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第2部 第6話
砂塵の舞う惑星クロネの寂れた酒場を後にし、マイトは再び自分の愛機『ハニーエンジェル』へと向かっていた。
下腹部の奥では、特殊なプラグと尿道のパルスが微細な振動を刻み、かつての仲間との別れに湿る暇すら与えないほど、濃厚な熱を絶えず送り続けられている。
「ふぅ……さてと、長居は無用だな。ジェイには悪いけど、俺は俺の居場所に帰るだけだ」
愛機に飛び乗り、手際よくコックピットのハッチを閉めると、マイトはスロットルを押し込んで一気に大気圏外へと突き抜けた。
機体をブラック・シールドの母艦がある宙域へと向け、ワープドライブの準備を整えようとした、その時だった。
『――そこまでだ、ハニーエンジェル。貴艦の航行を停止し、直ちに船体をスキャンさせろ』
突然、メインコンソールに警告音と共に割り込んできたのは、無機質で冷徹な宇宙警察の公式通信だった。
モニターには、漆黒とシルバーに彩られた洗練された宇宙警察の特務巡洋艦が2隻、マイトの退路を完全に塞ぐようにワープアウトしてくる姿が映し出されている。
「はっ……? なんだよ急に……!」
マイトが舌打ちをして操縦桿を引き絞ろうとしたが、すでに遅かった。
周囲の空間が微かに歪み、強力な重力子干渉ネットがハニーエンジェルの周囲を包み込む。
エンジン出力が急激に低下し、愛機はぴたりと宇宙の闇の中に固定されてしまった。
『警告する。貴艦および操縦者は、宇宙法違反およびブラック・シールドとの密通、ならびに機密保持法違反の容疑がかかっている。無駄な抵抗はやめ、我が方の拿捕部隊の指示に従え』
「ふざけんな、俺はただの帰還途中だっつーの!」
マイトは悪態をつきながら手動でシステムを再起動させようとしたが、宇宙警察の制圧ハッキングによってコクピットの計器類が次々とロックされていく。
まったく命令を受付けなくなっている。
手動運転に切り替えようとしても、それすらできない。
ガシャ、と重く乾いた音が響き、ハニーエンジェルの外部ハッチに宇宙警察のドッキングチューブが強制結合されたのが分かった。
――よりによって、こんなタイミングで宇宙警察の検問に引っかかるなんて。
ジェイスとの別れに浸っている暇もなく、マイトの脳裏によぎったのは、直前まで通信で話していた美しくも冷酷な主人の姿だった。
「……やべぇ。これ、マジで怒られるんじゃねぇのか……?」
ブラック・シールドの母艦に戻ると約束しておきながら、よりにもよって途中で宇宙警察に拿捕されるという失態。
遅くなった上に、場合によっては取り調べのせいで予定通りのベッドに戻れなくなる。
『おや、マイト。どうしたのかい? 通信が突然途切れたかと思えば、君の機体の周囲に何やら見慣れないノイズが混ざっているようだがね』
ロックされた通信の隙間から、まるでマイトの焦りを見透かしているかのように、ディアスの低く甘い声がプライベート回線を叩いて滑り込んできた。
その優雅でありながらも、底冷えするような静けさを孕んだ声に、マイトの背筋が一気に凍りつく。
「あー、その……ディアス? えーと、ディアスさま?ちょっと誤解なんだけどさ……」
『誤解、ね。君はオレに、必ず戻ると誓わなかったかい?』
「誓った! 誓ったけどよ、いま宇宙警察の野郎どもに船を拿捕されて、身動きが取れなくなっちまってさ……!」
マイトが冷や汗を流しながら言い訳を紡ぐと、通信の向こうのディアスは、小さくフッと息を漏らして笑った。その笑い声には、怒りよりもむしろ、歪んだ歓喜と底知れない独占欲がたっぷりと含まれていた。
『なるほど。可愛い犬が、帰りの途中でよそ者どもに捕まって檻に入れられていると、いうわけだね』
「あ、待てよディアス、自分で何とか——」
『いいや、動かなくていいよ、マイト。……オレの大切な所有物に手を出した愚か者どもがどうなるか、母艦からたっぷり教えてあげなければならないようだね』
ガチャン、と通信が一方的に切れる。
直後、ハニーエンジェルのエアロックが荒々しくこじ開けられ、宇宙警察の突入部隊の足音が響き渡るのだった。
マイトは呆然と天井を見上げた。
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