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第18話 三年前までは

「もういいよ、ありがとう」  満足した様子の八乙女は言いながら身体の向きを変えた。  手を出そうとしなかったから、断りの言葉を告げるまでもなく諦めてくれたのだろうか。  そんなはずがないのに間抜けにもそう考えていたら、首に腕を回されて身体を引き寄せられた。   「ねえ雅紀」  かわいらしくも妖艶みを帯びた顔で甘い声を出しながら、さらにぐっと寄せ、唇が触れるほどの距離にまで迫る。 「……僕にその気はありません」  八乙女の身体を抑えながら顔を背け、態度でも拒否を示しながら答えた。 「嘘だよ」  その言葉とともに、タオルで隠しているそれに、布越しに何かが触れる。 「ちょっ!」 「ほら、ちょっと大きくなってる」 「やめてください!」  それはたった今触ったからであって、さっきまではおとなしくしていた……はずだ。 「雅紀くんはノンケなのかな?」  耳元で言ったついでとばかりに、今度は耳たぶを舐められる。  くそ。直接的になってきやがった。  しかし身体を引き離そうにも、華奢な身体にどこまでの力をかけていいのかわからず、中途半端な抵抗でしかない。 「女の子はたくさん抱いてるだろ?」 「えっ?」 「見てすぐにわかるよ。どちらにせよ君はタチだからノンケだとしても大丈夫」 「タチ?」  聞くと、八乙女はなんと向かい合わせで膝の上に乗ってきた。そして耳元で囁く。 「鞘ではなく刀を使うほうってこと」  タオルを付けていない彼の凹凸が身体に触れるし、敏感になり始めているそれに彼の圧がかかってさらに起き上がる。  これは生半可な抵抗では無理だ。 「僕にその気はありませんから」  多少の怒気を含ませて言いながら、強引に立ち上がろうとした。  しかし、今度は屹立し始めているそれに新たな刺激が襲う。 「その気にさせてあげる」  なんとタオルの下に手を入れて、直接掴んできたのである。  意表をつかれて身体を強張らせてしまうも、それが膨らむよりも早く頭に血が登った。 「なるわけないだろ!」  なめるなよという怒気をも含ませて立ち上がった。  相手が怪我しようが知るものかという勢いで。  八乙女はばしゃんと音を立てて尻もちをついたものの、逆ギレするどころかこちらを見上げて舌なめずりをした。 「いいね。ますますぼく好みだ」  目は三日月のようににたにたとしていて、可愛らしい顔立ちが悪魔的な妖艶さに染まっている。 「……そっちも申し分ないな」  その目が下のほうへ移動したのを見て、ぞっとした。  タオルがないし、最悪な事態になっている。  生田は急いで風呂場から逃げ出ていった。  なんてことだ。  なぜこんなことになったのか。  それは、慰めてほしいと言われて二人きりになったせいだ。  衣服を着ながら苛々としていた生田は、そこではっと気づく。  久世は西園寺となにをしているのだろう。  もしかして、似たような展開になっているのではないだろうか。  今さら気がついて青ざめたところで、生田は駆け出した。  全速力とも言えるスピードで走り、ノックもせずにドアを開けた。  前室をすかずかと通り過ぎ、勢いよく襖を開けると、目に飛び込んだのは談笑している二人の姿だった。 「おいおい、いきなり入ってくるなよ」  言葉とは裏腹に柔らかな語気で言った西園寺の前には、お茶と菓子、それからタブレットが置いてあり、画面には写真が映っていた。  呆気なくも拍子抜けすると同時に、威勢よく失礼な真似をしたことが恥ずかしくなってくる。 「すみません……」 「やはり王子で間違いないな。姫を救い出しに来たのか」    西園寺がちらと視線をくれたその先には、久世が丸い目をこちらに向けている姿があった。 「車を置いてきたから取りに行こうと思って……空港に」  生田は言い訳をひねり出す。 「それで、姫も連れて行くって言うのか?」 「……透のことでしたら、そのとおりです」 「なぜ連れて行く必要がある? 一人で行けよ」 「え……」 「俺たちと会わなかったら、透は今ごろ空の上だ。追いかけることもできない。用事が済んだから別れるところだったんだろ? 帰るなら一人で帰ればいい」  ぐうの音も出ない。  確かに西園寺の言うとおりである。  生田と久世の仲はたかが|二月《ふたつき》。  彼らはもっと長い付き合いのようであるし、しかも三年ぶりに偶然再会したらしいのだから。  久世はうつむいたり目を彷徨わせたりして、うんともすんとも言わない。 「わかりました。では、失礼します」  つまり、彼も西園寺と同じ考えということだ。  挨拶をしつつ軽く頭を下げて、部屋から出るために身体の向きを変えた。   「志信はどうした?」  すると、西園寺に呼び止められる。 「八乙女さんは……」 「よく出てこれたな」 「いえ、飛び出てきました」  答えると、西園寺は「はっ!」と声を張ったあと笑い出した。 「それはそれは。王子は王の執着を煽るような真似をしたらしいぞ。どうする? 透」 「行く」 「あ?」  久世は立ち上がり、バッグを掴むと生田の立つ襖のところへやってきた。 「透も行くの?」  数秒前とは打って変わって機敏な様子を見せた久世に、生田も目を丸くしてしまう。 「ああ」 「おい、透」  しかし、西園寺は呼び止めながら久世の腕を掴む。 「おまえの王子は俺のはずだろ?」  掴まれた腕を見て、次に西園寺のほうへ視線を滑らせた久世は答える。 「……三年前まではな」  言うと久世は無理やり西園寺の腕を振り払った。  生田も驚いたが、西園寺も同様だったようで、物怖じしないであろう彼の片眉がぴくりと上がった。 「雅紀、行こう」  眉根を寄せた久世に言われて、驚き固まっていた生田も強張りを解き、襖を開けて出ていく彼の後に続いた。

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