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第12話 魔王の血清※
痛くはないが、腹は立つ。
突き飛ばされ、寝台に尻もちをついてしまった俺は、苛立ちを向けるべくミヒャエルを見上げた。
すると、能面のように無の表情で俺を見下ろしている目とかち合い、苛立ちが怖気に変わって、文句の言葉は喉の奥で引っ込んでしまった。
こいつ、清廉で実直な騎士のはずだよな?
背中に冷たいものが伝う。
「無理やりするつもりはありませんでした」
ミヒャエルは言いながら俺に近づき、いきなりダルマティカの中に手を入れてまさぐり始めた。
俺はなぜと考えるより先に、反射的に両手をあげてしまう。前世での俺は小心者で、罪を犯していないのにパトカーを見かけるとそわそわしてしまうような腰抜けだったので、現状の『別人に扮している魔王』というファクターから、潔白を表明すべく意識が働いてしまった。
「……ですが、あなたがあの女……もしくは、村長の息子なんかに使おうとなさっていたのであれば、話は別です」
ミヒャエルは目つき同様冷え冷えとした声で言いながら、手に収まるほどの小瓶を、俺の目の前に突きつけてきた。
俺の血? 赤い液体が入っているうえに、見覚えのある瓶だ。まさかと考えなくても間違いない。
その存在自体も、それが何であるかも知っているかのような物言いに動揺し、ぽかんとしたら、突然その口を塞がれた。半開きだったその口に、遠慮なしに舌が、おそらくそれ以外に考えられない柔らかなものが入ってきた。
俺のファーストキス……
ショックのあまり血の気が失せた瞬間、犬歯にミヒャエルの舌が触れ、俺は身体を強張らせた。
──術が解けている。
教会でキスをしたせいで、神が降りてきたらしい。
なぜされたのかを戸惑う以上に、術が解けたことに焦り、見られたら気づかれてしまうからと、よく考えもせずミヒャエルに抱きついた。
「灯りを消していただけますか?」
なんとかトイファーに近い声音でミヒャエルに訴えた。
すると、耳元でふっと笑い声のような吐息が聞こえて、背中に彼の腕が回ってきた。
「灯りはついていませんよ」
そうかと歯噛みしたくなったその口に、再びキスをされた。
また? なぜ?
もしかして、俺の血を飲んだのか? それで欲情して誰彼構わず襲いかかったのだろうか。
なんにせよ、ミヒャエルは相手している俺を、魔王ではなくトイファーであると思い込んでいる。見られたら気づかれてしまう。
同じ赤い光でも、部屋の中が薄く照らされているのは、室内のランプからではなく窓から漏れ入る夕陽によってだった。太陽は消すことができない。
しかし、もし日が沈むまで誤魔化すことができれば、俺が魔王であることは気づかれない。
執拗に舌を絡められている口元を離して、俺は再びミヒャエルに抱きついた。
「……少しだけ、このままおそばにいさせてください」
見られないようしがみついているか、気づかれる前に殴り飛ばして意識を失わせるかの二択しかないのなら、考えて俺は前者をとった。
神が降りてしまった今、魔族は術を封じられている。腕力一つで国一番の騎士を倒す自信は、正直なところなかった。
「仰せのままに」
ミヒャエルの優しげな声が耳元で聞こえた。ほっとした直後、俺は抱きしめられたまま寝台に寝かせられ、耳元に息が、いや何かについばまれる感触が襲った。
ちょっと待て。その尖った耳に気づかれたら、正体を悟られてしまう。
「そこはやめ……だめです」
ミヒャエルの肩に手を置いて、待ったをかけたところ、耳から首筋のほうへ進路を変えてくれた。
安堵もつかの間、今度は別の意味で肌が粟立ってくる。そんなところをちゅうちゅうされると、身体が誤解をしてしまうじゃないか。
誤解っていうか、こいつはまじで俺を相手に事を進めるつもりなのだろうか。
