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第2部 第19話

ブラック・シールドの旗艦、その最奥に位置する船長専用の特別医療室。 無機質なバイタルモニターが放つ青白い光だけが、窓のない薄暗い室内を静かに照らし出していた。 ディアスは、他の軍医や船員たちをすべて部屋から締め出し、たった一人でマイトの介抱にあたっていた。誰の目にも、誰の不浄な手にも、己の愛しい所有物を触れさせることなど――たとえ医療行為であっても絶対に許せなかった。 清潔な白いシーツの上に横たわるマイトの身体は、目を覆いたくなるほど惨憺たる有様だった。 警察の独房から連れ戻されるまでの間に強引に引き抜かれたピアスの痕は赤く腫れ上がり、無理やり引きちぎられた医療カテーテルのせいでデリケートな粘膜はズタズタに傷ついている。 逃走の最中に自ら脱臼させた右腕は、素人の手ではめ直したせいで痛々しく変色し、不自然に歪んでいた。 極度の栄養失調と、身体に刻み込まれていたパルスや依存の離脱症状で、そのかつて引き締まっていた肉体は一回りも二回りも細くやつれ果てていた。 「……こんなになるまで無茶をして、オマエは誰の許可を得てそんなにボロボロになっている」 ディアスは低く掠れた声で呪詛のように呟きながら、自らの手でマイトの右腕の関節を慎重に嵌め直し、冷たい医療用の再生ジェルをその傷口に手ずから塗り込んでいく。 次に、マイトの痛む胸元にバイタルスキャナーの冷たいパッドを貼り付けようとした、その時だった。 「……んっ……、あ、そ、じゃない、ちげぇよ……」 掠れてか細い、消え入りそうな声とともに、シーツの上でマイトの指先がわずかにピクリと動いた。 熱と疲労で重く鈍った手が、スキャナーを持ったディアスの小指のあたりを、すがるようにかろうじて引っ掴む。 「マイト。……目を覚ましたのか」 ディアスがハッと息を呑んで見下ろすと、マイトは脂汗と高熱に濡れた金髪を痛ましげに揺らし、虚ろで熱に浮かされた青い瞳を、やっとの思いでディアスの方へと向けた。 「そんな……機械、も、いらねぇよ……っ」 「馬鹿なことを言うな。お前の身体はすでに限界を超えている。神経も、内臓もボロボロだ。せめて点滴と正確なバイタルを……っ」 「うるせぇ……から……っ」 マイトは痛む身体をよじろうとしたが、衰弱しきった筋肉は満足に動かず、ガクンと力なくシーツの上に沈み込んだ。 半身を起こすことすらできず、ただ枕に頭を預けたまま、ディアスの首元へと細い腕を這わせるのが精一杯だった。 ひどく熱を帯びた吐息が、ディアスの耳元に弱々しくかかる。 警察の独房で味わった、気が狂うほどの喪失感と渇望。 身体の奥の奥までディアスに支配され、彼なしでは息をすることすら苦痛に感じるように作り変えられた肉体が、限界を迎えた命の灯火を振り絞って「主の熱」を求めていた。 「も……、ずっと、からっぽのまま、だったんだぞ……。プラグも、ピアスも、アンタの匂いも、ぜんぶとられて……俺、あたま、おかしくなりそうで……っ」 「マイト、しゃべるな、無理をするな……」 「だからさ……こんな機械より、アンタが……欲しいんだよ……っ。おれ、もう動けねぇからさ……アンタの方から、中を……いっぱいにしてくれよ……っ!」 涙目で、それ以上にどうしようもない欲情を滲ませて、縋るように掠れた声を必死に絞り出すマイト。 己の命が削げ落ち、肉体が使い物にならなくなっていることなど構わず、ただひたすらにディアスという存在だけを貪欲に求める。それだけをたよりに、戻ってきたと。 その歪みきった姿に――ディアスの中でギリギリ保たれていた理性の糸が、ブツンッと音を立てて完全に千切れた。 「……あぁ。……ああ、そうだよ。オマエはオレのものだ。オレだけの、愛しい犬だ……ッ!」 ディアスの瞳に、抑え込んでいた喪失への恐怖、愛するものを奪われた身を切るような怒り、そして歪みきった愛のすべてが、黒い炎となって爆発した。 手の中にあったバイタルスキャナーを無造作に床へ投げ捨てる。 