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第6話 私の飼い猫が可愛すぎる件~クロードSide~

 ノンマルディー侯爵家の嫡男として生を受け、クロードと名付けられた私は、両親から愛情をたっぷりと注がれて育てられた。  両親は私に甘く、私のお願いなら何でも叶えようとする人たちで、ある日父上が上品な黒猫を連れて来たのだ。  というのも父上がとても忙しいお方で、あまり私のそばにいられない事が寂しかった私は、毎日邸でグズっていた。  それを母上から聞いた父上が私が寂しくならないように、知り合いから黒猫を譲り受けて私にプレゼントしてくれたらしい。  あれは確か、私が4歳の時だったはず。  『クロード、お前にプレゼントだ』  『可愛い黒猫よ』  毛並みも美しくつやつやで、ターコイズブルーの凛とした瞳。  そして太ももの内側に可愛らしいピンクの痣が付いている。私は瞬時に気に入り、顔を輝かせた記憶がある。    『わぁぁぁねこちゃ! かわいい!』  私はその黒猫にフレディと名付けた――――彼は気まぐれだったけれど、私が読書の時、勉学に励む時、食事の時、眠る時、いつもそばに来てそっと寄り添ってくれた。  特に何をするわけでもなく、ただそばにいてくれる。  それが何より嬉しくて、私の生活はフレディ一色になっていく。  猫という動物の生態をよく分かっていなかった私は、フレディも自分と同じ寿命だと思っていた。  一緒に年老いていくとばかり……しかし私が成長していくにつれ、フレディの運動量は逆に減っていき、やがて別れは突然やってくる。  私が10歳の時、フレディが13歳の時だ。  『フレディ。 フレディ……! いやだっ……私を置いていかないで……!!』  彼が天寿を全うし、召された時は一生分泣いたと思う。  涙が枯れるまで泣いたと思うのに溢れてくるし、自分の情緒が安定しなくて、一年間は泣いて暮らしていたと思う。  やがて徐々に落ち着き、次期侯爵家当主として頑張る事で寂しさを紛らわせていった。  『クロード、また猫を譲ってもらおうか?』  父上は私を気遣って仰ってくださったのだろう。  フレディがいなくなって、明らかに私が無理をしていたからだ。  でも決して首を縦に振らなかった。  『いいえ。 フレディの代わりはいません。 代わりにしようとするのも他の猫に失礼ですから』  私の執着が重すぎて両親も諦めたようで、それ以降その話が出てくる事はなかった。  いつか彼の事を自分の中で昇華出来るようになるまで、他の動物と暮らす事はしないという固い決意。  そして私が16歳になった時、またしても突然別れがやってくる。  領地を視察していた両親が帰り道で事故に遭い、そのまま亡くなってしまったのだ。  私は悲しみに暮れる間もなく侯爵家の当主として奔走しなくてはならなくなり、家の為に必死で駆けずり回った。  邸には使用人たちを沢山抱えていたし、彼らが路頭に迷う事になるのだけは避けなければならない。    でもふとした瞬間に寂しさは襲ってくる。  愛情とは厄介なもので、愛が深ければ深いほど、失った時のショックが大きい。  自分の中に虚無感が生まれ、どうしても暇な時間を作りたくなくて王太子殿下から指示を仰ぎ、犯罪調査にまで乗り出していた。  おおよそ侯爵のする仕事ではなかったけれど、体を動かしていれば色んな事を忘れられるから。    そして私が18歳の成人を迎えた時、運命の出会いをする。  あれは王宮に捕らえていた罪人が逃げ出し、追いかけていた時だ。  貧民街に逃げ込んだのを聞き付けて犯人を捜していると、不意に小さな存在にぶつかる。  『いてっ! おい、気を付けろ!!』  威勢のいい声を張り上げ、私を睨みつける7、8歳くらいの男児――――私は目を見張った。  髪は不揃いだったけど漆黒の美しい髪、驚き見開いた目は釣り目気味で大きく、煌めくターコイズブルーの瞳。  ここ貧民街に似つかわしくない男の子は、私の心を一瞬で鷲掴みにした。  まるでフレディが人間に生まれ変わり、私のもとへやってきてくれたように感じたのだ。  『君、名前は?』  『はにゃせ(離せ)……!』  私に両頬を挟まれているせいで上手く喋れないのに、何とか抵抗しようとするのが可愛すぎる。  恐らく私が貴族だと気付いているのに、これでもかと言わんばかりに悪態を付くのも微笑ましい。  私は完全に彼にフレディの面影を重ねていた。    『もし良かったら私の邸に来ない?』  ほとんど無意識に誘っていたと思う。  でも彼は少し考えた後、すぐに私に付いて来るといい、邸で保護する流れになったのだった。    フレデリックと名乗り、さっそく身綺麗にして髪を整えると、気品すら感じる出で立ちに今までよく貧民街で暮らしていたなと感心する。  良くない輩に襲われそうなほど美しく、邸の者たちも色めき立っていた。    「旦那様、フレデリックがとても美しいです!」  「こんな可愛らしい子が貧民街にいたなんて!」  侍女たちは口々にフレデリックを褒めた。  確かに可愛いし超絶美しいんだけど……私の中でムクムクと独占欲が湧いてきてしまう。  フレデリックの細い腰を持ち上げ、膝に乗せ、周りを囲む外野から避難させる事にした。  「彼は私が連れてきたんだから」  そんな私の行動をレイラがジトッとした目で見ていたけれど、知らんふりをして、フレデリックを思い切り可愛がる日々。  最初はフレディが私のもとへやって来てくれたと思った。  それは変わらないけれど、一緒に過ごしていく内に違う感情も芽生えてくる。  とにかく彼の行動の一つ一つが可愛くて……私にご恩返しをしたいと一生懸命にお世話しようとしてくる。  たどたどしくも愛おしいその行動に、フレディや家族を失った悲しみがみるみる癒されていく。  「君を可愛がるのが私の楽しみなんだ」  ウソでも何でもなく、本当に私の癒しだった。  私の言葉に顔を赤くし、恥ずかしがる君を見ると堪らない気持ちになる。  早く成人を迎えてくれ――――祈るような気持ちだった。  そして彼が9歳を過ぎたとある日、私のお世話の一環として「今夜は俺がお背中を流しますね」と言ってきたのだ。    「フレデリックが? それは楽しみだな」  私は自分の気持ちを落ち着かせながら、出来るだけ平静を装い言葉を返した。  腰に布を巻いただけの彼を見た時はドキドキしたものだけど、それよりも私の目に留まったのは、彼のふともも内側にある痣だった。  これは……この痣は…………形だけでなく、痣の位置まで一緒だ。  もう確信しかない。  間違いない……彼は……リックは私の――――  「フレディ?」  その名を呟いた瞬間、フレデリックは意識を失い、その場で倒れてしまったのだ。  

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