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第13話「犬のお巡りさん」
※第13話は
佑一視点と柴山視点どちらもあるため、
主軸『』←が途中で切り替わります。
切り替わる時は、主軸『』の前に
佑一『』や柴山『』のように名前を付けるのと、
ーーーーーー←で区切りラインも入れているので、
そちらを踏まえた上でお読みいただけたらと思います。
俺、柴山健太23歳。
職業は警察官。
秋田県出身で大学を卒業後上京。
警察学校を卒業した後、
約2ヶ月ほど前から
神奈川県横浜市犬善区鼓太町の交番に勤務している。
好きな人は佑一さんで、
嫌いなものは、あまりない。
長年の片思いを経てついに…
ついに大好きな佑一さんと恋人に!!!!!!
俺の全てをかけてあなたを護り一生幸せにします!
柴山『………へへっ…』
熊子守「うわっ気持ち悪っ!」
急にニヤケ出す俺に、
熊子守さんのストレートな罵倒が直撃する。
でも構わない。
だって俺は今…!
幸せなのだから!!!!!!
第13話「犬のお巡りさん」
俺は勤務を終えると、更衣室で制服から私服へと着替えをはじめていた。
ガチャ
熊子守「おお!柴っ!早ぇな!」
『熊子守さん、お疲れ様です。…あ!』
俺は、熊子守さんの方に身体を向けると
深く頭を下げる。
『先日は、本当にありがとうございました!』
熊子守「先日……あぁ!あれか!いやいや気にすんなって!それより…どうだったんだ?」
『はい!奥さんの演奏とても素敵でした!』
俺がそう応えると、熊子守さんは頭を抱える。
「だぁぁあ!!!そっちじゃねぇよ!!おめぇが好きな人とどうだったかってことが聞きてぇんだよ!!!」
『あぁ、そのことですか。付き合えました。』
俺は再びロッカーに身体を向けると
ワイシャツのボタンを止めはじめる。
「そうか、そうか、付き合えたか~…って、え?!付き合えたのか?!」
『え?、あ、はい!』
「え?あ、はい!じゃねぇんだよ!なんでおめぇそんな落ち着いてられるんだよ!………」
熊子守さんは俺の服を見る。
「おい…柴山…」
『何ですか?』
「……ボタン掛け間違えてるぞ…。」
『え…。』
ピシッという音と共に俺の動きが止まる。
その姿を見て吹き出す熊子守さん。
「ぶふっ!!!柴っ!おめぇっ!澄ました顔かましてるわりに、内心めちゃくちゃ動揺してんじゃねぇか!!!」
『こ!こうなりたくなかったから、淡々と答えてたんですよ!熊子守さん絶対に茶化すじゃないですか!』
「茶化さねぇって!ウブな柴山ちゃん!」
『ほら言ってる傍から!』
「ブフッ…悪りぃって…
…いやでもほんとに…良かったな柴っ!」
熊子守さんが俺に軽く拳を向けてくる。
『…はい!ありがとうございます!』
俺は熊子守さんの拳にコツンとグータッチをする。
「それでぇ~?どこまでいったんだよ?」
『どこまでとは?』
「んなもん!決まってんじゃねぇかよ!もう抱いたのかって」
『抱っ/////////////』
この人はいきなり何を言ってるんだ!?!
俺の身体中の体温が上がりはじめる。
『そ、そんなの、ま、ま、ま、まだに決まってるじゃないですか!!!』
「おうおうおう、そんなに取り乱しちゃってよお!顔まで真っ赤にさせて、必死じゃねぇか!まさか童貞ってわけでもあるめぇし」
…………………………。
「…え?」
『………………。』
「え?まさかお前童貞なのか…」
『…だったらいけないですか…?』
「うっっっそだろ!!!お前その身長と顔で!?!おいおいおいおいマジかよ!!!いままで言い寄られたりとかしなかったのかよ?!」
『そりゃ、嫌というほど言い寄られたりしましたけど…当たり前ですが全てお断りさせていただきました。』
「嫌というほどって…サラッとひでぇこというなお前。」
『だって…』
俺は結んだネクタイをキュッと上に上げる。
『俺はずっとあの人のことが好きだったから…それ以外の人になんて興味ないんで。』
「…かぁーーー…やっぱおめぇすげぇわ。色んな意味で。」
『褒め言葉として受け取っておきます。』
俺は着替えを終えると、ロッカーの扉を閉める。
『じゃあ、お先失礼します。』
俺は、鞄を掛けると更衣室のドアノブに手をかける。
「おい、柴!」
『まだ、何か?』
俺が面倒くさそうに振り返ると、
そこには真剣な顔をした熊子守さんが。
『な…なんですか?』
「……………ゴムはちゃんとつけろよ!」
ニヤケ面で親指を立ててくる熊子守さん。
『わ、わかってますよ/////////////』
…ん?いや、わかってますよってなんだ?
