13 / 20
第12話「優しい人だから」
…………なぁんでこうなっちゃったかなぁ。
俺は、夕方から開催される
アルディーンのオーケストラに行くため
身支度を整えながら昨日の夜の出来事を思い出してため息をついていた。
シュポ
スマートフォンにメッセージアプリのポップアップが表示される。
俺はポップアップを開きメッセージを確認する。
メッセージは親友のもなからだった。
もなみ [こんにちは、今日さん!]
佑一 [こんにちは、今日さん!]
この挨拶は、いつからか始まった俺たちの謎の挨拶だ。意味がわからなくてすごく好きなやつ。
もなみ [寺!今日は、誘ってくれてありがとうー!16時には会場着けると思う。]
佑一 [了解!俺もそんくらい!着いたら連絡するねー!]
俺はアルディーンの《直ぐ行く》スタンプを送る。
シュポ
もなからティーニーの
《もうワックワクで夜しか眠れなかったよ!》スタンプが届いた。
ま!切り換えてこ!
というより切り換えてくしかないんや!
第12話 「優しい人だから」
16時
有明マジカルシアター前。
もな「寺~!おまたせ~!」
もなが右手をヨッ!としながら歩いてきた。
俺もヨッと手を上げる。
『お!もな!おつおつー!』
すると、もなの横から小さな男児が駆け寄ってくる。
まおり「ゆーくーん!」
『おぉー!まおりっち!今日も元気じゃん!』
もなの息子のまおりが俺にダイブハグをしてくる。
今日もかわちいねぇ~!
俺はまおりっちを抱っこすると立ち上がり
もなに抱っこされている赤ん坊のかいらのほっぺをつんつんする。
『かいらもおはよ~』
かいらも嬉しそうにきゃっきゃと笑う。
かわちいねぇ~!!
「今日本当に俺たち来ちゃって大丈夫だった?」
もなの隣から旦那さんの通称ふみちんが申し訳なさそうに言ってきた。
『いやいや!むしろ急に誘っちゃってごめんね!来てくれてありがとうだよ!チケット無駄にしちゃうところだったし!』
アルディーンイベントはファミリーに優しいイベントのため、子どもを膝の上に載せるのであれば子ども分のチケットは不要なのだ。
ふみちん「なら、いいんだけど。ありがとう。」
『いえいえ、どういたしまして!』
俺たちが談笑をしていると、
「あ!佑一さん!」
後ろから柴山くんが俺を見つけて駆け寄ってきた。
もな「ほほぅ…あれが柴山か…」
『あ!柴山くん!お疲れ~!』
柴山「すみません!少し遅れました!」
『大丈夫!大丈夫!入場開始までまだ全然時間あるし、それより…』
俺はポケットからタオルハンカチを取り出し
柴山くんの顔の汗を拭く。
『汗だくじゃん!』
柴山「あ…その…ありがとうございます…」
そんな俺と柴山くんのやりとりを
ニヤニヤしながらもなが見守っていた。
柴山くんは我に返り
もなファミリーに挨拶をする。
柴山「あ!ご挨拶が遅れてしまってすみません!柴山健太っていいます!今日は急なお誘いにも関わらず来ていただきありがとうございます!」
柴山くんが丁寧に頭を下げるともなが
もな「柴山…!真面目じゃん!」
と、目をかっぴらきながら言うもんだから
みんな笑ってしまった。
すると、俺に抱えられたまおりっちがジーッと柴山くんの顔を凝視する。
柴山くんもまおりっちの視線に気づくと
「こんにちは!」と、笑顔で声をかけた!
