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第2部 第2話
通信回線越しに響く総長官の冷酷な声が、レディルの耳を容赦なく打った。
『――エリア長レディル·マース。これ以上の交戦は許可しない。直ちに全軍を退避させろ』
「っ……! 総長官、なぜですか! 今まさに敵の戦線を切り崩しているところだ。ここで退けば、ブラック・シールドを追い詰める好機を永遠に逃すことになる!」
レディルが声を荒らげても、通信の向こうの冷酷な声は微動だにしない。
息子の不祥事を隠蔽し、組織の醜聞を表に出さないための身勝手な圧力。それが理由であると分かっていても、現場を預かるレディルにとっては耐え難い屈辱だった。デスクを殴りつける拳が、白く軋む。
だが、軍の規律と絶対命令の前には、現場の権限など無力だった。
あの「自分の声に酷似した癪に障る野良犬」の首根っこを捉えかける寸前だったというのに、上の権力によってまたしても水泡に帰そうとしている。
レディルは血を吐くような悔しさを冷徹な仮面の下へと押し込めると、直轄部隊の全チャンネルへと重い指令を飛ばした。
「……各機へ通達する。これより本作戦を中止し、全軍直ちに宙域から離脱せよ。繰り返す、撤退する!」
『エリア長!? いま優勢に……!』
「命令だ! 質問するな、即座に退避しろ!」
レディルの叱咤に押されるように、宇宙警察の巡邏艦隊や迎撃機は、次々と機首を反転させていく。
その頃、まさに敵機を追い詰めていたマイトのコクピットでは――。
「ち、ッ、逃がすかよ……ッ!」
照準器の赤く輝くロックオンの網のなかに、逃走しようとする警察の迎撃機を捉えた瞬間だった。マイトの愛機が放つプラズマキャノンが唸りを上げようとしたまさにその時、目の前で優勢に展開していたはずの警察機たちが、一斉に機首を翻し、加速して逃げ始めたのだ。
「――は?」
マイトは操縦桿を握ったまま、思わず間抜けな声を漏らした。
下腹部の最奥で、今朝ディアスに仕込まれた玩具が微かに脈打ち、熱を伝えてくる。その背徳的な快感に背中を押され、もっと暴れたくて仕方がなかったマイトにとって、この急な敵の逃走は拍子抜けを通り越して不快でしかなかった。
「おいおい、嘘だろ!? まだこっちはエンジンが温まったところだぞ! エリートのくせに、口だけ威勢よくて、いざとなったらこれかよ!」
マイトは通信機を叩き、吐き捨てるように悪態をついた。
「逃げる足だけは一人前だな、ワンコさんよ! 次にそのケツを見せたら、宇宙の塵にしてやるぜ!」
捨て台詞を残し、マイトは愛機のエンジェルハニーを急反転させる。
血湧き肉躍るドッグファイトの熱と、下腹部を焼く甘い刺激が混ざり合い、マイトの息は荒く乱れていた。
ま、いいか。早く戻れるし、ディアスに今日の戦果を報告しねぇとな。褒めてもらえるかもだし……。
戦闘の興奮と、淫らな快感に濡れた肉体を抱え、マイトはブラック・シールドの母艦へと機首を向け、不敵に、そしてどこか満ち足りた笑みを浮かべて帰還の途につくのだった。
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