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第30話 もう一度触れたかった
アルフレッドのキスの雨に見舞われながら、イグナスは息を漏らす。
「んっ……んんっ、あっ……」
熱く濡れた粘膜のその感触だけで、頭が蕩けそうになる。
もうキスだけで果ててしまいそうで、イグナスは身をよじった。
後ろが疼いて仕方がない。早く触れられたい。
ふと見ると、アルフレッドの昂りがはち切れんばかりに、こちらに向かってそびえていた。触れてほしいとでもいうように、先端にはぷっくりと蜜が溢れている。
まるで花の蜜に誘われる蝶のように、イグナスはその昂りの先にあふれる透明の蜜に見入った。その怒張が自身の口の中に入ってくるのを想像するだけで、その倒錯的な状況に興奮してしまう。
「アルフ……これ、舐めたい」
想像だけではもう我慢できず、イグナスはアルフレッドの昂りにそっと手を当てた。
触れた指先から熱が伝わってきて、イグナスの頬も少し赤らむ。
昂りが一層グッと上を向く。荒い息が降ってきて、イグナスは目線だけでアルフレッドを見た。
普段は冷静なアルフレッドの蒼黒の瞳が、わずかに血走り、熱を帯びてイグナスを捉える。
まるで獣に食べられるような、そんな感覚に肌が粟立つ。
アルフレッドはゴクリと喉を鳴らしたあと、少しの沈黙を挟んだ。
「……お前はそんなことしなくていい」
その言葉に、イグナスはぴくりと反応した。
アルフレッドと想いが通じ合ってからずっと胸に引っかかっていた疑問。
普段なら大人ぶって隠せるが、今は全てをさらけ出しているせいか、自然と口からこぼれてしまう。
「なんでだよ。これまでの娼婦たちには……どうせさせてたくせに」
言葉にすると、ひどく惨めになる。
アルフレッドがこれまでどれだけの娼婦と肌を重ねてきたかは、イグナスが一番よく知っている。
正直、嫉妬しないと言えば嘘になる。でも、過去は変えられない。
ならば、自分が上書きしたい。
彼女たちとのすべての情事を忘れるくらい、自分に夢中になってほしい。
なのに、それすらも拒まれるなんて、もうどうすればいいか分からない。
さっきまで嬉しくてこぼれた涙が、今度は悔しくてこぼれそうだ。
「させたことなんてない」
アルフレッドが少し怒ったような顔で見下ろす。
「……え?」
「だから、あんな女たちに触れさせたことはないって言ってるんだ」
「それは……舐められたことはないってこと?」
思わず訊ねると、アルフレッドはなぜかしたり顔で頷いた。
「それは口でされるのが嫌だから?」
再び訊ねると、アルフレッドは食い気に答える。
「いや、それは正直まったく嫌じゃない」
じゃあなんでこれまでの娼婦にさせなかったのだろうか。
イグナスは張りつめたそれを見て、ピンときた。
アルフレッドのそれは長さもさることながら、かなりの太さである。
もしかしたら、それが入る口径を持つ女性がいなかったのかもしれない。
自分も決して口が大きい方ではないが、それでもやりたい。アルフレッドの初めての口淫ならばなおさら。
「じゃあやらせろ。俺も何でもいいから、お前の初めてが欲しいんだ」
ムードもへったくれもなく、半ば使命感に燃えていると、アルフレッドが「その前に一つ聞いてくれ」とイグナスを座らせた。
一体なんなんだと首を傾げると、アルフレッドははっきりとした口調で告げた。
「俺は娼婦と寝てない」
いきなりの告白にイグナスは目を瞬かせる。
「それは朝を一緒に迎えたことはないってことか?」
「違う。そうじゃなくて、肌を合わせたことも、唇に触れたことも、すべてないってことだ」
「それは……ちょっと無理があるぞ」
イグナスが今、自分を好きでいてくれていることは十分に感じている。
だからといって、過去のことをなかったことにはできない。
けれど、アルフレッドはまたしてもはっきりと告げる。
「本当なんだ。本当に一度も彼女たちとは触れ合ってない」
その瞳には冗談の色がない。
――もしかして本当に?