するとまおりっちは、
「あ!まめたろうのおにいちゃん!」っと柴山くんを指差す。
ビクゥッ!と柴山くんの身体が動いた気がした。
『豆太郎のお兄ちゃん…?…あぁ!こないだの!違うよまおりっち!豆太郎のお兄ちゃんはお巡りさん!柴山くんじゃないよ!』
まおり「えー!ちがうよ!まめたろうのおにいちゃんだよ!ねー!まめたろうのおにいちゃん!まめたろうげんきー?」
柴山「…え、えーっと…」
柴山くんの顔から大量の汗が溢れだす。
『ほら、まおりっち!柴山くん困っちゃってるよ!もうこの話はおしまいー!』
まおり「えー」
むくれるまおりっち。
すると柴山くんがもなとふみちんに
まおりっちを抱っこしていいか尋ね、許可をもらうと。
俺の腕からまおりっちを抱え上げ、
高い高いをはじめる。
高身長から繰り出される本物の高い高いを体感したまおりっちは舞い上がってしまい。
飛行機ごっこをしてと柴山くんにお願いする。
柴山くんは再びもなとふみちんに許可をもらうと、飛行機ごっこをはじめた。
あぁ…なんだあの光景…尊い…尊すぎる……これ…無料で見てもいいやつなんか…?許されるのであれば投げ銭したいのだが?
柴山くんのあの優しい笑顔…
本当に好きだなぁ…
好きなのに…なんでああなっちゃったんかなぁ…とほほ。
時間は少し遡り、
昨日の告白の瞬間。
『柴山健太さん…
俺と付き合ってください。』
俺の告白を聞いた柴山くんはうつむき。
「ちょっと待ってください。」
と一言だけ言うと。黙り込んでしまう。
………へ?
ん?………んん???
ど、ど、ど、どゆこと!?
え、いまちょっと待ってくださいって言った???
え、遠回しに振られた?
え?柴山くん俺のこと好きじゃなかったっけ?え?ん?んんーーー?
俺が大混乱していると。
柴山くんが黙りながらも、
また俺の身体を深くぎゅうっと抱きしめてくれた。
……………。ふぅ…。
俺は深く考えるのをやめて、
ただただその小刻みに震える大きな背中を優しくさすった。
しばらくして、落ち着いた柴山くんは
俺に土下座をする。
柴山「取り乱しちゃってすみません!」
『いやいやいや!なにも謝ることしてないやんけ!顔上げて、柴山くん!』
顔を上げると柴山くんは
「あの…それで明日のイベント…」
あ、これさっきの告白の返事は聞けない空気や。
俺は、しゃーないと自分の心を収める。
『一緒に行こ!』
俺は満面の笑みで答える!
「…っしゃぁぁぁぁあ!!!!」
柴山くんの抑えられない声が部屋に響くと、部屋の外からチョボともそすけとルアの
ワンワン大合唱が聞こえてくる!
「あぁ!すみません!!」
『ブフッ…なんか前もこんなことあったね…フフッ』
「そ、そうですね…フフッ…」
俺たちは笑い合う。
『ごめん!ちょっとなだめてくるね。』
「すみません。」
俺は部屋のドアを開け
『くぅおら!!』とワンコたちをなだめた後、再び柴山くんの前に正座する。
………………。
何故か再び緊張してしまい。
2人とも無言になってしまう。
俺は手元のチケットを見てふとあることに気づいてしまう。
『あ…チケット。』
「あ……余っちゃいますね。」
うーん…あ!そうだ!
『柴山くん!もしよかったらなんだけど…』
そして、今に至るというわけだ。
会場スタッフ「間もなく入場を開始しまーす。お連れ様と合流の上、待機列に並んでくださーい。」
『お、もうそんな時間か…おーい柴山くん!まおりっち!もう中入るよー!』
柴山「あ!はい、いま行きます!」
すると柴山くんは俺に背中を向けまおりっちと何かを話している。
なに話してるんだ?
