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第3話「柴山健太」
※第3話は柴山視点のお話のため、
主軸『』←は柴山になりますのでご注意くださいませ。
『俺はいま…
いや…ずっと昔から、好きな人がいます。』
第3話「柴山健太」
「おーい柴。パトロール行くぞー。」
『はい!いま行きます!』
先輩に呼ばれた俺は、手元にあった書類を引き出しにしまい。パトカーへと向かう。
俺の名前は、柴山健太しばやま けんた。
秋田県出身秋田育ち、大学を卒業後上京。
そしていま、ここ神奈川県横浜市犬善区鼓汰町の交番に勤務している。
『お待たせしました。』
「おう。」
俺は運転席に乗り込み、
シートベルトを装着すると。
今日の巡回ルートの再確認のあと
車を発進させ、いつも通りの巡回をはじめた。
そして車を発進させてしばらく経った頃…
「そういえば、柴山。」
助手席から先輩の熊子守くまごもりさんがいつになく真剣な声色で話しかけてきた。
『はい。』
カチカチカチカチ
ウィンカーの音が車内に鳴り響く。
「おまえ…。」
車が信号で止まると熊子守さんが顔を覗き込んできた。
『えっと…なんですか?』
「おまえ………女でも出来たか?」
『………はぁ…またその話ですか。いませんよそんな人。』
信号が変わり車を発進させる。
「本当かぁ?」
『本当ですって。何回目ですかこの話。そろそろハラスメントで所長に報告しますよ。』
「だってよお!おめぇ最近非番の日はおめかしして決まって何処かに出かけてるみてぇじゃねぇか。」
俺はパトカーを公園横に停める。
『なんで熊子守さんがその事、知ってるんですか!?』
「なんでって、そりゃあ花咲のばあちゃんから聞いたに決まってんだろ。」
花咲さんは交番によく世間話をしにくる近所のおばあさんだ。花咲さんの情報網と口の軽さは町内一と言っていいほどであり、彼女の手にかかれば次の日には町内全体に噂が広まってしまうほどだ。
『…花咲さん…ということは、もうご近所さんには大分広まっちゃってるってことじゃないですか…。』
納得がいった。最近やたらとパトロール中にご婦人方から、頑張ってね。と声をかけられることが増えていて、てっきり公務のことかと思っていたが…そういうことだったか。
俺は再び車を発進させると、公園の駐車場へと入る。
「(おばあちゃん口調で)もう~!あたし!びっくりしちゃったんだから!柴犬ちゃんったらおめかしして出かけていったと思ったら、いつも嬉しそうな顔して帰ってくるんだもの!あれはきっと彼女よ!彼女が出来たのよ!…って興奮気味に言ってたぞ~。」
《柴犬》とは、俺の相性だ。
柴山健太だから、略して柴犬。
近所の子どもに呼ばれたところを花咲さんに聞かれてしまい、そこから町内一気に広まった。まぁ、名前を覚えて貰えてるということでこれはこれで良い事だと思っている。
「…んで?実際のところどうなんだよ?彼女じゃないにしろ、気になる女でも出来たか?」
『だからそんな女性いませんって。』
俺が気になっている人…好きな人は女性ではないから、嘘はついていない。
「んだよ!甘酸っぺぇ話聞けると思ってたのによぉ~。」
口をへの字にしてふて腐れる熊子守さんを横目に見ながらため息をつきシートベルトを外す。
『はい。もうこの話は終わりです。着きましたよ。』
「へーい」
ここ鼓汰町自然公園は広大な敷地面積ということもあり、ゴミの不法投棄が多く巡回を強化している。