反射的に答えてしまった………
だってそれってつまり俺は
もう佑一さんとそういうことをするって無意識に思っ……………
『お先に失礼します!!!!!』
俺は勢いよく更衣室の扉を閉めてしまった。
熊子守「………かぁぁぁぁあ!ずっぺぇ!!!」
そして、俺は一度家に帰るとシャワーを浴び
身なりを整えた後、佑一さんの職場へと向かった。
佑一さんの働く商業施設に着くと、
お店が見えてきた。
あ、佑一さん居た。
接客中…か、終わるまで見つからないとこで待ってるか。
俺はお店から離れた所で佑一さんの接客を見守っていた。
あぁ、佑一さん今日もかわいいな。
すると、佑一さんが接客していた相手と俺の目があった。
あれ?アイツ確か…
そう思ったのも束の間。
目があったその男は、ニヤッと気味の悪い笑みを浮かべると。
俺にわざと見せつけるように
ネクタイを持つ佑一さんの手を握った。
!!!!!アイツっ!!!!!
佑一さんは上手くその手から離れると男から少し距離を取った。
だが、男は止まらない。
距離を取ろうとする佑一さんにどんどん詰め寄る。
佑一さんの顔が明らかに引きつっている。
そして、男が再び佑一さんへ触れようと手を伸ばす。
プッツン
俺の中の何かが切れる音がした。
気がつくと俺は、
その男の腕を掴んでいた。
『あの、触らないでもらってもいいですか?』
佑一「え!?柴山くん!?!」
客「な!なんなんだ!君は!!!」
『なんなんだって、見ての通りただの客ですけど。』
客「ただの客がいきなり腕を掴んでくるわけないだろ!!!おまえ、なんだ??ひょっとして俺と寺川くんの仲に嫉妬してんじゃねぇのか?」
『は?』
俺と寺川くんの仲?コイツは何言ってんだ?
頭沸いてんのか?佑一さんは俺の恋人だ!
客「なんだかんだ言いがかりつけて、結局のところお前、ただ単に寺川くんのこと好きなだけなんじゃねぇの?!」
『…そうですけど、だったらなんなんすか?』
客「…へ?」
男が固まる。
森・竹原「「きゃーーーーっ!!!」」
それまで、どうしようどうしようとあわあわしていた森さんと竹原さんが一転。はしゃぎはじめてしまった。
俺は男から手を離し、佑一さんを抱き寄せる。
『この人、俺の恋人なんで!客だからって、ベタベタ触んないでいただけますか?』
明らかに動揺する男。
客「な、な、な、うそだ…うそだ…寺川くんは…俺のこと…寺川くん…嘘だよね…こんなやつが彼氏なわけないよね…」
男は目の前の光景を信じることが出来ず、
佑一さんに真偽を確かめる。
佑一「嘘じゃないです。俺の大切な人です。」
佑一さんのその言葉を聞いた客の身体から力が抜ける。男はそのまま地面に膝から崩れ落ちてしまった。
客「……そだ…」
『あ?』
客「…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁぁあ!」
そう連呼しながら男は立ち上がり走り去ってしまった。
『ふぅ…あっ!』
俺はすぐに我に返り佑一さんの両肩を掴む。
『佑一さん!大丈夫ですか!?』
佑一「……………大丈夫じゃ…ない…です…」
『え…俺がみてない時、アイツに何かされたんですか…?俺…今からアイツ追いかけてひっ捕まえてきます!』
佑一「ちょちょちょちょ!!ストップストーーーーップ!!!」
今にも走り出しそうな俺の腕を佑一さんが掴む。
『???』
佑一「そっちじゃなくて…その…みんなの前で…俺の恋人だって言うから…」
柴山『え…?』
だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
またやっちまったぁぁぁぁあ!!!
