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第11話 あなたを覚えておくために
もうどれほどキスをしているだろうか。
唇が軽く触れるだけだったキスは、いつのまにか深く、熱を帯びたものに変わっていた。
イグナスの口を割って入ってきたアルフレッドの舌は、イグナスのそれを絡めとり、吸いつき、蕩けさせる。
同時にイグナスの昂った下腹部に触れられて思わず声が漏れ出る。
「んあっ……」
自分のじゃないようなひどく粘度のある甘い声に恥かしさが募るも、そんな暇も与えられないくらい次から次にキスの雨が降って来る。
敏感になった身体は、そっと腰に添えられた手にも過敏に反応してしまい、足にうまく力がはいらない。
扉を背にずるずると体がずり落ちていくイグナスを、アルフレッドは腕で支えながらもなお、貪るように吸いつくす。
「待って、アルフ、ちょっともう足に力が……」
キスの隙間でそういうと、アルフレッドはイグナスの手を自身の首に回し、ベッドまで連んだ。
そして、イグナスをベッドに下ろすや否や、荒々しく覆い被さり、再び唇へキスをする。
そのキスが、唇から頬へ、頬から首筋に徐々に降りてきて、イグナスはまた新しい刺激に身体をびくつかせた。
器用にもキスの間にぬがされた服は、ベッドの外にかなぐり捨てられ、いつの間にかイグナスは全裸になっていた。
その慣れた手つきに少し悲しくなったが、いまこうして肌を合わせることができているだけで幸せじゃないかと、自分の欲深さを戒める。
「イグナス」
胸元から声が聞こえて視線を下げると、アルフレッドがイグナスの胸の尖りを、いままさに舐めようとしているところだった。
「何考えてる? ずいぶん余裕だな。でも今はここだけに……俺だけに集中しろ」
ほとんど命令に近い口調でそう告げると、アルフレッドは片方を口に咥え、もう片方を指で摘まんだ。
熱い粘膜でなぶられる快感と、アルフレッドの指で爪弾かれる快感が同時にきて、腰がビクんと飛び跳ねる。
「あっ、んっ……いやあっん……」
初めての快感に、これ以上は怖くなって、身体をよじって逃げようとするも、絡まったアルフレッドの足がイグナスを離してくれない。
「アルフ、待って、あっいやあ……!」
そんな声を出すのが自分だということが信じられない。
それでも、声を我慢することもできず、触れられるたびに漏れてしまう。
アルフレッドはイグナスの先端から口を放すと、自身の服を手際よく脱いだ。
露になった上裸に、イグナスの昂りがドクンと疼く。
ガタイの良い身体には、程よく筋肉がついていて、思わず見惚れてしまう。
それと同時に、赤黒く、ぱんぱんに腫れ上がったアルフレッドの怒張にも。
――アルフレッドは、本当に自分なんかに欲情できるんだろうか?
今は雰囲気に呑まれ、明らかに昂ってはいるが、この後実際に肌を合わせれは萎えてしまうなんてことがあるかもしれない。
なんせ自分は男だ。
かなりの頻度で娼婦を呼び、女を抱いているアルフレッドを満足させる自信も経験もない。
その時、イグナスはあることを思い出した。
アルフレッドのタイプは、長い銀髪の華奢な女だ。
娼婦もいつも銀髪で、確か婚約者だってそうだった。
そういえば、さっき抱きしめられたときも、後ろ姿だった。
――そうか、アルフはこの後ろ姿に欲情したのか。
後ろからだったら、イグナスだって女に見えないこともない。
どうしてもアルフレッドに抱いてもらいたい。その一心で、イグナスはくるりと背を向け、四つん這いになった。
こうすれば、イグナスの昂りも目に入らず、アルフレッドも萎えずに済むだろう。
けれど、いくら待っても、アルフレッドが触れてこない。もしかするともう萎えてしまったのか、と体勢はそのままで顔だけで振り向くと、アルフレッドは眉間を手で押さえていた。こめかみに青筋の血管が浮かんでいる。
もしかして、呆れられただろうか。
よく考えるとかなり滑稽な格好だ。
「あ、えっと、この格好の方が、アルフも萎えないで済むかなって……」
恥かしさに押しつぶされそうになりながら、絞り出すようにそう言った瞬間、アルフレッドの喉がゴクリと上下に動いた。
ふー、ふーと息を整えるように吐かれる息は、どこか苦しそうで――それが何を意味するのか、イグナスにはわからなかった。
「……たい」
「え?」
「勃ちすぎて、痛い」
「は? って、うわっ」