パトロールを開始すると大きなローラー滑り台付近でこどもの泣いている声が聞こえた。
「えーーーーーーんママぁぁぁぁぁ!」
「あんだぁ?迷子か?」
俺は直ぐにその子に駆け寄る。
『こんにちは。お母さんとはぐれちゃったのかな?』
突然目の前に現れた大柄の男に驚き少年は更に大きな泣きだしてしまう。
「びやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
『あぁ!ごめんごめん!いきなりでビックリしちゃったよな!』
俺は胸のポケットに手をいれ、中から小さな柴犬のマスコットキーホルダーを取り出した。
『こんにちは!オイラ、豆太郎!よろしくワン!』
俺は声を少し高くしてマスコットを動かしながら少年に再度話しかける。
少年は泣きやみジッと豆太郎を見つめる。
『きみの名前を教えてくれるかな?』
「……グスッ……まおり……。」
『まおりかぁー!よろしくだワン!なぁ、まおり、今日はママと2人で公園に来たワン?』
「ううん。ママとかいちゃんと。」
『そうか!ママとかいちゃんと来たのか!かいちゃんはお友達?』
「ううん…まおりはかいちゃんのおにいちゃんなの。」
『まおりはかいちゃんのお兄ちゃんなのかー!格好いいな!何歳なんだ?』
「4さい…」
かいちゃんは弟さんか…まおりくんは4歳…いうことは、もしかしたら…
俺は後ろに居た熊子守さんとアイコンタクトをとる。熊子守さんが頷く。きっと同じ考えだろう。
「すべりだいであそんでたらいつの間にかママとかいちゃんがどっかいっちゃって…グスッ…」
再び泣きそうになるまおりくんの前に俺はすかさず豆太郎の頭を向ける。
『まおりくん、頭なでなでしてほしいワンッ!(裏声)』
「ブッフォーwww」
後ろで熊子守さんが吹き出す。
『(小声で)ちょっと!熊子守さん笑わないでくださいよ!』
「あぁっ…ヒッ…わ…わりぃ…わりぃ…ブフッ!!」
熊子守さんは笑いながらもその場を離れてまおりくんのご家族を探しにいった。
まおりくんは豆太郎の頭を小さな手の指先で優しく撫でる。
『お!良かったな豆太郎!撫でてもらえて!まおりくん!撫でるの上手だなぁ!豆太郎気持ちいいってよ!』
「ほんと?まめたろう…きもちいい?」
『ありがとうワンッ!(裏声)』
…////////我ながら恥ずかしい。こんな姿、他の誰にも見られたくない…特にあの人だけは…。
「あれ?まおりっち?」
背後から聞き覚えがある声が聞こえた。
…まって…この声…まさか…
振り返るとそこには…
佑一「やっぱり、まおりっちだ!どうしたの?」
佑一さん!?どうしてこんなところに!?
いやそんなことより…や…やばい…見られたぁぁぁぁ!ぁぁぁぁあ!!!
よりによって一番見られたくない人に!
どうする?俺、どうする?
俺はすぐにまた後ろを向き思考を巡らせる。
まおり「ゆうくぅぅぅぅん!!!!!」
まおりは佑一にかけより泣きながらしがみつく。
佑一「おうおうおう。どしたどした。」
佑一は、まおりを抱き上げ背中をぽんぽんたたいてあやしはじめる。
まおり「…グスッ…グスッ…すべりだいであそんでたら、ママとかいちゃんどっかいっちゃったー…ヒック…」
佑一「そかそか、そりゃビックリしちゃうよな~頑張った頑張った。」
まおり「そしたらまめたろうがきてくれて、あたまなでなでしてたの。」
佑一「まめたろう?」
ビクゥッ!!!!!!
俺の身体が大きく揺れる。
やばい…まずい…どうしよう…どんな顔をすればいいんだ。
佑一「あのう…お巡りさん!」
お巡りさん?…あれ?もしかしてバレてない?
