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第6話 クエストの始まり
二人を見送ったあと、俺は腕まくりをして、教会を見上げた。
簡素ながらも、一階部分は礼拝堂と懺悔室があり、二階には住居用の簡単な部屋と、三階に相当する部分には鐘がある。こんな山にある教会としては意外にも立派な造りなのである。
しかし今は、パソコン画面で見たそのままの姿で腐り朽ちており、上階の床はすべて崩れ落ち、一階は木くずの山だらけで、見上げるとすぐに鐘が見える状態だった。
この廃教会は、ノーフの村でのクエストを完遂させる鍵となっている。
村人たちを助けながら、この教会を探し出し、村の大工に頼み込んで修繕してもらう。村人たちが再び利用できる状態にしたうえで、仕上げに神を宿らせ、信仰心を取り戻すと、神の御心により村の苦難は解消される、つまりクエストクリアとなる。
しかし、ゲーム上では数時間のことでも、リアルでは少なく見積もって一月 はかかるはすだ。
そんな退屈なことをちまちまとやっていられない。
それに、毎夜理由をつけてテントに逃げ込むよりは、神官なら教会にいるべきという名目で、ここを寝屋にしたいとも考えていた。
となれば、場所も知っているのだからと、魔法でさっさと修繕を終わらせることにしたのである。
まずは木くずや瓦礫を教会の外へと移動しなければならない。ヨハネスたちへの苛立ちをぶつけるかのごとく気合いを入れ、魔法を発動して作業を進めた。
時間を忘れるほど没頭していた俺は、日の光が空を照らし出し始めたことで、徹夜していたことに気づき、変化の術をかけつつ飛翔の術でテントへと急いだ。
しかし、万が一ということもあると思い立ち、念の為に途中で徒歩へ切り替えた。
すると、あと数十メートルというところで人影が見え、ひやりとしつつ歩み寄ると、薄闇にも眩しいほどの美貌が見えてきた。
「おはようございます、トイファー神官」
ミヒャエルが一人きりで、まるで待ち構えていたかのように手をあげていた。
「おはようございます。……ラスベンダー騎士団長」
俺が近づくと、ミヒャエルも身体の向きを変え、テントのほうへともに歩き出した。
「今朝もお早いですね」
「ええ。体力がないので、なるべく毎朝散歩をするよう心がけております」
「それはいい習慣ですね。鍛錬は日々の積み重ねが物を言いますから」
「ええ……」
「山まで行かれたんですか?」
「えっ?」
「かなり遠くまで行かれていたようですから」
なぜ山だとわかったのだろう。いつ俺が不在であることに気がついたのか。考えつつも、嘘をついて誤魔化すよりも、いっそ早いところ教会を発見させてやろうと考えた。
「山の麓まで行っておりました。初めての土地は距離が測れず、気の向くまま進んでいたらかなりのところまで歩いてしまっていたようです」
「……何か珍しいものでもお見かけになりませんでしたか?」
「ええ。何か建物の一部のようなものが見えたように思えました。ですが、一人で山へ入るのは腰が引けてしまって、確認まではしておりません」
「本当ですか? もしかしたら教会という可能性がありますね」
「ええ。もしかしたら、ですが」
「本日は村長のところへご挨拶に伺うのですが、そのあとすぐにでも確認してみたいと思います。もしよろしければ、トイファー神官もご一緒していただけませんか?」
俺は当然とばかりに笑顔で答えて、騎士団たちが先に始めていた朝食の準備を手伝いに輪へと入った。
朝食が始まると、ミヒャエルがみなにこれからの予定を告げた。
騎士団の半分は王都へ戻し、ミヒャエルと他八名の部下たちは、向こう二週間を目処に滞在することに決まったとのことだった。
そこで神官に扮している俺にどうするかを尋ね、帰ることもできるが、できることなら一緒に留まって欲しいと頼まれた。ここへ神官を派遣してもらうまで、村人たちに信仰を取り戻させるべく礼拝を行って欲しいというのが理由だ。
俺はもちろん快諾し、であればと朝食を終えたあと、さっそくユリアーネの案内で村長宅を訪問することになった。
村長であるシュレマー氏は五十がらみのどっしりとした体躯の男で、世襲により代々村長職を受け継いでいるらしく、必要以上の貫禄が備わっていた。
「まあ、どうしてもというなら止めはしませんがね。しかし、用立てていただけてありがたいのは人手よりも金のほうなんですよ。金さえあれば働き手を回せますから」
神官が補充されないレベルでも村は村であり、自分はその長であるという自負ゆえか、騎士団長を前にしても怯むつもりはないらしい。
「おっしゃることは理解できます。しかし国庫を回すためには申請したうえで議会にかけてもらい、王太子の承認を得るなどの手続きを踏まねばなりません。そうなると早くても半年はかかってしまいます」
「半年?」
「いえ。現在のところ議題は山積みのようですので、もしかすると年単位という可能性も十分にあり得ます」
「年単位だと? 困っている国民を放置し続けて、ようやく騎士が視察に来てくれたと思えば、何年も待たせる話をするのか」
「お怒りはごもっともです。ですから、金銭での補助が適わないかわりに、わたくしどもを人手としてお使いいただければと」
「騎士が、ひいふう……十人足らずで何ができる?」
「ええ。どんなことでもいたします。土嚢を運ぶなり、家屋を修繕したり、なんでも仰せつかります」
「しかしな……」
「お父様、お言葉に甘えてみてもいいのではないでしょうか」
未だ不審げな目を向けていた村長に意見をしたのは、息子のオイゲンだった。成人して数年ほど経っているであろう彼は、騎士団にいても遜色がないほどの体躯と、ミヒャエルほどではないにせよ、村では目を引くほどの美貌を持っている。
「たかが十人足らずで恩を売られて、予算を回してもらえんなんてことになったらどうする?」
「騎士のかたたちは農奴の一人分とはわけが違います。お一方で十人分の働きはしていただけるでしょう。それに、窮状を伝えるための騎士様たちがすでに王都へ向かって出立なされたのですから、返答を待つ間にお力添えいただくことが、損になりますでしょうか?」
いやはや、思わず惚れ惚れとしてしまった。
ユリアーネが、ミヒャエルに向けていたのと似た眼差しをオイゲンに注いでいるのも無理はない。
こんな廃れた村の次期村長に留まらせておくには忍びないほどの男である。こんな男が一人でも魔族にいてくれたら、それこそ百人力だと感心せずにはいられなかった。
かくして二人がかりの説得に折れたシュレマー氏は、騎士団の滞在と作業の許可を出してくれた。
騎士団たちは最も被害の多かった土地から順に村をまわり、浸水した田畑から水を汲み出したり、麦の剪定を手伝ったり、すでに土嚢を運んでいた者たちを手伝ったりと、例え通り十人前の働きを見せた。
俺も彼らを手伝うべく魔法で土嚢の積み上げをしていたのだが、騎士団用に使用許可の下りた空き家のほうを片付けてもらいたいとミヒャエルに言われて、午後から一人で、ユリアーネの家の裏にある空き家へと向かった。
昨夜したことの続きとばかりに、薄汚れた廃材を処理し、水を召喚して家全体を磨きあげる。
悪くない程度に片付いてきたころ、俺のもとへミヒャエルがやってきた。
今朝俺が山で見かけた建物の一部を確認しに行きたいため、同行して欲しいとのことだった。
事が順調に進み過ぎて怖いくらいだが、そんな思惑は露とも出さずに、ミヒャエルとともに山へと向かった。
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