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第14話

それからの僕は何をするにも無気力で、寝て起きてぼーっとしてを繰り返していた。 ただ、希良利の家にいるうちは給料を支払うとマネージャーに言われたので最低限の掃除は行った。 マネージャーは1日に2度、いろんなお店の弁当を持ってきてくれた。 申し訳ないので手を付けてはみるけれど、2~3口食べるのが限界だった。 「勿体ないので買ってこなくていいですよ。 いざとなったら自分で宅配でも取ります」とマネージャーに言ってはみたものの、彼はじーっと僕の顔を見た後に溜息を吐いた。 「そう言って、どうせ食べないでしょう。 長濱も言ってました。 影山さんの言葉は信用しないように、って」 酷い話だなと思いつつ、久々に聞いた希良利の話に、幾分気持ちが楽になった。 「長濱さんは元気ですか?」 僕がそう訊くと、彼は首を振る。 「いいえ。貴方の様に毎日やっと寝てやっと食べてます。 仕事で動き回ってる分、貴方より具合が悪そうに見えますよ。 全く、貴方たちは手がかかる…」 希良利が体調が悪いのならそれは一大事だ。 夕方、再度夕食を届けにやってきたマネージャーにスープジャーを渡した。 「これは?」 首を傾げる彼に「野菜スープです」と答える。 「長濱さん、どれだけ体調崩してても、それだけは食べられるみたいなので…」 マネージャーはスープジャーをしばし眺めた後「なるほど」と頷いた。 「確かにこれは効くかもしれませんね」と。 マネージャーの表情にも疲れが見て取れたので「マネージャーさんもいりますか?」と一応確認しておく。 料理上手でもないから断られるだろうと思ったけれど、意外にも彼は「いただいておきます」と答えた。 僕はもう一つのジャーによそってマネージャーに渡した。 彼は受け取りながら「私からの食レポはないかもしれませんが」と言うので、僕は「口に合わなかったら気にせず捨ててください」と答える。 一瞬、マネージャーは変な顔をしたけれど「貴方もたいがい察しが悪いですね」と笑って帰っていった。 -------- (マネージャー視点) 私が担当している長濱希良利の同居人から受け取ったスープジャーを持って、私は車に乗り込んだ。 長濱の家と、長濱が滞在しているホテル、そして職場の行ったり来たりで少々疲れていた。 何より今までは、影山がいさえすれば長濱のメンタルは保たれていた。 しかし、今は影山と隔離されているので長濱がずっと不機嫌で困る。 あの女(熱愛をリークした女優)、なにしてくれやがる…、と呪詛を心の中で唱える日々。 長濱があの女優に気があるわけがない。 影山への囲いっぷりを見れば誰だってわかる。 が、長濱が絶対に影山の存在を表に出さないので、世間に「それは嘘だ」と言える証拠がない。 売名だろうな。 長い長い彼女の芸能活動に少し陰りが見えてきたから、うちの長濱を使って名を知らしめようという魂胆だろう。 長濱は事務所に「今すぐにでも否定する文章を公式で出してほしい」と掛け合ったが、両事務所はいい機会だからと少し放置したい様子だった。 いくら名を知らしめるためだからとはいえ、あんなに機嫌の悪い長濱を面倒を見るのは骨が折れる。 まあでも、このスープで多少機嫌が戻ればいい。 もう少しの辛抱だと激励でもしてこようか… 私はアクセルを強く踏み、道を急いだ。 -------- 帰るたびにプロの手によって綺麗に整えられたベッドに腰かける。 部屋に睦月の香りがないことが落ち着かない。 もう何日会えてないんだ…? 入り口のチャイムが鳴り、警戒して開けるとマネージャーが立っていた。 今日の夕食は1時間近く前に受け取ったはずだが…、睦月に何かあったのだろうか? 「睦月は?元気?変わりなかった?」 マネージャーを部屋に入れるなり、矢継ぎ早に訊く。 「うーん、まああまり元気とは言えないけれど…、彼も君を心配してるようです。 はい、これ」 そう言って渡されたのは見覚えのあるスープジャーだった。 「長濱さんもあまり食べれてないと伝えたら、今日のうちに作ってくれたみたいです」 睦月が、俺に? 自分でも口角が上がっていくのが分かる。 蓋を開けて中を確認してから確信する。 俺の体調が優れないときにいつも作ってくれるやつだ。 特段これが美味しいというよりも、睦月の優しさそのものの象徴だから、俺はこれが好きだだった。 子供の頃に母が作ってくれた何でもないお粥やプリンが1番好き、みたいなあれ。 あとでゆっくり食べようと蓋を締めて机にジャーを置くと、マネージャーがさらにもう1個出してきた。 「実は私にも、と彼がくれたんですよ」 睦月の手料理を俺以外が食べて良い訳がないのでジャーを奪い取る。 マネージャーは苦笑していた。 「どうしたら睦月に会える?」 マネージャーは眉を下げた後「こちらにお呼びする方がまだ安全かとは思います」と言った。 睦月をあの城から出すということだ。 正直嫌だ。 睦月の存在がバレたら、きっとマスコミが彼を徹底的に調べ上げるだろう。 そうなれば、臆病な彼は俺の元から去るだろう。 そんなの耐えられる気がしない。 でも、今のままでは俺の精神が持たない。 すぐにでも睦月に会って、この手で睦月がまだ自分の手中にあると確かめないと気が済まない。 「明日…、連れてきてほしい」 俺がポツリとそう言うと「仰せのままに」とマネージャーが恭しく頭を下げた。 明日、睦月に会える。 そう思ったら今日はちゃんと眠れる気がしたし、スープは涙が出るほどおいしかった。

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