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第6話

医務室は静まり返っていた。 生命維持装置の規則正しい電子音だけが、冷え切った空間に一定のリズムを刻んでいる。 天井から投影されたホログラムモニターには、マイトの心拍、血中酸素濃度、骨格再生率が淡い青色で映し出されていた。 ディアスはその数値を一瞥すると、満足そうに頷く。 「うん。順調だ。」 まるで可愛がっているペットの成長を喜ぶような声音だった。 ベッドへ近づき、椅子へゆっくりと腰を下ろす。 「今日は昨日より骨が繋がってる。オマエ、本当に丈夫なんだね。」 マイトは壁の方を向いたまま答えない。 ディアスは困ったように笑った。 「また無視?」 返事はない。 「ねぇ。マイト君」 柔らかく呼びかける。 「オレの部下になりなよ。」 毎日聞かされる言葉だった。 「断る。」 即答だった。 「どうして?」 「海賊に寝返る趣味はねェ。」 「オマエも海賊じゃない。」 「キサマと一緒にすんな、義賊になれとは言わないが外道じゃない。」 ディアスは少しだけ肩を竦める。 「偏見だなぁ。」 「オレは優しいよ?」 「優しい奴ァ、人を攫わねェ。」 「攫ったのはオマエだけ。」 さらりと言って艶やかに笑う。 「だって欲しかったから。」 その笑顔が、マイトには一番気味が悪かった。 「欲しい?」 「うん。」 ディアスは迷いなく頷く。 「オマエ。」 マイトは鼻で笑う。 「俺ァ物じゃねェぞ。」 「知ってる。」 「だから欲しい。」 あまりにも自然に言われ、返す言葉を失う。 ディアスは立ち上がると、ベッド脇へ歩いてくる。 そっと手を伸ばし、金色の髪へ触れた。 マイトは顔をしかめる。 「触んな。」 「綺麗だから。」 指先がさらさらと髪を梳いていく。 「オレ、金髪好きなんだ。」 「知らねェよ。」 「知ってほしい。」 相変わらず穏やかな笑顔。 怒る様子もない。 「部下になれば。」 ディアスは優しく囁く。 「この部屋より広い部屋をあげる。」 「断る。」 「拘束具も外す。」 「断る。」 「自由に船を歩いていい。」 「断る。」 「欲しい物は何でもあげる。」 「いらねェ。」 即答だった。 ディアスは小さくため息をつく。 「強情。」 「それしか取り柄ねェからな。」 「……そうか」 ディアスは少し寂しそうに笑った。 「レディルなら。」 ぽつりと漏らす。 「きっと頷いてくれたのにな。」 その名前だけは。 マイトには分からなかった。 だが。 その瞬間だけ。 ディアスの黒い瞳の奥に、今まで見たことのないほど深い孤独が宿ったように見えた。 次の瞬間には、もういつもの穏やかな笑みに戻っていた。 「じゃあ、また明日誘うね。」 本当に毎日の挨拶でもするような軽い口調でそう言い残し、ディアスは静かに医務室を後にした。 自動ドアが閉まり、静寂だけが戻る。 マイトは天井を見つめたまま、小さく舌打ちした。 「……なんなんだ、アイツは。」 まるで脅しているようには見えない。 優しい笑顔で、逃げ道を一つずつ塞いでくる。 その得体の知れなさが、どんな脅迫よりも恐ろしく思えた。

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