ダルマティカの裾から手が入ってきているような気がする。気がするのではなく、実際にめくれあがっているし、足の間にあいつの膝が入ってきている。
「んっ」
太ももから鼠径部にかけてするりと撫でられ、思わず声が漏れてしまった。
ミヒャエルは本気らしい。どうしよう。止めるにも、見られたら気づかれる。進めているということは、こいつはトイファーだと思い込んでいるわけだから、このまま好きにさせておいたほうがいいのだろうか。そのほうが、命の危険はない。
貞操の危険はあるかもしれないが、などと考えている途中で、鼠径部どころか、俺の一物を下履きの上から撫で始めた。
「やめっ……んっ」
声を出すと口を塞がれてしまう。犬歯に触れないよう顔をそむけても追ってくる。まじでやばいかもしれない。欲情するなら女にしろよ。ていうか、ユリアーネに向けてくれよ。
「あのっ、はあっ……」
いつの間にか下履きを下ろされ、下着越しになっている。一枚の違いって、意外とでかい。圧力どころか体温も生々しく伝わってくる。
「まさか、あなたのほうから僕を求めてくださるなんて、夢のようです」
「えっ?」
何か言ったらしいが、理解している余裕がない。ファーストキスもまだなら、前世から生粋の童貞である俺には刺激が強すぎる。
「お会いすることができたのですから、まずは時間をかけて愛を育む必要があると考えておりました」
ミヒャエルは硬くしたそれを、今度は絶妙な圧力でさばき始めた。やばい。気持ちいい。直に触って欲しい。いやいや、待て俺。やめろと願うべきところだ。
「それが、やはりわたしに使おうとなされていたのですね。あなたが、あの二人に使うなんてまさかと思いましたが、本当によかった……」
うっとりとため息をついた、そのミヒャエルの息が胸元にかかる。
「んあっ」
いきなり乳首を舐められた。変な声が出て、身体をのけぞらせてしまう。
「やめっ、やめろっ、んっ」
ぺろぺろとなぞる舌が、身体をびくつかせる。
「……あなたは乳首と後ろが特に感じるんですよ」
「えっ、なにっ? ……あっ」
直接触れられたらしい。先走りが出ているそこをいじられ、下着が湿ってしまった不快感が、ぬるぬるとした新たな快感に変わった。
「……僕がそう設定したんです」
「設定? あっ、あっ、やばっ、なにこれっ」
まじで乳首を攻めるのはやめて欲しい。下への刺激のごとく頭がびりびりするし、身体が震えてしまう。
なんでこんなことになってるんだっけ? 俺の血のせい? でも冷静な口調でべらべら喋っていたのは、なぜだ? わからない。わからないままに、俺はいきそうになっている。乳首を吸われ、舐められ、甘く噛まれて声が出る。身体がのけぞり、射精感を煽るように、さばかれる速度があがり、身体が熱くなっていく。
「あっ、も、いく、かも、やめ」
まじでいきそう。いかされる。ミヒャエルに、男によって、しかも仇敵の、攻略対象者で、俺がキャラデータをつくった騎士に……
「あっ、あっ、いくっ」
いく。出る……その寸前で、動きがとまった。
あれ……なんで?
とめてくれて安堵するべきところのはずが、がっかりとするショックで放心してしまった。
ミヒャエルの様子を窺うべく目線を下にずらすと、めくれあがったダルマティカが首元でくしゃくしゃになっていて、何も見えない。
落ち着け俺。童貞には強すぎる刺激で頭が回っていなかったが、冷静になるべきだ。
血清のせいであることと、正体を隠すためだとしても、あらゆる点で間違っているし、すべてにおいてまずいし、どの角度から見ても止めるべきことだ。
やめてくれたこのタイミングで、なんとかミヒャエルと話し合って、なかったことにしてもらおう。
もう日が沈むから、見られる心配もなくなる。
息を喘がせながら、どう切り出すかを考えることにした。
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