佑一さん、俺と付き合ってるって職場の皆さんに知られるの嫌だったかもしんねぇのに、俺ときたら一人で舞い上がっちまって…
柴山『すみません!!!』
俺はその場で深く頭を下げる。
佑一「え?!柴山くん?!」
柴山『皆さんに俺と付き合ってるって知られるの嫌でしたよね…それなのに俺、一人で舞い上がっちまって…佑一さんの気持ち全然考えれてなくて…本当にすみません!!!』
佑一「違う!違う!!そうじゃないんだって!!!」
柴山『?????』
俺は頭をゆっくり上げる。
すると視線の先に顔を真っ赤にした佑一さんが映った。
佑一「その…俺…嬉しくって…柴山くんが…あんまりにも…当たり前のように…俺のことを恋人って…みんなに言ってくれたことが……」
『?…ただ俺は普通にありのまま言っちゃっただけですけど…?』
佑一さんは俺の言葉を聞くと、
更に嬉しそうにハニカムと照れながらも
俺の頭をよしよしと軽く撫でた。
そして、ハッと急に我に返った佑一さんは赤い顔を更に赤らめ
「すみません!ちょっと2番トイレ行ってきます!」と言って逃げていってしまった。
佑一さんが逃走したあと、
それまできゃっきゃしていた竹原さんと森さんが真面目なトーンで話しかけてきた。
竹原「柴山くんありがとね。さっきのお客さん追っ払ってくれて。」
『え、ああいや!むしろすみません!みなさんにご迷惑おかけしてしまって。』
竹原「迷惑なんて、そんな!」
森「あのクソジジイの方がよっぽど迷惑よ!」
竹原「こら森さん!あのクソジジイも、い・ち・お・うお客さんなんだから。クソジジイなんて言わないの。」
森「いや、竹原さんの方がクソジジイって連呼してるわよ。」
竹原「あら、失礼!とにかくさっきのお客さん、寺川くんに大分入れ込んじゃってて、毎回ボディタッチが激しいのよ。寺川くんも上手に交わしてはいるんだけど、ここ数日毎日のように来るようになっちゃって…」
森「これ以上酷くなるようなら…私たちが何か言おうか?って寺川くんにも言ったんだけど、大丈夫ですの一点張りで…。」
『…なるほど、そんなことになっていたんですね…。話してくださりありがとうございます。』
…俺がもっと早い段階で動けていれば…佑一さんに嫌な思いさせないで済んだかもしれねぇのに…くそっ…
竹原「あのクソジジイ、これで懲りてくれればいいんだけど…」
『大丈夫です。何があっても必ず、俺が佑一さんを護ってみせます。』
竹原・森「「きゃあ~!!!」」
そして少し時間が経った後、佑一さんが戻ってくる。
佑一「2番ありがとうございました!柴山くんもお待たせ!そんでもってさっきはありがとうね!」
俺はジッと佑一さんの目を見る。
『佑一さん気付くの遅くなってすみません。』
佑一「でぇぇ!なんで柴山くんが謝んのさ!全然大丈夫だって!」
俺は佑一さんの手を握る。
『今度からは、どんな小さな事でも何かあったら俺に言ってください。』
佑一「え…えっと…それは流石に…ちょっと…申し訳ないというか…なんといいますか…」
どうして、
全部を一人で抱え込んで
解決しようとするんですか…
俺は、あなたの力になりたい。
あなたが一人で抱え込まなくて済むように…
これから先の人生、あなたの隣でずっと。
『俺を頼ってください。
俺が、必ずあなたを護ります。』
あなたに頼られる男になりたい。
だから、
俺はあなたにこの思いを真っ直ぐ伝える。
頼む、届いてくれ。
「…よろしくお願いします。」
佑一さんは照れながらも俺の手をぎゅっと握り返してくれた。
俺は今すぐ抱きしめたい思いを必死に抑える。
『ということで…しばらくの間、俺の仕事が休みの日は迎えに来ますね。』
佑一「え!?!ということでってどゆことで?!」
俺は佑一さんの疑問を遮り押し通す。
『嫌ですか?』
佑一「い…嫌じゃないです…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなことがあり、仕事終わりに柴山くんが迎えに来てくれるというBL漫画の世界のような日々が幕を開けたのだった。
ガチャ
俺は従業員口の扉を開ける。
柴山「あ!佑一さん!」
柴山くんが俺に気がつき駆け寄ってくる。
佑一『柴山くん!お疲れ様!柴山くんも疲れてる筈なのに迎えに来てもらっちゃってごめんね…。』
柴山くんの右手が俺の頭を撫でる。
柴山「俺が会いたいだけなんで気にしないでください。」
かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!
