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第4話「はじめてのチケット争奪戦」
※第4話は柴山視点なので、
主軸『』←は柴山になります。
俺は今日も、
佑一さんの勤めるアパレル店に来ている。
第4話 「はじめてのチケット争奪戦」
佑一「うーーーん。こっち…いや、こっちか?…
うーーーーーーん。」
佑一さんが俺に2種類のワイシャツをあてながら、どちらが良いか悩んでくれている…
…幸せだ。でもやっぱり毎回緊張するな。大丈夫かな…今日の俺、汗臭くねぇかな…
「赤柴か…いやでも黒柴もすてがたい…」
佑一さん、今日もかわいいな…。
まつげ長いな。目くりくりしてるな。
「んーーーー…決めた!!!こっち!!」
佑一さんは大きくうん!と頷くと
右手に持っていた赤毛の柴犬の刺繍が入ったワイシャツを少し上げた。
『悩ませてしまってすみません。でも、寺川さんが選んでくださって嬉しいです。』
俺の言葉で佑一さんの表情が一瞬強ばった気がするが、気のせいか。佑一さんは直ぐにいつもの笑顔にもどり
『俺も柴山くんのお手伝い出来て嬉しいよ!』と伝えてくれるとそのまま赤柴犬刺繍のシャツを抱えながらレジへと案内してくれた。
レジへ向かう途中店内BGMが次の曲へと替わり、イントロが流れはじめると佑一さんが立ち止まる。
「あ!!!《アオーン・ニュー・ワールド》」
《アオーン・ニュー・ワールド》とは、
ティロニー映画の人気作
【アルディーン】で一番有名な劇中歌だ。
曲が流れはじめてから佑一さんの身体が曲に合わせて少し揺れている。
『寺川さんこの曲お好きなんですか?』
そう聞くと佑一さんは満面の笑みで頷いてくれた。
「うん!ティロニー作品の中で一番好きな曲!昔家族でティロニーランドに行った帰りによく聴いてたっていうのもあるんだけど、映画本編のアラディーンとカモミールが魔法の座布団で夜空を飛びまわるシーンが本当に良すぎて…あ、だめだ…思い出したら泣きそう。」
佑一さんは俺に背を向け目頭を押さえて上を向いている。
『あのシーン俺も好きです。魔法の座布団にアルディーンがカモミールの手を引いてエスコートするシーンも素敵ですよね。』
すると佑一さんはグイッと振り返り、俺の顔に近づく。
「わかる!!!!!!!あの時のアルディーンのセリフ本当に好き!」
『あっ!あの台詞ですか?』
『「俺を信じて!」』
俺と佑一さんの声がハモった。
俺たちはお互いの顔をみてふふっと笑い合う。
佑一さんはニヤリと笑うと
「柴山くん…君も中々に分かる人だね…」と楽しそうに言ってくるので、俺も似た表情で
「いえいえ、寺川さんほどでは…」と返した。
俺たちは再び堪えきれず笑い合った。
…あぁ…幸せだな…。
お会計を終えると佑一さんが急に何かを思い出したみたいで、あっ!と声をあげた。
『どうかしましたか?』
「柴山くん!まだ時間ある?」
?
『は、はい。大丈夫ですよ。』
「よかった!ちょっとまってね。」
??
佑一さんはスマートフォンを取り出し何かを探しはじめる。
「えーっと…確か…この辺に…あ、あった!」
???
「柴山くん!これ見て!」
差し出されたスマホの画面に表示されていたのは、
『えーと…《【アラディーン】35周年記念フィルムオーケストラ》…へー!こんなイベントがあるんですね!どんなイベントなんですか?』
俺が尋ねると佑一さんは目をキラキラさせて得意気にかつ少し早口で答えてくれた。心なしか鼻息も荒い気がする。
かわいいなぁ…。本当にこの作品が好きなんだな。
「このイベントはね!ざっくり言うと大スクリーンで【アラディーン】の上映会をするっていうイベントなんだけど!ただの上映会イベントと違って劇中に流れる音楽が全部オーケストラの生演奏なの!すごくない?!しかも今回は35周年記念っていうこともあって、なんとオリジナルボイスキャストのみなさんもご登壇されるっていう、例えるなら白玉あんみつに、きな粉・黒蜜・さくらんぼに加えてマスクメロンがのっちゃいました!みたいなそれはそれはすごいオタクホイホイな神イベントすぎて、え?いいんですか?って発表された瞬間しばらく時が止まったよね。」
『そんなにすごいイベントなんですね!いつ開催されるんですか?』
「それがなんと来週の金曜日なんです。」
『おお!来週!』
……………。
『寺川さんは…その…行かれるんですか?』
俺の問いに佑一さんはちょっとだけ目を泳がせながら、
「あ…えっと…ちょうどその日休みだし行きたいな~とは思っているんだけど、チケットが明後日から発売でまだ買えてなく…。そもそもちゃんと買えるかもまだ分からなくて…。」
!!!