アルフレッドはイグナスの身体をくるりと返すと、真正面から抱きしめた。
「もうずっと見てられるくらいエロかったけど、そろそろ限界」
耳元で囁かれた声が脳に直接響く。自分で欲情してくれていることが素直に嬉しい。
「後ろからもいいけど、やっぱり最初は顔見ながら抱きたい」
アルフレッドはそう言うとイグナスの唇に再びキスをした。
顔を見ながらだなんて、『誰かの代わりではなく、イグナスを抱きたい』と、そう言われたような気分だ。
それが錯覚でも、今だけの嘘でも構わない。
アルフレッドは、イグナスの足を左右に開くとその中心に自分の顔を近づけた。
初めてとるポーズに羞恥が駆け巡る。イグナスはあまりの恥かしさに手で中心を隠し、足を閉じようとした――が、すぐにアルフレッドに制される。
「全部見たいんだ、イグナスのこと。全部、見せて」
あまりに切ない顔で甘えるように懇願され、イグナスの羞恥は一瞬で吹っ飛んだ。
――アルフレッドを悦ばせたい。
その思いが、イグナスをいつもより大胆にさせる。
アルフレッドの言葉に応えるように、イグナスは足を大きく広げた。
見てほしい。自分だけを、見てほしい。もっと、もっと。
露になったイグナスの全てを前に、アルフレッドの喉がぐっと鳴り、荒い息が漏れる。
その瞳は獲物を見つけた獣のように、イグナスに注がれている。
アルフレッドはまるで理性を必死に繋ぎ止めるように、奥歯を噛み締めると、泣くような声で漏らした。
「綺麗だ、この世の誰よりも。お前が愛しい」
その言葉と同時に、イグナスの屹立の割れ目からぷくりと蜜が出た。
まるで早く触れられたいとでもいうように、ふるふると揺れるその昂りに、アルフレッドがキスをした。キスを皮切りに昂りごと口に入れられて、舌で舐め尽くされる。
「あっん、んっ……んっ、ああ」
上下に動くアルフレッドの口淫にイグナスは声を漏らさずにはいられない。
アルフレッドが自分のそれを咥えているだけでも、興奮が止まないのに、わざと音が出るように舐め、強く吸われると、耳の奥まで熱で痺れていく。
「あっ、ああ、いくっ、いっちゃう、んっ……んぁ、い、いっちゃ……う」
堰がきれたように、快感は一気に最高潮に上り、アルフレッドの口に放出された。
反られた背中がビクビクと痙攣する。
はぁはぁと荒い息の中、自身の足の間から顔を出したアルフレッドは、舌を出すとイグナスの放出した白濁を自身の指に絡め取っていた。
何をしているのかわからず、それをぼんやりと眺めていると、アルフレッドはギラついた目でイグナスを見下ろした。
「痛くないようにするから」
優しい声に胸が高鳴ったそのとき、濡れた指がイグナスの後孔に触れた。
自身の放出した白濁がその窄みに塗りつけられていく。
それからゆっくり、少しずつ、アルフレドはイグナスの中をほぐすように入っていく。
違和感はあるけれど、想像ほどの痛みがなかったのは、それだけアルフレッドが丁寧にゆっくりしてくれたからだろう。
「大丈夫か?」
「痛かったら言えよ」
イグナスは必死に何かを抑えるような声で、イグナスに気を配る。
下部を高々と張り詰めさせながら、相手を思いやるアルフレッドがなぜか可笑しくて、イグナスは思わず笑った。
いつも揶揄われているお返しに、少し意地悪をしてみる。
「痛いからやっぱり無理って言ったら、やめるのか?」
「いや、それは無理」
即答だった。それにまた笑ってしまう。
後ろの窄みをいじられる違和感は、最初こそあったもののすぐに消え、声が漏れるほどの快感に変わっていった。
もう何本指を入れられているのかも、どのくらいの時間が経ったのかもわからない。
一度放出して萎えていたはずのイグナスの下部は、もう一度しっかりそびえていた。
「あっ、ああんっ……、んっふぁ」
「ここ、気持ちい?」
アルフレッドはイグナスの良い場所を見つけたのか、そこを何度も攻めてくる。
自分さえ知らない、アルフレッドだけが知る場所。
もっと知ってほしい。自分の知らない自分まで、見てほしい。全てを、さらけ出したい。
イグナスは、アルフレッドの首に腕を回して、上目で見つめた。
「アルフ、もう、入れて……」
早くアルフレッドと一つになりたくて、アルフレッドを中で感じたくて、イグナスはアルフレッドの昂りに足先でそっと触れた。
「イグナス……!」
アルフレッドはイグナスの後ろから指を抜くと、そこに自身の昂りを当てた。
