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第15話

お昼に来たマネージャーが「夕方は長濱のいるホテルにお連れしますのでご準備ください」と言っていた。 希良利に会うってだけで僕は混乱しているのに、準備っていったい何をすれば…? 色々と考えた後で、マネージャーに「僕が準備するものってありますか?」とメッセージを送った。 数分して『影山さんは身一つで大丈夫です』と返ってきた。 身一つ…、身…、つまり体があればってことか。 そう合点した僕は、後ろの洗浄をしておいた。 久々にするそれは苦しかった。 あんなに毎日やっていたのに、ちょっと放置しただけで人の体って元の形に戻るんだなとぼんやりと思った。 夕方、マネージャーが来て僕は車に乗り込んだ。 窓にスモークガラスが張られていて、外の景色は見えない。 車で出かけるのなんていつぶりだろうか… 髪を切りに行った時に乗ったタクシーが最後かも。 希良利は、なんで僕を呼び出したのだろう。 解雇の連絡か、彼女の話か…、とりあえずいい内容でないことは確かだ。 重い気持ちのまま、マネージャーに連れられてホテルの一室の前に立つ。 「ここが長濱の部屋になります。 私は外すように言われていますので、ここで失礼します」 そう言ってマネージャーは来た道を戻っていった。 正直、相当広いホテルなので帰りも案内してほしかったけれど、ここでマネージャーを待たせるのも申し訳ない。 僕は深呼吸をしてドアをノックした。 少ししてドアが開き、目の前に何日かぶりに見る希良利が現れた。 やはり、どこか疲れているように見える。 「入って」という静かな声に頷き、僕は希良利の後ろをついていく。 僕が泊まったことがあるビジネスホテルと違い、そこは明るくて広かった。 ソファとテーブルがあるところに案内され、座るように言われた。 僕がソファの端っこに座ると、そのすぐ横に希良利が座った。 ち、近い。 「毎日弁当は飽きると思って、ルームサービス頼んだから好きに食べて。 足りなかったら別で注文してもいい」 「あ、ありがとう…、ございます」 正直あまりお腹は空いていなかった。 が、せっかくなのでピザに手を伸ばす。 とても美味しいんだけれど、やはり食が進まず、もそもそ齧っていると肩に軽い衝撃を受けた。 驚いて横を見ると、希良利が僕の肩に頭を預けている。 「え、えっと…」 僕があたふたすると「肩貸して。俺の事は気にしないで食ってていいから」と言われる。 希良利はそのまま瞼を閉じた。 眠いのかな…? 「ベッド行きますか?」 「まだいい」 「は、はい」 この状況に困惑しつつもどうしていいか分からないのでそのままピザを噛む。 やっと一切れ食べ終えたけれど、希良利はきっと何も食べていないだろう。 「長濱さんも何か食べたほうがいいんじゃないですか?」 恐る恐るそう訊くと彼の目がゆっくりと開いた。 「じゃあ食べさせて」 「えっ…」 僕は少し迷った後にスープのようなものをとり、スプーンで掬って彼の口元に持っていくと、すんなりと口に入れてくれた。 「睦月のやつの方がいい」 「ぜ、絶対そんなわけないと思いますけど…」 思わずそう言うと、彼はムッとした表情になった。 「早く帰りたい…」 彼がポツリと言う。 居心地のいいホテルではあるけど、家に帰りたいに決まっているよな…、と希良利に同情する。 「まだ帰れそうにないんですか?」 「ああ。事務所がまだ文書出さねぇからな。 事務所辞めようかな」 希良利が僕の手を取り、指を絡ませてくる。 まだスプーンを持っているのでやめてほしい。 僕がすっと手を外すと彼が舌打ちをする。 スプーンを机に置いて、手を彼に差し出すとまた指を絡めてきた。 手の甲や手首をくすぐる彼の指に、僕の皮膚は泡立つ。 もっとちゃんと触ってほしい… 「長濱さん…」 「ん?」 ゆったりとした希良利の声。 こんなに優しい声を聞くのは久々だった。 「ベッド、行きたいです。 あ、その前にシャワ…」 シャワー浴びてきていいですか?と聞こうと思ったらソファの上に押し倒された。 僕を見下す彼の目はギラギラと光っていた。 「それ、意味わかってんの?」 そう訊かれて僕は唾液を飲み込む。 「後ろの準備はしてあります」 彼がニヒルに笑う。 「なあ、俺が何日禁欲してるか知ってる?」 禁欲? 最後に僕とシたのは2週間近く前だ。 でも、希良利には本命の女の子がいる。 僕が答えられずにいると、彼は唇を舐める。 「飢えたライオンに肉見せたらダメでしょ」 彼の言葉を理解する前に噛みつかれるように唇を奪われた。 驚いて手で彼の胸を押すと後頭部を押さえられ、より口付けが深くなる。 苦しいのに気持ちよくて、だんだん体から力が抜けてくる。 ふと、こんなキスをあの女優にもしているのかと思った。 反射的に嫌悪感を覚えて、僕は本気で彼の体を押した。 不意打ちに驚いたのか彼の体が離れた。 「や、やだ…」 僕をあの女の子の代わりにしないで。 そんな気持ちが湧いてくる。 すっと彼の顔から表情が消え、僕を睨み下ろす。 すごく怒ってる。 たぶん、この上なく。 でも…、体が彼を受け付けない。 「長濱さんとこういうことはもうしたくないです…」 僕も彼を睨みあげる。 こんなこと、彼女が知ったら悲しむし、憧れの長濱希良利が相手を裏切っているところを見たくなかった。

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