そう思いながらも、同時に疑問もわいてくる。
「なっ、じゃあなんで娼婦なんて呼んでたんだよ!」
「お前を妬かせたかったから」
「は?」
「お前を妬かせたくて呼んでいただけだ。部屋では本当に指一本触れていない」
「ってことはつまり、キスもエッチも、俺が初めて?」
まさか、と思いながら訊ねると、「ああ」とあっさり頷かれる。
どういうことか頭が追い付かない。
けれど、それが本当なら。それはもうすごく嬉しい。
イグナスはごくりと喉を鳴らすと、アルフレッドの屹立にそっと触れた。
「じゃあ口にいれる初めても俺にちょうだい。……ね?」
甘えるように首を傾げながら、アルフレッドを上目で誘惑する。
アルフレッドは自分しか知らない。そう思うとどこまでも気分が良い。
「いや、それはお前に負担が――」
アルフレッドの答えを全て聞く前に、イグナスは半ば強制的に、アルフレッドのその昂りに顔を寄せた。
「なっ、待てイグナス」
自分を止めようとするアルフレッドの言葉を無視して、イグナスはその屹立の先端を舌で舐めた。
それに呼応するように、アルフレッドがびくりを腰を震わす。
自分が彼に快感を与えられていることが嬉しくて、もっと感じて欲しくて、今度は口を目一杯に開けて、その怒張を頬張った。
唇でその輪郭を包み込むと、舌で裏を撫でながら顔ごと動かしていく。
その時、イグナスの臀部に刺激が走った。
「んっーーんっんっ」
アルフレッドのそれを咥えているから声がでない。
どうやらアルフレッドがイグナスの尾の付け根を、モミモミと触っているようだ。
自分ですら触れたことのない場所に、そんな快感が眠っていたなんて知らなかった。
気持ちい。気持ちいけど、そこを触られれば触られるほど、その少し下にある窄みが疼いてしかたない。
そのとき、アルフレッドがイグナスの頭をしっかりと固定した。
「すまん、もう我慢できない」
アルフレッドはそう言うと、そのまま腰を奥に押し付けた。
「んんっ――」
「あっ、イグナ……スっ」
アルフレッドのそれは全部呑み込むには大きすぎて、喉の奥にあたる。口の中の粘膜をこすられて、気持ちが良い。加えて、アルフレッドの口から溢れる声が嬉しくて、それだけで後ろのすぼみがどんどんむず痒くなってくる。
唇が怒張を擦るたびに、濡れた音が部屋に響く。アルフレッドの腰の律動が徐々に早くなったとき、いきなり口からそれがぶるんと外に出た。
慌ててもう一度咥えようとしたが、アルフレッドにそのまま上を向いて寝かされてしまう。
「もう挿れたい」
余裕が一切なくなったその表情は、イグナスだけを見ていた。
今しがた達したばかりでは? とイグナスは驚いてアルフレッドのそこに目を向けた。
そこには再び勃ちあがりきった屹立があった。
同じ男として、憧憬の念を禁じえない。これが世にいう絶倫というのだろうか。
けれど、それはイグナスにはありがたかった。
後ろの窄みが、さっきからずっとアルフレッドの昂りを求めている。
イグナスももう限界だった。
――早く挿れてほしい。
そうねだるようにこくりと頷くと、アルフレッドはイグナスの後孔にゆっくりと押入った。
しかし、それはアルフレッドの昂りにしてはずいぶんと細い――彼の指だった。
こんな状況下でもちゃんとほぐしてくれようとしてくれるその優しさと、早く入れてほしい|焦《じれ》ったさに、自身の中でせめぎ合っていると、アルフレッドの指が急に動きを止めた。
「……前より緩い。俺と離れている間、誰かとやったのか?」
凄みのある声が鼓膜を揺らす。
ドストレートな質問に、イグナスは何も答えなかった。
正しくは、答えたくなかった。
アルフレッドを想って、自分でいじったなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。
「もしかして……サリス? 俺と離れている間に発情期がきたのか?」
