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※第25話

深く熱い口づけが、二人の間の境界線を焼き切っていく。  アルコールの熱と、それ以上に沸騰した恋心に背中を押され、マイトは持ち前の野性と男としての本能に従った。 ディアスの細い腰に腕を回し、そのまま深い革張りのソファへと彼を押し倒そうと体重をかける。  大好きなこの人を、自分の腕の中に閉じ込めて、思いきり愛してやりたい。  そんな純粋な欲求に従った行動だった。  ――しかし。 「……え?」  マイトの身体は、ソファへ倒れ込む寸前でピタリと止められていた。  ディアスの白く細い腕が、マイトの胸板を軽く押し留めている。たったそれだけの動作。だが、そこには見た目の華奢さからはおよそ想像もつかない、揺るぎない『圧倒的な力』が秘められていた。  海賊として鍛え上げられたマイトの腕力をもってしても、そのたった一本の腕を押し込むことができない。 「デ、ィアス……?」  戸惑うマイトが息を呑んだ次の瞬間。  ディアスはしなやかな猛獣のような滑らかさで身を翻し、一瞬にして二人の体勢を逆転させた。  ドサッ、と鈍い音を立ててソファに仰向けに倒れ込んだのは、マイトの方だった。  その上に、漆黒のシャツを着たディアスが馬乗りになる形で覆い被さってくる。長い美しい黒髪がサラリと零れ落ち、マイトの視界を甘く塞いだ。 「マイト。君はまだ、オレの『患者』なんだよ」  見下ろすディアスの黒い瞳が、妖しく、そして底知れない熱を帯びて細められる。 「無理をして体を痛めたら大変だ。……今日は、オレが君をたっぷりと愛してあげるから、君はただ、オレの腕の中で気持ちよく鳴いていればいい」 「ま、待てよ!そうじゃなくて、ちがう、 ちがう、から、俺が――んっ……ぁ!」  抗議の声を上げようとしたマイトの唇を、ディアスは再び塞いだ。  だが、今度のキスは先程までの甘いものとは違う。マイトの舌を絡め取り、口内の粘膜を隅々まで味わい尽くすような、濃密で支配的な口づけだった。  同時に、ディアスの冷たい指先がマイトのシャツのボタンを外し、鍛え上げられた褐色の胸板へと滑り込む。 「っ……あ、ひ……っ!」  ビクンと、マイトの身体が大きく跳ねた。  ディアスの愛撫は、単なる手探りのものではない。人体構造のすべてを知り尽くした彼にとって、人間のどこをどう触れれば最も快楽を感じ、理性が溶けるかなど、手にとるように分かっていた。  神経の集中する場所を、的確に、そして恐ろしいほど優しく撫で上げられる。  電流が走ったような甘い痺れが腰の髄から脳天へと駆け抜け、マイトは抗う力すら奪われていく。 「ディア……っ、あ……すげぇ、オマエ……手つき……っ」 「ふふ、ねえ、気持ちいい? 君の身体、とても素直で可愛いよ」  耳元で囁かれる甘い声に、マイトの思考は白濁していく。  自分から抱くつもりだった。男として、この美しい恩人を自分の腕で守り、愛してやりたかった。  だが、現実は全く逆だ。  ディアスの底知れない力強さと、魔法のように官能的な手管の前に、マイトは手も足も出ないまま、ただ与えられる快楽の波に呑み込まれていた。  ――なんだ、この強さは。  ぼんやりとした頭の片隅で、マイトは戦慄に似た驚きを感じていた。  ディアスの奥底には、自分など足元にも及ばないほどの圧倒的な『強者』としての覇気が隠されている。  しかし、恐ろしさよりも、大好きな男に完璧に組み敷かれ、翻弄されているという事実が、マイトの身体をかつてないほどに熱く火照らせていた。 「もう……だめ……っ、だ、ッて、おい、ディアス……頭おかしくなりそうだ……っ」 「オレは優しい男じゃないよ。頭なんて、おかしくなってしまえばいい」  ディアスはあまく冷酷に囁き、マイトの耳たぶを甘く噛みながら、そのベルトのバックルへと手を掛けた。 「過去も、未来も、君を縛る余計なものは全部忘れて。ただ、オレの声だけを聞いて、オレの体温だけを感じていればいいんだ。……マイト、愛している、オレに抱かれてよ」 「あ、わかっ、た。あいしてる、俺も……っ、俺も、ディアス……ッ!!」  熱に浮かされたマイトが、ディアスの背中に腕を回し、すがりつくようにその名を呼ぶ。  『そうだ。もっとオレを求めろ』  マイトの服を剥ぎ取りながら、ディアスは心の中で狂おしいほどの悦びに打ち震えていた。  物理的な暴力で屈服させたのではない。  究極の快楽と甘い言葉で脳髄を溶かし、マイト自身の意志で「抱かれること」を選ばせたのだ。  これこそが、最上級の支配。 「さあ、マイト……オレの全部を、君の奥深くまで刻み込んであげる」  星明かりだけが照らす豪華な密室で、甘い喘ぎ声と水音が溶け合う。  屈強な海賊の首領は、美しい悪魔の完璧な手管によって心身ともに蕩けきり、逃げ出すことのできない快楽の檻へと、自ら喜んで堕ちていった。

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