幾度となくした妄想が…当たり前のような現実になるなんて…ありがとう…柴山くん…ありがとう…お母…俺を生んでくれてありがとう…俺、いま世界一幸せ者です…。
柴山「行きましょうか!」
そういって柴山くんは俺を駐車場までエスコートしてくれた。
「……………チッ。」
誰かの舌打ちが暗闇と共に夜の静寂へと消えていった。
車内で、俺たちは今日あったことやオススメのアニメなど他愛もない話をしていた。
そんなとき柴山くんが今朝方起きた地震についての話題を振ってきた。
柴山「そういえば佑一さん、今朝方の地震大丈夫でした?」
『ああ!最近にしてはちょっと大きかったよね!うちは幸いな事に部屋のぬいぐるみが一つ落ちただけだったよ!柴山くんとこは大丈夫だった?』
柴山「はい、こっちも大丈夫でした!…本当に普段から備えて置かないとって再認識させられましたね。」
『いや、ほんとにね!』
柴山「…それでなんですが…」
『ん?』
柴山「万が一の時に備えて…その…災害用の位置情報共有アプリとか…佑一さんと繋げておきたいなー…と。何もないことが一番なのですが、近くにいない時に何かあったら心配で俺どうにかなっちゃいそうなんで…。」
か…かわいい…なんか…柴山くんが健気な柴犬に見える…。
『繋げとこ!俺だってそういう時がもし来ちゃったら柴山くんのこと心配だし…』
俺の言葉を聞いた柴山くんはパァッっと明るい笑顔になる。
柴山「じゃあ、着いたら早速繋げましょう!」
『うん!よろしく!………あ、あとさ…』
柴山「どうしました?」
『俺たち…付き合ってる…訳じゃないですか…』
柴山「???付き合ってますね。」
『その…すぐにとは言わないんだけど…敬語とかもゆくゆくは外してくれたら嬉しいな…なんて図々しくも思っちゃったりもして…』
柴山くんはハザードランプをつけると、
車を道路脇で一度停車させた。
柴山「す、すみません!俺無意識に敬語が染み付いちゃってて…そ、その善処します!」
『い、いや、そんな、無理にしなくても大丈夫だよ!…でも柴山くんが気を遣わなくて自然と素のままの状態でいれるような彼氏になりたいな…なんて思っちゃったりして…』
俺の言葉を聞いた柴山くんは、
深く息を吸い込むと、
「分かりました、じゃあ俺も一つお願いしてもいいですか?」
と助手席に手を回してくる。
顔が近づく。
『は…はい…なんでしょうか…?』
柴山「俺のことも柴山くんじゃなくて、下の名前で呼んでください…。」
照れながら言う柴山くんに俺の心は完全にノックアウトされた。
『は…はい…。け…健太くん…。』
柴山くんは満面の笑みで
「はい!佑一さん!」と返事をしてくれた。
柴山「あ、せっかくなので、いまさっき言ってたアプリ入れちゃいましょうか?」
『そだったそだった!入れちゃお入れちゃお!てか!早速敬語じゃん!』
柴山「あ…ほんとだ!」
こりゃしばらく敬語抜けは無理だな。
俺たちはクスクス笑い合いながらも
災害用位置情報共有アプリを入れる。
アプリの説明を柴山くんが丁寧に教えてくれる。…ってか柴山くんこのアプリ詳しすぎじゃね?流石やわ…。
柴山「あ、このボタン。ロック画面に追加してもいいですか?」
『どれどれ………んー…よくわかんないけどいいよ!』
柴山「あ、文字だけだと分からないですよね、このボタンはスマートフォンがロック中でも押せば自分の位置情報を自動で登録相手に送ってくれるというやつです。災害に巻き込まれてロックが開けなくなった時でも位置情報を送れるようにって。」
『へー!そら便利やわー!え、でもまって俺間違えてボタン押しちゃいそう!』
柴山「大丈夫です!3回連続でタップしないと位置情報送られないので。」
『なるほど!なら安心だ!』
柴山「はい!」
そして、自宅に到着する。
