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裏アカ男子とオタクくん(2)

 僕が滝に放課後残るように告げたのは、ゆうみなちゃん(イコール)滝悠人に確信を持ってから十日後のことだった。  準備に時間がかかってしまったのだ。  カースト上位の滝がひとりになるのにはかなりの時間がかかった。奴の仲間が一緒に帰ろうと声をかけてくるのだ。何なら外で待ってると云い出す奴までいるものだから、僕としては冷や冷やしっ放し。結局、教室に滝と二人きりになれたのは、終礼を終えて45分が経ってからだった。 「で、俺に何の用だよ、オタクくん」  机に脚を乗せて尊大にふんぞり返っている滝が云う。  いつもならここで僕は委縮してしまっているところだけれども、今日の僕は一味違う。怖いものが全くない。それもこれもゆうみなちゃんのお陰だ。彼のアカウントに出会っていなかったら、僕は一生滝に扱き使われるだけの学生生活だったのだから。  有難う、ゆうみなちゃん。有難う、滝。  僕は制服のポケットからスマホを取り出した。操作をしながら滝に尋ねる。 「滝ってSNSやってるの?」 「やってるけど、お前には教えねー」  どうやら滝は僕がSNSで自分と繋がりたいと思っていると受け止めたようだ。やる気のなさそうな表情で、ぶっきらぼうに云い放つ。 「別にそれはいいんだよね」僕はスマホにゆうみなちゃんの例の動画を表示させた。「もしかして、滝って裏アカ持ってない? って聞きたかっただけだから」 「……裏アカ?」 「そう。こういうの」  僕はスマホを滝の目の前に突き付けた。  滝が目を瞠る。  けれども、それも一瞬のこと。何だよ、それ。と、滝が呆れた風に言葉を継ぐ。 「何だその下着。しかもそれ、着てるの男だよな。きめぇ」  どうやらしらばっくれることにしたようだ。素直に真実を吐く気のない滝に、それなら次の手だ。僕は鞄の中からファイルを取り出して滝に手渡した。続けて中を見るように告げる。 「……お前も暇だな……」  中身の想像が付いたのかも知れない。そう口にしながら滝がファイルを捲り始める。けれども、少しもすると様子が変わった。  次第に青くなる滝の顔色に、僕はかつてない悦楽を味わった。  そりゃあそうだ。四月からこっち、延々滝に扱き使われっぱなしだったのだ。一部の優しい滝の仲間は、僕が滝の友人だと思ってくれているみたいだったけれども、本当に友人だと思っているのだったらもう少しリターンをくれていることだろう。だけど滝にはそうした優しさは全くなかった。  滝悠人という男は、僕に対しては非常に利己的な人間なのだ。  僕を使っては使いっ放し。そんなクラスメイトに、どうやれば僕が親しみを感じられるのか。ペットだってそんな飼い主には懐きはしないだろう? いくら僕好みの肉体を持っているからといって、それでこれまでの無礼を帳消ししてやれるほど僕は優しくない。だから僕はにっこり笑って滝を見下ろしてやった。そして余裕たっぷりに云い放ってやった。 「どう? 僕の力作」 「巫山戯ろよ、この……」  ファイルの中には、滝の写真とゆうみなちゃんのSNS画像で作った比較資料がびっしり詰まっている。  これを作るのは本当に大変だった。ゆうみなちゃんの画像は大量にあったし、その中に黒子の画像も結構あった。だが、滝の写真がなかったのだ。当たり前だ。学校行事の写真なんかは、大抵カーストが同じ仲間で固まってしまう。加えて僕は写真嫌いだ。単独で写っている写真にしても購入しないものを、何の理由があって、彼らが集合している写真まで購入したものか。  だからちょっと頑張った。  滝のお仲間たちに、『家で必要になったから、僕が写っている写真をくれないか』と頼んだのだ。小さくてもいいからと云えば、陽気な彼らは疑わずに何枚でも僕が写っている写真をくれた。その中には滝が大きく映り込んでいる写真も複数あった。笑ってしまうことに、体育の着替え中の写真まで彼らは持っていたのだ。滝を好きな女子からしたら垂涎もののセミヌード。この一枚で勝負は決したと云ってもいい。 「だからお前、あいつらに写真をくれって云ってたのか……」 「そゆこと。あ、ちなみにそのファイル、ちゃんとコピーあるからね。SNSも魚拓取ってあるから」 「鬼畜かよ……」  絶望に彩られた滝の顔は最高に綺麗だ。特に悩まし気に歪んだ眉が堪らない。そうでなくとも秀麗な顔が、三割増しで美しく見えるものだから、その先の計画を思い起こした僕は思わず勃起してしまいそうになったものだ。  