆくことになるのか。それはその瞬間が訪れるまでわからない。  もしかするといなくなってしまうのは望海の方であるかも知れなかったし、最悪、このまま何も変わらないことも有り得た。それでも俺と姉は行動することを選んだ。瑞樹と望海、瑞穂と有栖。それぞれが自分らしく生きられる為に。 「……嫌です」  振り絞るような声だった。 「一臣」 「あなたが、いなくなるのは嫌だ」  腕に籠った力は、まるで俺の魂をこの世に繋ぎ留めようとしているように思えた。 「どうか、どうか、あなたがこの世に残れますように」  腕を解いた一臣の手が俺の頬にかかる。  熱い吐息を口唇に感じる。俺は顎を自ら動かした。少し硬い一臣の口唇に自らの口唇を重ね、溶け合うほどに激しい口付けを交わす。 「好きだと、言っていただけませんか」  顔を離した一臣が、真っ直ぐに俺の顔を凝視(みつ)めてくる。俺はその言葉に小さく頷いた。  思えば俺は、誰にも自ら好きと伝えることがなかった。一成に一臣、相馬、眞に真優。彼らのことを好ましく感じるようになってからも、彼らが俺に注いでくれる愛情に一線を引いてしまっていた。  物語の筋書き通りに進む展開は、俺に心のどこかで、彼らの愛を疑わせていた。ここが同人誌の世界でなければ、彼らは俺に愛情を注ぐことはないのではないか? けれども、今はもうそういったことは思わない。俺の告白は、彼らが本来持つ人間性を引き出した。勿論、そういった設定であるという前提は覆しようがなかったが、少なくとも、俺は彼らが望海と瑞樹のどちらを選ぶのかを目の当たりにした。  城崎望海という外見と立場、そして藤村瑞樹という内面。  彼らの選択は、ここが物語世界であるが故に疑心暗鬼に陥るしかなかった俺を救ってくれたのだ。  だから俺は一臣に顔を近付けた。息がかかるほどに距離を近くして、そして、全ての想いを口唇に乗せて囁いた。 「好きだよ、一臣」  嗚呼――、と、一臣の口唇から溜息とも吐息とも付かない息が吐き出される。 「私もですよ、瑞樹様」  微かに潤む瞳に、一臣の本心が垣間見える。  溢れ出る愛おしさに、胸が痛む。だのに俺は一臣だけを選べない。一成も、一臣も、相馬も、真優も、眞も――誰もが愛おしい。 「ごめんね。でも俺、皆のことも同じようで好きでさ」 「いいのですよ、それは。私たちはそれを受け入れたのですから」  本音のところで彼らがこの関係をどう思っているかなどわからない。もしかすると、真優のように競争心が俺の許に彼らを繋ぎ留めている可能性だってあった。それでも彼らは俺を中心としたこの関係を受け入れてくれた。それだけではない。はっきりとしない俺を責めることもしなかった。 「ありがとう、本当に」俺は一臣の胸に頭を預けた。「俺ね、前世では本当に恋愛に縁がなくてさ……ちょっといい雰囲気になった人とかはいたんだけど、そこから先に進むことはなくて、自分は非モテだってずっと思ってたんだよね。気弱だし、優柔不断だし、八方美人だしさ。俺が誰かに愛されることはないんだなって」 「瑞樹様」 「だから、俺、皆には本当に感謝しているんだ。このままの俺でも愛されることが出来るって、皆のお陰で自信が持てた。だから、ありがとう。俺は、この方向性で生きるよ、一臣。もし、この先、望海の身体を離れるようなことになったとしても、俺はもう変わらない。この自分で生きていく」 「瑞樹、様……」  一臣の手がそろりと俺の肩にかかった。かと思うと、がっちりと肩を掴んでくる。  指に籠る力は、一臣の感情の表れだ。俺は息を詰めて、一臣が言葉を発するのを待った。 「もし、あなたが望海様の身体を離れることになって」 「うん」 「私のことを忘れてしまったとしても」 「うん」 「私はあなたを探し出してみせます」 「一臣」  俺は顔を上げた。  真一文字に結ばれた口唇が、小刻みに震えている。涙を溜めた一臣の瞳は、けれどもとても温かだ。包み込むような眼差し。俺を愛おし気に見下ろしている一臣は、俺が思っている以上に真っ直ぐな心の持ち主であるのだろう。 「初めは半信半疑でした。あなたが自分で被害に合わせた人々に謝罪するなど、何の打算があるのかと」 「そりゃあそうだよ。