話を終えた2人は満面の笑顔で戻ってきた。
『なになに?内緒話~?』
柴山くんはまおりっちと目を合わせると、人差し指を口元に持っていきシーッとやる。まおりっちも柴山くんの真似をしてシーッとやる。
俺の眼光が焼かれた。
俺たちは荷物検査を済ませて
チケットを確認してもらい
会場内に入る。
もな「じゃ、寺!また!」
『うん、また!』
もな「あ、柴山!」
柴山「は、はい!」
もな「てらのこと大事にしてやってな!」
柴山「…!!!はい!!!」
もなありがとう。でもな、まだ返事貰えてねぇんだわ俺。いつの間にか立場逆転しちゃってんだわさ。
座席が離れた場所のため、
もなファミリーと別れて俺たちは2階席へと向かう。
2階の扉をくぐると急な階段が目の前に現れる。
俺は反射的に一瞬止まってしまった。
高いところは全然大丈夫なのだが、こういう転んだらTHEエンドみたいな高いところが昔から苦手な為、少しビビってしまっていたのだ。
すると柴山くんが2段ほど階段を降りた後、振り返り手を差しのべてくれた。
「佑一さん、俺が絶対離さないんで。手、握ってください。」
『な、なんで、俺がこの階段苦手だってわかったの?』
「俺、佑一さんのことずっと見てるんで。顔見ていつもと少し違うから、もしかして苦手なのかなーと思って。」
柴山くんが優しく微笑む。
俺が差し出されたその大きな手のひらに手を置くと、柴山くんがぎゅっと握って俺をエスコートしてくれた。
俺が無事に座れたことを確認すると柴山くんの手が離れる。
俺はとっさにその離れた手をぎゅっと再び握る。
柴山くんは一瞬驚いた表情をしたが、俺の手を優しくそして力強く握り返してくれた。
………………。
緊張とドキドキで言葉が出ない。
お互い無言になってしまったが、
何故だか不思議と心地よい無言だった。
言葉を交わさなくても大丈夫。
そんな不思議な感覚だった。
俺の心臓の音、
柴山くんにこの手を通して届いてたらいいな。
俺、いまこんなにもドキドキしてるんだよって。
柴山くんのこと
こんなにも大好きなんだよって
いま言葉にするのはちょっと恥ずかしいから
この心臓の音があなたに
俺の思いを届けてくれてたらいいな。
そして、ついにやってきた開演時間。
会場内の照明が一度全て消えると、
ステージ中央にティーニーが現れる。
3Dモデルというやつだろうか、本当にその場にティーニーがいるように見える!すごい!
ティーニー「レディース&ジェントルマン!&ボーイズ&ガールズ!大変長らくお待たせしました!今から始まるのは、それはそれは素敵なお話!案内役はティーニーさんでぇーす!!!はい拍手~!!!」
柴山くんは、俺の目を見て
「拍手しましょう」と小さく言うと
その手を一度離した。
パチパチパチパチパチパチ
会場が拍手で溢れる。
『わぁーティーニーだ!本物だ!』
俺は童心にかえってしまいつい声に出してしまう。
そして拍手を終えると自然にまた柴山くんと手を繋ぐ。
ティーニー「上出来!上出来!さぁて!まず皆さんに紹介したいのはこの柴犬アルディーン!」
ティーニーの手のひらの上に小さなアルディーンが出てくる。
アルディーンはツギハギだらけの服を着ている。
ティーニー「彼を見て、汚いって思ったやつは見る目がないからさっさとお家に帰っておねんねしましょうね!え?なんでかって?だってどっからどーみても汚くなくない?彼の本質を見れば一目瞭然じゃないか!…え?本質なんか一目見ただけじゃ分かんないって?うーん?そうなの?それじゃあ仕方ないなー!ティーニーさんが見せてあげるよ!彼の…アディーの勇気と優しさの物語を!さぁ、ついておいで!ようこそ《アルディーン》の世界へ。」
ティーニーが宙に浮かんで消えると同時に証明がつく。
そして同時に音楽が流れ出す。
いつの間にかステージ上には、
100名ほどのオーケストラ奏者の皆さんがいた。
そして、中央にはティーニーのボイスキャストさんが物語のはじまりの歌を歌いはじめる。
骨にまで響くような立体音響。
俺は一気に物語の世界へと引き込まれた。
そして、物語は
アルディーンとティーニーが初めて出会う魔法の祠へ
アルディーン「じゃあ…俺は何を差し出せば…」
ティーニーはふざけるのを止めて
落ち着いた声色でアルディーンに語りかける。
ティーニー「別に何かを差し出す必要はないんだ。アディー。」
アルディーン「でもさっき相応の対価が必要って…」
ティーニー「そうさ、相応の対価が《必要》さ。でもそれは何かを差し出すことじゃない。俺に見せてほしい。君は願いを叶えるに値するヤツかどうかを!それが俺の言う《対価》ってやつさ。」
アルディーン「願いを叶えるに値する…って具体的に俺はどうすれば…」
「もう~仕方ないなぁ~ティーニーさん意地悪するのは得意じゃないからト・ク・ベ・ツに!教えてあ~げるっ!
