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第2部 第20話
「んぁっ! あ、あっ、く、う、あンッはぁっ……! 凄い、奥……アンタが、俺の奥に……っ!」
激しい衝撃がベッドを軋ませる。
マイトのボロボロの肉体は、動くたびに全身の関節と傷口から悲鳴を上げていたはずだった。
しかし、ディアスが打ち込んでくる容赦のない熱と、耳元で囁かれる狂おしい愛の言葉が、すべての痛みを極上の快楽へと変換していく。
「オマエはオレのモノだ……。誰にも触れさせない。オマエの魂はオレの手の中にある……!」
「そ、うだ……ンッあ、っ。俺は、アンタのだ、からっ。アンタ以外に、もう、息もできない身体にされちまったんだから……っ、たりねえ、アッ……ッンンッンッ!」
マイトの瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。
それは苦痛ではなく、絶対的な帰属意識と、死地を乗り越えてようやく愛しい主人の腕の中へ帰ってこられたという、魂からの歓喜の涙だった。
ディアスはその涙を美しく長い舌で舐めとり、マイトの唇を再び深く塞いだ。
「あぁ……愛しているよ、マイト。お前が朽ち果てるその瞬間まで、オレがすべてを支配してやる」
ずちゅっずちゅっと容赦なく最奥を打ち据えられるたび、マイトの視界は真っ白に弾け飛ぶ。
離脱症状による悪寒や震えは、すでにディアスの与える圧倒的な快楽の濁流に飲み込まれ、跡形もなく消え去っていた。
「あ、ンンっ、ああ、イク、あ、いく……っ! ディアス、俺、もう……っ!」
「一緒にイこう、マイト。オレのすべてを、お前の中に注ぎ込んでやる……ッ!」
ディアスが最後の一際深い一撃を打ち込んだ瞬間、マイトの身体が弓なりに反り上がり、声にならない絶叫とともに、甘い絶頂の波が二人を同時に飲み込んだ。
マイトの体内を焼くように満たしていく、熱く濃密な主人の証。その絶対的な熱量を感じながら、マイトはガクガクと痙攣し、放心したように息を荒らげた。
「はぁ……はぁ……っ、ぁ…あああ、はあ、ンンッふ………」
事後の静寂の中、ディアスはマイトの身体から抜け出すことなく、その汗ばんだ額にそっと唇を落とすと、マイトは力なく目を伏せて、唇だけに笑みを刻みがくんと力が抜けていく。
「……よく生きて、帰ってきたね」
先ほどの狂熱が嘘のように、ディアスの声はひどく優しく、そしてどこか震えていた。
彼にとっても、この2週間は地獄だったのだ。
それを悟ったマイトは、なんとか痛む身体をゆっくりと動かし、ディアスの背中に腕を回した。
「もう二度と、オレのそばから離さない。お前を繋ぐ鎖は、さらに重く、太くしてやるから覚悟しておけ」
「……ん……ごめん、な…………」
反論する気力もなく、しかし世界で一番満ち足りた笑みを浮かべるマイトは、そのまま深く意識を落とした。
抱きしめた体の異常に気づいて、ディアスは慌てて、身体を離してバイタルの電極を取り付ける。
「――っ、マイト……!?」
心電モニターの電子音がの間隔は乱れており、繋いだ途端に警告音へと切り替わった。
ビビビ、と冷たく響くその音は、限界を超えて酷使されたマイトの肉体が、いよいよ本当の終着点に達したことを告げていた。
先ほどまでの狂熱と独占欲は一瞬で氷解し、ディアスの顔から血の気がサーッと引いていく。
ベッドの上で、ぐったりと力なく崩れ落ちたマイトの胸元は、もはや自力で呼吸をしているとは思えないほど浅く、小刻みに震えているだけだった。
やつれ果てた顔面は青白く、額に貼り付いた金髪が冷や汗に濡れている。
「ふざけるな……。あんな、寝言を言っている場合か……っ!」
ディアスはその衰弱しきった裸体をベッドの中央へと引き戻した。
震える指先で、近くにあった緊急医療用のパットをマイトの胸元に叩きつけるように貼り付ける。
『警告。バイタル値、急激な低下。ショック状態および多臓器不全の危険性……』
無機質な機械音声が、冷酷な現実を告げ続ける。
自らの手で愛する者を徹底的に壊し、その果てにようやく手に入れたというのに、このままでは本当に「死なせてしまう」という恐怖が、ディアスの背筋を凍らせた。
「死ぬな……! 誰の許可を得て、そんな簡単にオレの前から消えようとしている……っ!」
ディアスは冷静さを完全に失い、医療室の壁面パネルを乱暴に叩き割る勢いで操作した。
自動で点滴スタンドがスライドし、高濃度の強心剤とナノマシンを含んだ蘇生薬のチューブがマイトの静脈へと自動的に接続される。
「目を覚ませ、マイト……! オレの許しなしに、お前が勝手に眠ることは許されない……っ!」
ディアスの必死の呼びかけにもかかわらず、マイトの瞼は重く閉ざされたまま、微動だにしない。
ただ、冷めきった室内の青白い光だけが、ボロボロになりながらもようやく主人のもとへ帰ってきた愛犬の命の灯火を静かに照らし出していた。
自動で接続された点滴から、高濃度の強心剤とナノマシンがマイトの静脈へと急速に送り込まれていく。
医療室のスピーカーから鳴り響いていた警告音が、数分にわたる絶望的な格闘の末、ようやく単調な、しかし確実な生存を告げる電子音へと変わった。
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
ディアスは冷や汗にまみれた手で自分の額を拭い、荒い息を整えた。
心臓の停止こそ辛うじて免れたものの、マイトの生命維持データは危険域のすれすれを不安定に揺れ続けている。バイタルモニターの数値は一向に安定せず、少しでも気を抜けば再び奈落へ落ちていきそうな危うさを孕んでいた。
「……くそっ……!」
ディアスはベッドの脇に膝をつき、ぐったりと眠ったままのマイトの顔を両手で包み込んだ。
肉体はナノメディカルの強制的な修復によってどうにか繋ぎ止められているが、精神ダメージは底知れない。
警察の独房での尋問や、身体から奪われた証、中毒からの離脱状態、そして極限状態での交わり。
そのすべてが過負荷となって脳を焼き、マイトの意識は深い昏睡の底から浮上してこなかった。
目を覚ませ……。オレを焦らせるな、マイト……ッ。
普段の絶対的な支配者としての余裕は、どこにも残っていなかった。
愛しい所有物を自分の手で壊しかけたという恐怖と、いつまたその命が指の間からこぼれ落ちてしまうかもしれないという焦燥感が、ディアスの胸を激しくかき乱す。
どれだけ完璧に鎖で繋ぎ、どれほど執着を示しても、器そのものが壊れてしまっては意味がない。
マイトが自らの意思で再び目を開け、あの憎まれ口を叩き、自分をその青い瞳に映してくれるまで――。
ディアスは眠ることも許されず、ただ青白い光の中で怯えに似た焦燥を抱えながら、血の気が引いた愛犬の身体を必死に抱き締め続けるしかなかった。
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