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第24話 事件の真相
「イグナスが目を覚ましたんだって? よかった!」
目を向けると、そこにはにこにこと笑みを浮かべたサリスと、気まずそうに苦笑を浮かべるライネルが立っていた。
二人は部屋に入ると、イグナスのベッドへ歩みを進める。
「お前、わざとこのタイミングで入ってきただろ?」
「へ? 何の話かぜんっぜんわからないなあ」
肩を落とすアルフレッドに反して、サリスは心から楽しそうに笑みを深める。
相変わらず仲がよさそうな二人に羨ましさを感じながらも、イグナスはライネルに目を向けた。
「先生、いろいろありがとうございました」
倒れててからの手当てだけではない。アルフレッドの治療やらなにやら、ライネルには本当にお世話になった。
ベッドの上ではあるが、深々と頭を下げるとライネルは優しく微笑んだ。
「全部うまくいって、本当に良かった。腕の傷も、結構深く切った割には、ほとんどふさがっているみたいだよ。まだ痛むだろうけど、あと数日すれば元通りになるはずだ。半人狼もやっぱり生命力が強いみたいだね」
「傷は……傷は残りそうですか?」
アルフレッドが今にも泣きそうな表情で訊ねる。
きっと自分のせいだと負い目を感じているのだろう。
「いや、きっと大丈夫だろう。きれいになるはずだ」
ライネルの言葉に、アルフレッドはほっと胸をなでおろした。
一方で、イグナスとしては少し残念でもあった。アルフレッドのための傷ならば、それすらも愛しく思えるるというものだ。
そんなことを言えば、きっとアルフレッドは怒るだろうけど。
「イグナス君が目を覚ましたって聞いて、様子を見るがてら、報告もしようと思いまして」
「報告?」
ライネルの言葉にイグナスは首を傾げた。
「この三日間、君が寝ていた間の話だよ」
「誰かさんはずっとイグナスの傍にいたからね。その誰かさんも一緒に聞いてほしい」
サリスは大げさにそういうと、ちらりとイグナスを見た。
どうやらアルフレッドは本当にずっとそばにいてくれたらしい。
サリスとライネルはベッドの周りに椅子を持ってくると、そこに腰を下ろした。
そして、この三日の間に起きたことを、順序立てて話してくれた。
「俺たちはまず、アルフレッドを襲った犯人を見つけるために、『王子が人狼に襲われた』と叫んだ人間を探すことにしたんだ」
唯一の目撃者だ。その人物に聞けば、どんな人狼だったか分かるはずだと二人は思った。
「でも、これが妙だった」
サリスは目を眇める。
なぜならどれだけ探しても、目撃者は見つからなかったのだ。
そこで、二人は倒れたアルフレッドを最初に保護した兵士に話を聞いた。
「彼は『王子が人狼に襲われた』という声を聞いて駆けつけたところ、倒れたアルフレッドを見つけたというんだ」
アルフレッドは顔をしかめた。
「……ってことは、その声の主は、俺を置いてあの場から逃げたってことか?」
すぐ助けろよ、とでも言いたげな表情だ。
ライネルは力強く頷いた。
「そう。僕らもそこが腑に落ちなかったんです」
もしかしたら目撃者自身が、人狼に襲われたかもしれない。連れ去られたり、もしくは、王子を襲った人狼を追いかけた可能性もある。けれどそれらの可能性はすぐに消えたという。
「王子を保護した兵士が証言したのです。自分が来たとき、足跡は一つしかなかったって。それも人間の足跡がひとつだけ」
ライネルの声に、部屋の空気がわずかに揺れた。
「そこで俺たちはある仮説に辿り着いたんだ。もしかしたら、アルフレッドを襲ったのは人狼じゃなくて、“人間”だったんじゃないかって」
サリスの言葉に、アルフレッドは眉を深める。
「話が全く見えない。……どういう意味だ? 目撃者が見間違えたってことか?」
サリスは首を横に振ると、わかりやすく丁寧に説明した。
「アルフレッドが対峙した犯人は黒い外套を着て、顔を隠してたんだろ? それじゃ外見だけで人狼かどうかなんてわからないはずなんだよ。それなのに目撃者は『人狼に襲われた』と叫んだ。最初からそう言おうと決めていたんだ。つまり――」
「犯人自身が、目撃者のふりをして『人狼に襲われた』と叫んだ……ってこと?」
イグナスが訊ねると、サリスはゆっくりと頷いた。
「アルフレッドの背中にあった傷は、たしかに人狼の爪で引っ掻かれたような形をしていた。けど、同時に毒も塗られていた」
「イグナスが血で洗ってくれたんだよな」
アルフレッドが、イグナスの左手を優しくさする。
「ああ。でもそのときから不思議だったんだ。なんで毒なんてまどろっこしいことをしたのだろうかって。人狼がもし本当に人を殺すなら、一発で仕留めるはずだ。そうしなかったのは、爪だけでは殺せないと思ったからじゃないかって。たとえどれだけ鋭い爪でも、人間の力じゃ殺すことはできないだろうからね。だから毒を使ったんじゃないかって」
「つまり、人狼のせいに見せかけようとしたってことか?」
アルフレッドの声には怒りがにじんでいた。
「ああ。爪のようなものに毒を塗ることで、人狼の仕業に見せながら、確実に殺そうとしたんだ」
サリスはそう言うと、顔を歪めた。
『確実に殺す』という言葉に、イグナスはゴクリを喉を鳴らす。
そんな工作までするなんて相手の本気が伺える。本気でアルフレッドを殺そうとしていたのだ。
「そこで俺は血の匂いを辿ることにしたんだ。俺ら人狼は鼻が利くからね」
サリスはガルバとともに、アルフレッドの倒れていた場所から、血の匂ぎわけて森深くへ進んでいった。
「そして見つけたんだ。森の奥の川岸に、黒の外套と毒と血の付いた鉤爪が捨てられているのを」
サリスの声がしんとした部屋に響く。
「しかもその外套には、ある人間と同じ匂いがついてたんだ。アルフレッドが聞き覚えのある声だと言ってたのも正しかった」
「一体誰だったんだ」
アルフレッドの問いかけに、サリスはごくりと喉を鳴らす。
「その匂いの主は――」
サリスはそこまで言うと、まっすぐにアルフレッドを見つめた。
「エドモンド。王立学校の俺らの級友だ」
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