『来週開催なのに明後日から発売なんですか?意外とチケット発売から公演日までが近々なんですね。俺あまりこういうイベント行ったことなくてあまり詳しくないのですが、いつもこんなに直前での販売なんですか?』
「いやそれが!今回は割と特殊なケースで!!箱が小さいからか、あっ!箱っていうのは開催する施設のことなんだけれども!人気作だし久しぶりの上映会ということに加えてオリジナルボイスキャストの登壇付きフルオーケストラときたもんだから運営も中々に強気で今までにないギリギリ短期販売なんだよね今回!」
佑一さんはひとしきり話終えると、ハッとした顔をしてそのまま恥ずかしそうにうつむいてしまった。か…かわいい。
「そ、そんな争奪戦待ったなしの状況なのによりによって明後日のチケット販売時間がちょうど仕事中で…多分チケットページ覗く頃には完売しちゃってると思うんだよね。」
『チケットそんなにすぐなくなっちゃうんですね。』
「そうなんです。」
あぁ…佑一さんかシュンとしてしまった。
…俺がチケット取るので、一緒に行きませんか?…って誘ったら流石に気持ち悪がられるかな…
いや、でも悩んでる場合じゃないだろ俺!
目の前を見ろ!佑一さんがこんなにしおらしくなっちゃってかわいい…じゃなくてかわいそうだろ!
それにこんな機会もう訪れないかもしれない!
漢気みせろよ俺!
俺は決意を固め勇気を振り絞る。
『あの!』
客「すみませーん。」
俺の決意と勇気と声は他のお客さんの声に掻き消されてしまった。
佑一「あっ!はーい!ただいま伺います!
ごめんね健太くん!引き止めちゃって!たくさん話聞いてくれてありがとね!」
『あ、いや、えっと!こちらこそ、今日もありがとうございました!赤柴シャツ大切に着ます!』
俺の言葉を聞いた佑一さんはニコッと笑う。
「またいつでも来てね!たくさん話せて嬉しかったよ!」
『俺もです!えっとこの後もお仕事頑張ってください!お邪魔しました!』
「柴山くんもお仕事ほどほどに頑張ってね!」
『はい!…ありがとうございます。』
俺にいつもパワーをくれる、
佑一さんの一言。
オーケストラには誘えなかったけど、
俺は今、こうしてまたあなたと目を合わせて話が出来ている。それだけで本当に幸せなんだ。
…これ以上高望みしたら駄目だよな。
と言いつつ俺は店を出るとすぐにスマートフォンを取り出し、検索をかけた。
[アラディーン オーケストラ チケット 取り方 初心者]
わ!すごいな、こんなにあるのか。
俺は検索に大量に引っ掛かる数多のサイトから分かりやすそうなサイトがないか、画面をスクロールする。
お、これなんか分かりやすそうだ。
俺は、
《大丈夫!!どんな猿でも分かる!!
初心者向けイベントチケットの取り方!!!》
とかかれたリンクをクリックした。
なるほど、チケット販売はネットかコンビニでも買えるのか…ん?でもイベントによって販売サイトも違うのか。なるほど…なるほど…。
「ママーあのおにいさんもしもし(スマートフォン)みてすごいこわいかおしてるよー」
「しっ!指差しちゃいけません!ほらいくよ!」
『……………………』
帰ってから調べよう。
その後、俺はチケットを取る方法を徹底的に調べあげ、《その時》に備え準備をはじめた。
事前にチケットサイトの登録を終え、最新のルーターを購入しネット回線を強くしたり出来る限りの環境を整えた。
そしていよいよその《決戦の時》がきた。
13時55分。あと5分…。
鷹見さんに頼み込んで日勤と夜勤を交代してもらえて良かった。
大丈夫だ。何度もシミュレーションは重ねた。ログインもタイムアウトしない時間を計算して既に済ませた。入力事項も予め入力出来るところは入力済み。万が一に備えてコピー&ペースト機能の準備も出来ている。
よし…
大丈夫だ…
横に置いた電子時計の1秒1秒がとても長く感じる。
音が身体中に響きわたるほど、心臓が激しく動いているのを感じる。
そして、運命のカウントダウンがはじまる。
10…9…8…7…6…
5
4
3
2
1
今だ!!!!!
俺は時刻が変わると同時にチケット購入ページをタップする。
[【只今、アクセスが混雑しております。】
現在、アクセス集中により回線が混雑しております。誠に申し訳ございませんが、しばらく時間を置いてからサイドアクセスしてください。]
………え?
スマートフォンに表示された予想外の文字たちに俺の頭が混乱する。
どういうことだ。どうすればいいんだ。こういう時どうすればいいんだ。
落ち着け俺。落ち着くんだ。
俺は一度前のページに戻ると、再びサイトにアクセスする。
すると、次に表示された言葉は
[ログインが切れました。お手数おかけしますが、再度ログインしてください。]
だーーーーーーーっ!!!!!
