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第9話「予約」

第9話は、佑一の過去回想編です。 ただ物語に大きく関わる大切な回ではあるので 読んでいただきたいのですが… 物語の都合上、 ※いじめの表現が含まれております。 苦手な方はご注意くださいませ。 第9話「予約」 ーこれは、俺がまだ中学生の頃の話。 吐く息が白くなりはじめ、 森の木々たちが葉の色を変える頃。 俺は、同級生の野下のげくんに恋をしていた。 「寺~川っ!」 野下くんが後ろから俺の肩に腕を回し引っ付いてくる。 『の…野下くん…!お、おつかれ…。』 俺の照れた反応をみた野下くんはニヤ~と笑うと。 更に俺を引き寄せる。 「一緒に帰ろーぜ!」 『う…うん…帰ろ…!』 野下くんとは小学校の頃からお互いの家に遊びに行くくらいには仲良しの関係性だった。 勉強が出来てサッカーも上手で お調子者で面白い。 そんな彼のことを俺はいつからか恋愛的な意味で好きになっていた。 物心ついたときから女性にときめくことも無ければ好きになった事もなかった、きっと生まれたときから俺の恋愛対象は男の子だったのだろう。 でも俺の周りには男の子が男の子を好きという人は一人もいなかった。 世間での《普通》…当たり前は、 《男の子が好きになるのは女の子》ということだった。 だから、俺は自分の気持ちは表に出してはいけない…自分は異常者なんだと常にそう心のどこかで思っていた。 自分で言うのはあれだが…童顔でわりかし、かわいい類の顔だった俺は男子たちと遊ぶ時になんかよく分からないが俺だけ別枠扱いされることが多かった。 そういうこともあってか、会話にうまく馴染めずに俺は男子よりも女子の友達の方が多かった。 そんな中でも野下くんは、 積極的に話しかけてくれたり 遊んでくれたり… 気づいた頃には俺にとって特別な人になっていた。 帰り道、森の横の道を歩きながら最近やってるゲームの話で盛り上がっていた。 「でさー、その時ポーンが言うんだよ!俺が悪いんじゃねぇ!って!いやお前が悪いだろ!ってイライラしたわー!」 『わかる!あの頃のポーンまじでドクズだもんね!』 ああ…楽しいなと笑い合っていたとき、 野下くんがいきなり俺の手を握ってきた。 「なぁ、ちょっといい?」 顔を少し赤くしながら野下くんは俺の手を引っ張り、森の小道へと入っていく。 『の…野下くん?』 このただならぬ空気感に俺は内心ドキドキしまっていた。 しばらく進んだ頃、 野下くんは立ち止まると振り返り 俺の顔をみていきなり 『なぁ…キスしていい?』 と言ってきた。 !?!?!?!?! 心臓の鼓動が早まる。 『キ…キス…?え…えっと…そんな…いきなり…。』 「嫌?…?」 俺の手を野下くんは強く握る。 『いや…じゃないけど…おれたち…まだ付き合ってもないし…その…』 俺がしどろもどろしているとしびれをきらした野下くんがグイッと顔を近づけてくる。 「俺の事好きなんじゃねぇの?」 どうしよう…どうしよう… 野下くんが顔を近づけてきたその時… 「お前ら…何してんの…?」 「え…こいつら今キスしてなかったか…?」 「おい…まじかよ…」 声の先には三人の同級生がいた。 ヤバイ!見られた! でもなんで…どうして…こんなところに… どうしようどう誤魔化そう! そう俺が思考を巡らせていたら… いきなり野下くんが、 「おい!やめろよ!」と俺の身体を突き飛ばした。 …え? そのまま野下くんは、エナメルバッグを手に取り俺を置いて走り去ってしまった。 俺は何が起きたか理解できなかった。 そして、次の日から 俺の地獄の日々がはじまった。 俺が教室に入ると。 それまで賑わっていた教室が静まり返る。 …?なんだ…。 『お、おはよ。』 俺の言葉に返事を返す人は、一人もいなかった。 なんだろう…この違和感…みんなの視線がなんか…怖い… そして俺が自分の机にたどり着いた時… その違和感の正体が判明する。 死ね キモイ ホモやろう 学校くんな! 菌がうつる ゴミ クズ カス 異常者… 机にギッシリと書かれた数多の言葉の暴力。 