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第12話 過去編5
そこからの記憶は曖昧だ。
希良利はずっと不機嫌そうで、止めてと言っても嫌だと言っても全部無視された。
今まで僕が名前を呼んで無視されたことなんて無かった。
それに、僕の意志を無視して好き勝手することなんか絶対に無かった。
これは本当にあの”希良利くん”なんだろうか?
なんだか別人の様で、僕はまた彼を”長濱さん”と呼ぶようになり、敬語で話すようになった。
一週間の記憶は曖昧だけれど、ずっと希良利の部屋に閉じ込められ、服どころか下着をつけることすら許されず、排泄はオムツ、食事は希良利が帰宅するまでは絶食、彼の気が向けば体を開かなくてはならなかった。
希良利のことは好きだった。
けれど、そんな一週間を過ごし、希良利に対する気持ちは純粋な好意だけではなくなった。
複雑な気持ちが入り混じって、顔を合わせて気軽に話せるような仲ではなくなってしまったと思う。
それからというもの、僕に与えられる服はスウェットのような部屋着のみ、散髪はミカワさんを自宅に呼ぶ以外は禁止(申し訳ないので1度も呼んでいない)、没収された後に帰ってきたスマホは連絡先が希良利と彼のマネージャーだけになっていた。
それでも、捨てられなかったことに安堵する自分がいた。
希良利が決めたルールをキチンと守っていれば怒られないはずなのに、バカな僕は頻繁にやらかして彼を怒らせてしまう。
折檻は苦しいし、嫌だけれど、まだ彼が僕を手放さない証拠だから、そのたびにどこかホッとしてる自分がいて、つくづく歪さを思い知る。
でももう、きっと笑い合ってたあの頃には戻れないんだ。
僕が愚かだから。
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「ごめんなさい、もうしないから!!
そこは触らないで。お願い、希良利くんっ」
泣きながら懇願する睦月を可哀想だけれど可愛いと思う。
けれど、そんな感情は俺の表情も言動も変えることはなかった。
彼の声を無視して、あり合わせの潤滑油を纏わせた指を彼の後孔に捻じ込む。
「うっ…、やだぁ」と彼は体を震わせている。
今となっては考えられないくらい、彼の肛門は異物の侵入を拒み、固く閉じられている。
それでも何度も指を挿出し、潤滑油を継ぎ足していれば、そのうちに馴染むようになった。
だが、異物感は消えないようで、彼はずっと苦しそうに呻いている。
なんでこうなったのか、自分でも分からない。
俺の家にいて、俺が与えたものだけを受け取って、俺にだけ笑いかけてくれた存在が、外部と繋がったことが許せなかったのかもしれない。
分からない。
睦月に向けている気持ちが、恋慕なのか執着なのか、それとも憎悪なのか。
他人にこんな酷いことをしたことがない。
睦月の体を無理矢理暴いた日の翌日はオフだったので1日中、彼の中にいた。
その翌日からは流石に仕事は休めなかったので、日中は彼に構うことが出来ない。
それでも、裸でベッドに繋がれている彼の世話をマネージャーにすら任せたくはなかった。
出来る限り早く帰って世話をしたけれど、彼はどんどん衰弱していった。
散々彼をいたぶり、中に擦りつけるように精を放つ。
睦月がピクリとも動かなくなったので、それ以上は諦めて彼の中から出る。
タオルを取ってこようと体を離すと、睦月が「やだ」と小さく呟いた。
黙って彼を見下ろしていると、「行かないで。1人、やだ」と泣いていた。
よく分からない激情が噴出して、俺は睦月のぐったりした体を掻き抱いた。
「希良利くん、捨てないで。嫌いにならないで」と譫言 の様に繰り返す睦月を、元の姿に戻さなきゃと思った。
それからは、俺が出す最低限の条件の中で、睦月を自由に生活させることにした。
マネージャーからは「どこが自由なんだ?」と突っ込まれてしまったけれど。
睦月を解放し、最低限の条件の話をしたとき、睦月は光のない目で「分かりました」と言った。
それから俺の事は”長濱さん”と呼ぶ。
自分で蒔いた種だ。
分かっている。
睦月から寄せられていた好意のようなものはすっぱりと消え失せた。
代わりに俺に対して、恐れや怯えのような感情を抱いているように見える。
当たり前なのに、それがムカつくし悲しかった。
自分が悪いのに。
だから、睦月が言いつけを守らなかったり、他者との繋がりを求めようとしたときは、過度に彼を責め立て、辱めるようになった。
初めて彼の首を行為中に絞めてしまった時、自分でも自分に愕然としてしまった。
ショックを受けたのは睦月も同じだったようで「僕に死んでほしいですか?」と後から訊かれた。
死なれたくなんかない。
そうなったら俺だってどうなるか分からない。
でも、俺の手から離れて生きていてほしくない。
そんなこと を言えるわけがなくて、俺は中が締まるとかなんとかテキトーなことを言った気がする。
睦月がそれで納得したからそのままになっている。
嘘ではないのかもしれない。
事実として、首を絞めると呼応するように睦月の中は俺を締め付ける。
けれど、俺が睦月の首に手を掛けるのは、そんな肉欲的な話ではなくて、もっと内情的なものだと思う。
睦月の命を俺の手が握っているという事実を確認して、安心しているだけなのだと。
こんな歪な関係、いつ壊れてもおかしくない。
けれど、睦月への劣情は、理性でどうにかできる範囲は既に超えてしまっていた。
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