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第16話
「お前、自分の立場分かってないの?」
希良利にそう言われ、僕も珍しく言い返した。
「長濱さんだって、ご自分の立場を分かってないじゃないですか!
彼女がいるのに、僕みたいなのに手を出しているなんて世間に知られたら、とんでもないことになります」
負けじと彼を睨み上げると、彼は盛大に溜息を吐いた。
「お前、あの記事信じてんの?
俺があんな女を好きなわけがないだろ。
あの女は俺のことをただの売名の道具だとしか思ってない。
ほんと、いい迷惑」
「え…?」
売名?道具?
理解が追いつかない。
僕の常識からだいぶ逸脱した話に、僕は頭が混乱した。
「そもそも恋人がいるのにお前に手ぇ出すわけないだろ。
俺のことなんだと思ってんの?ん?」
ギリギリと頬を抓られる。
「いひゃいでしゅ…」
「俺の方が傷ついてんだけど?
てか、何なの?
ケツの準備はしてきたとか言いつつ、いざとなったら拒みやがって、腹が立つ」
「ご、ごめんなひゃい…。
何でもするから抓らないでくだひゃい…」
思いっきり手を離されて、僕は自分の頬が千切れていないか心配になった。
「あの女の事思い出したら普通に萎えてきた。寝る」
希良利が立ち上がり、ベッドに移動する。
ソファに転がされていた僕は、どうしていいか分からず、彼の方を見る。
お迎えを呼ぶなりして帰った方がいいのだろうか。
「風呂は?」と遠くから訊かれ「入ってきました…、けど」と答える。
するとタオル生地のローブのようなものを投げつけられた。
「その服じゃ寝づらいだろうし、着れば」
そう言われて、よく分からないけれどのそのそと服を脱ぎ、ローブを着た。
こういうところのバスローブなんて着たことが無いから、これで合っているのか分からない。
そのまま立ち尽くしていると、希良利がベッドを叩く。
僕はおずおずとベッドに寄る。
1人部屋で予約しているからか、この部屋には大きいベッドが1つしかない。
「あの、僕はソファでいいですし、なんなら今から帰っても…、うわっ!?」
ベッドから伸びてきた希良利の腕に捕まり、僕は彼に向かってダイブしてしまった。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ちょっと苦しい。
しかも、お互い緩いバスローブを着ているので部分的に素肌が触れて恥ずかしい。
「睦月」
「は、はい」
「睦月」
「な、なんですか?」
名前を呼ばれるので返事をしたが、彼が何か話す様子はない。
不思議に思いつつも抱きしめられていると、彼の匂いがする。
久々に嗅ぐその匂いに僕は体の芯が熱くなってくるのを感じた。
もじもじと太ももを擦り合わせるが、希良利は本当に今日は何もするつもりがないらしい。
希良利に抱きしめられたまま数分が経過した。
身体が疼きすぎて眠れそうにもない。
希良利は目を閉じて微動だにしない。
眠ってしまったのだろうか?
ダメもとで「長濱さん」と呼んでみる。
「…、ん?」
希良利の目が開き、見つめ合う。
顔の造形も、瞳の色も、美しくて引き込まれそうだ。
言葉を失っていると「なに?」と問われる。
「あ、え…、えっと、その…、シ、シたいです」
彼の目が笑うように細められる。
「じゃあ、俺をその気にさせてみなよ」
希良利とこうなる前の僕は、男性どころか女性とも、付き合ったことも性交渉に及んだこともない。
それなのに、希良利をその気にさせるなんて…、絶対できるわけがない。
「あ、の…、どうしたら?」
一応訊いてみたが「さあ?自分で考えれば」と彼は楽しそうに目を細めている。
どうしよう、全然分からない。
彼をジッと見つめる。
希良利も僕から目を逸らさない。
こんなに近い距離にいるのに交われないなんて生殺しだ。
「希良利くん…」
久々に呼んだ彼の下の名前は思ったよりも耳に馴染んだ。
バスローブを脱がせてみる?
でもそれって気持ち悪くない?
色々考えて、彼のバスローブの胸元を掴むだけになってしまった。
「希良利くん、助けて…」
僕の熱をどうにかできるのは彼しかいないのに、どうしていいか分からない。
半泣きで彼を見上げる。
目が合うなり唇に噛みつかれた。
口内を貪りながらも、彼の手は僕の髪や耳、鎖骨を擽る。
その擽ったさがさらに僕の熱を高めた。
暫くして息が絶え絶えになるころ漸く唇が離れた。
彼に「お前、絶対俺の気持ち知っててやってんだろ、悪魔が」と悪態を吐かれた。
僕からしたら、希良利のほうがよっぽど悪魔に見える。
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