熱を持ったそれが入口に触れたとき、それだけでもう嬉しくて、イグナスは視界が滲んだ。
固い怒張がゆっくりと存在感をもってイグナスの中を穿っていく。
もっと自分勝手に動けば、手っ取り早く気持ちよくなれるだろうに、イグナスの身体を思ってか、慣れるまでゆっくりと動いてくれているアルフレッドのやさしさが、胸に広がっていく。
そういうところが好きだ。大好きだ。
アルフレッドのそれが一番奥まで到達した時、イグナスの上から吐息と共に声が聞こえた。
「やっと、やっと手に入れた。愛してる、イグナス」
黒髪の隙間から見える瞳には、揶揄いの色は見えなかった。真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐ、イグナスだけを見ていた。
その瞳にイグナスの中にある考えがよぎった。
もしかして、アルフレッドも俺を――。
けれど、すぐに考えるのをやめた。
たとえ、思いが通じ合っていたとして。それでも、一緒になることは許されない――。
もう何も考えたくなくて、イグナスはただ目の前の快楽に身を委ねた。
アルフレッドが徐々にスピードを上げて腰を動かす。その律動に思わずイグナスの腰も自然と揺れた。
「あっ……あ、あ、アルフ!」
たまに奥で腰を止められて掻き回されるのも気持ちがよくて、喘ぐ声が止まらなくなる。
肌と肌が合わさる音が響くたびに、奥がキュンとうずく。脳髄が溶けるほどの快楽に、もっともっと、と声を出してアルフレッドを求めた。
「イグナスっ……!」
「アルフ……!」
互いに名前を何度も呼びながら、キスを交わす。熱い舌が絡まり合い、イグナスの体はもう、どこを触れられても敏感に感じてしまう。
肌と肌が重なるたびに、自分とアルフレッドの境界が溶けていくようだった。
どこからが彼で、どこからが自分なのかわからない。
いっそのこと一つになれたら――、馬鹿馬鹿しくも、そんなことまで祈ってしまう。
もうアルフレッドの律動には遠慮などなく、ただ快楽を求めて、最奥にその欲望を押し付ける。
「んっ、あん、アルフっ、愛してる……っあ、ああん」
「……俺も、愛してる……んっ……」
思わず溢れたイグナスの想いが鼓膜を揺らしたと同時に、アルフレッドは絶頂に達した。
アルフレッドがイグナスに体重をかけるように覆いかぶさる。その重さが心地よい。
このままずっとこうしていたい。ずっとこのまま。
けれど、そんなことは無理で、時間は有限で。ならば今を大切にしたい。
アルフレッドは息を整えると、上体を少し起こしてイグナスを見つめた。
「……やっぱり痛かったか? すまない」
指で涙を拭われて初めて、イグナスは自分が泣いていることに気づいた。
今日でもう最後。そう思うと涙が止まらなかった。
でも。今は悲しいことを考えるのはよそう。
アルフレッドが思い出す自分は笑顔であってほしい。
イグナスはアルフレッドをぎゅっと抱きしめると、耳元でそっと囁いた。
「気持ちよかったから、もう一回。……もう一回して」
「……っ!」
先ほど達したばかりのアルフレッドのそれはすぐに昂ると、イグナスの窄みに入っていった。
「今度はもっとゆっくり頑張る」
「ふふっ、どうだか」
さっきよりお互いに余裕があるからか、そんな軽口まで叩けてしまう。
イグナスはアルフレッドの首に手をまわしそっとキスをした。
「もっと、もっと奥まで、来て」
イグナスの声に、アルフレッドの律動が大きくなっていく。
もっと奥まで触れてほしい。あなたを覚えておくために。
* * *
月の光はすでに傾き、東の空がわずかに白み初めていた。
イグナスは、自身を抱いて寝ていたアルフレッドを起こさないように、そっと彼の腕を解くと、寝台の端に腰掛けた。
アルフレッドの幸せそうな寝顔を見下ろしながら、指先で彼の髪を撫でる。
「……最後まで、優しかった、な」
声に出した瞬間、目の奥がじんと熱くなった。
もう二度と、彼に触れることはできない。
そう思うと、酸っぱい感情が喉元までせり上がってくる。
イグナスはそっと身を屈めると、アルフレッドの額にキスをした。
何も持たずにきたあの日と同じように、今も持っていくものはほとんどない。
けれど、一つだけ増えてしまったものがある。
――アルフレッドへの想い。
その想いだけを胸にしまって、イグナスは静かに王宮を後にした。
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