柴山「佑一さん、お疲れ様でした!」
『柴山くんも…あっ………健太くんも送ってくれてありがとうね。』
柴山「!!!…はい。それじゃあ、おやすみなさい。」
『おやすみなさい!帰り道も気をつけてね!』
柴山「はい!ありがとうございます!」
柴山くんは俺が家の中に入るまで、車を発進させず見守ってくれた。
数日後。
シュポ
柴山くんからメッセージが届く。
柴山[ 佑一さん!お仕事お疲れ様です!
すみません!今日は仕事のため
お迎えにいけません。]
メッセージに続けて
目をうるうるさせてシュンとしてる柴犬のスタンプが届く。
かわいいなぁ。そんでもって律儀。
『了解しました!いつもありがとね!お仕事ファイト!!…っと。』
よし!そろそろ夕方休憩も終わるし、あとひとふんばり頑張るか~!!
俺は腕を伸ばし仕事に戻る。
『お疲れ様でした~!お先失礼しまーす!』
俺はいつも通り勤務を終えると、帰路につく。
いつも通りの電車
いつも通りの帰り道
でも、今日だけはいつもと違った。
明らかに誰かにつけられてる。
ずっと纏わりついてくる気持ち悪い視線。
最初は勘違いだと思った。
でも明らかに俺の後をついてくる足音。
32歳にもなってビビってるなんて
恥ずかしい話だが、
俺は歩く速度を上げる。
するとその足音も同じように速度を上げてきた。
その瞬間、疑念は確信に変わった。
俺は全速力で走りはじめる。
家までついてこられたらマズい。
そう思って追いかけてくる足音を撒こうと普段の帰り道とは違う道へと走る。
ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
よし!足音が離れていく…!もうひとふんばりしたら撒けそう!
俺は更にブーストを入れて走る速度を早める。
やがて足音が遠くなり、聞こえなくなった。
それでも俺は走るスピードを緩めることなく走り続けた。
いつもの散歩コースの大きな公園までやってきた。
『ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ゲホッ…』
キ…キチィ……走りすぎて…息が…
それにしても…まじでなんなのさ……
でもまぁ…ここまで来れば流石に大丈夫だろう…
「てーらかーわくん。」
少し離れた背後から聞き覚えのある声が聞こえる。
その瞬間俺の全身に悪寒が走る。
俺が恐る恐る振り替えると視線の先にいたのは。
『す…末頭下ストウカさん…ど、どうしてここに…』
俺は反射的に聞いたが、そんなの聞かなくても分かる。
さっき追いかけてきていたのは間違いなくこの末頭下さんだ。
末頭下「なんでって…俺は君を迎えに来たんだよ?」
『え?迎えにって…何言ってるんですか?…』
末頭下さんは一歩ずつゆっくりと近づいてくる。
俺も、距離を取るため一歩ずつ後退りをする。
ヤバイ…これ…絶対ヤバイやつだ…
俺は、末頭下さんから目を離さないようにしつつ、スマホのロック画面を横目に見て災害用の位置情報共有ボタンを3回タップした。
末頭下「寺川くん。俺と付き合ってよ?あんなクソ野郎と別れてさ…俺のものになってよ…俺の方が大切にするよ?ね?だから、ね?こっちにおいで?」
俺、落ち着け冷静になれ…
相手を逆上させるな…
なんとか…なんとかしてこの事態を切り抜けるんだ…。
『末頭下さん…気持ちは嬉しいのですが…その…俺…実はすごくズボラで…末頭下さんのお眼鏡に叶うような男じゃないですよ!普通に口もめっちゃ悪いし性格も最悪だし!ほんとに!』
頼む、これで引いてくれ…
「いい…」
『…え?』
「それすごく良い…俺のこと罵ってよ…もっと汚い言葉を俺に聞かせてよ…」
へへへ変態だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!