ディアスは痩せ衰えたマイトの身体をそっと、しかし逃がさぬようにベッドへと覆いかぶさるように押し倒した。 「あぐっ……!」とマイトが微かに甘い悲鳴を上げるのを塞ぐように、ディアスはその唇を乱暴に、しかしどこか焦がれるように激しく塞いだ。 「んっ、んあぁっ……! あ、あ、ディア、す……っ!」 「お前を失って、オレがこの2週間、どんな思いでいたか……! 誰かに触れられたかもしれないと想像するだけで、お前のその痕跡を少しでも汚した奴らを、今すぐ全宇宙ごと燃やし尽くしてやりたかった……ッ!」 唇を離したディアスの声は、普段の冷静さなど微塵もない、剥き出しの狂熱と独占欲に震えていた。 マイトの白くやつれた肌に容赦なく噛み付き、赤い痕を残しながら、ディアスは震える手でその弱った身体を慈しむように、そして貪るようにまさぐる。 「治してやる……から。ぽっかり空いたその惨めな空洞も、オレがすべて……元以上に埋め尽くしてやる……!」 「あ、ああ、してくれ……! あぁっ、いいぜ……もっと、めちゃくちゃにしてくれよ……! 俺は、アンタだけの……アンタだけのモンだ……ッ!」 冷たい医療システムの電子音は、か細い喘ぎ声と荒い吐息にかき消されていく。 壊れかけた肉体が悲鳴を上げようとも、互いの存在を貪り合うことでしか埋められない歪な魂の飢え。 「んっ……あ、ンンッあッ……! ディア、ス、す……き」 ディアスの容赦ない口付けに、マイトは喉の奥で甘く掠れた声を漏らす。 飢餓感を埋めるように、互いの舌が激しく絡み合い、唾液と微かな血の味が混ざり合う。 マイトは痛む右腕を庇いながらも、無事な左腕でディアスの広い背中を縋るように掻き毺った。 「マイト……オレの、可愛い犬……っ」 唇を離したディアスの瞳は、どす黒い情欲と独占欲に濁りきっていた。 彼の手が、マイトの汗ばんだ肌を這う。警察の手によって無惨に引き抜かれた乳首のピアスの痕を、ディアスは指の腹で強く擦り、そのまま鋭い犬歯を立てて噛み付いた。 「あぐっ……!? う、あ、ッんであ……っ!」 激痛と、それ以上に脳髄を直撃する強烈な快感が、マイトの背中を大きく反らせる。 「……ここも、ここもだ。誰が外していいと言った……。お前の身体に空いた穴はすべて、オレが繋ぎ止めるためのものだというのに」 ディアスの舌が、傷ついた粘膜を執拗に舐め上げ、新たな唾液と熱でマーキングしていく。 その痛みを伴う愛撫は、マイトの狂いかけていた神経回路に、強烈な安堵と悦楽のスパークを呼び起こした。 「ンはッ、あ……! もっと、もっと噛んでくれよ……っ。俺の身体から、あの真っ白な部屋の記憶も、……全部、アンタの痛みで上書きしてくれ……っ!」 マイトの懇願に、ディアスは獣のような低い唸り声を上げ、マイトの下腹部――己が刻み込んだトライアングルの焼印へと顔を埋めた。 その火傷の痕に何度も何度も深くキスを落とし、まるでそこからマイトの魂そのものを吸い上げるかのように愛撫する。 「マイト、お前の身体も心も限界だ。……だが、もう手加減はしてやれない」 「いらねぇよ、そんなもん……ッ。こわれてもいいから、俺をだいてくれ……っ!」 その言葉が引き金となった。 ディアスはマイトの細い腰を強く掴み、ぽっかりと空洞にされていた最奥へと、自らの熱く硬い質量を容赦なく一気に沈み込ませた。 「――――ッ!! ンンッあ、ぁあああッ!!」 プラグによる持続的な快感が途絶え、収縮しきっていた内壁が無理やり押し広げられる。 引き裂かれるような激痛。 しかし、それ以上に「主人の絶対的な楔」が再び自分の中を満たしてくれたという圧倒的な充足感が、マイトの脳内でエンドルフィンを爆発させた。 「はぁっ、はぁっ……! ディアス、い、あ、きちゃ、ああ、きちゃう、あぁっ……ディアスぅ……っ!」 「マイト……ッ、なんて熱い……。お前の中は、こんなにオレを求めて、泣き叫んでいるじゃないか……っ」 ディアスはマイトの左手と指を絡め合い、シーツに強く縫い付けると、荒々しいストロークを開始した。

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