美男はどんな表情をしても美男だとは良く云うけれど、全くその通りだ。  だからといって、追及の手を緩めるつもりはない。僕は呆然としている滝の手からファイルを取り上げた。そして奴の顔を覗き込んで尋ねた。 「自分の裏アカだって認める? 認めなかったら、このファイル持って職員室行くけど」 「職員室!? そんなの、認めるに決まってるだろ!」 「良かったよ、滝。僕も出来れば先生に告げ口はしたくなかったからね」  滝が国立進学希望なのは知っている。この情報が教師に渡ろうものならその希望も叶わなくなるだろう。それを本人も理解しているようだ。即座に返ってきた言葉に、僕はファイルを大事に鞄に仕舞い込んだ。そして、滝に向き直って本題を口にした。 「で、滝にはお願いがひとつあるんだけど」 「何だよ、お前。俺を脅す気かよ」 「大丈夫だよ、滝。金品を取るとかそういう話じゃないから」僕は笑いながら、鞄の中から手提げの紙袋を取り出した。「実はね、僕、男の娘が好きなんだ。あ、少年って意味じゃなく、娘の方ね」 「お前、結構、どぎつい趣味してんな……」 「セクシーランジェリーを着てる人に云われたくないよぅ」  それでも納得がいかないようだ。滝が「俺はヘテロだぞ」などと、頭を抱えてぶつぶつ云っている。  目糞鼻糞を笑うとはこのことだ。いや、五十歩百歩かな。いずれにせよ、ここまでが僕の計画の第一段階だ。ここからは、更なる計画の遂行を目指す大事な取引の始まりとなる。  僕は滝に手提げ袋を渡した。何だこれ。と、云いながら、滝が紙袋の口を開いて中を覗く。直後、その顔が盛大に顰められた。 「メイド、服、だよな……」 「そう、メイド服。同好会にあったヤツを持ってきた」 「これを俺に着ろって?」  きっと、その程度で済むならと思ったのだろう。微かに安堵した表情をみせた滝に、まさかと僕は首を振った。 「滝の身体、僕の好みなんだよね」僕は滝の肩に手を置いた。  それで自分の身に迫っている危機に気付いたのかも知れない。びくりと滝が身体を震わせる。 「前からの夢、だったんだよね。男の娘とセックスするの。だから、滝の持ってるセクシーランジェリーと僕が持ってきたメイド服を着てもらって、セックス出来ないかなーって」  その瞬間の滝の表情!  僕の気違いじみた申し出に、かなり度肝を抜かれたのだろう。反射的に身を引いた滝が、僕を見て泡を食ったような表情で声を荒らげる。 「ば、馬鹿か、お前! どこにナニ挿入(いれ)れるかわかって云ってるのかよ!」 「わかってるよ」 「はいそうですかって入るもんじゃないだろ!」 「だからぁ」僕は鞄の中から更に紙袋を取り出した。「挿入出来るように頑張ってもらおうかなーって」  こちらの紙袋の中身はアナルバイブと吸盤付きディルド、そしてローションだ。  バイブの方は良く創作SNSなんかのエロ絵で見かける小さな粒が連なっているタイプのもの。初めの内はこっちで慣れてもらおうと思って購入したものだ。吸盤付きディルドの方はアナルバイブに慣れてきたら使ってもらおうと思って購入したもの。日本人の標準サイズという謳い文句だったので、これが挿入出来るようになれば僕のペニスも挿入出来るようになるだろう。 「はい、滝。これ」  僕は中身については何も云わずに滝に紙袋を渡した。嫌な予感しかしなかったのだろう。嫌気が裾まで滲み出ているような表情で、滝が紙袋の中を覗き込む。 「本気で……云ってるんだな、お前……」 「うん。じゃなきゃ君を脅そうなんて思わないでしょ」 「えっぐいなー……」  中に手を伸ばした滝がアナルバイブを取り出す。怖いもの見たさなのだろうか。よせばいいのにスイッチを入れて、バイブを震わせている。そのくせ絶望的な表情をしているのだからおかしな奴だ。 「一か月は待つから、使えるようになったら教えてね」 「一か月しか待たねえのかよ」 「当たり前でしょ。僕、その間禁欲生活するんだから」  僕は滝を抱くと決めた時点でオナ禁を始めていた。最高のセックスを経験する為だったら、何だってやってやる。何せ中学からの夢なのだ。その夢が叶うというのに自慰に耽ってなんていられるか。 「その頑張りを他に向けろよな……」  反抗する気も起きないようだ。呆れ切った様子の滝が呟く。  それでも、ちょっとは興味があるのかも知れない。その後、えぐいえぐいと云いながらも、バイブとディルドの使い方を聞いてきた滝にアナニーの遣り方を教えてやりながら、僕はクラスが一緒になってから初めて滝と一緒に帰途に就いた。

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