独り言のように言葉がこぼれた直後、アルフレッドは勢いよく指を抜き、そこに自分の怒張をあてがった。
「イグナス……、お前に触れていいのは、俺だけだ」
その言葉と共に、アルフレッドは一気に奥まで腰を押し付けた。
「ああっ……あっ……」
イグナスの小さな入口に、アルフレッドの怒張が何度も出入りする。
初めは少しひきつっていたそこは、出し入れされていくほどに、いつの間にか濡れて熟して、アルフレッドの昂りにどこまでも吸い付いていく。
「サリスが……こんなにエロい体にしたのか」
アルフレッドはイグナスの窄みを激しく突きながら、怒りが滲んだ声でそう呟く。
思い込むと人の話を聞かないのは昔からだ。
「ちがっんっ……あっ、アルフっ……そうじゃなくってええ……あっん」
イグナスは必死で弁解しようとするも、言葉は自分の喘ぎ声にかき消されてしまう。
「その声、あいつにも聞かせたのか?」
嫉妬でアルフレッドの表情が歪む。
その嫉妬すら嬉しいなんてイグナスの愛も歪んでいるのかもしれない。
彼がくれるものは全部嬉しいし、全部まとめて独り占めしたい。
「もっと……もっとしてっ」
いつの間にか弁解なんて忘れて、ただアルフレッドの律動に合わせて、腰を揺らしていた。
その声に、突き動かされるように、アルフレッドは一層腰を動かす。
グッと押し入れられて、イグナスの最奥が突き上げられた。指でも届かないもっと深い場所。
きっとそれはアルフレッドしか知らない。
「まってえ……あ、あ、やだっ、アルフまって、ああっあああ!!」
弱い部分を何度も突き上げられ、イグナスの声が大きくなる。
次の瞬間、体が勝手にはねて、イグナスの昂りから白濁が飛び散った。内側はアルフレッドを迎え入れたまま痙攣している。
アルフレッドはイグナスの両足を抱えたまま、果てたイグナスをじっと見下ろした。
その瞳は必死に何かを堪えるように震えていた。
アルフレッドの泣きそうな顔に、イグナスは弱い。
「……した」
イグナスは荒い呼吸の隙間で声を出す。
「一人で……したんだ」
「え?」
イグナスは両腕で顔を隠すと言葉を紡ぐ。
「アルフに……抱かれた日のことを思い出して……自分で何度も……」
泣いてる顔も、怒ってる顔も、どんなアルフレッドだって大好きだけど、やっぱりできれば笑っていてほしい。
イグナスの言葉に、アルフレッドはぽかんと口を開けた。
そのあと、眉尻を下げて、安堵するように小さく息を吐いた。
「それは反則だろ。エロすぎる。ってかお前が一人でって……想像できない」
「想像しないでいい。そんなことより、まず俺に謝れ」
「ごめん」
素直に謝られて、イグナスは驚いた。
その素直さが、イグナスにも伝染したのか、イグナスは考えるよりも前に言葉を発していた。
「アルフ、愛してる」
そのとき、アルフレッドの目からきらりと光る何かがこぼれた。その雫が、イグナスの頬にぽとりと落ちる。
「どうしよう、夢みたいだ……」
張り詰めた糸が切れたのか、アルフレッドの瞳から次から次にきらきらと宝石のような涙が溢れ落ちる。
「あの日から、ずっと、夢の中で何度もお前を抱いた。そうして起きては夢かって絶望した。もう二度と……もう二度とお前に触れられないと思ってた」
アルフレッドが泣くのを見たのは、王妃が死んだあの日以来初めてだった。
「俺も。……俺も夢で、何度もアルフに抱かれた」
堰を切ったように押し寄せる想いは、もう止められない。
「ふっ、じゃあもしかすると、夢の中で会っていたのかもしれないな」
アルフレッドの言葉に、そうだったらいいなと素直に思う。
「次は優しく抱くから……もう一度抱いていいか?」
窺うように訊ねられてイグナスは思わず笑った。
「お前が望むなら、何度でも」
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