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第2話 黒猫フレディだった過去
猫として生まれて6歳くらいの時に侯爵家に買われてやってきた俺……当時のご当主はクロード様のお父上で、ご夫婦で俺を気に入り、クロード様に与えたのだった。
『クロード、お前にプレゼントだ』
『可愛い黒猫よ』
『わぁぁぁねこちゃ! かわいい!』
クロード様が4歳の時に出会い、フレディと名付けられ、それからずっと一緒に過ごした。
俺の方が年上だったし、クロード様をお世話するように常に一緒にいたっけ。
昼間にクロード様がお勉強している時もソファで見守り、食事の時も共に食事をとり、時々お風呂も一緒に入ったりもした。
夜は必ず一緒に眠り……でも猫は夜行性なので、度々夜中に走ったりして連れ戻されたりもして。
少し年を取ってからは夜中の運動量も落ちていったけど。
そしてクロード様が10歳になった頃、度々体調を崩していた俺は、そのまま13歳で天に召されたのだった。
『フレディ! フレディ……!!』
大粒の涙を流しながら俺の名前を呼び、逝かないでと懇願する顔を思い出す。
もし来世というものがあるのなら、またクロード様のもとで生きたい。
そう願いながら瞼を閉じ、黒猫としての人生は幕を閉じた。
そして俺は……人として生まれ変わっていたんだな。
クロード様に名前を呼ばれるまで、黒猫フレディとしての自分を忘れていたけれど。
また大好きなご主人様のもとへ来る事が出来たんだ――――なんて幸せな事だろう。
ふと意識が戻り、重い瞼を開いていくと、そこにはまた大粒の涙を流しているクロード様が目に飛び込んでくる。
泣き虫なのは相変わらずなんだな。
あの頃と変わらず優しく、でもご当主として立派になったクロード様。
このお方に生涯を捧げるのは、前世から決まっていた事だったんだ。
それが堪らなく嬉しい。
「クロード様、美しいお顔が台無しです」
「君が突然倒れたりするから……! 私が無理をさせてしまったんだ、すまない」
俺みたいな孤児の為に涙を流しながらそんな事を言ってくれる人なんて、このお方しかいない。
俺は首を振り、自分の指で綺麗な涙を拭ってあげる。
「俺が慣れない事をやろうとしたのがいけなかったんです。 でも楽しかったので、またお背中流してもいいですか?」
「もちろんだ……」
「でもフレデリックはまだ幼いのですから、次からは私もご指導させていただきます」
後ろに控えていたのは執事のアーヴァン様で、厳しい指摘が入る。
その後ろには侍女長であるレイラ様が立っていて、俺たちのやり取りに笑っていた。
「ふふっ。 アーヴァン様、お手柔らかにお願いします。 リックはまだ子供なのですから」
「善処します」
「リック?」
レイラ様が俺をリックと呼ぶのが気になったのか、クロード様が聞き返した。
クロード様は聞いた事がなかったのかな?
「使用人の間では名前が長いのでリックと呼ぶ者もおります」
レイラ様が丁寧に説明してくれると、ご主人様は少し悲し気な表情をして声をあげた。
「そうなの?! 聞いてないよ! じゃあ私もリックで!」
「旦那様、そこは争うところではありません」
クロード様の剣幕にアーヴァン様がすかさずツッコミを入れる。
アーヴァン様はクロード様と年齢が近いのか、執事だけど親友のような気安い雰囲気の方だった。
二人のやり取りはとても面白く、見ていて飽きない。
この邸の人たちはとても優しい人ばかりだ……突然やって来た孤児の俺に対して偏見もなく、レイラ様もアーヴァン様も可愛がってくださる。
俺は……この侯爵家を守る為ならなんでもする。
ご主人様を、この邸の皆を、俺の人生をかけて守っていくんだ。
猫の俺には出来なかった事——。
そう決意した俺の頬をクロード様が優しく撫でた。
「じゃあリック、ゆっくりお休み。 今日はお仕事しなくていいから」
「え、でも……」
「そうですよ。 倒れた日に無理をしてはいけません」
クロード様の言葉で戸惑う俺に、レイラ様がさらにストップをかけた。
レイラ様は年の離れたお姉さんのようで、俺を心配してくれているのが伝わってくる。
「分かりました。 また明日から頑張ります」
「「よろしい」」
クロード様とレイラ様、アーヴァン様が声を揃えて同じ事を言うので、思わず笑ってしまう。
「あははっ」
この侯爵家が大好きだ。
俺は俺の出来る事をやって皆の役に立つ。
そしてクロード様にも一生懸命ご奉仕するんだ。
皆の優しさに癒されながら、その日はゆっくり休む事にしたのだった。
~・~・~・~・~
翌日、すっかり体調が回復した俺は、アーヴァン様にお願いがあって彼の元へ訪れた。
ちょうど書斎で探し物をしていると侍女の方に聞いていたのでノックをすると、中からアーヴァン様の声が聞こえてくる。
「どうぞ」
「フレデリックです! 失礼します」
扉を開けると丸眼鏡を光らせているアーヴァン様がこちらを見ている。
銀色の髪をビシッと整えて表情があまり変わらないので怖がる人もいるけれど、アーヴァン様はいつでもクロード様の事を考えていて、とても真面目な方だ。
だからこそきっと、彼なら俺のお願いを聞いてくれると思った。
「どうしました、フレデリック。 何か問題でも?」
「いえ、そうではないのですが……アーヴァン様にお願いがあって参りました」
「私に?」
手に持っていた書物を閉じ、こちらに向き直ったアーヴァン様は眼鏡をかけ直した。
心なしか書斎には緊張した雰囲気が流れる。
俺はゴクリと喉を鳴らしつつ、思い切って自分の考えを伝えた。
「はい。 俺……クロード様に保護されてこんなに皆に可愛がってもらって……ただ守ってもらっているだけは嫌なんです。 だから……」
「だから?」
「アーヴァン様に剣術や護身術などをお教えいただきたくてっ!」
「………………」
俺の言葉にアーヴァン様は少しの間黙ってしまう。
やっぱりダメかな……クロード様はご当主の仕事と殿下の側近でもあるし物凄い多忙な方だから、クロード様にはお願い出来ない。
確かアーヴァン様も執事として一通り武術を身につけていると聞いていたので、お願いしに来たのだ。
チラリと顔色を窺ってみるも、眼鏡がキラリと光るだけで何を考えているのかは分からない。
すると重い沈黙を破るようにアーヴァン様が話し始めた。
「私の指導は厳しいですよ?」
「は、はい! 覚悟の上です!」
「そうですか……この事は旦那様は?」
「まだ伝えてません。 びっくりさせたくて」
「フッ。 それは面白いですね。 分かりました、引き受けましょう」
俺はアーヴァン様が引き受けてくださって、嬉しさのあまりガッツポーズをして叫んでしまう。
「よっしゃー! やった!!」
「静かに! そういうところもちゃんと指導していきますよ」
「は、はい……!」
ひえ~~あれもこれも指摘されてしまいそうで恐怖しかない!
でもやるからには徹底的に鍛えてもらおう。
そして少しでも役に立つ存在になるんだ。
こうして俺はアーヴァン様から物凄い厳しい指導を受ける許可をもらい、その日からさっそく特訓をし始める事になったのだった。
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