願いは5つまで叶えることが出来る。
そのために必要な《対価》は、
踏み出す《勇気》
他者への《思いやり》
嘘をつかない《実直さ》
心からの《感謝》
そして何より、
自分を《大切》にすること。
それが示された時、自ずとアディーの願いが叶うよ。」
『俺に…出来るかな…?』
「出来るさ!だって君は!
優しい人だから」
俺の手を握る柴山くんの力が強くなった。
そしてアルディーンは次々と願いを叶えてゆき、
ついに俺がこの映画で一番好きな
《アオーン・ニュー・ワールド》のシーンへと突入する。
俺は、どうしよう!来ちゃう!来ちゃう!と
柴山くんの顔と舞台を交互に見て興奮を抑えられなかった、そんな姿を見て柴山くんはフフッと笑ってくれた。
舞台に大きな三日月が現れる。
そして天守閣の最上階で
空飛ぶ座布団の上に乗った一匹の柴犬
アルディーンが両手を広げていた。
「でも…外の世界は…怖いわ。」
カモミールは少し震えながら答える。
するとアルディーンは優しい声色で答える。
『大丈夫。君が思ってるほど
外の世界は怖くない。
俺が保証するよ。』
「でも…」
『無理にとは言わない…
でも、一歩踏み出して君に見て欲しいんだ!
外の世界にはこんなにも綺麗で楽しいものが沢山溢れてるんだって!』
アルディーンの真っ直ぐな瞳と言葉に
カモミールの心が動く。
「信じても…いいの?」
『もちろん。』
アルディーンは再び両手を広げる。
『やっと見つけたんだ!君を!』
カモミールはアルディーンの身体に飛び込む。
アルディーンはカモミールを両手で抱きしめると二人は魔法の座布団で星空の海へと飛び立つ。
アルディーンとカモミールのボイスキャストさんによる生歌唱がはじまる。
収まらない鳥肌、目の前に広がる星空の海。
頭の中に流れ出す幼き日の思い出。
やっぱり俺、この歌が大好きだ。
俺の目から大粒の涙が溢れだす。
その顔を横目で見ていた柴山くんは
手の指を、俺のそれぞれの指の間に滑り込ませると強く握った。俺も柴山くんの手を深く握り返した。
アルディーン「君と~♪」
カモミール「あなたと~♪」
アルディーン・カモミール
「「一緒にどこまででも~♪」」
曲が終わり一度手を離すと
俺も他の観客もみんな立ち上がり大きな拍手で会場があふれ返った。
そして、俺の涙がピークに達すると
柴山くんがポケットから色んな柴犬が描かれたハンカチを取り出し俺に差し出す。
柴山「これ、使ってください。」
あれ?このハンカチどこかで…
『いや、でも…』
俺が遠慮していると、
柴山くんがハンカチで俺の涙を拭う。
柴山くんは何も言わず俺の手にハンカチを手渡す。
『…ありがとう。』
「どういたしまして。」
俺たちは座席に再び座ると
自然とまた恋人繋ぎをする。
いよいよ物語もクライマックス。
いままで4つの願いを叶えたアルディーン。
そして最後の《対価》である
自分を《大切》にすることに
本当の意味で気づけたアルディーンに応え
魔法の急須が最後の願いを叶えるために
光輝きはじめる。
アルディーン「最後の願いはもう決まってるんだ!」
そう言うアルディーンをティーニーが制止する。
ティーニー「まってくれアディー!その願いは駄目だ!」
アルディーン「でも!ティーニー!はじめに約束したじゃないか!最後の願いは君のために使うよって!」
ティーニー「気持ちはありがたいが、アディー。俺は君に幸せになってもらいたいんだ…だって君、今までの4つの願い。何一つとして自分のために使ってないじゃないか。」
アルディーン一つ目の願い、
《崖から落ちそうになっていた子供を
助けるための手助けをしてくれ。》
二つ目の願い、
《長らく続く干ばつで皆が苦しまないように、
恵みの雨を降らせて。》
三つ目の願い、
《裏で悪事を働く悪代官を
俺と一緒に止めてくれ。》
四つ目の願い
《自分を育ててくれた孤児院のみんなが
幸せに暮らせるように、衣食住の安定を。》
アルディーン
「違うよティーニー。
全部俺のための願いさ。
それにティーニー…
俺は君に本当に感謝してる。
君のお陰で俺は大切な事に
たくさん気づくことが出来た。
君みたいな素敵な親友に出会えなかったら、
きっと俺は今も変われないままだった。」
ティーニー「アディー…」
アルディーン「だからティーニー…こんな形でしか君に恩返しが出来ないけど、俺の願いを、思いを受け取ってほしい。」
アルディーンは急須を両手で高く持ち上げる。
アルディーン
「魔法の急須!俺の最後の願いだ!