俺は急いで豆太郎を胸ポケットに戻すと、帽子を深く被り直し、服の内側に忍ばせていたサングラスとマスクを身に付けて振り返った。
『は、はい!』
佑一「(このお巡りさん…なんでサングラスとマスク姿なんだ?)…えっと、この子ぼくの親友の子で。いま連絡するので。えっとその…この子のそばにいてくださりありがとうございました。」
『いえいえ、そんな。』
良かったー。バレてないみたいだ。
「まおりーーーーーーっ」
遠くの方から女性の声が聞こえた。
まおり「ママぁぁぁぁぁ!!!」
安心からか佑一に抱えられながらも再び大声で泣き出すまおりくん。
「あれ?てら?」
視線の先には、赤ちゃんを抱き抱えたショートカットヘアーの女性と熊子守さんの姿があった。
佑一「もな!何処言ってたんさ、まおりっち大号泣よ。」
もな「ごめん。迷惑かけたみたいで。お巡りさんもすみません。」
『いえいえ、良かったです!無事に見つかって!でも小さな子ひとりだと危ないのでなるべく目を離さないであげてくださいね。』
もな「本当にすみません。」
もなさんは俺と熊子守さんに頭を下げると、佑一さんが抱えたまおりくんの頭を撫でる。
もな「まおりーごめんねー。」
佑一「どうしたんさ?まおりっちから目離すなんてらしくないやんけ。」
佑一さんのこの口調めずらしい!
聞けて嬉しい…!
俺は心の中でガッツポーズを決める。
もな「いやそれが、かいらがうんちしちゃったからオムツ替えようと思って、まおりにオムツ替えに行くよーって言ったんだけど…まおりが滑り台で遊んで待ってるっていうから..念押しでそこから動かないように約束もしたんだけど…いや、これは私が完全に悪かったわ…ごめんねまおりー。」
佑一さんは、俺と熊子守さんに
すみませんと小さく頭を下げた。
まおりくんが落ち着くと
おりると言って佑一さんの腕から離れる。 そして俺の元へとトテトテと走り寄ってきた。
俺はしゃがみサングラス越しに視線を合わせた。
『どうしたー?』
まおり「あのね…まめたろうにね…ありがとうっていっといてね。」
『うん!わかった!ちゃんと豆太郎に伝えとくからな!』
まおり「あとね…おにいちゃんもありがとうね。」
まおりがニッと笑った。
『!!!!…どういたしまして!でもママの言うことはちゃんと聞かないと駄目だぞ~!』
そう言いながら俺は、まおりの頭をくしゃくしゃと撫でた。
遠巻きに佑一さんがものすごい表情でこちらを見ている気がしたけど…こちらも直視出来ないので実際のところ分からなかった。
まおり「ばいばーーーーい!」
もなさんは俺と熊子守さんに頭を下げ、まおりくんは手をブンブン振っていた。
俺も手を振りかえした。
本当は大きな声を出して返事をしたかったけど…声を出したら絶対に隣にいる佑一さんにバレる!ごめん!まおりくん!お兄さんは今保身を優先してしまった…警察官失格だ…!
それにしても佑一さんは何故まだここに?
てっきり一緒に帰るものかと…。いや隣に居てくれるのは嬉しいんだが。出来ることならずっと隣に居てほしいんだが。いやでもこのまま隣に居られるとバレてしまう。
そんなうるさい思考が脳内を駆け巡っていた時、佑一さんがくるっと身体をこっちに向けて再び大きく頭を下げた。
佑一「お巡りさん!本当にありがとうございました!あの、これもしよかったら…」
そういうと佑一さんは手に持っていた買い物袋から、緑茶を2本取り手渡してくれた。
『いや、そんな、お気持ちはありがたいのですがいただけません!』
熊子守「お!ありがとな!兄ちゃん!」
『ちょっと熊子守さん!』
佑一「あれ…お兄さんの声…どこかで…」
しまったぁぁぁぁあ!
つい声を戻してしまった!
ヤバイ今度こそバレたか?
