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第2部 第3話
「逃げる足だけは一人前だな、警察さんよ! 次にそのケツを見せたら、宇宙の藻屑にしてやるぜ!」
優勢に戦いを進めていたはずが、突如として一斉に反転し、逃げるように去っていく警察部隊を目撃したマイトは、操縦桿を叩きながら盛大に悪態をついた。
下腹部の玩具が熱を放つ中、欲求不満と怒りを抱えたまま、マイトはブラック・シールドの母艦へと機体を帰還させた。
整備室に機体を放り投げ、マイトは足早にディアスの執務室へと向かった。
重厚な自動ドアが開き、執務室に入ると、そこにはいつもの優雅な佇まいでデスクに向かうディアスの姿があった。
「お帰り、マイト。見事な迎撃だったね」
「見事もクソもあるかよ! まったく腑に落ちねぇんだよ、ディアス!」
マイトは不満を隠そうともせず、ディアスのデスクに両手をドシンと突き出した。
「せっかくオレが、わざと隙を見せて奴らを奥まった宙域まで引きずり込み、まとめて全滅させるための罠に嵌めるところだったってのに……! なんであいつら、あんな中途半端なタイミングで一斉に尻尾巻いて逃げ帰っちまったんだよ!」
マイトの蒼い瞳には、欲求不満と怒りが入り交じったギラギラとした光が宿っている。
海賊として生きてきた誇りと戦闘衝動が、消化不良を起こして暴れまわっている。
下腹部の玩具がそれに反応するかのようにわずかに熱量を増し、マイトはかすかに息を荒げた。
「あいつらの指揮官、確か『エリア長レディルなんとか』とかいうヤツだったはずだ。あんな日和あんぽんたんのせいで、俺の天才的な作戦が台無しだぜ」
――その瞬間。
部屋の空気が、凍りついたようにピタリと静まり返った。
ホログラムを探っていたディアスの手が、ぴたりと止まる。いつも余裕を湛えていたその美しい顔から、血の気が引くような冷徹な衝撃が走り、マイトのアイスブルーの瞳孔が微かに縮み上がった。
……レディル……?だ、と。
脳裏を突き刺すように蘇る、8年前の記憶。
自らの手で、その命を絶ったはずの親友。
血塗られた体温を奪い、自らの手で葬り去ったはずの、かつての『唯一無二』の名前。
息がこと切れたのを、確かに、オレは確認した。
死んだはずの男の名前が、今、目の前の狂犬の口から「敵の指揮官」として告げられたのだ。
まさか……生きているのか……?
いや、そんなはずは――!
ディアスの内に、底知れない動揺と、忌まわしい過去の亡霊が黒い渦となって立ち込める。
だが、それはほんの一瞬の出来事だった。異常なまでの自己統制力でその動揺を飲み込み、ディアスはゆっくりと顔を上げた。
「……いま、なんて言った?」
低く掠れた、しかし尋常ならざる冷気を孕んだディアスの声に、マイトは怪訝そうに眉をひそめた。
「ん? だから、あそこのエリア長とか指揮官の名前だよ。レディルとかいう……、レディル·マースだかな、って、おい、どうしたんだよディアス? そんな青い顔して……」
マイトが怪訝そうにのぞき込もうとした瞬間、ディアスはすっと立ち上がり、冷酷な仮面を貼り付けた美しい笑みを浮かべた。
しかし、その黒い瞳の奥底には、かつてないほど激しい狂気と、計り知れない執着の炎が揺らめいていた。
レディル……生きていたというのか。
自分の傍らに立っていた親友。
今は、自分にはマイトがいる。代用品とは、もう思えないほどに執着している。
波立つ感情をねじ伏せ、ディアスは滑らかな足取りでマイトへと歩み寄る。その冷たく美しい指先が、マイトの開いた胸元を乱暴に掴み、引き寄せた。
「なんでもないよ。マイト」
普段よりもどこか切っ先が鋭い、狂気を孕んだ甘い声。
ディアスはマイトの耳元に唇を寄せ、ゾッとするほど熱を帯びた囁きを落とした。
「君のその溜まった欲求を晴らすための特別授業だ。今夜は、罠を完遂できなかった君に、一晩中たっぷり、オレが君をその罠に嵌めてあげるよ、マイト」
過去の亡霊の気配に激しく揺さぶられた苛立ちと独占欲をぶつけるように、ディアスはマイトの身体を強く抱き寄せた。
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