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幸せになれ!-6-

 怒涛の十二月二十四日を終え、現在、二十五日の昼。  人生二人目の彼氏。  その彼氏が幸汰という幸せを誰かに話したくて、キューピッドのお礼も含めて福未先輩に電話する事にした。 「もしもし。白神です。福未先輩のおかげで幸汰と無事結ばれる事が出来ました!」  リビングにコーヒーを飲みに行った幸汰が咽返むせかえり、咳き込んでいるのが聞こえる。  気管支にでも入ったのかな? 『白神……』 「はい」 『結ばれたって事は……』 「はい。ヤッちゃいました」  ゴドン!  電話向こうから何か物が落ちた音がした。 「先輩大丈夫ですか?」 『ちょっと手を滑らせただけだ。問題無い』 「そうすか。気を付けて下さいね」 『……ああ』 「いやーそれにしても、先輩が紹介してくれたのが偶然初恋相手の母親の店で、届け物を届けに来て会うなんて奇跡ですよねー」 『ああ、それ、偶然じゃないから』  は? 『お前が幸汰に気があるの知ってて紹介したんだ』 「へ? は? え? 知ってたって……」  俺、今まで先輩に一度だって幸汰の事なんか話していないよ? 『高校の頃。幸汰が見える距離にいると妙に意識していたし挙動不審になるからな、何か因縁でもあるのかと思っていたけど、特に相談される事も無かったから、ただ単に気に食わない野郎なんだなって俺の中で落ち着いたけどな。お前が男が好きだって分かって漸く腑に落ちた訳よ』  第三者が気付くレベルでガン見してた?  そわそわしてた?  恥ずかし過ぎだろ俺! 『俺としては幸汰の顔を見て少しでも元気になれば良いなって感じだったんだが、まさか会ってその日のうちに纏まるなんてな。見た目通り手が早いな幸汰は』 「いや、その、あの……幸汰は悪くなくて、俺が誘ったのがいけないと言うか……」 『誘いに乗った時点で同じ事だろ』  クククッと福未先輩は楽しそうに笑っている。 『それと、幸汰のお袋さんにもお礼言っとけよ。お前と幸汰が会えるように態々用事言いつけて呼び出してくれたんだからな』 「マジっすか。女将さんもグルだったんですか!?」 『グルって言うな。好意で協力して下さったんだぞ』 「あ、すみません」  見えないと分かっていてもつい頭を下げて謝ってしまう。 『あと、これは忠告だが。お前の嘘吐けないところは美点だと俺は思うが、もう少し考えてしゃべろよ。お前は兎も角、幸汰の性癖を勝手にバラしてやるな』 「性癖?」  ドSエロ変態って事? 『お前と付き合っているって事は男がOKって事だろ? そういうのは他人に知られたくないかもしれないだろ。現にお前だって俺に隠していたんだからな』  浮かれはしゃぎ過ぎていて、うっかりすっかりそういう事が吹っ飛んでいた!  振り返り部屋の入り口を見れば、怒りというよりも呆れ顔の幸汰がドア脇の壁に腕を組んだ状態でもたれるようにして立っていた。  慌てて向き直り、ベッド上で正座する。  そして勢いよく頭を下げる。  ごめんなさい! 『話す時は相手を選んでちゃんと幸汰に許可を取ってから話せよ』 「はい! 気ぃつけます!」 『白神』 「はい!」 『良かったな』  温かく優しい声に目頭が熱くなる。 「先輩のおかげです。有難う御座いました!」  見えないと分かってはいても何度も何度も頭を下げで礼をする。 『幸せになれよ』 「頑張ります!」  携帯を切って直ぐに福未先輩に話してしまった事を言葉を持って幸汰に詫びた。  幸汰は福未先輩になら仕方ないと許してくれたが、今後不用意にバラす事があればお仕置きだと言われた。  どんなお仕置きかは聞いたら墓穴を掘る気がするので、あえて触れないでおく。  遅めの昼食を取った後。クリスマスを仕切りなおすと、腰をガクガク股関節をギシギシいわせている俺を置いて幸汰は一人で買い物に出かけた。  すっかり日が陰った頃、両手一杯に荷物を持って帰ってきた幸汰は花やリボン、ミニツリーやその他の小物で部屋をデコレートしていく。  一時間後。質素で味気ない部屋はものの見事にファンシーな空間に生まれ変わっていた。 「何かスゲーな」 「本当はおしゃれなレストランとか連れてった方が良いんだろうけど、今日は何処行っても満席だろうし、何よりお前の身体がヤバイだろうからな」  本当なら昨日はおしゃれなレストランでクリスマスを過ごす予定だったけど……。 「俺はこっちの方が良い。幸汰が飾り付けてくれた部屋で過ごす方が嬉しい」  幸汰はふわっと優しく微笑んだ。  何その顔。反則なんですけど!  無駄に心拍数上がる!  つーか、良い意味で顔面凶器だ!  これでもないくらいに打ち付ける鼓動を抑えながら、幸汰が買ってきた食い物を二人でテーブルに並べ終わる頃には外はすっかり暗くなっていた。蝋燭に火を灯すと絵に描いたようなクリスマス風景の出来上がりだ。  妙なくすぐったさを感じ、もじもじしてしまう。  昨日は恋人だと思っていた奴に振られ落ち込み心を腐らせていたというのに、今は幸汰の隣で心をときめかせているなんて、現金な人間だ。  そう口にすると幸汰は当たり前だと言った。 「勝手に惚れられて一緒にいるうちに湧いた情と自分から好きになって三年間思い続けた情じゃ比重が違って当然だ」  うーん。  確かに、そうかもしれない。 「って言うか、失恋相手を忘れさせる為に頑張ったんだけどな。福未先輩ならまだしも、カスみたいな二股野郎を思い出すなんて頑張りが足りなかったみたいだな」 「あ…いや…その……」  先程の柔らかな笑顔と違い意地の悪い笑顔に、本能的に間合いを取ってしまう。 「俺、腹減ったな…飯食いたいな……」  ぎこちない笑顔で訴えると、幸汰は微笑みを深めた。 「腹が減っては戦は出来ぬっていうしな」 「ああ。ご飯大事だよな。あははっ……」 「食べてからだな」  食べてからって何?  俺、足腰ヤバイんですけど……。  いや、マジで!

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