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※第38話
孤独と快楽の狭間で、マイトの精神は静かに、しかし確実に腐食していた。
ディアスの腕の中で甘い熱に溺れながらも、脳裏を掠めるのはジェイスのあの視線だ。
彼が去り際に投げかけた、救いようのない絶望と軽蔑に満ちた眼差し。それは、かつての誇り高き首領としてではなく、一頭の家畜として見下ろされた、決定的な決別だった。
「……汚れてる、俺は……」
マイトはディアスの胸に顔を埋めながら、自分自身の身体を内側から食い荒らす嫌悪感に震えた。
自分で望んだことだ。ディアスという悪魔の手を取り、その腕の中で生かされる道を選んだのは他ならぬ自分自身だった。
誰に強要されたわけでもない。ただ、楽になりたくて、あの甘い毒に自分から口をつけたのだ。
しかし、その代償はあまりに重かった。
ディアスに首輪を繋がれ、夜な夜な雌のように腰を振り、所有の痕を愛おしげになぞられるたび、マイトの奥底にある「自分」という核が、ドロドロとした汚濁に飲み込まれていく。
今の自分は、ディアスという猛獣の愛玩動物――「メス」に成り下がってしまった。
「あぁ……っ、ディア……っ、俺、汚ねぇ……っ」
マイトはディアスの鎖骨のあたりに爪を立て、すがるように縋り付く。
ディアスはそんなマイトの自虐を嘲笑うことなどしない。
むしろ、その罪悪感すらも自分への愛着の一部だと確信し、より深く、より逃げられない場所へマイトを縛り付けるように、抱きしめる力を強めた。
「汚れてなんていないよ。……君がどれだけ汚れても、それを見つめて、その汚れを愛でるオレという存在がある限り、君はオレの美しい標本だよ」
ディアスはマイトの涙を舌先で舐め取り、なおもその身体を自身の快楽で塗り潰す。
「自分で選んだ」という事実は、マイトの逃げ道を完全に塞いでいた。
罪悪感に苛まれれば苛まれるほど、マイトはその苦しさから逃れるために、さらにディアスの快楽を貪らざるを得ない。
ジェイスの冷たい瞳を思い出すたびに、マイトの心は自己嫌悪で真っ黒に染まっていく。
だが、その汚濁に染まれば染まるほど、彼はディアスなしでは立っていられない「メス」として完成されていく。
逃げ場のない自己嫌悪と、ディアスに汚される悦びの板挟みの中で、マイトは泣きながらその肉を咥えこんでいる。
マイトの自己嫌悪は、ディアスにとっては最高級のスパイスだった。
「まあ、ある意味、……ふふ、汚れてる、そうかもしれないね」
ディアスはマイトの背に回した手を滑らせ、腰のくびれをねっとりと愛撫した。マイトが「自分で選んだ」という事実は、彼にとっての呪いであり、ディアスにとってはマイトを一生離さないための最強の鎖だ。
「でも、君が自分自身を『汚れている』と強く思うほど、その汚れた身体を求めてしまうオレの執着も深くなる。君のその罪悪感が、オレの愛をより鮮明にするんだよ」
「……ッ、やめろ……っ、見ないでくれ……っ!」
マイトはディアスの視線から逃れようと頭を振るが、ディアスは容赦なくマイトの顎を固定し、鏡の前に引きずり出した。
映し出されたのは、ディアスに刻まれた幾重もの所有の痕と、乱れきった寝衣を纏い、瞳を潤ませてディアスの腕に絡め取られている「メス」になり果てた自分の姿だ。
「ほら、見てごらん。誰の目にも、君が堕落して汚れて、どれほどオレのものか一目でわかるだろう? ジェイスが見たのはこれだ。君が自分自身を差し出し、快楽に蕩けきって、オレの愛に溺れている、この無防備で淫らな姿だよ」
突きつけられた残酷な現実に、マイトは息を呑んだ。
そう、ジェイスのあの眼差しは、自分がかつて「若」として信じていた理想が、泥のように崩れ去った瞬間を見たものだったのだ。
「あぁっ……っ、ちがう……っ、俺は……っ」
「いいんだよ、マイト。誇りも仲間も、全部オレが壊してあげた。君に残っているのは、オレに抱かれて、そのたびに泣くことだけだ。……自分を責めれば責めるほど、その心は空っぽになり、オレという色だけで満たしやすくなる」
ディアスはマイトの耳を甘噛みし、その熱い吐息を荒い呼吸の中に混じらせた。
マイトは自分の精神が崩壊していく音を聞いていた。ジェイスへの罪悪感、自分への軽蔑、そして何より、そんな自分を「愛している」と囁きながら蹂躙するディアスへの抗いがたい依存。
矛盾に耐えきれず、マイトはディアスの首にすがりつき、獣のように鳴いた。
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