6 / 13
第6話
医務室は静まり返っていた。
生命維持装置の規則正しい電子音だけが、冷え切った空間に一定のリズムを刻んでいる。
天井から投影されたホログラムモニターには、マイトの心拍、血中酸素濃度、骨格再生率が淡い青色で映し出されていた。
ディアスはその数値を一瞥すると、満足そうに頷く。
「うん。順調だ。」
まるで可愛がっているペットの成長を喜ぶような声音だった。
ベッドへ近づき、椅子へゆっくりと腰を下ろす。
「今日は昨日より骨が繋がってる。オマエ、本当に丈夫なんだね。」
マイトは壁の方を向いたまま答えない。
ディアスは困ったように笑った。
「また無視?」
返事はない。
「ねぇ。マイト君」
柔らかく呼びかける。
「オレの部下になりなよ。」
毎日聞かされる言葉だった。
「断る。」
即答だった。
「どうして?」
「海賊に寝返る趣味はねェ。」
「オマエも海賊じゃない。」
「キサマと一緒にすんな、義賊になれとは言わないが外道じゃない。」
ディアスは少しだけ肩を竦める。
「偏見だなぁ。」
「オレは優しいよ?」
「優しい奴ァ、人を攫わねェ。」
「攫ったのはオマエだけ。」
さらりと言って艶やかに笑う。
「だって欲しかったから。」
その笑顔が、マイトには一番気味が悪かった。
「欲しい?」
「うん。」
ディアスは迷いなく頷く。
「オマエ。」
マイトは鼻で笑う。
「俺ァ物じゃねェぞ。」
「知ってる。」
「だから欲しい。」
あまりにも自然に言われ、返す言葉を失う。
ディアスは立ち上がると、ベッド脇へ歩いてくる。
そっと手を伸ばし、金色の髪へ触れた。
マイトは顔をしかめる。
「触んな。」
「綺麗だから。」
指先がさらさらと髪を梳いていく。
「オレ、金髪好きなんだ。」
「知らねェよ。」
「知ってほしい。」
相変わらず穏やかな笑顔。
怒る様子もない。
「部下になれば。」
ディアスは優しく囁く。
「この部屋より広い部屋をあげる。」
「断る。」
「拘束具も外す。」
「断る。」
「自由に船を歩いていい。」
「断る。」
「欲しい物は何でもあげる。」
「いらねェ。」
即答だった。
ディアスは小さくため息をつく。
「強情。」
「それしか取り柄ねェからな。」
「……そうか」
ディアスは少し寂しそうに笑った。
「レディルなら。」
ぽつりと漏らす。
「きっと頷いてくれたのにな。」
その名前だけは。
マイトには分からなかった。
だが。
その瞬間だけ。
ディアスの黒い瞳の奥に、今まで見たことのないほど深い孤独が宿ったように見えた。
次の瞬間には、もういつもの穏やかな笑みに戻っていた。
「じゃあ、また明日誘うね。」
本当に毎日の挨拶でもするような軽い口調でそう言い残し、ディアスは静かに医務室を後にした。
自動ドアが閉まり、静寂だけが戻る。
マイトは天井を見つめたまま、小さく舌打ちした。
「……なんなんだ、アイツは。」
まるで脅しているようには見えない。
優しい笑顔で、逃げ道を一つずつ塞いでくる。
その得体の知れなさが、どんな脅迫よりも恐ろしく思えた。
ともだちにシェアしよう!