俺は額を床に一度強く打ちつけるとすぐに起き上がり急いでログイン情報の入力しチケット購入ページへ戻る。
[予定枚数終了]
終わった…。
無慈悲にも表示されたその一文に
俺の身体は崩れ落ちる。
地面にへばりついた顔を上げ再びスマホに表示された画面をみた時、あったはずのもしもの未来の佑一さんの顔が頭に浮かんだ。オーケストラを観終えて無邪気にはしゃぐその笑顔…。
『一緒に行きたかったな…』
ボソッと漏れでた小さな声も
部屋の静寂に呑み込まれた。
時は流れその日の夜。
気づいたら俺は交番のデスクにいた。
「…ば……」
「おい!柴っ!聞いてるか?」
熊子守さんが机を手のひらでコンコン叩いた時、ようやく俺の意識が戻ってきた。
『え、あっ、すんません。聞いてませんでした。』
「おいおいどうした。らしくねぇな、体調でも悪りぃのか?」
『いや…体調は問題ないんですが…』
やばい、またチケット取れなかった時のこと思い出してしまった。
『はぁ…。』
「なんだよため息なんてついちまってよぉ!まさか色恋沙汰かぁ~」
茶化すようにニヤニヤと熊子守さんは俺の肩をバシバシ叩いてくるが、駄目だ。思考が回らない。何て返せばいいか浮かんでこない。
すると言い返さない俺に何かを察知したのか熊子守さん頭をポリポリ掻きはじめる。
「おいおい、マジかよ……。」
熊子守さんは向かいの椅子に座ると
真剣な顔と声で俺に話しかける。
「なんだ、その子と上手くいってないのか?」
『いや…上手くいってないというか…そもそもはじまってすらいないといいますか…』
俺の頭のブレーキが壊れたように、
思ったことがそのまま口から溢れてしまっている。普段なら絶対に言わねぇのにな。
「ん?つまりなんだぁ?柴の一方通行ってことか?」
『はい…。』
俺は机に額をつけて更に落ち込みの沼に沈んでいく。
熊子守「(こいつがこんなにも自分の感情をコントロールできてねぇところはじめて見たな…さて、どうしたもんかな…)」
熊子守さんは腕を組んだままう~んと何かを考えだした。
「あっ、そうだ。」
そう言いながら熊子守さんは自分のデスクの引き出しから何かを取り出し、取り出したその何かで俺の後頭部をペシペシと叩いてきた。
俺は顔を上げる。
すると、にんやぁ~とした熊子守さんの顔と、その手に握られた2枚の紙が見えた。
『何ですか…?』
「これやるよっ」
言われるがまま熊子守さんから
その2枚の紙を受け取る。
…なんだこれ、何かのチケットか?
俺は紙に書かれた内容を確認するために
両手で持ちなおし、そのままチケットにかかれた文面を読みはじめた。
ええっと…なになに…
《【アラディーン】35周年記念フィルムオーケストラ》関係者招待状…。
…………………。
…………………ん?
………………ん?
…………………
んん!?!?!?!!!!
俺はものすごい勢いで立ち上がり、座っていた椅子をひっくり返してしまう。
ガシャーンという音が部屋の中に響き渡る。
「だぁあ!!!なんだよ!いきなり!!びっくりしたなぁ!!!」
俺は呼吸を整えた後、チケットを両手で握りしめ、顔を近づけ今一度ゆっくりチケットに書かれた文字を読む。
《【アラディーン】35周年記念フィルムオーケストラ》関係者招待状。
ドッカーーーーーーン!!!!!
特撮作品の火薬量で俺の頭の中が爆発した。
『ク、ク、ク、ク、クマゴモリサン…コノチケットハ…イッタイ?』
「ああ、前にうちの嫁さんがバイオリニストって話したよな?それで嫁さんが今度そのオーケストラに出るみてぇでよ。関係者チケット余ってるから職場の誰かにあげたらどうかって言うもんだから持ってきてたんだ。興味ありそうなやついたらあげようかと思ってな。」
…そんな都合の良い奇跡のようなことがあっていいのか、もしかしてこれは夢なんじゃないか?いやそうだ。夢に決まっている。
俺は自分の頬をつねる。
………………。
ちゃんと痛い…夢じゃない。
『熊子守さん!!!!!!』
俺は図らずも再び交番内に響き渡るような大声を出してしまう。
「だぁああ!だからいきなり大声出すなっつってんだろ!!!」
俺は熊子守さんの方を向き手足を揃え深く頭を下げる。
『ありがとうございます!!!!!』
よっしゃ…よっしゃあ!!!!
これで…これで佑一さんを誘える!!!
…っし!!!
「お…おう…」
俺の気迫に少し引いていた熊子守さんだが、
やれやれといった表情に変わると
「まっ、頑張んな。俺はちょっくら仮眠とってくるぜ!」
と俺の背中をバシッと叩くと仮眠室へと向かった。
俺は倒れた椅子をもとの位置に戻すと、
再び両手でチケットを握り
まじまじと見つめた後
『よっっっっしゃあぁぁぁぁぁあ!!!!』
と両手を上げて全力で叫んだ!
「うるせぇぞ!!!!!警察が近所迷惑なことしてんじゃねえよ!!!!」
と熊子守さんの怒号が交番内に響き渡る。
『すみません!!!!!』
第4話「はじめてのチケット争奪戦」
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