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第7話
同窓会の後も、特段に陽葵から連絡が来るわけでもなかった。
陽葵の弟である光輝からもあの日から連絡は来ない。
どうしたんだろうかとは思うけれど、柴田はしこまでは気にしなかった。
同窓会から2週間後のある日の休憩時間に、看護師の横田がパタパタと柴田のもとに駆けてきた。
せっかく診察室でコーヒーを飲みながら一息ついていたのに、何事だろうか。
「先生!」
「なんだ。何かあったのか?」
訝し気に柴田が言うと、横田は眼を輝かせて一冊の本を差し出す。
横田が差し出したのは、主婦が好みそうな週刊誌だ。
開かれたページには、『28歳の若き美容外科の魅力を解剖!』との見出しが書かれている。
「見てください!これ、先生のことですよ!」
見てみると、柴田の写真まで載っている。
「何だこれ。俺、取材なんて受けてないぞ?」
「あ、そうですよね。でも、雑誌で取り上げられるなんて、凄いじゃないですか」
横田は自分のことのように喜び、はしゃいでいる。
確かに、病院の宣伝にはなるだろうから有難いのだが…。
それでも、一体どうしてこんな記事が掲載されたのか、疑念が湧く。
記事を読んでみると、柴田を褒める内容が並んでいた。
一流大学の医学部を首席で卒業し、今の病院に就職したこと。
前院長に気に入られ、彼の娘と結婚し若くして院長の座に就いたことが書かれていた。
前院長は現在、理事長として君臨している。
しかし、なぜこんな情報が流れているのだろうか。
こうしたことを知っている人間とは……。
最後まで読むと、筆者として”RUKI”という名が書かれていた。
RUKI……少し考えてみて、まさかと思った。
ルキというのは、陽葵と仲良かった頃に柴田が呼んでいた呼び名だった。
しかも、雑誌の出版社も陽葵が勤めている会社のものだ。
まさか、陽葵が書いてくれたのだろうか。
『まさか……あいつが……?』
混乱する柴田だが、分かりやすいペンネームを使い載せるだろうかと思う。
「先生?大丈夫ですか?」
呆然としている柴田に、横田が声をかけた。
「え?あ、あぁ。すまない、大丈夫だよ」
柴田は雑誌を閉じた。
「横田さん、ちょっとこの雑誌借りていいかな」
「あ、はい。どうぞ」
笑顔を見せると、横田は用事があるからと言い診察室から出ていった。
本当に、この記事を陽葵が書いたのだろうか。柴田はしばし考え込む。
もしそうなら、どういった意図で書いたのか知りたいと思った。
『仕方ない……聞きに行くか……』
陽葵の連絡先は知らないし、人に聞くわけにいかないと考えたのだ。
その日の閉院後に、柴田は陽葵の勤める出版社に脚を向けた。
人に聞いた記憶を辿ると、確か、あの雑誌を出版している会社だったはずだ。
その会社は、柴田の医院とさほど離れていなかった。
車を近くの駐車場に置き、ビルの正面玄関脇で待つ。
出版社は不規則な仕事だろうし、いつ陽葵が出てくるか分からない。
もしかしたら社にいないかもしれないが、取り敢えず陽葵を待つことにする。
日は暮れて、玄関から退社する社員たちが続々と出てきた。
柴田に気付くと目を向けていくが、気にはしていられない。
刻一刻と時が経ち、柴田は緊張をしてきた。
勢いでやって来てしまったが、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
考えていると、緊張で手が震えてきた。
こんな風になるなんて、らしくない。
待ち始めて一時間半後の午後八時、ようやく待ち人が現れた。
「……龍二?」
柴田が顔を上げると、そこには陽葵の姿がある。
「あっ……」
柴田は疲れもあり顔を俯けていたため、陽葵が出てきたことに気付かなかったのだ。
意気込んでやって来たはずなのに、ちょっとした失態だった。
「お前……ここで何してるんだ?」
当然だが、陽葵は大いに驚いたようだ。
「ちょっと、お前に聞きたいことがあってさ。飯でも行こうぜ」
陽葵は少し逡巡したあと、「分かった」と言い柴田に付いてきた。
陽葵の職場の近くには、居酒屋などが立ち並ぶ飲食店街がある。