え………なんで……なんでいきなり… 俺が混乱していると男子グループの一人が俺にわざとぶつかり、俺は体勢を崩して尻餅をついてしまう。 『きめぇんだよ!学校来てんじゃねぇよ!』 何が起きたか理解できていない俺は何も言い返すことは出来なかった。 そして、ぶつかってきた男子の後ろに俺から視線を反らす野下くんの姿が見えた。 …あ。 俺は全てを理解した。 野下くんがみんなに話したんだ。 きっと、俺が何か言うって思ったんだろうな…だから先手を打って…自分自身に矛先が向く前に…話を改ざんして俺を悪者にしたてあげたのだろう… 俺は…いじめがはじまったことよりも… 大好きだった人に 裏切られたことの方がショックだった。 それから毎日のように いじめは続いた。 物を隠されることなんてざらで、 無視は当たり前。 少しでも誰かと触れようものなら 寺川菌やらホモ菌やらと菌扱い。 死ねやキモイなんて言葉は言われすぎてもう傷つくことすらなくなっていた。 それでも毎朝机の上に書かれる 言葉の暴力だけは本当に嫌だった。 何が嫌だったって、 これを見られて先生に俺がいじめられていることを知られるのが嫌だった。 いや正しくは先生から母親に俺のいじめのことを伝えられるのが嫌だった。 それに先生は実際のところ既にいじめに気づいている。それどころか自分が標的にならないように見てみないフリをしたり、挙げ句の果てには俺が足を引っかけられて転んだところを目撃した際に「ちょっと嬉しそうね」と言ってくる始末だ…俺はこの言葉と先生のあの表情を忘れたいけど一生忘れることは出来ないだろう。 俺は毎日早めに登校し、机の上の言葉の暴力を綺麗さっぱり消すのが日課になっていた。 明確ないじめの証拠を残してしまったら、あのクソな担任でも流石に俺のいじめのことを母に伝えなければいけなくなってしまう。 俺は、母にこの事実が知られなければもうなんでも良かった。 教室に並ぶ36席の机。 後方窓際隅の1席だけが、 薄白く光っていた。 俺が母に知られたくなかった理由は単純。 母にこれ以上負担をかけたくなかったからだ。 中学にあがると同時に両親は別居をはじめた。 母は父に離婚を申し出たが、父は頑なにそれを拒否。 離婚を諦めた母は別居を選択。 俺は母側に、歳が2つ離れた姉は父側へとついていった。 離婚をしていないのでもちろん母子家庭の補助など受けることも出来ず、母は昼夜仕事を掛け持ちして働いて俺を育ててくれていた。 父親は一切の手助けをしてくれなかった。 母は絶対辛いはずなのに、その事は顔に出さずいつも笑顔で…俺に不自由な思いをさせないように両親がいる家庭と何ら変わらないような環境を作ってくれていた。 だから俺は…そんな母に何一つ心配をかけたくなかった。 毎日楽しいよ!生んでくれてありがとう! 俺幸せだよ!って伝えたかった。 少しでも喜んでもらいたかった。 だから俺は、少しでも自分の心を保つために 漫画やアニメ、ティロニーの作品に今まで以上にどんどんどんどんのめり込んでいった。 読んでいる間は…観ている間は、俺はその世界の中にいて嫌なこと全てを忘れられたから。作品たちは、そこに登場する彼らは俺にとってのヒーローだった。 だが、そんな俺にも限界があった。 終わりが見えない底なし沼の様な いじめの日々に、 俺の心は日に日に感情を失っていった。 寒い冬がもうすぐ終わろうとしている、 そんな季節のある日の帰り道。 もういっそ…この世界からいなくなっちゃおうかな…俺が居なくなっても…誰も困らない…俺がいない方が…お母の生活も楽になるし…… …こんな俺を誰も必要としてくれない…。 そんな馬鹿な考えがよぎっていたそんな時。 俺は、 公園の真ん中で泣いている       一人の少年に出会った。 歳は4歳くらいだろうか、 まだ少し肌寒いというのに半袖半ズボンの少年。 両手でズボンの膝部分を握りしめ必死に溢れ出す涙を止めようとしていた。 その姿を見た俺は何故か 泣いている少年に自分の姿を重ねてしまい、 気がついたら駆け寄って 声をかけていた。 『どうしたー?大丈夫かー?』 