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※第28話
初めての甘い一夜を境に、二人の関係は劇的に、そして後戻りできないほどに深まっていった。
互いの想いを確かめ合った日から、マイトはディアスの部屋へ通い詰め、何度もその美しくも圧倒的な手管で抱かれた。
それは、恐ろしいほどの『中毒』だった。
ディアスが与える快楽は、人間の脳が耐えうる限界点を容易く突破する。神経を直接焼き切るような絶頂を脳髄に刻み込まれたマイトの身体は、夜が来るたびにディアスの体温を、匂いを、そして自分を貫く熱い楔を求めて、芯から甘く疼くようになっていた。
――しかし。
「……マイト? どうしたの、さっきから落ち着かない様にそわそわして」
豪華な私室のソファ。手元のデータパッドから視線を上げたディアスが、不思議そうに小首を傾げた。
純白のシャツを着崩したその姿は、相変わらず息を呑むほど美しい。
しかし、ここ数日、ディアスは夜になっても甘いキスを交わすだけで、それ以上マイトの身体に触れようとはしなかった。
「あ、いや……っ、なんでもねぇよ!」
マイトは慌てて足を止め、手元にあるグラスの氷をカラカラと鳴らして誤魔化した。
誤魔化しきれていないことは、自分でも分かっていた。
ディアスの長い指先を見るだけで、下腹部に重く熱い血が溜まっていくのが分かる。
最後に抱かれてから、たった数日。
それなのに、身体の奥底が空洞になったようにスースーと冷たく、ディアスに埋めてもらわなければ狂ってしまいそうだった。
なんで……最近、俺を抱いてくれねぇんだ……
自分に飽きたのか。
それとも、日中の激務で疲れているのか。
悶々とした思考が頭を巡る。男同士だ、自分から誘うなんて恥ずかしくてできない。
恩人であり、思いを寄せている相手に対して、発情した犬のように「抱いてくれ」と乞うなど、エブラハムの首領としてのプライドが許さなかった。
だが、ディアスがページをめくるたびに微かに香る甘い匂いが、マイトの理性を容赦なく削り取っていく。
身体が、内側から熱を出したように火照り、指先が微かに震える。
「……マイト。顔が赤いよ。ガレージの作業で、熱でも出した?」
ディアスが心配そうな顔を作り、データパッドを置いてマイトの額に手を伸ばしてきた。
その白く冷たい手が肌に触れた瞬間、マイトの限界はあっけなく決壊した。
「――っ、ディア……スっ!」
マイトは額に触れたディアスの手首をガシッと掴み、そのまま縋り付くように彼を押し倒した。
「わっ……マイト?」
「ちげぇ……っ、熱なんかじゃねぇ……っ」
ソファに背を預ける形になったディアスを見下ろし、マイトは荒い息を吐いた。
顔は火の出るように真っ赤に染まり、蒼い瞳は熱に浮かされたように潤んでいる。恥辱と情欲が混ざり合い、泣き出しそうなほど切羽詰まった表情だった。
「……なあ、俺のこと、嫌いになったのか?」
「えっ? まさか。どうしてそんなこと」
「だって……最近、全然、俺のこと……その……触って、くれねぇから……っ」
消え入りそうな声で絞り出された言葉。
ディアスは目を見開き、そして――内心で、歓喜のあまり震え出しそうになるのを必死に抑え込んでいた。
『そうだ。もっとオレを求めろ。狂うほどにオレの熱を乞え』
最近手を出さなかったのは、もちろん計算だった。
快楽漬けにした身体から、あえて一時的に『薬』を抜く。そうすれば、禁断症状に耐えきれなくなった獲物は、自らプライドをかなぐり捨てて足元にひざまずく。
「……ごめんね、マイト。君の仕事が忙しそうだったから、疲れさせちゃいけないと思って、我慢していたんだ」
ディアスは極上の優しい嘘を吐き、掴まれていた手を解いて、逆にマイトの熱い頬を両手で包み込んで優しく撫でる。
「君は……、マイトは、オレに、触ってほしいの?」
退路を断つような、甘く残酷な問い。
マイトはもう、エブラハムの首領としての矜持も、男としての意地も、すべてを投げ打っていた。
「……ああ、ディアスに、俺は……抱かれたい。アンタの熱がほしい……っ」
真っ赤な顔のまま、マイトは自らディアスの胸元に顔を埋め、服越しにその身体へすり寄った。
「俺、おかしくなっちまったみたいだ……っ。夜になると、アンタに抱かれたくて……身体の奥が疼いて、我慢できねぇんだ……。頼むから、俺を……ディアスのもので、いっぱいにしてくれ……っ」
それは、完全なる屈服の証明だった。
自分を破壊した悪魔に向かって、自ら「もっと壊してくれ」と泣きついているのだ。
ディアスはマイトの金色の髪を撫でながら、ターバンの下で、背筋が凍るほど嗜虐的で、暗い悦びに満ちた笑みを浮かべた。
「……可愛いな、マイト。君からそんな風におねだりしてくれるなんて、夢みたいだ」
ディアスはマイトの身体を抱き返し、その耳たぶを甘く噛みちぎるように甘噛みした。
「いいよ。君が欲しがるなら、オレの全部を注ぎ込んであげる。君がオレなしじゃ、一秒も生きていけなくなるくらいに……めちゃくちゃに愛してあげるからね」
「あ……っ、ディア……スっ、あぁっ!」
ディアスの手が服の下へ潜り込み、的確に急所を撫で上げた瞬間、マイトの口から甘く甲高い声が跳ねた。
自ら差し出した首輪を、ディアスが完璧に引き絞った瞬間だった。
密室に響く、切実で淫らな声。
もう、誰もこの男を止めることはできない。マイトはディアスの与える快楽という絶対的な支配の前に、心から喜んでみせる完全な『虜』となってしまったのだった。
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