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第2部 第13話
宇宙警察の拠点内にある、エリア長専用の豪華な一室。
天井まで届く重厚なパノラマウィンドウの向こうに広がる暗黒の宇宙を背景に、レディル・マースは手元の端末に映し出されたデータに目を落としていた。
そこには、医療チームから密かに引き上げたマイトの最新カルテ情報、過激な自白を記録した音声ファイル、そしてあの冷徹な取り調べ室での映像が表示されている。
「……ふむ」
画面に映る、拘束衣を着せられた荒くれ者の顔。
整った目鼻立ち、わずかに吊り上がった気の強そうな瞳、そして挑発的に歪められた口元――。
映像の音声から、取り調べ官が報告する緊張交じりの声が響く。
『――エリア長。身柄を拘束したその海賊ですが……顔だけは、貴方に瓜二つでした。最初は、貴方の影武者か、あるいは組織が作り出したクローンかとも疑いました。しかし……男の生体データと照合した犯罪履歴を洗ったところ、記録は10年以上前から途切れることなく存在しています。クローンにしては経歴が古すぎる』
「10年以上前から……、ねえ」
映像の男の顔と、窓ガラスに映る自身の顔を見比べながら、レディルは深く背もたれに体を預けた。グラスの中で氷が微かにカチャリと音を立てる。
単なる他人の空似にしては、顔立ちのパーツだけでなく、骨格や纏う空気感まで一致しすぎている。クローン説が否定されるとなれば、可能性は一つしかなかった。
レディルは端末の操作パネルに新たなコマンドを入力し、部下へ直接指示を飛ばす。
「……余計な推測は要らない。すぐにその男の完全なDNA検査データをこちらへ転送させろ。それと、組織の古い極秘データファイルから、20年近く前の『ゴーダ宙域遊覧船襲撃事件』の記録をすべて引き出せ」
命令を終えると、レディルは再び映像の中のマイトをじっと見据えた。
彼がディアスの元でどのような調教を受け性被害を受けているとか、そんなことはどうでもよかった。レディルの胸のざわつきの原因は別にある。
「……20年前、か」
呟いたその言葉に、遠い日の記憶が蘇る。
当時、一族で乗っていた大型の高級遊覧船。
それが突如として凶悪な宇宙海賊の襲撃を受けたあの日の光景は、今でも脳裏に焼きついている。
混乱と爆発の炎に包まれた壊滅的な状況の中、レディル自身は両親と共に奇跡的に救助され、一命を取り留めた。
しかし、あの惨劇の混乱の最中、双子の弟――グラムだけが忽然と姿を消し、行方知れずとなったのだ。
乗船者は半数以上が粉々に吹き飛び、幼児が宇宙の真空を生き延びられるはずもなく、公的機関の調査によって「死亡」が正式に認定された。
それなのに。
今、目の前のモニターの中で、狂気に満ちた眼差しを向け、組織の犬であることを誇らしげに語る海賊「マイト」。
直感的に分かる、これは自分と同じ生き物だと。
クローンでも、他人の空似でもないとしたら。もし本当に、あの時死んだはずのグラム·マースなのだとしたら。
レディルの端正な唇が、わずかに歪む。
あの時生き延びた双子の弟が、あのような狂った海賊に成り下がり、愛しいディアスの手によって身も心もボロボロに調教し尽くされている。
「……面白い。DNAの適合結果が出るのが、これほど待ち遠しいとはね」
レディルは底知れぬ冷酷さが入り混じった不敵な笑みを浮かべながら、宇宙警察の厳重なセキュリティの奥深くで進められているDNA検査の完了を、静かに待つのであった。
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