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第11話 連れ出すのは俺じゃないだろ
結局のところ、三日続けてユリアーネに近づくことができなかった。
村へ向かうと、どこで聞きつけたのかすぐにミヒャエルが現れて、捕獲した獲物が逃げ出したとばかりの勢いで連れ戻されてしまう。
どうやっても奴の目を盗めそうにないと諦めた俺は、ストレスをぶつけるかのごとく教会の修繕に励み、立派なほどに教会を仕上げ終えてしまった。
明日にはエルンストがやってくるという今日は、もうやるべきこともなくなり、寝台のうえでまどろんでしまうくらい、暇だった。
毎夜寝不足なので、昼寝できるのはありがたいが、本当は暇なんてしている場合じゃない。明日までにはクエストを完了させなければならないのだから。
いっそ透過術を使って村へ行き、こっそりユリアーネの飲み物に血清を垂らしてみるか?
しかし、血の色と匂いを誤魔化すにはどうする?
考えながら、トマトジュースはどうかと思いつき、ヨハネスに連絡をつけて、思いついたそのままの勢いで決行することにした。
午後一時を過ぎたころなので、食後のお茶代わりにとか、身体にいいからとかなんとでも言いくるめられる。
問題は、特定の相手に効く代物ではないという点だ。なんとか二人きりになるよう誘導し、ミヒャエルにだけ効力を向けるにはどうするかを考えなければならない。
そこで俺は、オイゲンに扮するのはどうかと思いついた。
「ユリアーネ、トイファー様から教会へのご招待を受けたのだが、一緒に行ってみないか?」
「完成されたの?」
「そのようなんだ。明日ユーア教会の神官長様がいらっしゃるという話だから、村長の代理として下見をして欲しいのかもしれない。せっかくならユリアーネと行きたいと思ってね」
「いいわね。どのようなところなのか拝見してみたいわ」
「よし。じゃあ、日が暮れる前にさっそく行ってみよう」
ユリアーネは、オイゲンが俺であることなど疑いもせずに、出かける準備を始めてくれた。
俺は彼女の背に「ラスベンダー様にお伝えしてくる」と声をかけ、先に村長宅を出た。
当の本人 は、今頃村の端にある家畜場へ向かっている。牛の出産のための手伝いを求めて騎士団を探していた小姓を見かけたので、オイゲンに扮した状態で「僕が行きます」と伝え、見送ったあと今度はその小姓に扮して、オイゲンに「騎士団様のお手透きがないようですから」と頼み込んだのである。
「ミスター・シュレマー」
玄関を出たそのすぐ目の前に、ちょうどミヒャエルが立っていた。ナイスタイミングである。
「ラスベンダー様、あなた様にお伝えすることがありましたので、お探しに向かうところでした」
「わたしを、ですか?」
「はい。トイファー様から……」
「ああ、わたしは神官がこちらにいらっしゃるとお聞きして……探していたのですが」
「ええ。そのトイファー様からお招きをいただきましたので、これから向かうところなのです」
「……教会へ、ということでしょうか?」
ミヒャエルの声音が低くなった。俺が村へ来ていることをなぜ知っているのか謎であるうえに、オイゲンが教会へ行くことも同じくらい不快だとばかりの態度も不可解だ。
「ええ。明日、ユーア教会の神官長様がいらっしゃいますので……」
「承知しております。そのために仕上げが必要ということなんですよね。で、あなたお一人で向かうのですか?」
めちゃくちゃ怖い。ガンを飛ばすほどの距離で詰められている。
「いえ、ユリアーネとあなた様と三人で……」
「…………なるほど」
なんだよ、俺にばかり苛立ちを向けているから、オイゲンのことには気づいていないものと思い込んでいたが、ちゃんと目を光らせていたのか。
ユリアーネの名を出した瞬間、斬り殺すとばかりに殺意を向けられて、思わず攻撃態勢をとりそうになった。
そんなに愛しているなら、とっとと告白なり気を引くなりしてくれよ。さすれば、俺がこんな面倒な真似をせずとも済むのに。
「問題がありますでしょうか?」
「ええ、非常に。とにかくトイファー神官と顔を合わせねばなりません。出てきていただけないでしょうか?」
「ええ、ですから教会でお待ちいただいておりますので、ご一緒に」
「いえ。この村にいることはわかっているので、トイファー神官とお話するまでは、誰も山へは向かわせません」
なにそれ。俺に文句をぶつけたいとでも?
惚れた女を奪いたいなら、今すぐ彼女に想いの丈をぶつければいいのに。
どうすべきか逡巡したが、ミヒャエルの殺意は収まらない様子なので、トイファーに戻って事情を説明したほうがいいだろうと即断し、「では探してまいります」と答えて、馬小屋へと向かった。
そこにはトイファーのダルマティカを隠してあったので、着替えて術をかけ直し、透過術でこっそりと出て、講堂にいましたとばかりの方角から、ミヒャエルのほうへ駆け寄った。
「わたしをお探しとのことでしたが、いかがされましたか?」
振り返ったミヒャエルは、心底ほっとした顔をしたのちに、再び鬼の形相のごとく憤怒を表に出し、俺の手を掴んでぐいと引っ張った。
「あの、騎士団長様、お話があるということでしたが」
「ええ。教会でゆっくり伺わせていただきます」
つまり、今引いている手は山に着くまで離さないということか?
話をするならこの場ですればいいのに、ユリアーネたちは置いていくつもりなのか?
速歩きのミヒャエルに手を引かれている俺は、小走りの速度でその後につき、息を切らせながら教会へと戻ってきた。
声をかけても無視を決め込んだままのミヒャエルは、歩みを遅めずに階段をあがり、俺の居室のドアを開けて、中へ入った。
「わたしにではなく、あの女に使おうとなさっていたなんて」
ミヒャエルは怒りに声を震わせ、寝台のまえにまで来たあと、離したその手で俺をドンっと突き飛ばした。
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