いや平常心だ。誤魔化せ。誤魔化すんだ俺。
『(声を少し変えて)私の声がどうかしましたか?』
佑一「あ…いやすみません。ちょっと知り合いに似ている気がしたのですが勘違いだったみたいです。あ、ご迷惑でなければお茶は遠慮せず受け取ってください。」
『そんな!迷惑ではないのですが…』
熊子守「ったく!おめぇは無駄に真面目すぎんだよ!こういうときはありがたく受け取ってお礼を伝えるのが筋ってもんだろうがよ!」
佑一さんは熊子守さんの方を向くと
「お巡りさん!話分かるタイプのお巡りさんですね!はじめてお会いしましたが、その感じ好きです!」
好きです!?!…え?…佑一さん…もしかして熊子守さんみたいな人がタイプなんですか…え…え?
俺が勝手にショックを受けている横で
佑一さんと熊子守さんが親指を突き立ててグッジョブサインを送りあっていた。
俺は溢れ出る冷や汗を拭くためズボンのポケットからハンカチを取り出し顔の汗を拭く。
佑一「!!!お巡りさん!そのハンカチ!!」
佑一さんが近づいてきてハンカチをジッと見つける。
『…えっと…ハンカチがどうかされましたか?』
佑一「あ!いや!すみません!素敵なハンカチだなぁーって思って!色んな色の柴犬が描いてあってかわいいですね!」
ほっ。なんだ…ハンカチの柄が気になってただけか。
『ありがとうございます。お気に入りなんで嬉しいです…』
すると佑一さんは
「良い趣味してますね!」と、かわいらしい笑顔を俺に向けてくれた。
か、かわいい。でもいま佑一さんは俺だと気付いてない状態でこの笑顔を俺に向けてるわけであって…すこしモヤッともした。
俺以外に、この笑顔見せないでほしいな…。
なんて図々しい思いが頭をよぎってしまった。
佑一「あ!やばい!今日推し(個人VTuber)のレアな夕方LIVE配信決まってたんだった!おまわりさんごめんなさい!ぼくもこの辺で失礼致します!本当にありがとうございました!では!」
『いえいえ、こちらこそありがとうございました!』
佑一さんはニコッと笑うと、少し急ぎ足で出口へと歩き始めた。
あ!お茶のお礼!
俺は声を張り上げて
『あの!!!』
俺の声に反応して佑一さんが振り返る。
『お茶!ありがとうございました!大切にします!』
そういうと佑一さんはふふっと笑ったあと、
「どういたしましてー!でも大切にしなくていいのでちゃんと飲んでくださいねー!」
佑一さんは再び頭を下げ出口へと向かう。
俺はその姿が見えなくなるまで見送った。
熊子守「なんか、清々しい兄ちゃんだったな!」
『はい…。』
熊子守「ところでなんでおめぇサングラスとマスクなんかしてんだ?」
『あっ…。』
巡回が終わり署に戻ると、
夜勤との交代の時間になり
一通りの引き継ぎ作業を終えたのち
帰りの支度を始めた。
熊子守「ふぃー帰るぞー!お疲れちゃーん。」
『お疲れ様です。』
俺はワイシャツに着替えターコイズ色の波のような柄のネクタイを結ぶ。
するとそのネクタイが気になったからなのか、後ろ歩きで熊子守さんがUターンしてきた。
「おい、柴!おめぇそのネクタイすんげぇ良いじゃねぇか!よく似合ってる!」
『ははっ!ありがとうございます。お気に入りのネクタイなので嬉しいっす。』
「ほっほぉ~。」
熊子守さんは俺の顔を見るなり、
ニヤニヤしながら腕を組みうんうんと頷いた。
『な、なんすか。』
「いんや~!かぁーっ!青いねぇ~!ごっそーさん!じゃ、お疲れちゃーん!」
上機嫌に鼻唄を歌い、車の鍵を人差し指でくるくるしながら熊子守さんは更衣室を後にした。
『お疲れ様です。』
俺はロッカーに映る自分の顔を確認した。
…俺ってそんなに分かりやすいのか?
佑一さんの顔を思い浮かべる。
…はぁ…。
早くまた会えるといいな…。
第3話「柴山健太」
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