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第21話 口実
一週間を過ぎたころ、みどりから荷物が送られてきた。
同棲中に使っていたものをまとめておいたもので、後で送って欲しいと頼んだら、律がやってきたら代わりに送ってもらうからと快諾してくれたものである。
土曜日になり、放置していたそれの整理をするために開けたら、見慣れない包装紙を見つけた。
手に取って眺め回した結果、久世から受け取っていたものかもしれないと思い出す。
青森にまで来た理由を咄嗟に誤魔化すため、返却するという名目で渡されたものだと思う。
こちらを気遣ってくれたがゆえに手元にあるものなのだから、返すべきものだ。
だとして、どうやって返したものか。
あの日以来彼からの連絡はいっさいなく、こちらからもしていない。
つまり、覚悟していたことが現実となり、彼との友情が絶たれている状態なのである。
となると、LINEで住所を聞くなりして送るか、もしくは俊介に渡してもらうかするべきだろう。
そうするべきなのだが、本音としては電話をかけたいし、むしろ東京へ飛んでいきたい。
日々募らせていたその願いが、叶うかのごとくの口実が降って湧いてきたように思えてならない。
距離を置いたのは自分のほうなのに、実際そうなると思った以上の打撃で、かなり打ちのめされていたからだ。
連絡がないまま苦しみもがくくらいなら、いっそこちらから返却を口実に連絡してはどうだろうか。
瞬時に浮かんだそれが頭から離れない。
悶々と悩んだ挙げ句に、既にうずうずとしていた生田は迷うのをやめてスマホを取り出した。
つらいのはどちらにせよ変わらない。それなら、彼の声を聞くつらさを選びたい。
『はい』
3コールほどのちに彼の声が聞こえてきた。
「久しぶり……でもないか。元気?」
『どうした?』
「いや、えっと」
『……どうした?』
挨拶もないばかりか、本題に至る前置きもないらしい。
少し気落ちするも、彼はもともとそういったお愛想をしない性格であることを思い出す。
「あのさ、DVD貸してくれただろ?」
『……ああ』
間を空けて答えたところから察するに、彼も忘れていたのかもしれない。
「あれ、返すのにどうしたらいいかな?」
『持っていてくれても構わない。同じの持っているから、雅紀がプレイヤー買ったら渡そうと思っていたやつだ』
ということは、中身は『戦争と平和』だろうか? 開けてはいないからわからないが、そんな口ぶりである。
持っていてくれて構わないって、どっちともとれる。
厚意がゆえなのか、もしくは会う機会を避けているのか。
「でもプレイヤー買わないから」
どちらにせよ考えてもわからないのだから、自分の願望を優先してしまえと思って、返すほうへ舵を切った。
『……川谷さんの家にあるだろ』
しかし、思わぬところを突かれてしまう。
確かにみどりはテレビだけでなくレコーダーも持っている。推し活に必要だからとのことだが、掃除をしたときに見つけたのだろう。
遠回しながらの願いも虚しく、あしらうような反応をするということは、避けられているのかもしれない。
「そうなんだけど……それは使えない」
『壊れたのか?』
だとしても、今はそこを気にしている場合ではない。
婚約が解消したことを伝える流れになってしまった。
兄や俊介に口止めをしたというのにだ。
嘘をつくことにやましさを感じるタイプではないものの、彼にはなるべく嘘をつきたくない。誠実でありたいという想いが一方的ながらもあるからだ。
まあ、知られたとして何も起きやしないだろう。連絡してこないくらいだから、彼のほうの友情は陰り始めているはずだ。
「いや、みどりが他の人と結婚することになったから」
答えると、スマホの向こうから息を呑む音が聞こえた。
『……それは、なんで?』
「つまり、みどりにはもともと彼氏がいて、その……恥ずかしながら僕は一夜の浮気相手で……」
そう切り出して、簡単に律のことを説明する。
「……だから、その後輩と仲直りすることになって、僕はお役御免になったってわけ」
『そんな……』
「いや、正直なところほっとしてるんだ。最低なことだけど、僕もみどりのこと……結婚するほど愛していたとは言えないから」
『……だったら……』
「なに?」
何か言ったらしいが、声が小さくて聞き取れない。
『……なんでもない。雅紀は明日、仕事か?』
「え? いや、普通の会社だから土日は休みだよ」
なんだろう。
まさか来るとか言わないよな?
『予定ある?』
「え?」
『……予定がないようなら、行ってもいいか?』
うそだろ……
これはちょっと、いやかなり嬉しい。
いやいや、それどころじゃない。飛び上がるほどだ。
「いいけど……大丈夫?」
『青森じゃないんだろ?』
「えっ……ああ。その話し合いのあと二日くらい実家にいたけど、すぐこっちに戻ってきた」
『そうか。じゃあ、行くから』
反応を返す前に通話が切れた。
青森とは違ってここなら新幹線の本数も多く、二時間の距離なのだから、急ぐ必要なんてない。
もしかしたら彼も会いたいと思ってくれていたのだろうか。
まさか。それはさすがに期待のし過ぎというものだ。
しかし、冷静になろうとしつつも、笑みを抑えられなかった。
以前のような彼の行動力に驚きながらも、鬱々としていた気分が一気に晴れ、嬉しさのあまりにやけてしまう。
どうしよう。
そわそわとして落ち着かない。
そうだ。彼が来ても掃除する気が起きないほど磨き上げてやろう。
部屋を見渡しながら思いついた生田は、彼に倣うべくジャージに着替えて袖まくりをし、掃除道具を手に取った。
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