それを調査済みの柴田は自身の車を置いて、陽葵と歩いていく。
「あ、ここなんかどうだ?」
柴田が指さしたのは、前もってチェックしていた居酒屋だ。
個室があり、静かに話しができそうだったから選んだ。
「ここは入ったことないな」
陽葵がそう言ったので、柴田は『良かった』と思った。
入ったことのない店で食事をするのも新鮮だから。
店に入ると、掘りごたつのある個室に案内された。
落ち着いて話しができそうだ。
「お前、飲んで大丈夫かよ」
先に出されたビールを飲む柴田を見て、陽葵は尋ねてきた。
ここまでの道中で、車を停めてきたことを陽葵に話していたのだ。
「あ?あぁ。代行呼ぶから心配ないよ」
今更、陽葵に迫ろうなんて気は起きないし、ただ聞きたいことがあったから。
ただそれだけだから、羽目を外したり肉欲に溺れるなんてことはない。
話しが済んだら、大人しく代行で帰るつもりでいる。
「そうかよ。で?俺に聞きたいことって何だ?」
早速、本題を切り出された。
「週刊誌に、俺の記事が載ってたのを見たんだ」
「あー、そのことか……」
それだけ言って、陽葵はまたビールを煽る。
「それが、お前が勤めてる出版社の雑誌だったんだよ」
「……ってかさ、何で俺の職場知ってたんだ?教えてないよな」
陽葵は少し訝しげに訊いてきた。
高校を卒業してから、一度も会っていないのに……誰かに聞いたのかと思われたのだろう。
「それは、他の奴に聞いたんだよ。誰かは言わないけど」
「そうかよ。うん。ウチの社でお前の記事出したよ」
何ともないような顔で、陽葵はこちらを見つめてきた。
何を考えているのか、柴田にとっては感情が読めない。
「その記事の最後に、RUKIって記者名が書かれてたんだ」
「……」
「お前、なのか?お前なんだろ?」
そう問い詰めると、陽葵は静かに頷いた。
「そうだよ。気付いてくれたんだな。嬉しいよ」
陽葵の頬は、どこか朱が差しているようだ。
柴田はそれに少し気付いたが、質問を続けた。
「何で、俺の記事なんか書いてくれたんだ?俺のこと恨んでるんじゃないのか」
「恨んでる……か……まぁ、そうだよな。確かにお前を恨んでたさ」
陽葵は柴田の目を見据えた。
「俺は、やっぱりお前が好きだったよ」
「え?」
「めちゃくちゃ好きだったから、あの時、お前が余計に許せなかった」
男達を散々食ってきた柴田だが、陽葵の言葉が胸に突き刺さる。
陽葵には申し訳ないという思いがあるから。
「そうだよな……」
柴田が呟くと、陽葵が真摯な瞳で見詰める。
「けど……俺の気持ちは終わっちゃいないから……自分に出来る形で、お前を有名にしたかったんだ」
目の前の男は、既に酔っているのだろうか。
「ずっと、忘れられなかったよ。お前が」
「な、何言ってんだよ、陽葵……お前、あれから口をきいてくれなかっただろ?」
「あぁ。そうだな。お前に裏切られたような気になって……ついカッとなっちまった……だけど……本当は後悔してた」
「……」
陽葵の眼差しを見ると、本気で言っているようだった。
「同窓会にも来ないかと思ってたけど、今日、お前と会えたのは良かったよ。俺はやっぱり、お前が忘れられない」
まさか、陽葵からそんなことを言われるとは思わなかった。
正直、柴田としては過ぎ去った過去のことだったのだから。
全くもって、寝耳に水とはこのことだ。
「いや、でも……」
「勝手に書いたことは悪かったよ。お前には会えないと思ったから……。でも、病院の会長には話を通していたんだ。お前には内緒にして、本当に悪かった。こんなことして……」
「いいや……」
本人に知らせずに記事にしたことはやはり良いことではないが、何となく責める気になれなかった。
「俺、本当に未だにお前が好きだ。ずっと会いたかったんだ……」
「陽葵……俺は、お前が思うような男じゃない。あの時のことは本当に申し訳なかったけど……もう、終わったことなんだよ」
柴田が冷たくそう言うと、料理が運ばれてきた。
そして二人の話は有耶無耶になった。
その後は陽葵から請われたので、その夜は互いの連絡先を交換して別れた。
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