ティーニーに自由な世界を!」
アルディーンの願いを聞き届けた魔法の急須は緑色の光を放ち、ティーニーの首輪と急須と繋がっていたリード紐を消し去る。
ティーニーは遂に念願の《自由》を手にした。
ティーニーはアディーに駆け寄ると
その身体を大きな両手で深く抱きしめる。
ティーニー
「アディー…君は本当に…
どこまでも優しい柴犬だ。ありがとう。」
そして、なんやかんやあり
アルディーンとカモミールは無事に結ばれ
感動のフィナーレへ。
その時だった、
柴山くんは周りの目も気にせず俺の手をグイッと引き身体を引き寄せる。
『し…柴山くん?!』
そして俺の耳元まで顔を近づけると
柴山「佑一さん、あなたのことが好きです。」
し、し、知ってるよーーーと俺は心で叫んだ。
「俺と、付き合ってください。」
…え?
『あ、はい。』
え?
まってどゆこと?
呆気にとられた俺は、気の抜けた返事をしてしまった。
俺の返事を聞き届けた柴山くんは満面の笑みだ。
その瞬間、大音量で流れはじめる《アオーン・ニュー・ワールド》のリプライズ・グランドフィナーレver。ボイスキャスト全員でアオーン・ニュー・ワールドを歌いはじめる。
………え、いまーーーーーーー?!?!
ここで!?このタイミングで!?!
いや、確かにロマンチックなシーンの後ではあったよ?!でもいまっすか?!
まぁ、俺も自分の部屋で告白っていうロマンチックの欠片もないところで告白しましたけれども!!いまですか!?
そしてなんでちょっと、決まった!みたいなドヤ顔してるのさ!鼻息まで出しちゃって!あぁもうかわいいなぁ!!!
え、てかまってどゆこと?
昨日告白した時、ちょっと待ってって言ってなかった?!ん!?まじでどゆこと!?
俺の脳内がうるさすぎて、
アルディーンのフィナーレ前半は半ば心あらずの状態で聴いてしまった。
でも…やっぱり嬉しいな…
柴山くんの嬉しそうな顔
これからもこうやって
ずっと隣で見ることが出来るんだな。
『…ま、いっか…。』
俺は小さく呟くと、柴山くんの肩に寄りかかった。
柴山くんも俺の頭に左頬を乗せた。
そして、終演後。
会場のロビーで俺は興奮冷めやらぬまま
柴山くんにイベントの感想を聞いてもらっていた。
『あの時の、アルディーンの生アテレコ…当時の面影も残しつつ、でもボイスキャストさん自身の経験の積み重ねを経てからか生まれるまた違った深みが本当に良くって…!!!…俺、今日来れて本当に良かった…!!!柴山くん連れてきてくれてありがとう!!!』
「いや、でもチケットは佑一さんも…」
『俺のは、もなたちにあげたから!俺は今日柴山くんに連れてきてもらったの!!だから、ね!ありがとう!』
柴山くんは愛おしそうに俺を見つめると
「はい!どういたしまして。」と微笑んだ。
パシャ
カメラのシャッター音が聞こえた気がした。
俺は音のした方を見たが、人が多く。写真を撮っているような人は見つけられなかった。
柴山「どうしました?」
『あ…いや、ここ撮影禁止なのにカメラの音が聞こえた気がして…でも気のせいだったみたい…!ごめんごめん!行こ!』
柴山「そう…ですか…?」
俺は柴山くんの手を引き、会場を後にした。
「………………………。俺の寺川くんから離れろ。」
第12話「優しい人だから」
ともだちにシェアしよう!