俺は足を少し曲げ 少年と目を合わせる。 「…グス…………グスッ……」 泣いたままの少年は首を横にフルフルと振る。 辺りを見回しても他に人は居ない。 一人か…。 俺は少年を落ち着かせようと、 彼の頭を右手で撫でる。 『一人で怖かったよなー!頑張ったなー!』 俺が頭を撫ではじめると少年は少し安心したのか泣くのをやめて少しずつ顔を上げた。 目があった。 俺は満面の笑みで 『もう、大丈夫だよ。』と伝える。 『一人で来たの?』と尋ねると少年は 無言でコクリと頷く。 やっぱ一人か~。どうしよ。 『お家どっちか分かる?』 少年は首を横に振る。 そして再び顔が歪み涙がポロポロ溢れ出す。 『あぁ~!ごめんごめん!泣かないで~!ど、ど、どどうしよ!』 なんとか少年を泣きやませようと、俺は何か良いものがないかと自分の鞄を漁る……すると、 『あ!これ!』 俺は今日の家庭科の授業で作った 綿を詰めまくってガタイが良くなっている 柴犬のマスコットを取り出した。 俺は柴犬マスコットを顔の位置まで持っていき、フリフリと動かしながら高い声を当てる。 『こんにちは!オイラ、豆太郎!よろしくワンッ!』 豆太郎を見た少年の涙はいつの間にか止まっていた。それどころか目を少し輝かせている。 『きみの名前を教えてくれるかな?』 「…けんた…」 『けんたか!よろしくワン!』 『けんたは何歳なんだ?』 「…4さい…」 『4歳!カッコいいワン!』 そう言って俺は豆太郎でけんたくんの顔をツンツンする。 嬉しそうにするけんたくん。 …あぁ、良かった。笑ってくれた。 俺も自然と笑みをこぼす。 するとジッとけんたくんが俺の顔を見つめてきた。 『ん?どした?』 そう聞き返すとけんたくんはTシャツの裾をぎゅっと握りうつ向いてしまった。 あらら。 うーん。どうしようかな?このままここで 待っていてもお迎えがくるとも限らないし…うーん…とりあえず一旦交番まで連れていくか。 そう思った俺は再び豆太郎の声で 豆太郎と一緒にけんたくんに声をかける。 『けんたくん!けんたくん!オイラたちと一緒に交番に行くワン!』 「…こーばん…?…」 あぁーそっか交番って言っても分からないかぁー。 俺は今度は自分で話しかける。 『交番っていうのは、お巡りさんがいるところだよ?』 「おまわりさん?」 いまいちピンときていないようだ。 あーお巡りさんもわからないかー…うーん…どうしよ。 俺がどう伝えようか考えていると。 「こわい……おまわりさんこわい…」 と小さな声で言った。 『え?!おまわりさん怖いの?!』 予想外の発言に俺はつい語気を強め聞き返してしまう。 「……わかんない…」 わかんないんかーい! つまりあれか、お巡りさんも交番も何のことが分からないからこそ怖いのか。なるほどなるほど。 うーん…ってことは交番もお巡りさんも怖くないって分かってもらえたら一緒についてきてくれそうだな。 4歳…4歳…好きなもの… ポクポクポクポク…チーン!!!!! 格好いいもの!!!!!(安直な考え) 俺は… けんたくん小さな両手を手に取り、 目を合わせると それはそれはオーバーな演技をはじめる。 『おまわりさんってめっちゃ格好良いんだよな~!』 「…!!!」 『けんたくん!お巡りさんっていうのは、めちゃくちゃ格好いいヒーローのことなんだよ?』 「ヒーロー!!!」 あ、ヒーローは伝わるんだ。 そらそっか、だって靴ブソブソジャーだもんな! 『そうだよ!ヒーロー!格好いいよねー!』 「うん…かっこいい!」 よしっ!心は掴んだ!これは行けるぞ! 『だからさ、お兄ちゃんと豆太郎と一緒にお巡りさんのところ行ってみない?』 そう言うと けんたくんはコクリと頷いた。 『じゃ、行こっか!』 俺は左手で けんたくんの小さな右手を握り 交番へと歩きはじめた。 ジーっとけんたくんが俺の顔を見つめてくる。 か、かわいい。 『ん?どした?』 俺が反応すると。 再び左手で自身の服の裾を掴みうつ向いてしまう。 か、か、か、かわいいーーー! …小さな手が、  いま俺のことを《必要》としてくれている。 