そんでもって逆効果だったぁぁぁぁぁぁあ!!!
やっちまったぁぁぁぁぁぁあ!!!
どうする俺?どうしよう!!!
とりあえず嘘でもいいから…柴山くんと別れるって………………
末頭下「ね?だから早くアイツと別れてよ…」
『…お…俺は…』
末頭下「ん?なぁに?よく聞こえないなぁ~?」
『俺は!!!』
末頭下さんがニヤァ~と不気味な満面の笑みを浮かべる。
『柴山くんとぜっっったいに別れない!!!』
……………言っちまったぁぁぁぁぁぁあ!!!
あわわわわわ!マズい!!これ絶対逆上させちゃったって!!!……ってあれ?
末頭下は足を止め黙り込んでしまった。
あれ?…もしかして…あきらめてくれた?
末頭下は背負っていたリュックを下ろし
中を漁りはじめる、
そしてリュックの中から、
果物ナイフを取り出した。
ですよねぇぇぇぇぇ。
そうなりますよねぇぇぇ。
もう想像通りのテンプレートすぎて
突っ込む余力まで出てきちゃったよ。
いやでもどうしよう!
流石に怖いって!
刃物は駄目だって!
刺さったら死んじゃうって!
『末頭下さん!お、落ち着いて!』
いやまず俺自信が落ち着けよ…って落ち着けるわけねぇだろおおおおお!!!
刃物向けられてんだよこっちわ!!!
あまりのトンデモ状況に俺の脳内と感情はバグってしまった。
末頭下「寺川くん…俺のものになってよ…」
『いや、だから無理ですって!』
どうする…こっからどうやって逃げる?
あ、そうだ!ヒロスク第1話!
まずは相手の視界を奪う。
タイミングを見計らえ…
俺は後退りをしながらゆっくりと鞄を肩から下ろし手に持つ。
末頭下「俺のものになってくれないなら…もう…しょうがないよねぇ~!!」
末頭下さんはナイフを振り上げると、俺めがけて走ってきた!
今だ!!!!!
俺は鞄の中身を末頭下さんの目元めがけてぶちまける。そして、彼が目元を庇って視界を一瞬失った隙にしゃがみこむ。
いきなり視界から消えた俺に突っかかった末頭下さんは走った勢いそのままに顔面から盛大に転んでしまう。
見たか!!!
これがヒロスクとウィンクレ(ウィンドウクレイヴァー)の合わせ技じゃ!
俺はすぐに立ち上がり再び全速力で走り出す。
今のうちに逃げないと!
「寺川くん…寺川くん…てぇらぁかぁわぁくぅん!!!!!」
末頭下さんは再びナイフを振り上げながら俺を追いかけてくる。
ヒィィィィィィィィ!!!!!!
末頭下「てぇらぁかぁわぁくぅん!隠れてないで、出ておいでよぉ!」
俺は茂みの中に身を潜めていた。
走って荒くなった息が聞こえないように
口にタオルを押し当てた。
末頭下「てぇらぁかぁわぁくんてばぁ~」
頼む…早く…早くどっかに行ってくれ…
末頭下「てぇらぁかぁわぁくぅ…」
足跡と声が小さくなる。
……………………。
行った?
ふぅぅぅぅ…俺は深く息を吐く。
末頭下「みぃつけた。」
声が真後ろから聞こえてきた。
あ、駄目だ。
これ死んだかも。
「佑一さん!!!!!!」
俺があきらめかけたその時、
背後から末頭下さんじゃない…
聞き覚えのある…俺の大切な人の声が聞こえた。
その声に反応した俺が振り返ると
視界に飛び込んできたのは
吹っ飛ばされた末頭下さんと。
一人の警察官の後ろ姿だった。
第13話「犬のお巡りさん」
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