突然だったもの」 「だから私は注意深くあなたの行動を観察しました。打算であればどこかで襤褸が出る。けれどもあなたは違った。赦しを得るまで謝罪をやり切っただけでなく、日常生活に於いてもその態度を変えられた。私や一成に望外な我儘を口にすることもなくなられましたし、当たり前のように困っている人を助けるようになられた」 「まあ、半分は断罪イベントを避けたかったからなんだけどね。だから打算だよ、それは」 「人の生き方は日常生活にこそ表れるものだと父に教わりました。これらは打算だけでやり切れるものではありませんよ、瑞樹様。あなたは草木や昆虫にも心を砕くことを忘れなかったでしょう、違いますか。道端の雑草を踏まないように避けて歩かれる。教室に迷い込んだ昆虫をそっと外に逃がす。だから私はあなたに惹かれたのです」  俺が思っていた以上に、俺のことを見ていた一臣に俺は驚く。  だから彼は、俺と望海とどちらを選ぶかとなった瞬間に、迷わず俺を選んでみせたのだ……その事実を有難いと感じる半面、申し訳なさも感じる。本来、彼の愛情を受ける筈だった望海。あるべきイベントがあるべき形で起こっていたら、彼とてそうした人間になっていたことだろう。  望海は物言わぬ生き物には優しい人間なのだから。  望海がああなってしまったのには、ああなっただけの理由がある。人間という生き物に対する不信感。反面、前世の記憶を取り戻した俺にはその意識がない。俺と望海、同じ環境で生きてきたふたりの違いはそこだけだ。だから俺は望海とひとつだった時代に、彼の暴走を止められなかった。 「あなたがこの世界に下りてこられたように、私もあなたの世界に上がることが出来るかも知れません。同じように、他の物語世界に紛れ込むこともあるかも知れません。私はそこに望みを繋ぎます」 「でも、一臣」  俺の言葉は一臣に封じられた。息が出来なくなるくらいのきつい抱擁。力強く一臣の手に捕まえられた俺は、黙って彼の言葉に耳を傾けるしかなかった。 「私はあなたがいい。あなたでなければ嫌だ。一成や相馬様はまた違った考えを持たれるかも知れません。でも、私はあなたを選びます。この三年間にはそれだけの意味がありました。私が永遠を誓ってもいいと思えるだけの」  俺は何も言えなかった。  望海を庇ってやりたい気持ちはある。けれどもそれは、同時に一臣の気持ちを裏切る行為になる。  辿り着けなかった未来にいる俺の中の望海は、この現実をどう捉えているのだろう。しんと静まり返った空気に、俺は恐る恐る胸の内を探った。けれどもそこには何もなかった。無限の空白。どういうことだ? 俺は焦った。望海は俺の意識から姿を消してしまったのだろうか。  ……いや、違う。  彼は小学生から付き合いのあった一臣の本心を聞いて呆然自失でいるのだ。  どうすればいい。俺は悩んだ。どうすればこの孤独な魂を救ってやれる?  俺がいなくなったところで望海を待っているのは過酷な現実だ。眞と真優は望海を他人だと言い切っているし、一臣は世界を超えてでも俺を探すと言っている。残すは一成と相馬だが、どうなることか。彼らの決断次第では、望海は完膚なきまでに打ちのめされてしまうだろう。  俺は一臣の腕の中で口唇を結んだ。  他人のことなのに、口惜しくて悲しくて仕方がない。俺が表に出てしまったばかりに、望海は誤解ばかりが先に立つようになってしまった。これをどうにかするにはどうすればいい。俺は暫く考え続けた。出せる答えはひとつだけだった。俺と望海がひとつになるしかない。 「では、今日のところはこれで失礼します」 「うん、また明日ね」  自分に与えられている部屋に戻る一臣を扉越しに見送った俺は、迷いもしなければ悩むこともなくベッドに入った。  ここからは長い戦いになる。きちんと休んで、きちんと望海と向き合わなければ。 「おやすみ、望海。明日から頑張ろうな」  きっと、何かを答えてくれているのだろう。俺の言葉に心が震える。  絶対に望海を幸せにしてやらなければ。俺は使命感を胸に、眠りに就いた。

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