その小さな手が俺に、     《ここに居て》     って、そう言ってるように感じた。 俺は少し泣きそうになってしまったが、 絶対泣くわけにはいかない。泣いてしまったら彼はまた不安な気持ちになるだろう。 俺は必死に涙を堪える。 するとけんたくんが 小さな声で俺に話しかけてくれた。 「…おにいちゃん…おなまえ…」 『ん?あぁ!そっかまだ言ってなかったか、ごめんごめん!』 俺は1度立ち止まると少し屈んで けんたくんに目線を合わせ名前を伝える。 『俺の名前は、寺川 佑一!よろしくね!』 「て…らか?」 『ああ!呼びずらいよね!ええと!ゆーいち!ゆーいちくんって呼んでくれたら嬉しいな!』 「ゆーいちくん?」 か、か、か、か、かわちいねぇーーー。 あれ…こうやって素直に…感情が溢れるの…久しぶりだな。 『そ!ゆーいちくん!改めてよろしくね!けんたくん!』 俺は繋いだ手をブンブン振る! 「うん…」と少し照れながら答えるけんたくん。 『じゃ、行こっか!』 「…ゆーいちくんは…」 けんたくんが小さな声で呟く。 『ん?』 俺がけんたくんの顔を見ると けんたくんは俺と目を合わせ 少し身体を震わせながら 「ゆーいちくんは…おまわりさん…すき?」 と聞いてきた。 『うん!大好き!』 俺がそう答えると、 「そっか…」と再びうつ向いてしまう。 んー!?これはどういう感情なんだ? 子供ってわからない!難しい! あっそうだ! 俺は右手に持っていた豆太郎を けんたくんの左手に渡す。 『豆太郎がけんたくんと一緒に居たいんだって!』 「そうなの?」 『うん!ほら豆太郎もそう言ってる!』 俺は声を高くして豆太郎ボイスで 『けんた!オイラ!けんたと一緒に居たいワン!』 「ありがとう…」 けんたくんはすごく嬉しそうに優しくぎゅっと豆太郎を抱きしめる。 『大切にしてあげてね。』 「うん。たいせつにする。」 そしてけんたくんと 色々な話をしながら歩いていたら、 あっという間に交番にたどり着いた。 交番の扉を開け、中にいるお巡りさんに声をかける。 『すみませーん、公園で迷子になってる子を見つけて!』 お巡りさん「ほんとですか!あー!ありがとうございます!」 『いえいえ。』 お巡りさんはしゃがみこんで けんたくんに声をかける。 お巡りさん「こんにちは!」 「こ、こんにちは!」 おおっ!どうしたけんた!さっきまでとは違うハキハキした声じゃないか! そうか、けんたの目にはいまお巡りさんがヒーローに見えてるんだもんな!そりゃテンションあがるよな! おれがうんうんうんうんしていると。 けんたくんが自分から話はじめる。 「おとーさんとおかーさんと、あきたからおじーちゃんちきてて」 お巡りさん「なるほどなるほど!」 そうだったのかーーーー!!!! それ俺も先に聞いておきたかったやつだー! ひと通り聞き取りが終わると お巡りさんが 「あとは、こっちで引き受けますので。もう大丈夫ですよ。」 『ありがとうございます。よろしくお願いします。』 あぁー良かった。でもなんかちょっと別れるの名残惜しいな…。 すると俺の左手を握るけんたくんの手に力がこもる。 「やだ…」 『え?』 「ゆーいちくん…いっちゃったらやだ…」 小さな瞳からまたポロポロと大粒の涙が流れ出す。 …あぁ、ダメだ…尊い…尊すぎる。 「けんたのとなりにいて。」 けんたくんの口から何気なく出たその言葉は 俺の弱りきっていた心を優しく包み込んでくれた。 『………あの!』 俺はお巡りさんに声をかける。 お巡りさん「???どうしました?」 『けんたくんの親御さんが迎えにくるまで、俺も一緒に待っていちゃだめですか?』 お巡りさん「それは全然かまわないけど、時間とか大丈夫?」 『はい!母に連絡いれておくので!』 お巡りさん「わかりました。」 そう言うとお巡りさんは俺に向かって敬礼をする。 お巡りさん「ご協力感謝します。」 俺も「いえいえ」と敬礼を返しちゃったりしてみる。 その姿を見たけんたくんも 俺の真似をして敬礼をする。 交番内に優しい笑い声が響き渡る。 そして数時間後、 けんた母「けんたーーーー!!あー!けんた!けんたー!」 