5 / 20

第5話

鹿野さんを見送ろうとしたときに「あいつに見送りは不要だ」と希良利に止められたため、依然として僕は彼の膝の上に乗っている。 っていうか、絶対重いよね? 下りようと思ってもぞもぞすると、彼の腕に力が入り、動きを封じられた。 「じっとして」 「え?あ、で、でも、僕重くないですか?」 「別に。 久々のオフなんだからこれくらい許してよ」 許す? 誰が何を…? ポカンとしていると、希良利の手が僕の頭を撫で始めた。 え、えっと…、これは何…? 嫌ではない…、というかむしろ嬉しいんだけれど、どういう状況なんだ。 されるがままになっていると、ふと鹿野さんのことを思い出した。 あの人、確か希良利が出てたドラマの主演をしてた人だ。 やっと思い出せた。 「鹿野さんって、鹿野勇栄さん!? 黒桜(ドラマ名)の…」 僕がガバリと顔を上げると、希良利は不機嫌そうに顔を歪める。 「そうだけど。 なに?他の男の話?」 やっぱり不機嫌そう。 嫌な話題だったのかな… 「ごめんなさい」 「普段ドラマとか映画とか全然見ないくせに… ああいうのが好きなの?」 僕は首を傾げた。 ああいうのって鹿野さんのこと? あ、まさか僕が希良利を通じて仲良くしようと目論んでいると思われた? 「ち、違う!違います。 鹿野さんを知ってたのは、そのドラマに長濱さんが出てたからで…、長濱さんが出てる作品しか見ないから、たまたま知ってただけっていうか…」 弁明しようとしてだんだん言葉がぐちゃぐちゃになってきてしまった。 とにかく、鹿野さんに興味がないことだけははっきりさせたい。 「だから、全然、鹿野さんには興味はなくて、その…」 「俺が出てる作品しか観ないの?」 そう訊かれて僕は頷く。 俳優のハウスキーパー?お世話係?としてどうなのと思われてしまうかもしれないけれど…、僕は創作物にそれほど興味がない。 「ごめんなさい。 もっと色々観た方がいいとは思ってるんですけど」 「いい」 「え?」 「睦月は俺が出てるやつの俺が出てるところだけ観とけ」 「え、はい。 あ、でも、そこだけトリミングはちょっと…」 希良利のところだけ観るのは流石に難しいし、どうせ作品を見るならちゃんとストーリーも追いたい。 「冗談」 希良利が笑っている。 こんな風な笑顔を見られたのはいつぶりだろう。 最近はずっとしかめっ面だった。 僕のせいなんだろうけれど。 ふと尿意を覚えて、もう一度膝から降りようと試みる。 が、すぐに腕で制される。 「なに」 またしかめっ面だ。 僕は小さくなりながら「お手洗いに行きたいので…、その、降りさせてください」と言った。 希良利は少し考えた後「連れてく」と言った。 「へ?」と僕が言うや否や、ぐんと視界が高くなり、僕は希良利に持ち上げられていた。 「じ、自分で行けます!」 「暴れるな。落とすぞ」 そう言われても…、同い年の男しかも俳優の長濱希良利にトイレまで運んでもらうってどういう状況!? トイレに着いたら降ろしてもらえるだろうと思っていた。 が、今僕は後ろから抱えられた状態で便器と対面している。 「え、えっと、あの…、長濱さん?」 「このままいいよ。 飛び散ったら俺が拭くし」 「は?」 無理だろ。 絶対に無理。 なんで幼児みたいに抱えられたまま放尿しなきゃいけないわけ? 絶対に嫌。 「無理です。本当に嫌です」 必死にそう訴えても降ろしてもらえる気配はない。 そうこうしているうちに僕の膀胱が限界を迎えそうになる。 「あ、うっ…、本当に出ちゃうので…、降ろして長濱さん…」 腰をもじもじさせながら彼を見上げると、瞳孔が開いた彼の目と目が合う。 目が怖い。 「あ…、出ちゃうから、もうっ…、 せめてズボンとパンツ下ろさせてください」 そう言うと渋々床に降ろされた。 慌てて下に履いている物を脱ぐ。 するとすぐに抱え上げられた。 その圧で少し漏れそうになる。 ほ、本当にこのままするの…? それでも生理現象には抗えず、耳を塞ぎたくなるような、水が便器を叩く音がする。 上手いこと便器にヒットしているようで、陶器に水が当たる音がしている。 僕は目を開けることが出来なかった。 音が止み、膀胱がすっきりすると、床に降ろされた。 僕は顔を真っ赤にしながらパンツとズボンを履く。 なんで希良利はこんなことしたんだろう。 まさか見たかったわけではないだろう。 これが、僕が鹿野さんに見つかってしまった罰なのだとしたら、かなり効果はてきめんだ。 二度とこんな思いしたくない。 水を流して、希良利の前から逃げようとしたけれど再度抱き上げられて、今度は寝室に連れてこられる。 そろそろお昼ご飯を用意しようかと思ってたんだけど…

ともだちにシェアしよう!