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第31話

冷たい人工の風が吹く展望デッキ。  人気の少ない暗がりで、マイトは壁に背を預け、ズルズルとしゃがみ込んだ。  両手で顔を覆い、深く、重い溜息を吐き出す。 「……俺は、どうすりゃいいんだ……」  ディアスを愛している。それは紛れもない真実だ。  だが、オヤジから預かった船と、俺を信じてくれているジェイスたちを捨てることなんてできるわけがない。  どちらを選んでも、大切なものを裏切ることになる。引き裂かれそうな葛藤に、マイトはギリッと唇を噛んだ。 「――こんなところで、何を悩んでいるの?」  不意に、静寂を縫うように甘い声が落ちてきた。  顔を上げると、いつの間にかディアスが立っていた。薄暗い照明の中でも、その美貌は恐ろしいほどに際立っている。 「デ、ディアス……」 「祝勝会を抜け出してくるなんて。君の仲間たちが寂しがるよ?」  ディアスはしゃがみ込み、マイトと同じ目線になると、その苦悩に満ちた顔を白い両手で優しく包み込んだ。 「……ディアス。俺、もうジェイに黙ってるのが辛ぇよ」  マイトは縋るように、ディアスの腕を掴んだ。 「あいつ、船が完成してすげぇ喜んでた。あと一ヶ月でここを出るって、信じ切って笑ってたんだ……。俺があいつを裏切って、あんたとこんな関係になってるなんて知ったら……っ」 「だから、言わなくていいと言っただろう?」  ディアスはマイトの言葉を遮るように、その唇に自らの唇を重ねた。  迷いを、罪悪感を、すべて溶かして奪い去るような、深く麻薬のような口付け。 「んっ……ぁ……」 「君は何も悪くない。オレが君を愛して、君がオレを愛している。それのどこが裏切りなんだい?」  唇を離し、ディアスはマイトの耳元で甘く、粘りつくように囁いた。 「あと少しだよ、マイト。あと一ヶ月経てば、すべてが終わる。それまでは、何も考えず、ただオレの腕の中で君の好きなように息をしていればいい」  マイトは震える腕でディアスを抱きしめ返し、その温もりに完全に身を委ねてしまった。  罪悪感に苛まれながらも、ディアスの与える「逃げ場」から、もうマイトは一歩も動くことができない。  その背中を優しく撫でながら、ディアスの黒い瞳だけが、来るべき「完全なる絶望のシナリオ」を思い描き、冷酷な弧を描いていた。

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