けんた父「けんた!無事で良かった!」 中々家に帰ってこないけんたくんを心配して 遊びに行くと言っていた公園に訪れるも、そこにけんたくんの姿がなく、慌てて家族総出で探していたところにご両親を探していたお巡りさんと遭遇。そして今に至るというわけだ。 よかったね…けんたくん…お父さんとお母さんにあえて…もう…こんなに泣いちゃって…ん?泣いてない!?! けんたくんの母親は泣いているが、 けんたくんは泣くどころか少しドヤ顔だぞ。 わからない!わからないぞ4歳児! けんた母「あら、それ…」 けんた「まめたろう!」 けんた母「まめたろう?」 けんたくんが握っていた豆太郎に気づく。 『ああ!すみません!それ今日僕が家庭科で作ったマスコットなんですが、けんたくんにプレゼントしてしまって…ご迷惑でしたかね?』 するとけんたくんの母親は立ち上がり、首を横に振ると深く頭をさげた。 けんた母「いいえ…いいえ、本当にありがとうございます。」 同時にけんたくんの父親も俺に頭を下げた。 けんた父「けんたのこと助けてくださり本当にありがとうございました!」 『そんなそんな!頭あげてください!当たり前のことしただけですから!』 二人は頭をあげるとお互いの顔をみて優しい笑みを浮かべる。 けんた母「あの何かお礼を」 『いやいやいや!本当に大丈夫ですから!気になさらないでください!それに…』 俺はけんたくんの顔をみる けんたくんはニッと笑うと、 俺もそれに応えてニッと笑った。 『…俺も…けんたくんといろいろお話できて…楽しかったですから!』 そして、お別れの時 さっきまでの自信に満ち溢れてたスーパーけんたくんとは打って変わって、 泣くのを必死に堪えるプルプルけんたくん。 『けんたくん。今日はありがとうね。』 「………………」 けんたくんは無言のまま正面から俺にしがみついてくる。 あらららら。 俺の胸元に顔を埋めると堪えていた涙と鼻水が溢れ出し俺の制服のワイシャツを濡らす。 ああ!っとお母さんが引き剥がすために駆け寄ってくるが、俺はそれを手で静止し 大丈夫ですからと首を振る。 『けんたくん?』 「…グスッ…グスッ…」 『けーんたくん!』 けんたくんはゆっくり顔をあげる。 『また絶対会えるから!』 俺はそう言ってけんたくんのあたまをポンポン撫でる。 「…ほんと?」 『うん!ほんと!』 「ほんとのほんと?」 『ほんとのほんとだよ。』 俺は一回ぎゅっとけんたくんの小さな身体を抱きしめると。けんたくんから離れ立ち上がる。 『じゃあ、またね』 俺はグータッチをするために 握りこぶしをけんたくんに差し出す。 グータッチがわからなかったからなのか けんたくんはその手を両手でぎゅっと包み込むように握ってくれた。 けんたくん、ありがとうね。 俺はけんたくんのご両親とお巡りさんに 頭を下げると、交番をあとにした。 すると、後ろから大きな声で けんたくんの声が聞こえてきた。 「ぼく!!!おおきくなったら       おにいちゃんとけっこんする!!!」 小さな少年は、俺に向かって 真っ直ぐな思いを伝えてくれた。 思いにもよらないまさかの告白に 俺は笑ってしまった。 この笑いはちゃかすような笑いじゃない。 純粋にすごいなって思ったから。 真っ直ぐに思いを伝えてくれて…その気持ちが本当に嬉しくて。 きみの勇気を俺は少しばかりも否定したくなかった…その真っ直ぐな思いを素直にありのまま受け止められたらどれだけ良かっただろう。でもこれから君はたくさんの人と出会う、俺なんかよりもっと素敵な人に、恋ができるよ。 俺なんかじゃもったいない。 叶わない約束をすることも残酷だと思ったから、俺は俺なりの言葉で返事を濁した。 『そっかぁ~俺、予約されちゃったか~!』 俺は一度引き返しけんたくんに駆け寄る。 そしてしゃがみこんで目を合わせる。 「よやく?」 言葉の意味がわからないけんたくんに、 俺はあえて説明はせず笑顔でこう答える。 『そう、よやく!』 第9話 「予約」

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