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第7話
マイトの身体は驚異的な回復力を見せているのを、ディアスはホログラムに表示される数値で確認する。
骨格再生剤とナノメディカルによる治療は順調に進み、生命維持に問題はない。
ただし、1週間以上経つが自ら食事を摂ろうとはせず、必要な栄養はすべて点滴で補われていた。
「ホントに、頑固な子だね……」
ディアスは小さく吐息を漏らす。
自分のものにしたくて、ようやく手に入れた。
誰にも渡さず、絶対的に支配し、自分だけの存在にするために。
そのためなら、どれほど時間が掛かっても構わなかった。
戻ってきた部下へ視線を向ける。
「で、首尾よくアレらを捕らえてきたんだろうね。」
穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「オレは短気だからね。あまり時間が掛かると、すごくイライラするんだよ、分かってるよね」
「もちろんですよ、ディア様。エブラハムの脱出艇ごと捕獲しました。一人、大暴れした奴がいて下の者に負傷者は出ましたが、制圧は完了しています」
姿勢を正して報告する部下へ、ディアスは満足そうに微笑んだ。
「よくやったね。ご苦労様。」
懐からレアストーンと呼ばれる希少鉱石を放る。
「これで皆で美味しいもでも食べていいよ」
部下は慌てて受け止め、深く頭を下げた。
「ディア様……部下どもが、その暴れた奴に制裁を加えたいと言ってるんですが。」
「ああ、オマエたちの好きにしな。」
ディアスは全く興味なさそうに、面倒くさそうな表情を浮かべて答える。
「それと、そうだね、捕まえた連中は捕獲室5号室と6号室へ。監視カメラは常時回しておいて。」
「了解しました。」
部下が去ると、執務室は静寂に包まれる。
ディアスは壁面モニターへ視線を移した。
映し出されているのは、医務室で眠るマイトの姿。
自分の部下になれと何度も丁寧に、非常に下手に出て優しく誘った。
しかし彼は一言も答えようとはしなかった。
若くして《エブラハム・ロジャー》を率いる首領となった男が、そう簡単に頷くはずもない。
半年前、遠目から見た彼は、陽気で豪放磊落な、まさに生まれながらの海賊だった。
無言を貫けば状況が変わるとでも思っているのだろうか。
そんなものは、自分を追い詰めるだけだというのに。
本当に……馬鹿な子だ。
あの人とは違う。
姿も顔も、驚くほど似ている。
それでも決定的に違う。
その現実だけが、何度も胸へ突き刺さる。
ディアスは静かに立ち上がると、医務室へ向かった。
新たに手に入れた”切り札”を思い浮かべるたび、胸が僅かに高鳴る。
自動ドアが音もなく開く。
その音に反応し、ベッドの上のマイトが警戒するように顔を上げた。
ディアスの姿を認めると、露骨に嫌そうな表情を浮かべ、視線を逸らす。
両手には拘束具。
自傷防止のため、舌には保護用のガードが装着されている。
味覚は鈍り、満足に話すことさえ難しい。
食欲が湧かないのも当然だった。
「起きていたかな?おはよう、マイト君」
柔らかい口調で挨拶を伝えるが、いらえはない。
「また、だんまりかな。」
ディアスはベッドへ歩み寄り、嘆息を継いでマイトの顔を覗き込む。
整い過ぎたその顔立ちは、思わず見惚れてしまうほど美しい。
その美しい顔で、数え切れない戦場を駆け抜けてきた男。
「……この舌につけられた奴が……話しにくいだけだ。」
マイトは視線を逸らし、舌先でガードを軽く押した。
「で、オレの部下になってくれる気になった? そうしたら、それも手錠も外してあげるけど。」
「……ならねぇって、何度も言ったはずだ。」
不機嫌そうに眉を寄せ、真正面からディアスを睨み返す。
その返事に、ディアスはつまらなそうに肩を竦めた。
だが次の瞬間、不敵な笑みが口元へ浮かぶ。
「でもね。」
掌サイズの携帯ディスプレイを取り出す。
「これを見たら、少しは考えが変わるかなって思って。」
マイトへ画面を差し出した。
そこには捕らえられた《エブラハム・ロジャー》の仲間たちが映っていた。
傷を負いながらも互いを支え合う部下たち。
「……これは……。」
マイトの表情が変わる。
「キサマ……何のつもりだ……!」
ベッドが軋むほど身を起こそうとする。
その反応を見て、ディアスは静かに目を細めた。
作戦は成功だ。
「部下になってくれれば、彼らも君の仲間として丁重に扱うよ。」
慈悲深そうな表情で、柔らかく笑う。
「オレは、優しいからね。」
マイトはディスプレイとディアスを交互に見つめる。
どうすればいい。
どうすれば、皆を助けられる。
その時だった。
ディアスは別の監視映像へ目を移し、小さく眉を寄せた。
「……これが暴れてた奴か。」
画面には、拘束された赤髪の青年が映っていた。
部下たちに取り囲まれ、激しく抵抗している。
「制裁って言っても……やり過ぎだよ。」
「何を……。」
マイトも画面を覗き込み、息を呑んだ。
「……ジェイス!!」
明らかにマイトの顔色が変わる。
「ふざけんな……キサマッ!」
ディアスは無言でマイトを見つめる。
「……そいつが、そんなに大事か?」
低く静かな問いだった。
マイトは睨み返しながら唇を震わせる。
「……やめさせろ。」
「いいよ。」
ディアスはあっさり頷いた。
「でもね、オレは部下に約束したんだ。好きにしていいって。」
少しだけ、困ったような表情を浮かべて間を置く。
「首領が約束を撤回するには、それに見合う理由が必要だろう?」
静かな声が続く。
「だから、代わりがいる。」
ディアスは真っ直ぐマイトを見つめた。
「オマエは、自分の部下のために、その代わりになれるの?」
試すような口調だった。
マイトの唇が小さく震える。
ジェイスを救うために、自分が身代わりになれと言っている。
首領である以上、仲間を守る責任がある。
もし自分がもっと強ければ。
もっと賢ければ。
誰一人、こんな目には遭わせなかったはずなのに。
長い沈黙の末、マイトはゆっくりと目を閉じる。
そして、覚悟を決めたように小さく頷いた。
「……わかった。」
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